由佳里のバースデー(4話) [戻る]
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 僕は、由佳里の投げる花を用意するため、事前に用意されている花束をバラバラに分解します。
 すると由佳里が、バラバラにした花束を束ねさせないように、邪魔してきたのです。

「ち・・・ちょっと、まってまって」

 僕が焦っているのを見て、ケラケラ笑う仕草をする由佳里。
 由佳里がそうやって僕に絡んでいる隙に、主人公の男の子は休憩へと向かって行くのですが、由佳里はそんなことを気にする様子もなく、僕にちょっかいを出してきます。
 楽しそうに笑う仕草は、その笑顔と相まって、本当に可愛らしくて楽しそう。
 目をパチパチさせて、凄く楽しそうにしているのです。
 その瞬きは、やはり自動モードのそれとは異なり、中にいる友達の意思。
 僕以外のスタッフは、この瞬きがどういう仕組みか、など知りませんし、気にもしていません。
 ホビー21製の着ぐるみなら、このぐらいのことは何処かで誰かが上手いことやっていてくれるだろう、ぐらいにしか思っていません。

 ですが、現実は異なります。

 この演技ですら楽ではないはずなのに、そこに絶妙な瞬きが加わって、凄く自然に笑っているように見えるんですね。
 この笑顔の中で、目に涙を滲ませ、歯を食いしばって快感に耐えながら、固くなった物を動かしているであろう友達を想像すると、辛くなってしまうので、極力、彼女は由佳里であると自分に言い聞かせて接しています。
 そして、そんな風に思うと、由佳里にじゃれて貰える事が少し嬉しくなります。
 さっきまでは、その役柄上、僕からは遠い存在の由佳里でしたが、待機場所では僕を見つけて僕にじゃれてきたのです。
 リハーサルなどで主人公の男の子とは何度も一緒に練習していたはずなのに、それよりも僕にじゃれついてきた。
 それが凄く嬉しかった。
 確かに主人公の男の子は休憩に向かう為に、ここに引き留めておくことは出来ないのですが、まだ彼がいるうちに僕にじゃれついて、彼がいなくなるときも彼に見向きもしないで僕にじゃれてきます。
 もちろん由佳里の中は友達です。
 ですから、友達から見れば、このメンバーの中で一番知っているのは僕であり、その僕にじゃれつくのは自然なのかもしれない。
 確かにそうかもしれないのですが、でも、由佳里が僕にじゃれてきた、という事実は凄く嬉しかったんですよね。
 他のキャラクターでは無く、ゲームのヒロインであり僕の憧れの女の子なのですから。

 ですが、彼女のツヤツヤなロンググローブが僕の手に触れ、掴んだりしたとき、ふと冷静になってしまいます。
 そう、やっぱり、この可愛らしい憧れのヒロインは、裏で動かしいてる友達の意思で僕にじゃれつき、しかもこのつやつやのロンググローブのシワや締め付けは、確実に彼女の裏にある大事な物を締め付け、シワがその物をなぞっているはずです。
 そんな気持ち良さそうな状況なのに、固くなった物は、自然な瞬きの為に、自由に反応させる事も出来ない。
 可愛らしくじゃれつく行為すら、演じる人間にとっては大変なはずなのに、目の前の由佳里は、瞬きも含めて、そんな苦しそうな素振りを見せてくれる様子は全くありません。
 結局、由佳里の邪魔によって、一部の花が床に落ちてしまいました。

「あーあ。もう。もう一度やり直しだよ。」

 僕はちょっとふてくされたように言うと、由佳里は可愛らしくシュンとします。
 それを気にせず、すっと床にしゃがんで花を取ろうとした瞬間、由佳里が僕の目の前にフワリとしゃがみ込んできました。

