由佳里のバースデー(7話) [戻る]
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 二部のバースデーパーティーが始まると、司会が余興やゲームを開始して、お客さん達はそれぞれの交流も開始しつつ、由佳里との楽しいひとときが始まります。
 一部の会と違い、由佳里も一箇所に留まるのではなく、色んな人達と交流するために主人公の男の子とペアで、参加者達に挨拶をして移動しています。
 ゆっくりと全員に挨拶を終えた所で、二部開始から約15分が経過していました。
 ここから先は、野外での撮影会。
 お客さんとのツーショットを、イベントの主催者が用意したカメラマンに撮って貰って、綺麗にプリントして貰えると言う余興があるのです。
 毎回可愛らしいポーズでお客さんと写真を撮る由佳里。
 お客さんの満面の笑みは、まさに憧れのキャラクターを間近にしての笑みと言えます。
 その気持ちはよく分かります。
 三次元コンピュータグラフィックスから飛び出たそのままと言える着ぐるみのリアリティーもあり、関係者であり事情を知っている僕ですら、勘違いしてしまう程の魅力的な女の子なのです。
 ファンとして参加しているお客さんが喜ぶのは当然と言えました。
 ですが、その一人一人の笑みを見る度に、凄い悔しさと羨ましさが込み上げて来たりもしました。
 その由佳里は、僕の友達が演じる着ぐるみであり、僕が一番親しい人間。
 彼らファンにとっては、ファンとキャラクターという立場だろうけど、僕にすれば、裏側までかなり想像出来る知った仲間なのです。
 その僕を差し置いて彼女と接するほどの距離で写真に収まるお客さん達に、嫉妬を覚えると共に、そんな対象になっている由佳里の中に入る友達に悔しさを覚えたのです。
 みんなの憧れるキャラクターを演じるってどういう気持ちなんだろうなって。
 そんな中で、ある参加者が、さっきの熊ちゃんを抱いたところをここでも写真に撮りたいと言ってきました。
 由佳里は一瞬何のことか分らなかったようで、別のスタッフに説明され、あーあれね、と思い出したように頷くと、その場で、今、持ってきてないとジェスチャーします。

