魔法戦士まりか☆マリカ【第二話】 [戻る]
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僕は息を整え『まりか』に向き直りますが、その時目に飛び込んできた光景に後悔することになります。

まりかの衣装といえばふわっと広がったミニスカートが特徴的ですね。
あの大きく丸く広がった形状を維持するためにスカートの中には薔薇の花びらのように何重にも厚く重ねられたチュチュが詰め込まれています。
先ほど僕は『まりか』に折りたたみのパイプ椅子を薦めました。
そして『まりか』がそこに腰掛けた結果、大きく広がったスカートは座面と横からのパイプにより小さく圧縮されます。
当然スカートの中は圧縮されたチュチュでぎゅうぎゅうになったことでしょう。
しかも座ったことによりスカートの裾が塞がれ、反って呼吸が外に通らなくなったのでしょうね。

ベテランの着ぐるみ役者ならそんな状況を乗り切る術をいくらも身につけているでしょう。
ですがまだ練習を含めても数回しか着ぐるみ経験の無い初心者だとそうはいきません。
その結果がこれでした。

一見『まりか』は両手をふとももの上に沿えて可愛く腰掛けてるように見えます。
ですがよく見るとその両手にはスカートの裾と、中からたくし上げられたぎっしりとしたチュチュの束が握られています。
そしてぱっと見だけでは気づかれないギリギリのレベルでその束がふとももの上から持ち上げられています。
つまり中の『すまみー』はあまりの苦しさ耐え切れず、スカートの裾を持ち上げてこうやって必死に呼吸を確保してるのでしょう。
呼吸の秘密を知らない人から見れば『まりか』のポーズとしては一見破綻してないギリギリのラインで踏み止まってるようです。
ただし、よく見ればたくし上げられたチュチュの束が中からの切なそうな呼吸にそよいでるのが見て取れました。

その気になればもっと大きく呼吸を確保できる筈ですが、それをしないのは楽屋でも常にキャラクターであり続けるというホビー21の理念に彼女なりに従ってるのでしょう。
初心者の筈の『すまみー』が着ぐるみの中で必死で頑張っている姿に、普段着ぐるみの刺激にすぐに負けてしまう自分が恥ずかしくなりました。
更に何より、『すまみー』をそんな状況に追い込んだ原因が自分の指示にあることが悔やまれます。

パイプ椅子は反って呼吸を制限してしまうので着ぐるみには無闇に薦めるなと北野に注意されたことがありました。
今日の僕は興奮のあまりその事をすっかり忘れてしまっていたようです。

とにかく先ずは『すまみー』の呼吸を楽にしてあげねばなりません。
ですが、ここで立ち上がらせたところで『すまみー』は楽になれるのでしょうか?
先ほどのフラフラした立ち方からして立ってる状態も決して楽とはいえないでしょう。
もし今の状態で呼吸が確保できているならこのままで居てもらっても良い訳です。
ここは人目の無い控え室ですし、今の『まりか』の姿勢についても僕さえスルーすれば何も問題無い訳ですから。
と、悩んでいたその時です。

『まりか』の異変に気づいた『マナさん』が彼女の元に歩み寄り、目の前に立ち止まりました。
そしてスカートをたくし上げる『まりか』の両手を『マナさん』の両手がやさしく包み込みます。
次の瞬間・・・

その手によって『まりか』の両手は優しく持ち上げられました。
握られていたスカートやチュチュの束はその手を離れ、ふわりと『まりか』に両ももに覆いかぶさります。
つまり再び呼吸口が閉じられたのです。
『マナさん』は『まりか』とおでこがくっつくほどに顔を近づけると小さくコクンと頷きました。
その一連の動作は「はしたないでしょう?」と言わんばかりで、誰が見ても優等生キャラの『マナさん』に相応しい優しく自然なもに映るでしょう。
ですが実際はその行為によって『まりか』の中の『すまみー』を再び地獄に追いやる非常に残酷なものでした。

僕は慌ててやめさせに入ろうとします。
人目のあるところならまだしもここは控え室、しかも『まりか』に閉じ込められてるのはまだ着ぐるみを経験しだして間もない初心者なのですから。