「え?」

 僕がびっくりしたように由佳里を見ると、由佳里はごめんね~って言う感じで拝むように謝ってきました。
 その時の由佳里は、瞼をギュッと閉じて、凄く申し訳なさそうに誤っていました。
 どうも僕が本気で怒っていると思ったみたいです。
 違います。羨ましいからあんまり触れられたくなかっただけなんです。
 ですが、謝ってるその姿も物凄く可愛らしい。本当に由佳里という女の子がいたら、きっとこう言う仕草だろうなと思える動きです。
 そして、その由佳里がフワリとしゃがみ込んだ瞬間、さらに衝撃が僕を襲いました。
 由佳里のスカートの中からフワッと漏れ出した空気が僕の手にかかり、その余りの蒸し風呂のような空気に衝撃を覚えたんです。
 サウナと行ったら言い過ぎかも知れませんが、外気温との落差を考えると、余りにも蒸した空気が、そのスカートの中から漏れ出てきたのです。
 その中は、彼女を演じる友達の呼吸する空気が充満している場所。
 今の今まで目の前にいた可愛らしい由佳里の姿に嫉妬していましたが、その裏側はこんなにも苦しそうな空気が充満しているのです。
 可愛い笑顔と魅力的な身体と、そしてこの美しいドレスに遮られた裏側の世界。
 それが、確実に目の前の由佳里に存在しているのです。
 その羨ましい空気を自らの手で感じながら、残りの花を拾い、纏めて由佳里に手渡します。
 嬉しそうに受け取って花の香りを嗅ぐ仕草をするのですが、もちろん由佳里の中にその香りが届く事はありませんよね。
 由佳里の中には、スカートの中の蒸し風呂のような空気だけが届けられるのですから。
 可愛らしくリアクションを取る由佳里の、その可愛らしさと、裏側の過酷さを想像すると、ほんとにぐっとこみ上げる物があります。
 もちろんこれだけ苦しそうな重装備の姿で、これだけ可愛らしく動き回っているのですから、由佳里の中の友達が、瞬きのモードを自動に戻す余裕は無いはずです。
 じっと耐えていればもしかしたら自動モードに戻るチャンスはあったかもしれないのに、由佳里を演じる為に、自分を押し殺して頑張っている。
 それはプロの役者として当たり前の選択なのかもしれません。
 本当は、苦しい中、役をこなすために苦しい選択をするしか無かったのかも知れません。
 ですが、ほんの少しだけ、僕の想像が正しい気もしています。

 その想像とは、由佳里の中にいる友達は、僕が瞬きのことを気にして、由佳里の中を想像して興奮している事を分かってて、わざと、僕に見せつける為にこうして可愛らしい由佳里を演じていると言う可能性です。
 もしそうであれば、由佳里の中の友達は、由佳里が産み出す快感に耐えながら、僕に想像される事で更なる興奮を得ているかもしれないのです。
 瞬きの度に、僕に

「ほらほら、僕が気持ちよくなった固い物をヒクヒクさせて、君の大好きな由佳里を、可愛く瞬きさせてあげるんだよ?」

 なんて思いながら、演じているのかも知れません。
 真実は、可愛らしい笑顔に隠れ、僕からは分かりませんが、その状況が、本当に羨ましかった。
 こうして僕が密かに羨ましがっていると、いつの間にか会場の準備は整います。
 会場の準備が整うと、由佳里の最終確認をして、スタッフの合図で目の前のドアが開き、由佳里が再登場となります。
 拍手の中登場した由佳里。
 司会者が事前に集めていた、由佳里の花を受けたい人間が、既に会場の前の方に集まっていて、その前に由佳里が出て行きます。
 事実上全員が参加する形になったこの花を受け取るイベントですが、由佳里の準備が整うと、司会者の合図で、花が一本一本由佳里から投げられています。
 一本一本、方向を変え、投げていくのですが、その度にお客さんが喜んで取りにかかります。
 一回投げると、お客さんが取るのを確認して、その結果に喜んで、と言う一連のリアクションをします。
 しかも、上手く受け取れたお客さんに、毎回ウインクしているんですね。
 そのポーズとウインクの可愛らしさは相当なものでした。
 また、花を投げるときのモーションによって、ドレスの生地がかなり無理矢理引っ張られて突っ張っているのが分かります。
 花を投げる時、脇腹辺りの生地がピーンと突っ張っているのです。
 多分胸もかなり圧迫されているはずです。
 スカートは一瞬ゆらりと揺れているのですが、空気が入れ替わるほど大きく動いている様子もなく、つまり、上半身によって締め付けられ、下半身はしっかりと空気を漏らさない状態が続いているはずなのです。
 一投一投が凄く羨ましい光景。
 花を受けた全員にウインクをするのであれば、ここで出す訳にはいかないはずです。
 あのドレスを纏い、あの身体で、一投一投花を投げる度に、友達の固いものは、どれ程の快感に襲われているんでしょう。
 きっと、気の遠くなるような下半身を襲う快楽と、逃げ出したくなるぐらいの息苦しさと、咽せ返る香りに包まれた由佳里の中の世界のはずですが、その快楽を最も受けているはずの固い立派な物は、瞬きとウインクの為に、自由に反応してはいけないんです。
 そんな、誰にも見せる事の無い秘密の世界は、一投一投確実に由佳里の中を羨ましい世界に変えて行っているはずです。
 時間にしてほんの数分の余興ですが、その時間は由佳里にとっては短い時間ではなかった気がします。
 最後まで、実に楽しそうに花を投げ、ウインクを繰り返し、その余興をこなした由佳里。
 この花を受け取った人は、この会の最後にキスを受けられる事になります。
 イベント開始から約一時間が経過し、ここで由佳里は衣装を変えての登場になるので、ここから先は、先程一足先にちょっと休憩に入った主人公の男の子が再登場して、お客さん達とミニゲームをする事になります。
 主人公の男の子と入れ替えで部屋を出て行く僕と由佳里。
 僕は由佳里を誘導して、楽屋までやってきます。
 僕と由佳里は楽屋に入ると、部屋の真ん中に由佳里用の椅子があり、由佳里をそこに誘導します。
 部屋はたまたま人が出払って誰もいないようで、僕と由佳里は二人きりになってしまいました。
 着付けのスタッフも見えない事から、着替えようにも着替えられません。