 残念がるお客さんを見た由佳里が、スタッフに、楽屋に取りに帰ってくれないか?
 とボディーランゲージで告げると、スタッフは了承。
 直ぐに取りに行きました。
 約三分後。スタッフは大きな熊を抱えて帰り、由佳里に手渡します。
 由佳里は喜んでその熊を受け取ると、再び可愛らしくギューーーっと抱きしめて、ポーズを作り、お客さんの写真に収っています。
 それを見た他のお客さんも、そのシーンを納めようと、また近寄って来て、さながら撮影会と言った感じになります。
 ここでも瞬きは自然なようです。
 先ほどの由佳里の説明では、瞬きは自動モードだと言う事なので、さすがにまだ我慢できているのでしょう。
 お客さんに指示されるタイミングで、お客さんのカメラに向かって次々とポーズを決める由佳里ですが、それはつまり自分の意思で、自分のタイミングでポーズを取っている訳ではないと言う事。
 胸を潰す勢いでギュッと熊を抱く、その行為は、第一部の会で見ていても凄く切ない光景に見えたのですが、この野外の環境でそれを見ると、さらにその切なさが増して見えます。
 中には由佳里とツーショット写真を撮って貰っているお客さんもいますが、可愛らしく熊をギュッと抱いた由佳里の裏にある真実に気付いたら、とても冷静に同じ写真の中に写っていられない気がしてしまいます。
 所が、そうやって熊をギュッと抱きしめながらのツーショット写真を撮っている最中、途中で、撮影に使っていたデジカメ、NinonのD5Mark2の記録メディアのメモリーがいっぱいになってしまいます。
 9500万画素とスターライトスコープ並の超超高感度での圧倒的ノイズレスを実現し、秒間25コマの連写とフルハイビジョンの10倍の解像度での動画記録にも対応しながら、可愛いデコレーション編集も出来る、ブログ写真の自動アップロードの機能も持った通信モジュールまで内蔵し、暇な時間にはGPSを使ったゲームも楽しめると言う、市場価格が約77万円のプロ用写真機ですが、メモリーがいっぱいになるのは仕方ありません。
 最新の2テラバイトマイクロフラッシュメモリーを2枚搭載しているのですが、それでも、いつかはメモリーが尽きる事はあるのです。
 僕はカメラマンに事情を聞き、サポートスタッフやお客さん、由佳里に事情を告げます。
 メモリーのデータを最新の百二十八コアプロセッサが乗ったノートパソコンにウルトラUSB接続したカードリーダーで読み込ませる事で、かなり高速にデータの読み込みは可能なはずです。
 由佳里に事情を説明すると可愛く元気にウンと頷いてくれます。
 この待ち時間もジリジリと日光に照らされている訳ですから、楽なはずはないのですが、由佳里からその裏側の苦しみを感じる事はありませんでした。
 時間にして数分で読み込みが終わり、カードが空になる予定だったのですが、どうも上手く行かない様子。
 再びカメラマンと、パソコン側の担当スタッフに事情を聞くと、パソコン側の40テラバイトのSSDが既にディスクいっぱいになっているというのです。
 ノートパソコンに逃がせないとなると、非常に困ります。撮影が止まってしまうのです。
 ノートパソコンのデータを消せばいいのでしょうが、実はこのノートパソコンは職場のレンタル品で、後で元に戻して返す必要があり、データは消せないのです。
 彼らは色々打開策を考える時間も、当然由佳里は可愛らしくドレスを纏い存在を続けています。
 その裏では早くして欲しいと思っているかもしれないのに、由佳里は笑顔を浮かべ続けます。
 僕も早くして欲しいと思っています。それは由佳里の体力を考えて、と言う表向きの理由ではなく、実は、この羨ましい由佳里の状況を、一刻も早く、終わらせたいと言う事の方が強くなっていました。
