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※この作品は「バスツアー」「魔法戦士プリティーモア」「由佳里のバースデー」と言った「とん太」作の話しと同一世界をベースにしたお話です。登場人物等は、それらの作品の登場人物と同一人物と考えて読み進めて頂きますようよろしくお願いします。
※なお、設定的に上記のとん太作品から、ある時点で分岐した世界だと考えられますので、今後同一世界の「とん太」の書く話しが、この世界での話しと矛盾している可能性はあります事も、予めご了承下さい。
皆さんこんにちは。
僕は成田行夫、ホビー21で着ぐるみ役者を目指して訓練をしている者です。
今まで訓練生兼着ぐるみのサポートスタッフとして今まで多くのイベントに関わってきました、
有名なイベントだと梨狩りツアーやプリティーモアショー・・って言ったらピンと来る方も多いのではないでしょうか?
ここを読まれてる方の多くはもうすでにご存知かと思いますが、ホビー21の着ぐるみの中の世界は想像を絶するほどの過酷なものです。
ぴったりとフィットする2重のラバースーツにより身体全体・・・頭のてっぺんからつま先の先までを余すことなく多い尽くされ
熱の放出も満足な呼吸もままならないまま長時間耐え続けなければなりません。
さらにそれだけに留まらず、スーツに内蔵されたコンピューターによって着ている衣装から受けた刺激がそのまま内側に性的な刺激として何倍にも増幅されて伝わってきます。
でもホビー21で着ぐるみ役者として仕事するからにはその刺激にも屈することなく、常にキャラクターとして演技をし続ける技量と忍耐力が求められるのです。
そういった条件を満たし同期や後輩が続々と着ぐるみ役者デビューを果たしていく中、僕だけがなかなか訓練生を卒業することが出来ずにいるんですね。
チャンスは今までもそれなりに巡って来たのですが、僕は着ぐるみからの刺激に耐え続けることがどうも苦手なほうらしく、いつもあと一歩のところでチャンスを逃してきました。
訓練生を卒業できない限りは着ぐるみさん達をすぐ傍で見続けなくてはならない、非常に辛いサポートスタッフの仕事が続くことになります。
こんな辛いことを続けるくらいならいっそ諦めて他の仕事に就いたほうが楽になるのかもしれません。
ですがやはり、ここで着ぐるみ役者への道を諦めてもそれはそれで凄く後悔することになるのも目に見えてるので、なんとか頑張る毎日が続いています。
そうそう、実は今日も僕はあるイベントにサポートスタッフとして配属されているんですよ。
そのイベントというのがまた例に漏れず・・いや、僕にとっては特別悩ましい要素を含んだものなのです。
今放送中の深夜アニメ『魔法戦士まりか☆マリカ』、通称『まりマリ』って知ってます?
いえ愚問でした、ホビー21に来られるような興味のある方なら当然ご存知ですよね・・・
漫画家まつ先生によるほんわか可愛いキャラクターデザインとアニメ脚本家黒土先生による鬱シナリオのミスマッチが受けて今大ヒット中の作品ですもの。
実はこの『まりマリ』の大ヒットを受けてホビー21でも着ぐるみが急遽製作され登場することになったんです。
最終的には5体の少女魔法戦士が揃う予定らしいですが、今日はそれに先立って3体、主人公の『まりか』同級生の『さよこ』先輩魔法少女の『マナさん』の着ぐるみのお披露目イベントが開かれます。
僕がサポートとして配属されたイベントというのももちろんこれです。
ここまでだとそこまで特別なイベントではないのですが、今回のものは更に今までになかった要素があるのです。