ですが『まりか』は『マナさん』の行動に対して、ほっぺたを人差し指でぽりぽりと掻きながら肩をすぼめました。
それはまるで「エヘヘ・・ごめんなさい」と言わんばかりで『まりか』のキャラクターそのものです。
いきなり見せられた『まりか』の見事なリアクションに僕は割って入るタイミングを失ってしまいました。

その後すぐに『さよこ』も加わり3体でのイチャイチャと可愛いやり取りが開始されました。
『まりか』の肩は今もなお激しい呼吸に上下していますが、『マナさん』や『さよこ』の演技にも付いて行けてるようです。
もし仮に今自分が『まりか』の中に入っていたら、苦しい呼吸に耐えつつこれだけのことが出来るだろうか・・?
そう考えると少し情けなくなります。

いえ、とにかく今は仕事が第一です。
落ち込んでる訳には行きません。

僕は3体に声をかけると、先ずは『まりか』の呼吸確保の為に椅子から立ち上がることを提案してみます。
ですが『まりか』は「大丈夫」と言わんばかりに首を振りつつ指で丸を作って可愛く答えます。
肩の上下が収まらないところを見ると本当は、中に居る『すまみー』に取っては大丈夫では無いようにしか思えないのですが・・・
しかし何度繰り返しても同じ答えが返ってくる上に、再びスカートをたくし上げても控え室なら問題ないと提案しても『まりか』は従う素振りを見せません。

仕方なく僕は根負けし、次に先程のマネージャーからの通信内容を伝えます。
予定してたより何倍もお客さんが詰め掛けてること、このままだと大幅にイベントを時間延長せねばならないこと。
これには流石に驚いたのか3体は顔を見合わせますが・・・
次の瞬間には『まりか』は「がんばります」と可愛くガッツポーズを作って答えていました。

暫くしてマネージャーへの通信が繋がると、僕は3体とも問題ないことを伝えました。
マネージャーの方はというとお客を2グループに分け、半分は正午から参加してもらえるよう誘導することにしたとのことでした。
つまり30分1ステージの予定だったのが、一回の長さはそのままに2ステージに増えたということになります。
これからのお客の増え具合によってはそれでも1ステージの長さが30分に収まらないこともありえますが、
仮に10:30からの前半握手会が45分で終わったとしても、ここに戻ってこれるのは11:15。
2ステージ目までの待機時間は45分。
仮に楽屋までの移動が片道五分以上かかったとしても、キャラクターが楽屋に戻って呼吸を整えるギリギリの余裕はあります。
何よりそこで『すまみー』が2ステージ目に耐えられない程疲労してた場合は僕自身がキャラクターに着替えて交代する時間も取れなくは無い筈です。
本来ならもっと早めに控え室でスタンバイしてるところですが、緊急事態なのでそこは仕方ないでしょう。

結構ドタバタしましたが、流れさえ決まってしまえば後はイベント開始時刻を待つのみです。
そう思うとようやく心に余裕が生まれてきました。

僕は改めて3体の少女魔法戦士の姿を観察することにしました。

『まりか』の様子も勿論気がかりですが、北野が『さよこ』と『マナさん』のどちらに入っているかもまた非常に気になってきました。

まず気になったのは『マナさん』の先程の行動です。
北野はいつも僕に対してわざと悔しがらせるような行動を取る事が多いんですよ。
スカートの一件も『すまみー』のリアクションを考慮したうえでわざと僕に見せ付ける為に北野が仕組んだこと・・・なんて流石に被害妄想が過ぎるでしょうか?

『マナさん』の特徴といえばやっぱり年齢に似合わないその巨乳ですよね。
それは目の前の着ぐるみでも完璧に再現されてます。
そしてその巨乳がパツパツのサイズに調整されたブラウスの中に押し込められ、『マナさん』が動く度にいやらしく形を変えていきます。
またがっちりとしたコルセットを巻いてるのもまた良いです。
恐らく中のパッドには胸から伝わる変幻自在の動きとコルセットによる逃れられない締め付けが同時に伝わってるに違いありません。
あの中に北野が居るのだとしたら、今もこうやってその刺激にさらされ続けてる彼のことが羨ましくてなりません。
いえ、例え彼でなくても『マナさん』の中にはその刺激から逃れられないでいる人が確実に今一人僕の目の前で確実に存在しているのは事実なんですよね・・。