 こうしている間も、由佳里の中では、ドレスの中の濃密な空気を吸い続け、ドレスと身体の産み出す羨ましくなるような快感に包まれながら、それでもみんなのヒロインとして、可愛い由佳里として存在し続けている友達がいるのです。
 今、どのぐらい由佳里の中が蒸し風呂なのかも、どのぐらい外の新鮮な空気を欲しいと願っているのかも、そして、どのぐらい気持ちよくて出したくて仕方ないのかも、僕らには分りません。
 もちろん本当に限界が訪れたら、予定は全てキャンセルして、着ぐるみは退場する権利が与えられ、それに対して会社からペナルティーは全く無い契約になっているはずです。
 つまり、由佳里の中の友達は、本当に苦しくて耐えきれなければいつでもこのイベントを辞められるのです。
 ですが、由佳里は相変わらず可愛いまま存在し、僕にもその魅力的笑顔を見せ続けています。
 その笑顔の裏で、友達が一身に浴びる世界を想像すれば、早くこんな撮影終わらせたいと思っても仕方ないですよね。
 そんな中で、約15分議論が続き、結論として、撮影は後四枚なので、誰かの持ってるメモリーでなんとかならないか? と言う事になりました。
 そして、丁度僕の携帯はマイクロフラッシュを使っているのと、先日動画データを入れるために大きい容量に買い換えたばかりだったので、まだ結構空き容量がある事に気付き、結局僕のメモリーを使う事になりました。
 ですが僕、これ、意外と嫌だなぁと思ったんです。
 僕が提供しないと、撮影が終わらないし、僕は由佳里のサポートスタッフでもあるので、由佳里の撮影を早く終わらせる義務もありますから、仕方なかったのですが、これって、僕のメモリーに由佳里の羨ましい画像が記録されてしまうって事ですよね?
 まぁ後で消せばいいのですが、メモリーに記録されるのは、後から見れてしまうと言う事ですから、かなり悔しくなりそうな気がします。
 そうは言っても、僕しかこの規格のメモリーを持っている人間はこの場にいなかったようなので、渋々提出しました。世の中の携帯電話のメモリーは、最近は殆どがスーパーマイクロSDカードなんですよね。
 なんだかんだで20分延長し、ようやく全ての撮影が終わりました。後で写真を出力したら僕のメモリーは返してくれるそうです。
 こうして、僕の携帯のメモリーには、超高解像度の由佳里が熊をギュッと抱きしめなが
ら、お客さんとのツーショット写真が記録されることになりました。
 本当は15分ぐらいで終わる予定だった撮影会も30分以上続き、二部開始から約50分が経過しています。
 ここで一旦由佳里は席を外して衣装チェンジとなります。
 本来は二部の会で衣装チェンジは無いのですが、今回に限っては、この後予定されているイリュージョンを行うためのコスチュームに着替えると言うことなので、例外的に衣装チェンジが行われる事になります。
 もちろん、由佳里の担当は僕なので、僕が楽屋まで由佳里を誘導していきます。
 誘導中も、由佳里は顔色一つ変える様子無く、相変わらず可愛らしい姿で歩いています。
 もちろん瞬きも自然な状態を保っている様子。
 さすがに今回は演技中に手動モードを必要としていなかったので、わざわざ手動モードに切り替える事も無かったのでしょう。
 その点だけは少し安心して見ていられました。
 僕は由佳里の熊ちゃんを変わりに持ってあげて、移動するのですが、その重量感はなかなかの物で、これは、ただ抱えるだけでも結構胸に圧迫がある気がしました。
 つまりギュッと抱きしめている時間だけではなく、これを抱えていた殆どの時間、何らかの圧力が胸にかかり続けていたと言うことになります。