実は主人公『まりか』に声をあてているアイドル声優の『烏丸瑞穂(からすまみずほ)』、通称『すまみー』が着ぐるみの内臓として参加していると言うのです。
話は逸れますが実は僕、『すまみー』の大ファンなんですよね。
『すまみー』って今でこそ『まりマリ』の大ヒットで時の人と言われるほど有名になってますが、『まりか』の役を得るまではせいぜい一話限りのちょい役しか貰えないマイナーな声優だったんですよ。
僕は元々声優には詳しくなかったんですが、以前幕張のアニメフェアにスタッフとして借り出されたときにサポートについたことがあるんです。
大勢の声優の卵の一人だった彼女ですが、演技へのひたむきさと周囲への気配りを忘れない性格の良さは一際輝いてて、僕はすぐに虜になりました。
その当時の彼女が大きな役に恵まれてかったことが僕自身の境遇とも重なった部分もあったんだと思います。
それ以来僕は彼女のファンを続けてます、彼女にとって僕は大勢のスタッフの一人に過ぎなかったでしょうから当然僕のことなんて覚えてないでしょうけど。
今回の大ブレイクでは当然嬉しかった反面、どこか更に手の届かない遠くに行ってしまったという寂しさも感じてました。
その彼女がホビー21の着ぐるみに入ると知ったときはそりゃあ驚いたものですよ、そして同時に複雑な気持ちにもなりました。
『すまみー』がやってくる、そりゃあ僕にとっては喜ばしいことです。
ですが彼女は着ぐるみの中、2重の特殊ゴムによって外界と完全に隔てられた僕にとっては憧れの世界。
近くにいるのに触れたくても決して触れられない世界、そこに彼女が閉じ込められるのです。
彼女をその身体の中に隔離してしまう着ぐるみが恨めしく、同時に着ぐるみの内側を独り占めする彼女自身もまた羨ましいのです。
この気持ちを僕はどう整理をつければいいのでしょうか・・?
話を戻します。
『すまみー』がホビー21の着ぐるみに入る今日のイベント、これがどれだけ異例なものか分かりますか?
普通、ホビー21において着ぐるみの内臓、つまり中に入ってる役者は存在しないものとして扱われてきました。
例えどんな状況にあろうと着ぐるみはキャラクターとして中の人の意思など存在しないものとして動き続けなければならない、
同時にサポートする側も例え着ぐるみが役者的に辛そうな構造でも、中の人が大変そうな状況でも内臓への心配を表に出さず中の状況の詮索もせず、
常に対象をキャラクターとして接しなくてはならない、そう訓練時には言い聞かされてきました。
プリティーモアショーのように〔観る側が潜在的に中の人の存在を意識した上で楽しめるイベント〕こそいくらかありましたが、
今回のように有名人である『すまみー』を内臓として起用し、その存在を明かし前に出した形のイベントなんて聞いたことがありませんでした。
ホビー21のイベントとしては前代未聞と言えるでしょう。
・・・いや、この言い方は少々語弊がありました。
『すまみー』が内臓として参加することは公に公表されているものではないからです。
実はこのことはホビー21でも特別よくグッズを買い物されたりしてポイントを貯めてこられたごく一部のお客様、いわゆる『スペシャル会員様』にのみ告知され
それ以外では例え社内スタッフでも殆どがそのことを知らないほど情報統制されているのです。
やはりホビー21にとっても今回は実験的なイベントとしての意味合いが強いらしく、混乱を避けるために情報はほんのごく一部にしか公開されて無いようなんですよ。
「では何故"僕"こと成田はその事を知っているのか」ですって?