「お疲れ様ー」

 僕が声をかけると由佳里は可愛らしく頷いてちょこんと椅子に座ります。
 丁度その瞬間、僕は床に落ちていたゴミを何気なく拾ったのですが、由佳里が座った時にフワリとスカートが揺れ、そこから熱気が僕の手に伝わってきたのです。
 その熱気は、やはりサウナ。
 そう。先程と全く変わらないサウナのような熱気でした。
 由佳里はスカートの中に、こんな蒸し暑い空気を貯め込み続けていました。
 臭いもムワリと漂い、スカートの中の布の香りと、汗や呼気の混じった独特の臭気が、床の方に広がっているのが分ります。
 多分立っているお客さん達や、椅子に座っている程度のお客さん達は誰も気付きませんが、このぐらいしゃがんだ時に、たまたま裾から空気が漏れると、微かにですが、その香りを感じる事になります。
 ですが、微かだからこそ、僕も更に込み上げる物を感じてしまいます。
 僕にとっては微かに伝わるこの空気は、きっとスカートの中には大量に蓄えられ、その空気は、この可愛らしい由佳里の中との交換を続けているのです。
 こんなに臭って蒸し暑い空気を吸って、由佳里になるって言うのは、どれ程興奮する事なのでしょう。
 それを知っているのは、由佳里の中にいる友達だけなのです。

「あ・・・あのさ」

 僕が声をかけると、可愛らしく、何? と小首をかしげる由佳里。
 そして瞬きをパチパチと繰り返します。
 首元のドレスのシワや、大きなネックレスが揺れて胸の上を撫でる様子も目に入り、それもまた色々と想像してしまうのですが、由佳里は全く平気な顔。
 ただ、唯一今までと異なるのはその瞬き。
 今までと比べて遥かに瞬きの回数が多いのです。

「も・・・もしね。もし苦しかったら、スカートめくってもいいんだよ? 今、誰もいないし」

 まずは、空気の入れ換えを提案してあげました。多分一気にスカートをめくり上げて空気を入れ換えてしまえば、この空調の効いた空気で由佳里のスカートを満たす事が出来ます。
 そうすれば幾分息苦しさも軽減されるはずなのです。
 ですが、由佳里は、イヤイヤと首を横に振ってしまいます。
 その上、わざと僕に見えるように、苦しそうに呼吸するジェスチャーをしたり、スカートの裾を屈み込んで手で押さえたりもします。
 もちろんスカートを押さえるために屈み込んだら、ドレスが突っ張っている様子や、胸が膝の上に乗って圧迫されている様子まで、僕からしっかりと見えてしまいます。
 そして、その瞬間の瞬きのペースは、更に増えているのも見えました。
 ああやって前に屈み込むことで締め付けられる色んな刺激は、由佳里の中へと確実に伝わり、中にいる友達を疼かせているんです。
 周りに誰もいない今、我慢しなくてもいい、と言うことなのか、明らかに瞬きのペースが増えています。
 僕が空気を心配していると言う事は、つまり裏側を心配しているのだ、と言う事を、友達は理解しているはずです。
 それなのに、元々苦しそうな状況で、僕に向かってそんな事をするなんて、由佳里はどれだけ人の心を弄ぶ子なのでしょう。
 普段の友達であれば、多分何とも思いません。
 が、由佳里の身体に密閉され、この羨ましいぐらい綺麗なドレスに身を包んだ後に、こう言う行為をされると、本当に腹がたちます。

「んー。じゃーもういいよ。好きにしてて」

 僕は呆れるように、言うと、近くにあったソファーに腰をかけます。
 由佳里は、僕が怒ったと思ったのか、椅子を立ち、ツカツカと僕の横にやってきて目の前でしゃがみ込んで、ごめんなさいと可愛くポーズを取ります。
 もちろん、その瞬間だけは、瞬きも可愛らしく演技にあわせて。
 わざとなのか、偶然なのかは分りませんが、手のひらを合わせてごめんなさいのポーズを取るときに、胸が腕に軽く挟まれていたのも見逃しませんでした。
 ですが、その仕草の可愛らしさは、流石、由佳里と言える程、ドキドキする可愛らしい物でした。