「これ・・・重いなぁ・・・平気だった?」

 僕がそう言うと、由佳里はちょっとだけこっちを振り向いて、可愛らしく親指と人差し指の指先に隙間を作って、チョットだけ! とアピールします。
 チョットだけ大変だった、と言いたいみたいですが、それは由佳里にとってのちょっとであり、由佳里の中にはちょっとではない気がするのは僕だけなのでしょうか?
 もちろんこうして歩いている間も由佳里の胸は揺れ続けています。
 羨ましいぐらいの揺れを僕に見せつけながら歩く由佳里ですが、彼女の胸があれだけ大きいのは、ゲームの設定。
 これは僕にも、そして中にいる友達にも仕方のない揺れなのです。
 恨むならこのゲームの由佳里をデザインしたデザイナーに言う話なのですから。
 それにしても、設定なので仕方がないとは言え、こんなに揺れる胸を、ブラや衣装で吊る事も出来ず、歩く度に揺れてしまうと言う状態で由佳里の中にいると言うのは、どのぐらい気持ちのいいことなんでしょう。
 僕には想像しかできませんが、由佳里の中では一歩一歩確実に、友達がその快感に包まれ続けているはずです。
 こうして楽屋まで由佳里を誘導し、送り届けると、楽屋で待機するスタッフに大きな熊のぬいぐるみを手渡して、僕は次の仕事に戻ります。
 こう見えて僕も意外と忙しいのですが、次は、イリュージョンの準備。
 と言っても、僕はこのイリュージョンの件については、全く何も聞いてません。
 何故なら、このイリュージョンは今回限りのスペシャルな物であり、そこにレギュラースタッフを投入すると、作業が多くなって大変だと言う事で、このイベントのみ、他の専門スタッフが全て担当しているのです。
 ですので、会場でのセッティングなどは、僕は、他の、イリュージョンチームのリーダーの指示を聞きながらのお手伝いとなりました。
 大規模な物もあるようですが、小規模な物もあり、僕はその小道具なんかも用意します。
 チャイニーズリングと呼ばれる輪っかが繋がったり、外れたりする手品や、路上で千円ぐらいで売っている不思議なダンス人形として有名なジョニー君人形、大きなトランプなんかもあります。
 大がかりの仕掛けとしては、ギロチンのような機械もあり、その他にもまだ楽屋の方で準備が進んでいる物もあるようです。
 テーブルのセッティングやライト周り、そして音楽も用意。
 結構本格的なイリュージョンショーのようです。
 このセッティングをやっている間に、由佳里は他のスタッフに連れられて戻って来ていました。
 約10分。相変わらず着替えは早いです。
 今度のドレスは、イリュージョンショーではアシスタントの女の子が着ても違和感の無いチャイナドレス。
 真っ赤なサテンのチャイナは、彼女の身体のラインを嫌らしいぐらいに浮き立たせているのが分ります。
 今回はラインが出る衣装と言うことで、どうやらパニエやタイツも脱いでいる様子。
 そう言う意味では、今までの衣装に比べ、下半身はだいぶ楽な気がしますが、上半身については、相変わらずピッチリと胸が覆われて、その締め付け感を想像するだけで、僕の下半身も熱くなってしまう程にセクシーです。
 僕は一瞬、由佳里と目があった気がしたのですが、次の瞬間、由佳里は主人公の男の子を見つけて駆け寄ります。
 チャイナドレスの胸の光沢が、走る振動で揺れている様子が見えてしまい、なんともツライ光景でしたが、それ以上に、僕を見ても反応せず、男の子に嬉しそうに駆け寄る由佳里に、凄く悲しくなってしまいました。
 まぁもちろん今は、由佳里は彼氏であるその男の子が好きと言う立場にあるので、こうしてみんなの前で彼氏に駆け寄る光景は、ごくごく自然なんですけどね。
 それでもなんか男の子が羨ましく感じてしまいました。
 これで全員が揃い、再び歓談が始まって10分ぐらいが経過したとき、メインの出入り口ではなく、このガーデンの端の方にある出入り口から、段ボール箱ぐらいの大きさの箱が荷台に載せられてゴロゴロと運ばれてきました。
 この箱は、50センチ四方ぐらいの正方形の箱で、それが三段に重ねられているようです。
 そしてその下に、台があり、台の厚みは20センチ程度で凄く頑丈そうです。
 これが2セットあります。この箱はイリュージョン用の物で、最後にやる大きなイリュージョンの仕掛けらしいです。
 荷物が運び込まれている間も、歓談と余興は続き、中でもビンゴはかなり盛り上がりました。
 由佳里グッズを由佳里から手渡して貰えるので、当たった人はかなり喜んでいるみたいです。
 そんな楽しいビンゴ大会の間、時々ですが由佳里が、イリュージョン用の箱を気にしているんですね。
 特に、台の上に乗った一つの箱が凄く気になるみたいです。
 ある時、由佳里が少しだけお客さん達の視線から外れる場面があって、その瞬間、由佳里はそっとその箱に近づいて、じっとその箱を見ている様子でした。
「なにか気になる?」
 僕がそっと由佳里に問いかけると、一瞬ビックリしたのか、ピクリと反応しますが、次の瞬間には、指一本を立てて、自分の口元に持って行き、内緒、のポーズを作ります。
 気になっているようですが、でも僕に言うほどの話でもないと言うことなんでしょうか?
 そう言われると僕も凄く気になりますが、その箱が変化を示すようなことはありませんでした。
 結局、みんなで盛り上がった結果、二十分近くかかって、ビンゴが終わります。
 謎の箱が運び込まれてから、三十分ぐらいが経過した頃でしょうか?
 ここからいよいよイリュージョンショーが始まります。
 ここで初めて知ったのですが、イリュージョンをするのは主人公の男の子。