それは僕の友人である北野が今回のイベントに着ぐるみ役者の一人として参加してるからです。
実のところこの事実もまた僕の心を揺さぶる要因の一つなのですが・・・
ともあれこのことは先日珍しくお互いオフで北野と会ってた際に彼からこっそり聞かされたものです。
彼も僕が『すまみー』の大ファンであることは知ってたので「特別に・・」とこっそり教えられました。
どうやら『すまみー』自身も今回のイベントに向けて数週間前より何度かホビー21内で北野らと共に着ぐるみの特訓やイベントのリハーサルに参加してたと言うのです。
最初は流石に信じられませんでした。
いや、信じたくなかったと言うのが正しいかもしれません。
ですが北野が関係者用のパスワードを使い、スペシャル会員様向けに作られたイベント告知サイトを開いた時には流石に僕も信じない訳にはいきませんでした。
実はホビー21のイベント告知サイトには、会員パスワードでログインすることでイベント"裏"情報が閲覧できるという隠し機能が存在するんですよ。
北野が開いて見せたそこは整理券に記載されたパスワードを使うか関係者以外閲覧できない仕様になっていた様です。
そこには『まりか』『さよこ』『マナさん』の3キャラのシルエットの上に「ついに実現!声優『烏丸瑞穂』が着ぐるみの中身として参加決定!」と書かれた画像がデカデカと張られてました。
このイベントは先にも例に挙げたプリティーモアショーのように〔観る側が潜在的に中の人の存在を意識した上で楽しめるイベント〕つまりは大人のお客様に向けたイベントなんですね。
この手のイベントはお客様のアンケートから要望を募り実現されるといったプロセスを踏むものが多いんです。
アンケートには実は結構前からこの手の〔アイドルや声優を着ぐるみの中身に起用する〕といった物の要望が多く、スタッフの間でも話の種になるほど有名なものでした。
やはり自分の知っている女性が着ぐるみの中で頑張って演じてるのを想像すると萌えるという人はかなり多いのでしょう。
ですが当然この手の企画は実現することはありませんでした。
理由としては先に話したホビー21における着ぐるみと中身についてのスタンスも勿論大きかったです。
そして何より着ぐるみの内側がアンケートを出した方々の想像以上で、訓練を受けてきた僕ですら耐え難いほどに過酷な環境の為だったこともあるでしょう。
『すまみー』は今は既に着ぐるみを着用しての練習を経ているそうなのですが、あの息苦しく蒸し暑い世界を知れば大抵の人なら逃げ出してたでしょうね。
訓練を受けていない外部の人間を呼んで中に入れても最初は持って30分、演技をして動きまわればその半分でも耐えられたら凄い方だと言われます。
『すまみー』が何度か特訓を重ねてるとは言え練習期間としてもそれほど長くはないですし、今売れっ子のアイドル声優では頻度も多くは取れてないであろうことは想像に難くないです。
今でも着ぐるみの中で耐え続けられる時間は決してそこまで長くはないでしょう。
更に一番の問題があります。
ホビー21の着ぐるみの構造はたとえ社内でさえ着ぐるみに直接係わる一部の人間以外は秘密にされてるほどのものです。
つまり通常はホビー21でスタッフとして働く中で試験にパスしてきた者しか着ぐるみの中の世界には触れられないように今までは徹底されてきたのですね。
今回のイベントはその常識を覆すことになるのですが、それをよくホビー21の上層部が許可を出したものです。
実はこの疑問を北野にぶつけたところ何やら物知りげな反応が返ってきたのですが、結局教えては貰えませんでした。
今回のイベントを北野の立場で迎えられてたら・・と思うと非常に悔しくなります。
今の僕の立場は真新しい着ぐるみの中に居る『すまみー』や北野を目の前でただただ羨ましく感じることしか出来ません。
一方、北野は同じ着ぐるみの中と言う世界から『すまみー』と競演が出来るのです。
北野の入る着ぐるみについてはやはり教えてくれませんでしたが、『すまみー』は当然アニメで声をあててる『まりか』に入るでしょうし北野は『さよこ』か『マナさん』のどちらかでしょう。
どちらにせよ劇中で『まりか』と非常に仲のいい役どころ、今回のイベントでは完パケのお芝居はキャラの登場挨拶くらいだそうですが、それでも演技では自然と絡むことも多くなるに違いありません。
すぐ近く、同じ場所に居るのにこの差はまさに天と地程に大きいものでした。
そんなこんなで心の中に複雑な思いやいくつかの疑問を抱えたまま今日というこの日がやってきました。
今日のイベントの仕切りは石丸マネージャーが直々に担当されるようです。
普段はマネージャーが直接現場の指揮を執ることはあまりありません、それだけに今日のイベントの重要度が自然と伺えました。
当然、他にも多くのスタッフが参加しています。