「いいよ。もう。別に気にしてないし」

 相変わらず少しふてくされるように言うと、由佳里は僕の右横に並んで座ってきました。
 ボリュームのあるスカートの一部が、僕の足の上にまで乗っかってきますが、少なくともスカートの中に足が入ってる訳ではないので、熱気がダイレクトに伝わる事はありません。
 ですが、足首辺りはさすがにスカートの裾からの空気漏れを感じるようで、ズボンの裾から中に流れ込む熱気に、ゴクリと生唾を飲み込んでしまいます。
 そして、次の瞬間、由佳里は、僕のそんな気持ちを気にする様子もなく、そっと僕に身体を持たれかけて来たのです。

「え?」

 思わずビックリして由佳里を見ると、可愛らしく僕の方を向いて、優しく微笑みかけながら、僕に身体を預けてきます。
 シャンプーのいい臭いも漂っていて、こんな可愛い彼女に寄り添われたら、誰でも気がおかしくなりそうな気すらする、可愛らしさなのですが、ちょっと重いのは仕方ない所。
 なにしろこの中には僕とそう変わらない体型の友達が入っているのですから。
 こんなに可愛らしい女の子の中に入って、何を思って僕に寄りかかっているのでしょうね?
 そう思っていると、寄り添う彼女の身体から、呼吸のリズムが伝わってきます。
 ドレス越しとはいえ、身体を密着させているからハッキリとわかる、中の人間の呼吸のリズム。
 それは、相当に苦しそうで、言葉にするなら、短距離走のような激しさは無い物の、ハァハァハァと、長距離走でもしているかのような呼吸。
 こんなにも可愛い女の子の身体の中で、こんなにも苦しそうな呼吸を続けながら、ドレスにくるまって頑張って由佳里を演じているのです。
 中の友達はプロ。素直にそう思いました。

 着ぐるみの中にいる人間は、常に、そのキャラクターでいなければいけない。

 そう言うルールを忠実に実行しているのです。
 友達である僕に助けを求めたいのかも知れません。でも今の自分が由佳里である以上、スカートをめくるという提案をのむ事も、股間から呼吸をしていると言う事も、大っぴらには出来ない事なのです。

「くるしい?」

 僕は優しく彼女に問いかけます。
 彼女は静かに、可愛く、コクンと頷きます。
 苦しい事を認めた由佳里。
 いや、今の答えは由佳里ではなく、僕の友達の気持ちなんでしょう。

「スカートは、平気?」

 再び彼女は頷きます。
 捲りたくても捲れないのか、あるいは自分の意思では捲らないと決めているからなのかは分りませんが、由佳里は、スカートを捲る事だけは拒否する様子。

「瞬き、平気?」

 瞬きを心配した僕に、由佳里は苦しそうに、平気じゃない、と首を左右に振ります。
 その瞬間も切なそうな瞬きがパチパチと続いているので、由佳里を見るのが本当にツラく感じました。

「苦しかったら、こうして寄りかかってていいよ? 呼吸も落ち着けば、少しはセンサーの刺激も楽になって、自動モードに戻せるでしょ?」

 僕の言葉を聞き、由佳里は嬉しそうにウンと頷いて、静かに僕に寄り添って呼吸を整えているのが分ります。
 その間、由佳里は僕の手の平に、その指先でこう書きました。

「また、くるしくなったら、おねがい」

 由佳里が呼吸を整える間、僕はその手助けをしてあげると言う事です。少しだけ由佳里の中に近づけた気がして、ちょっと嬉しくなりましたが、それと同時に、やはり裏側が羨ましくもなりました。

「分った・・・苦しいときにはそっと教えてね」

 僕の問いかけに、由佳里は静かに頷きました。
 こうして約5分、一生懸命僕に身体を預けて呼吸を整える由佳里。
 瞬きも、凄く間隔が開くようになって来ます。
 その間、僕に見せつけるような興奮を誘う行為も一切無く、本当にゆっくりと呼吸を整えている由佳里に、こんなに可愛い女の子の裏側でいったい何が起こっているのかを想像し、僕のパッドの中はさらに固さを増していました。
 そのままじっとしている由佳里は、自動モードに戻すのに十分な時間、瞬きを止める事に成功しました。
 僕の方に顔を向け、ウンと力強く頷く由佳里。
 もう大丈夫、と言いたげな様子で、その瞬間から、自然な瞬きに戻っていました。


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