maiちゃんの秘密「第三話」 [戻る]
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探偵「maiちゃんを演じている人物・・・その方のお名前は烏丸ちゆりさんといいます!
当然、この学校にに籍を置く女生徒です。
写真は流石に出しませんがかなりの美少女ですよ、そしてなんと某有名ホビーデパートの経営一族でもあり同校の理事長のご息女でもあります!」

局長「なるほど、だからあんな着ぐるみを用意出来て学校も巻き込んだ活動が出来てたんですね」

探偵「彼女は記録上は確かにこの高校に在籍しておりますが、進学以降彼女に出会った同級生は居ないそうです。
また彼女は児童劇団での長い芸能歴もあり、ピアノやヴァイオリンも得意だったとのこと。
maiちゃんも吹奏楽部ではヴァイオリンを担当してるそうですが、両者の映像を入手して作曲家のツダタロー先生に聞き比べて頂いたところ、
演奏の癖が非常に似通ってると・・・」




「何なのよこれ!」
ちゆりが飲みかけのペットボトルをテレビに向けて投げつけんと振りかぶる。
俺は直前のところでそれを静止した。
「おいおい、物に当たっても仕方ないだろ・・しっかしこの内容は酷いな」

俺の名は高木、今さっきテレビで取材に答えていた男子高校生だ。
そして隣で怒り心頭収まらない様子なのは烏丸ちゆり。
先ほどテレビでご紹介あった通り俺たちの通う私立高校の理事長のご息女、先ほどの荒っぽい行動からは想像しにくいだろうがこれでもかなりのお嬢様なんだぜ。
某業界的に言い表すならmaiの『中の人』、そして『maiちゃんプロジェクト』の発起人にして俺の幼馴染でもある。

今は学校の給食時間、俺たちmaiちゃん部メンバーはエネルギー充電という名目の水分補給のために委員会室にこもる時間だ。
部屋の隅にある衣装かけにはついさっきまでmaiちゃんの身を覆っていた制服と背中をぱっくり開いた裸のmaiちゃんの全身一体型着ぐるみが吊るされている。
夏休み前の蒸し暑い日、午前半日を狭く蒸し暑い空間で過ごしたちゆりの肌はじっとりとした汗で輝いていた。

ちょうど先日受けた取材の放映が重なっていたので部屋のテレビで鑑賞していたのだが、内容は先ほどの通りだ。
取材の時からこちらの意図を無視し、やれ「中の人」を撮らせろだの強引で身勝手な取材態度で俺たちを辟易させた連中だったが
まさかちゆりの事まで勝手に調べ上げた上で本人に無断で個人情報を晒してくるとは・・倫理もへったくれもあったものではない。

「もぉー!私がこの学校で他の生徒に姿晒したことないのになんでこんなに簡単にバレるのよぉ・・。」
「そりゃあ親御さんが理事長務めてるのにちゆりがここに堂々と通ってないほうが不自然なんだって。
そもそもどう考えたって理事長の協力なしにこんな活動は不可能だしなぁ・・
人前に姿晒してないとはいえ、籍はちゃんと置いてるんだから怪しまれて調べられたらそりゃあバレるさ。
それにお前の声、特徴あるもんな。
ロボットっぽいエフェクトかけてるとはいえお前と同じ中高エレベーター組の奴なら気づいたって仕方ないさ、案外そこからバレたのかもしれない」

ちゆりの親御さん、つまり理事長はホビー21の重役でもある。
その為ちゆりの家は他と少し違っていた。

初めてちゆりに出会った時の衝撃は忘れない。

あれは小学生になって間もないころ、キャッチボールの最中にふざけて暴投したボールを拾う為にあるお屋敷に忍び込むことになった。
今思えば無謀なことをしたものだ。
だが子供故の怖いもの知らずと小さな体は偶然も手伝って厳重な警備をかいくぐり、すんなりとその潜入を成功させた。

そのお屋敷の中で俺たちを待っていたのは信じられない光景だった。
『お金持ちの家にはお手伝いさんがいる』
そういう状況に実際に出くわした事はその時までは無かったのだが、『そういった知識』くらいは漫画やドラマで既に得ていた。
だが、そのお屋敷にいたお手伝いさん・・メイドさんは皆ただの人間ではなく生きたお人形だったのだ。
俺たちのような庶民には無縁の話だが、ホビー21は自社独自の着ぐるみ技術を応用して富裕層相手に着ぐるみ人形のメイドを育成・派遣するサービスを行っている。
俺がちゆりの家に忍び込んだのはまさにその準備段階のころ、ホビー21の関係者の家をモデルケースに実際に着ぐるみメイドを働かせるテストが始まった頃だったらしい。
そして俺たちは着ぐるみのメイドたちが仕える人形のように可愛い女の子と出会う、それが俺たちとちゆりのファーストコンタクトであった。
屋敷内で拾ったボールを返す引き換えにちゆりは俺たちに着ぐるみメイドのことを誰にも漏らさないよう約束させた。
その代わり俺たちに今後屋敷に出入りする許可を与えた。
ちゆりと俺たちの身分違いの友情はその時から始まったのだ。

着ぐるみメイドを好む愛好家は予想以上に多く、そのサービスは今や大きく業績を伸ばしているらしい。
愛好家たちの気持ちはよく解るつもりだ、何故なら俺もあの時に着ぐるみメイドをはじめとするホビー21製の着ぐるみに魅入られてしまったから。
もっとも俺の場合は着ぐるみメイドを雇うよりかは中に入ってみたい・・そっち側の願望が強かったのだがそんな馬鹿げた願望はちゆり達にも話したことはない。
せめて俺が女に生まれてれば素直に打ち明けられたのかもしれないが男の俺の体じゃあ逆立ちしてもあの女性モデル体型のスーツの中に入れる気がしないからだ。