一方『さよこ』は一見すると露出も多く楽な衣装に見えます。
ですが羽織ってるマント、あれが結構曲者なんですよ。
勿論自分で経験して知ってるわけではなく北野の請け売りなんですが・・・
マントキャラって実は見た目以上に熱がこもりやすい上に、空気の対流も遮られるので苦しさもかなり助長されると聞きました。
つまり『さよこ』の中も見た目上の熱がこもってるに違いないでしょう。
しかも『さよこ』の衣装は鎧モチーフなのでよく見るとエナメルなどの光沢のある生地がふんだんに使われています。
これもまた信じられないほど熱を逃がしてくれないらしいです。

更に『さよこ』はへそ出しキャラなんですが、あまり呼吸によるお腹の縮張が見られないんですよ。
これはつまりへそ出しキャラ故お腹の呼吸が目立ちやすいので、中の役者が意識的に呼吸を抑えているんでしょうね。
意識的にやってる事かはわかりませんが、これらによって『さよこ』の中の温度と酸素不足は3体の中でも一番ひどいことになってるのではないでしょうか?

そして・・・

僕は『まりか』へと目を移します。
そう、もし操演を交代することになった場合、一番僕が見ておくべきなのは『まりか』の動きなんですよね。
ですが『まりか』は他の2対とは違い、先程から大きく動くことは無くパイプ椅子に座り続けてます。
先程の一件以降スカートへ手をかけることは全く無くなりました。
両手はスカートの上に添えられています。
ですが僕は見逃すことはありませんでした、その手が何かに耐えるようにぎゅっと硬く握られている事を。

スカートは相変わらず閉じられたままですし、やはり本心ではスカートを上げて呼吸を整えたいのでしょう。
それを手を握り締めることでぐっと堪えてるのかもしれません。
もしくは先程のチュチュ、今の状態はあの分厚く何層にも重なったチュチュが圧縮されて『まりか』の下半身に押し当てられていることになります。
つまり中の呼吸とともにそのチュチュの先端がゆれ、その刺激が切ない刺激となって中に伝わってくるのを必死で耐えてるのかもしれません。
もしくはその両方か。

そして『まりか』の身体の中でその地獄と必死で戦い続けてるのが着ぐるみ初心者で僕の憧れのである『すまみー』ことアイドル声優『烏丸瑞穂』なんですよね。
どういう経緯で彼女がホビー21の着ぐるみに入ることになったのかは知る由も無いですが、何故彼女はここまで頑張れるんでしょう?
ホビー21の着ぐるみなら人の見てないところでもキャラとして振舞うのは当然ではあります。
ですけどまだ訓練の浅い上に今回企画で入ることになっただけの彼女がそこまで頑張る必要は無い筈です。
ましてやここは控え室です、お客様から見えないところでくらいは楽な格好で居ていいのにそれをさせないのは役者としてのプロ根性からでしょうか?
そもそもこの企画自体が望んだものなのかという疑問がわきます。
仮にホビー21の着ぐるみの可愛い外見に惹かれて承諾したのだとしても、実際の着ぐるみの内側の世界の過酷さまでは想像がつかない筈です。
もしかしたらチャンスに恵まれなかった時期が長かっただけに、今はブレイクしたてでどんな仕事も精一杯手を抜くまいと本当は辛くて辛くて堪らないのに必死でこらえ続けてるのだろうか?
それとも・・・
もしかしたら他のホビー21の着ぐるみ役者達のように自分一人だけの密閉された世界を満喫しているのでしょうか?