但し他のスタッフは皆訓練生ではない一般のスタッフの人たちばかりなので、控え室での着ぐるみのサポート全般は僕一人に任される事になってました。
辛い仕事になるのは想像してましたから、股間の脹らみを隠すいつものパッドはいつものように装着してきてます。
着ぐるみ役者組は専用入り口から入館し、着替えを終えたあと専用通路を通ってステージ裏の控え室までやってくることになってました。
つまり本番直前までは僕たちスタッフ組とは会うことはありませんし、あちらの素顔を拝める機会も当然ありません。
イベントの前には進行確認のためにブリーフィングが行われるのですが、それも我々スタッフと着ぐるみ役者は別々です。
イベント開始一時間前、開店30分前の9:30。
スタッフ一同はブリーフィングの為、ステージ前に集められました。
マネージャーがイベントの流れの最終確認をしていきます。
「・・・と先日の打ち合わせの通りイベントは10:30からの一回のみ。
キャラクターの簡単な自己紹介のあと握手会があり、そのあとキャラクターが軽く店内を一周してステージに戻り、さよなら挨拶があってハケて終了だ。
お客様が着ぐるみの写真を撮るのは自由にして頂いて構わないけど個別の写真撮影と握手会への参加はお断りするように。
今日だけはそれは参加整理券を持つスペシャル会員様の特権だから。
誘導は混乱の無いように、皆の頑張りに期待してるよ。
今回は整理券も数を絞ってるしスムーズに行けば30分以内に全て終われるだろうね」
30分1ステージのみ・・・
前もって知らされてはいたものの、やはり普段のホビー21のイベントに比べたら非常に短いイベントです。
普通にグリーティングに出てる着ぐるみも大体2時間くらいは出づっぱりですし、下手したらほとんど一日中休憩時間がないようなキャラさえいるものですから。
正直、この時間設定にはホッとしてる自分がいます。
着ぐるみ達のサポートにつくということは即ち、目の前でキャラクター達のうらやましい環境をずっと見せ付けられ続けるって事ですから。
特に北野は他の人には分からないポイントをあえて僕にだけこっそり見せ付けるような事さえして来ますからね。
だから僕の立場としては見てて辛いイベントほど早く終わってくれるに越した事は無い訳です。
ですがいくら短いとはいえ今日は『すまみー』が内臓役、30分ステージといえど着ぐるみ慣れしてない人間が演じ続けるにはそれでも充分過酷に思えました。
ホビー21での着ぐるみたちは遅くともイベント30分前にはスタンバイのために着替えを終えてるんですね。
つまり30分ステージと言えど実際は最低一時間以上はキャラクターの中に閉じ込められてる計算になるんです。
「但し今日のイベントは普段のものとは少し違いがある。
今日お披露目されるキャラクターの中身として声優の『烏丸瑞穂』が参加してることを知ってる者はいるかな?」
マネージャーの言葉に周囲のスタッフは大きくざわつき始めます。
僕にとってその言葉は北野の言葉を裏づけ、状況を改めて実感させるだけのものでした。
ですが他の人にとってそれは大きな衝撃、マネージャーの口から中に人の話題が出ること自体驚きなのに、それが今ブレイク中のアイドル声優だと言うのですから。
僕はそのことは知っていましたがそれを悟られないよう周囲に同調します。
北野からの情報リークは本来あるべきことではなかったからです。
「・・・ふむ、そうか。
まぁ当然だな、実はこのことは雑誌やメディアを含め表向きには殆ど公表されていないんだ。
一般向けに配布したチラシにも『まりマリ』キャラのお披露目としか書かれてなかったろう?
だから例えお客様にどう尋ねられようとも他の店内キャラクター達と同様、中に『烏丸瑞穂』はもとより人間が入ってるといった体を口にしてはならない。
お客様の前に出ている以上、例え如何に過酷な状況でもキャラクターにはキャラクター自身として接するのがホビー21の理念だからね。
ただ何かトラブルがあったときには対処せねばならないため密かに胸の内には入れておいて欲しくて皆には伝えたんだ」
イベント開始がこんな開店間もない時間なのも、混雑のピークを避けて着ぐるみ役者の負担や現場の混乱のリスクを少しでも減らすためだろうな・・・
マネージャーの説明を聞きつつ僕はそう考えました。
「つまり今日のイベントは表向きには単なる『まりマリ』キャラのお披露目イベント、
だけど参加整理券をお送りしたスペシャル会員様にとってはそれと同時に『烏丸瑞穂』の入るキャラと触れ合え写真も撮れるという特別なイベントなんだ。
情報の漏洩を避けるために皆には今まで黙っていてすまなかったね、ちなみにスペシャル会員様にも今日の秘密は漏らさないよう充分ご注意をお伝えしてある。
皆は当然スペシャル会員様については知ってるよな?