では実際にメイド人形の中に入ってるのはどんな人なんだろう?その疑問はずっと持ち続けているが未だに解決していない。
今まで触れ合うことで彼女達着ぐるみメイドの体は一体成型のラバーで包まれていること、少なくとも首から上には呼吸口はなく股間部分に呼吸口がある事までは分かった。
だがそれ以上の事は何も分かっていない、ファスナーの無いあのスーツをどうやって着こんでいるのかということすらも。
ちゆりの家に遊びに行ってる間メイドさんたちは絶対にあのスーツを脱ぐ場面を見せることはないし、ちゆりに尋ねてもいつだって「中の人なんて居るわけないじゃない♪」の一点張りだからだ。
それは共にmaiちゃんというキャラクターを作り上げ、秘密を共有する立場になった今も変わらない。
それ故、maiちゃんの秘密を知りたがる側の気持ちも理解できなくはないのだが・・・

「なによぉ。
大体ねぇ、高木くんも何なのよあのインタビュー。
いくらなんでもぶっちゃけすぎじゃない?

それにmaiちゃんの居候先が私の家だってばらしたでしょ。
帰るところをこっそりつけられて、それで私のことがバレた可能性だってあるじゃない」
あの時は取材の人とmaiちゃんの雰囲気が険悪になりそうだったので割った入ったのだが、やはりちょっとサービスが過ぎたのかもしれない。
「あースマン、それは俺も悪かった」

俺はしまったと思った。
ちゆりはああいう夢の無い言い方は大嫌いだったのだ。

ラフな格好でうだりながらスポーツドリンクをぐい飲みしている今の姿からは想像もつかないだろうが、
俺たちと出会った頃のちゆりは箱入りで世間知らずのお嬢様だった。

お金持ちの一人娘だったため幼いころから誘拐などの危険にさらされることも多く、ちゆりが知る「お屋敷の世界」といえば彼女の一族が経営し警備も行き届いたホビー21くらいのものだったという。
唯一知る外の世界に暮らすのはホビー21の着ぐるみキャラクター、更に屋敷には着ぐるみのメイドが仕えることとなる。
その為ちゆり自身にとってキャラクターやアニメの世界は同年代の他の子どもより身近なものであったそうだ。
彼女の抱く「外の世界」のイメージとはアニメで描かれるまさにそれであったという。

その後ちゆりが成長していくにつれ、児童劇団に所属するなど外の世界に出ていく機会も増え、彼女はその現実に軽い絶望を覚えていく。
現実の世界にはロボットが一般人に交じって生活してもいなければ、異世界人がひょっこり転校してくることもない。
悪の結社が町に怪人を放つこともなければ、クラスの目立たないあの子の正体が実は魔法戦士だったりもしない。
その退屈は夢の世界で育った彼女にとっては許しがたいものだった。

そして思い悩んだ結果、ちゆりは一つの答えに辿りつく。

現実の世界に「夢」が無いのならば自分たちが「夢」を与える存在になればいいじゃないか・・と。
そしてちゆりが始めたのがこの現実世界にアニメの世界の住人・maiちゃんを住まわせる計画、「maiちゃんプロジェクト」だ。

この為だけに「maiちゃん」というキャラクターが作られ、実際に一生徒としてこの学校に入学するとことになる。
俺がこんなボンボン私立校に通えてるのもちゆりに半ば強引にそのプロジェクトに巻き込まれたからだった。
maiちゃんというキャラクターを現に動かしていく為にはキャラクターの演じ手だけではなく、近くで常にサポートする人間が必要だった為だ。
親友として秘密の共有者の一人に選んでくれたのは確かに光栄なことではあるのだが・・・

入学式の朝、ちゆりの家でmaiちゃんの姿を見せされ、これからこの子のサポートとして活動してほしいとちゆりに頼まれたときは絶望しか感じなかった。
四六時中間近でmaiちゃんの着ぐるみ姿を見せつけられ続ける嫉妬心、そしてそこからくる心労はたまったものではない。
maiちゃんに入る内臓役の『彼女』に恨みがあるわけではないが、このもどかしい気持ちはどこにぶつければいいのだろう?

ちゆりはこのmaiちゃんプロジェクトに強い思い入れを持っている。
確かにここまで来れたのはちゆりの親御さんの力があっての事だったのは否定しようがない。
だがちゆり自身も一高校生としては規格外の行動力を発揮しプロジェクトを推し進めてきた。
現に毎週末のようにあるイベント出演や町の行事参加は親の力に頼らない彼女自身の体当たり営業の成果であった、かつての箱入りっぷりが嘘のようだ。
故にmaiちゃんのイメージを壊した先ほどの番組に対する怒りは当然のことであろう、たとえPRに利用しようという打算で取材を快諾したのが彼女自身だったとはいえ。

「例の番組制作会社のほうには俺からしっかりと抗議しておくからさ。
機嫌直せよ、な?」
「うー・・・」
彼女はまだ納得できないといった表情だ。

「それにほら、一番知られちゃ困る『舞ちゃん』については隠し通せたんだし」

その時、ガチャっと音を立てて部室の奥の物置部屋に繋がるドアが開いた。
「おっ、噂をすれば」
「舞ちゃんおかえりー」
俺とちゆりはそこから出てきた少女に声をかけた。


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