彼女の身体をぴったりと覆う2重のラバーのスーツの上からでは彼女の真意を伺い知ることなど叶いませんでした。

その時、不意に後ろから『さよこ』が『まりか』に抱きつきます。
一瞬ドキッとする『まりか』ですが動じることなく、更には『マナさん』も巻き込んみ、またもや三人でいちゃいちゃと対応しだします。

そう・・中のことが伺い知れないのは北野ももう一人の着ぐるみ役者も同じことです。
ですが彼らにとってはどうなのでしょう?
中に居る彼らにとっても互いは互いに触れ合うことの出来ない存在な訳です。
ですが目の前で楽しそうにじゃれ合う3体の着ぐるみを見てると全くそんな風には見えません。
3体は決して言葉を発することはありませんが、それ以上の強い言語でお互いが結ばれてるように感じられます。
願わくば自分もそんな世界に入り込んでみたいと・・・長い間どこかに忘れていた感情がふと蘇って来たのを実感しました。

そしてどんな気持ちでこの瞬間を過ごしているのでしょうか?
本当は目を背けてしまいたいほどの光景でしたが、キャラクターを交代するならば少しでも動きは覚えておかねばならなりません。
辛い気持ちを抱えながらも僕は〈まどか〉の動きを追い続けました。

10:30
遂にイベントが始まりました。
僕はキャラクター達に付き添って舞台袖で衣装や髪の乱れのの最終チェックを行っています。
心配してた『まりか』も今は呼吸も深く長く比較的落ち着いた状態です。
まだ不安は残りますが1ステージ目を無事に乗り切って貰えるよう祈るほかありません。

マネージャー達の誘導も上手く行った様でここからだと客席側の混乱は特に見受けられないです。
それでも客席は超満員、席は予定より増やしたそうですがそれでも足りてないようですね。
更にショーは2回に分けられたわけですから実際にはこれの倍のお客さんが詰め掛けてることになります。
半分以上が偽造チケットで参加してるお行儀の悪いお客さんだとしても・・ね。
やはりこの手のイベントを待ち焦がれてたお客さんが多かったということでしょうか?

さて、ついにキャラクター達の出番です。
『まりマリ』のオープニングテーマがステージに鳴り響き、3体はタイミングを合わせて舞台に飛び出して行きました。

ここでちょっとしたトラブルがおきます。
舞台に飛び出た際、『まりか』の足がもつれて倒れそうになってしまったんですね。
会場からもあっと声が漏れます。
しかしすぐ横に居た『さよこ』がさっと倒れそうな『まりか』を抱きかかえ、事無きを得ます。
このファインプレーは客席からも拍手が巻き起こりました。
ですがこれでイベント"裏"情報を知るお客さんは『まりか』の中身がまだ着ぐるみ慣れしていまい『すまみー』であることに確信を抱いたでしょう。

その後のステージを見る限り『すまみー』が『まりか』に入ったのは正解だったと言わざるを得ませんでした。
元々『まりか』のキャラがおとなしく周囲に振り回されるタイプの女の子なので、そのどこかたどたどしく感じる演技もキャラクターとして違和感を感じさせません。
そして活発な『さよこ』や優等生の『マナさん』が要所要所で上手くフォローして行った為、当初の心配とは裏腹にイベントは何の問題も無く進行していきます。
心配していた『まりか』の呼吸も舞台上では特に目立ちませんでした、いざ舞台に立って『すまみー』も肝が据わったのでしょうか?
こういう本番ので強さは僕には無いんですよね、やっぱり今の自分は不甲斐無いと感じます。

ただそれでもスーツの中に閉ざされた環境の中で慣れないながらも必死で演技してる様はお客さんにも伝わってると思います。
実際のスーツの構造は決して知られていないはずですが、そういう人から見ても『まどか』の動きはお客さんをも興奮を誘うに十分なものではないでしょうか。

全員の自己紹介が終わると今度は握手会に移行します。
僕はここからはキャラクター達の傍に立って握手に来るお客様をスムーズに流す役目なので、他のスタッフと合流してお客さんの誘導に当たります。。
ですがいざ始まってみると普段のお客さんと違い、いつまでたっても握手をやめてくれなかったりと困ったお客さんが多くて苦戦しだします。
まぁそりゃそうですよね、今日のお客さんの大半は偽造チケットを買ってまでイベントに参加するという大変困った人達が占めてるのですから・・・

特に登場時のつまづきで中身が『すまみー』だとバレてる『まりか』は集中的に揉みくちゃにされれてしまってます。
お客さんにとっては着ぐるみの裏側が如何に過酷な環境かなんて知る筈もないので絡み方も容赦がありません。
これでは流石に『すまみー』も持たないでしょう、僕は『まりか』の横に割って入り必死でお客さんを流します。