 あの着ぐるみの中身は、実はプロのマジシャンに弟子入りして三ヶ月ほど訓練した役者さんらしく、かなりの腕前でした。
 チャイニーズリングやジョニー君人形は、タネを知っていてもかなり不思議。
 ただ、ショーの大半は男の子がやるので、由佳里は割とやることがありません。
 そこで、ガーデンに据え付けのベンチシートに由佳里を誘導して、少し休憩させることにします。
 僕が横に座って、肩を貸すよと提案するのですが、由佳里は、また、何で? と言う態度。
 衣装がチャイナドレスになったことで楽になったからなのか、特に僕の身体に寄り添ってまで休む必要はないと言う事なのでしょうか?。
 あるいは、やはり一応人目があるから、なのかもしれませんけどね。
 こうして徐々に大がかりなイリュージョンになり、そろそろ由佳里も忙しくなります。
 男の子に誘導されて、由佳里がギロチン台にかかって、首切りをされそうになったりもしました。
 そしていよいよ、約20分続いたショーの大詰めが始まります。
 僕もこのネタは聞いていませんでしたし、多分これがさっき楽屋奥で準備していた物なのでしょうが、聞いてびっくり。テレポーテーションなのだそうです。
 庭に運び込まれてから既に50分近く経過している、先程の二組の三段重ねの箱がいよいよ登場します。
 イリュージョンは、箱の片側から片側へ、由佳里がテレポートすると言う物のようです。
 台は直置きではなく、結構丈夫そうなキャスター付き鉄の枠によって支えられています。
 つまり、台の下には何もない状態と言えます。
 準備に入った男の子は、約10メートル離れた場所にその箱を置き、客席から向かって左側の箱の、一番下、一番上、そして真ん中、の順番に箱の横に付いている蓋を開けて中が空な事を確認します。
 続いて右側の箱も、今度は、一番上、一番下、そして真ん中、と言う順に開けていきます。
 同時に三つの箱の中を見せないと言うのは怪しいと言えば怪しいのですが、まぁでもそれぞれの箱に何か隠れていることは無さそうに見えます。
 そして、一旦全部の箱の蓋を閉じ、右側の箱の真ん中と上を取り、一番下の箱の中に由佳里が立ちます。
 続いて由佳里の上から、外した箱の真ん中、一番上を被せていくと、由佳里が完全にはこの中に隠れてしまいます。
 一番上の蓋から順に開けると、箱の中には由佳里の顔が。
 真ん中には当然由佳里の身体が見えます。一番下も足が見えます。一番下の箱の蓋を開けるのに少し戸惑った気がしましたが、開けたときにはしっかり足が見えているので、まだ由佳里はあそこにいるようです。
 全部確認して蓋を閉じ、音楽がなり、男の子が瞬間移動のポーズを取ると、バーンと言う軽い爆竹のような破裂音と共に、箱の左側がスポットライトで照らされ、蓋が順に開かれると、そこにはなんと由佳里が入っていました。
 箱を取り払って中から出てきた由佳里は、なんとイベントの第一部の最初に着ていた水色のドレスを着ている、と言う演出まであり、僕も本当にビックリします。
 箱から出た由佳里は、可愛らしくウインクをしながらポーズを決めます。
 と言うことは、今の由佳里は瞬きを手動にしていると言うことでもありますね。
 直ぐに男の子は右側の箱の蓋を、順に開けます。今度は下、上、真ん中、でしたが、やはり箱の中は空。
 本当に移動したとしか思えず、僕もかなり驚いてみていました。
 しかもあの短時間に、チャイナドレスからこのボリュームのあるドレスに着替えたのです。
 逆なら、裏にチャイナドレスを着込む事で対処できる気もしますが、チャイナドレスの下にこのドレスを着込むには、余りにもボリューム感がありすぎますから、どうやって隠していたのか、不思議で仕方ありませんでした。
 華麗に登場した由佳里は、何事もなくその後も二部の会を楽しんでいる様子でしたが、僕はイリュージョンのタネが気になって仕方がありません。
 どうやって瞬間移動して、どうやって着替えたのか、凄く不思議でした。
 イリュージョンが終わって、スタッフがバラバラにした箱に近づいて見たりしたのですが、箱の蓋は厳重にロックされていて、六面とも塞がれていたので、中を確認できませんでした。
 ただ、特に不自然には思えませんし、外された箱のうち、真ん中の段と上の段については、手に持って見たりもしたのですが、重さも不自然ではありませんでした。
 一番下の段は、確かに重いのですが、それは箱の下にくっついている20センチぐらいの厚みのある台のせいと言う気がしています。
 唯一気になるのは、その台には、よく見ると端っこに赤いLEDランプみたいなのが付いているのですが、それは点灯する気配はまるでありませんでした。
 僕がその箱を気にしていると、お客さんの隙を見てなのか、丁度ゲームで盛り上がっているタイミングで、由佳里が近づいてきて、僕の横でしゃがんで、頬杖をついて箱を一緒に見ています。
 由佳里は僕を見て、不思議でしょ?
 って言いたげに小首をかしげ、可愛らしくウインクを決め、いい子いい子と頭を撫でてくれました。
 しゃがんでいると、実は結構着ぐるみの中の人間には感じ易い状態になります。
 お尻から股間にかけての着ぐるみの身体が、演者に食い込むんです。
 その上背中側がピッチピチに突っ張って、すごく締め付けられるので、しゃがむだけで感度が少し増す錯覚を覚えるぐらいです。
 可愛らしくしゃがんでいますが、由佳里の中の友達は、由佳里の身体の締め付けと食い込みを感じているはず、と思うと、とても羨ましく思えます。
 そんな感情を隠すため、僕は由佳里に、ありきたりな質問を投げかけてみます。

「すごいなー。一体どういう仕組みなんだ?」

 僕が素朴に質問すると、一本指を立てて口に元当て、内緒、と、返してきました。
 由佳里は、最後にそのLED付きの土台の乗った箱をみて、LEDランプを指差した後、僕をチラッと見ます。

「どうしたの? ランプが何かあるの?」

 すると、再び、内緒、とポーズを返し、愛おしそうに箱の本体を撫で撫でしています。
 その撫でる仕草にあわせて、ゆっくりと目をパチパチする様子も自然ですが、それもまた、友達の演技。

「この箱に何かあるの?」

 ひっそりと佇む箱をただ優しく撫でる由佳里を見て、凄く不思議に思いました。すると由佳里は、箱の裏側に手を回して何かをまさぐっています。
 そして目的の物を探し当てた様子で、僕に手招きして、触れてみろと誘導するのです。

「ん? なんだ?」

 僕は誘導された箱の裏の特定の場所に手を持って行くと、そこには、何か空冷のファンらしき物があるのが分かります。
 音は静かに回っているので気づきませんでしたが、箱の中に風を送って冷やしているのでしょうか?
 そして、さっきのランプはこのインジケータなのでしようか?
 とも思ったのですが、空冷ファンが稼働しているのにランプは消灯している事から、連動している物ではなさそうです。

「このファンが・・・どうしたの?」

 またも、ウインクしながら内緒、のポーズで誤魔化す由佳里。
 ファンは、音は聞こえないですが、ちょっと立て付けが悪いのか、触れると若干ブーーンと言う振動が伝わってきます。
 しっかり固定されていないのが気になりますが、だからと言って中を冷やす事に問題は感じません。
 手でカタカタと揺らしてみても、特に箱の変化は感じませんでした。

「向こうの箱もこう言うのが付いてるの?」

 僕の質問に由佳里はウンと頷きます。

「なんだろう。これがタネになるのかな?」

 またもつれなく、ウインク付の、内緒、のポーズを取る由佳里。
 そして、由佳里は再びファンを弄っている様子。
 そして、ブーーンと言う振動が、由佳里の指によって、ブーーーン、ブブブン、ビーン、と、不規則に音を変えている様子が分りました。

「何してるの??」

 僕は由佳里の行動を不思議がっていると、由佳里が楽しそうに、ランプを指さしています。

「由佳里ちゃん、何してるの? その奥に秘密が??」

 僕が質問しているのを無視するように、ぐりぐりファンを弄り続けていた瞬間。
 一瞬だけですがLEDのランプが点灯したのです。
 ランプが点灯した直後に由佳里がその手を止めると、すぐにランプは消えました。

「え? 今のランプは?」

 相変わらず内緒のポーズを取った由佳里は、最後に、再び愛おしそうによしよしと、箱を撫で撫でして、スッと立ち上がり、お客さん達の輪の中に戻っていきました。
 その箱は、由佳里が消失した方の箱だったので、余計にその行為が気になりました。
 この箱に、どんな仕掛けがあったのでしょう?
 スタッフの一人が絶えずこのイリュージョンの道具をチェックしている様子も気になりました。
 何かネタバレがあるかもしれないのでそうならないように監視しているのでしょうか?
 箱は、結局最後までここに置かれたままになっていました。
 誰にも注目されることなくひっそりと置かれた箱に、どんな秘密があったのかは僕が知ることは出来ませんでした。
 もしかすると凄く単純な仕掛けであっと驚く効果があるのかも知れませんし、凄く複雑な感動的仕掛けがあるのかもしれません。
 ですが、僕にはさっぱり分りませんでした。
 最後まで気になっていたのは、由佳里が見せた、あの土台の箱に対する行為。
 まるで何かを心配しているかのように愛おしそうに箱を撫でているその様子が、凄く印象的だったんです。
 結局その後、30分ぐらいで、二部のプログラムも全て終了し、大盛況のまま、イベントが終わりました。


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