その時不意に僕の背中に柔らかい感触が被さってきました。
振り返るとそこに居たのは『さよこ』です。
どうやらお客さんの列に押されてバランスを崩し僕の背中に抱きつくような形になったみたいです。
『さよこ』は「ごめんね」と僕に両手を合わせるとすぐ何もなかったかのように向きかえり握手を再開しだしました。
しかし、僕は固まってしまってます。
さっき抱きつかれた際にマントごと僕に覆いかぶさることになったわけなのですが、その時マントの内側にむわっとした蒸し暑い空気の塊を感じてしまったからです。
やっぱり北野の言ってたことは本当でマントの中ってすごく蒸れてるんですね、見た目以上に分厚いその布の内側は水滴すら感じられる程でした。
『さよこ』の中の人はその蒸とてもし暑い空間の中で更に2重のスーツに身体を包まれながら健気に演技を続けてるわけです。
今までは外から見て想像するだけでしたが、その中の状況を一部でも実際に垣間見れたことで益々その立場が羨ましくなってきました。

先程マネージャーは途中で僕が入れ替わっても大丈夫なようにインナースーツを調整してると言ってました。
もし上手くいけばこの後で僕が『すまみー』と『まりか』の中身を入れ替わり、実際にその世界を味わうことができるかも知れません。
それが叶えばどれだけ嬉しい事か・・・でもそれも確実ではないのです。
握手会のお客さんの流れが予想以上に悪いせいで進行は予定よりも遅れてるように感じます。
このままキャラクター達が控え室に戻る時間が遅れると『まりか』の中身に入れ替わる時間が無くなってしまうかもしれません。
更に仮に入れ替われるだけの十分な時間が確保できたとしても、まだどうなるかは分からないんですよね。
一見して今の『まりか』の中の『すまみー』は既に初心者が耐えられる限界を超えた上で演技を続けてるように見えます。
このまま控え室に戻った途端に倒れてしまわないか?・・・そんな不安すら感じてるほどです。
普通なら2ステージ目も続投なんて無理でしょう。
ですがそれでももし『すまみー』自身が2ステージ目も続けて頑張れると意思表示するならば、それだけで僕の出番は無くなる訳です。

思えば最初控え室で『まりか』の姿を見たときは「もうこれはすぐに音を上げるだろうな」とすら感じたものです。
初心者が着ぐるみの中に入り続けるのはとても大変なことですし、その時点でのフラフラした足取りは先行きの不安を感じさせました。
ですが椅子によって呼吸をさえぎられる状況になっても『すまみー』はずっと健気に『まりか』を演じ続け、
いざ舞台に立ったあとは『さよこ』や『マナさん』のサポートがあったものの、着ぐるみ慣れしてない素人が入ってるとは決して分からないほどしっかりと『まりか』を演じてました。

それは今こうやって揉みくちゃにされてる状況でも変わってません。
『まりか』には念のため、どうしても辛くなった時の為にギブアップのサインを伝えてあります。
ですが今こうやって大変な状況に置かれながらも『まりか』は決してギブアップする意思を見せません。
プロとしてお客さんの前で精一杯頑張ってるだけならば、控え室に戻って緊張の糸が解けたところで「内臓を交代する手段がある」と伝えれば交代に応じてくれるかもしれませんが・・・
先程からの素振りを見てるとその可能性も薄いようにすら感じてきます。

いざこの状況に立ってようやく僕は自分の「着ぐるみに入りたい」という気持ちに向き合えたような気がします。
今までも着ぐるみ役者目指して頑張っては来てましたが、何処か前向きな気持ちを無くしていたところがあるかもしれません。
訓練生の立場が長くなるうちに着ぐるみ役者になることが目標だったのが、いつの間にか訓練生を辞めて着ぐるみから離れるのが怖くて続けてるだけに変わってたような・・
でも本当は今の『すまみー』のようにチャンスをものにするには石に噛り付いてでも掴むだけの覚悟が必要だったんですね、それを彼女に教えてもらった気がします。
今はただ早く着ぐるみに入るチャンスが欲しくて欲しくて堪りません。
願わくばその機会が当分先とかではなく"この後"訪れると良いのですが・・・

揺れる僕の心を他所に、握手会の時間はどんどん流れていきました。


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