多くのお会計ポイントを貯められ尚且つ厳密な審査もクリアした優良会員様で、ホビー21の屋台骨を支えてくださってる方達と言っても良いだろう。
今日のイベントはそういったお客様方に対する感謝を表したものなんだ、くれぐれも皆粗相の無いように頼んだからね」
ブリーフィングが終わるとスタッフ一同は解散し各自持ち場に向かいます。
その際、ほかの人が居なくなったタイミングを見計らいマネージャーに質問をぶつけました。
北野が入ってるキャラクターについてです。
ですが・・・
「今日の君の仕事は、中身は誰でも関係ない。あくまでもキャラクター達の世話係だからな。」
そう言われ、やはり答えは教えてもらえませんでした。
「前にも他の子と同じようなやり取りをしたことがあったなあ。
やっぱり君のような立場だとそこは気になって仕方ない様だね。
まぁ、理解できなくもないが」
そう言ってマネージャーは笑っていました。
僕は一人控え室へとやってきました。
この控え室は丁度ステージの真裏に存在してます。
出入り口は今僕が入ってきた一般スタッフ通路に通じるものが一つに電子ロックが施された着ぐるみ役者専用通路に通じるものが一つ、
あと両舞台袖に通じるものが二つと全部で4箇所あります。
部屋の中には長机数台と折りたたみのパイプ椅子が数脚と大きな姿見が2面、それに壁一面が丸々化粧机になってます。
狭い控え室だと空気の対流が無くて苦しいと以前北野から聞かされたことがありますが、この部屋はどうなんでしょうね?
扇風機でもかけて風を起こしてあげたいものですが生憎そういったものは無いですし、空調もビルの空調室からの一括管理なので僕にはどうしようもありません。
着ぐるみ達が到着するまでには少し間がありますが、今の時間僕には特にやることはありません。
そうそう、この部屋ですが着ぐるみが着替える楽屋からは結構遠いエリアにあるんです。
更に着ぐるみ役者専用通路は複雑に入り組んでるので移動には少し時間がかかるらしいんですね。
つまり噂が本当なら『すまみー』や北野はもう既にキャラクターへの変身を終えてこちらに向かってることになります。
ですがそれを想像すると悔しくなる一方なのでなるべくは考えないように過ごします。
待つこと暫く、ホビー21の開店を知らせる店内アナウンスが終わらないうちに電子ロックされたドアが開き、3体の着ぐるみが控え室にやってきました。
僕がこの3体を見るのは勿論これが初めてになります。
まず飛び込んできたのは顔の造形の見事さ。
特徴的なまつ先生の絵柄ですがその特徴を損ねることなく、かつ立体として破綻の無い非常に可愛らしい出来に仕上がってます。
何より特徴的な目の描き方のタッチが完璧に再現されてることに驚きました。
ちなみにホビー21の着ぐるみは殆どが目の部分がシールド、いわゆるサングラス状になっていてそこから視界を取っています。
見事にカモフラージュされてていつも外からじゃどこから見えてるのか分からないくらいなんですけどね。
ただそれにしても今回の目の塗り方は着ぐるみを見慣れた僕ですらどこから見えてるのか分からないほどでした。
普通は色の濃い部分ほど光を透過しやすいので黒に近い色の部分が視界になってるケースが多いんですが、この三体の目はどこも淡く色が乗ってるんですね。
そういえば北野が以前ロボっ娘キャラの着ぐるみに入ったんですが、そのキャラは目全体が蛍光イエローのような淡い色で塗りつぶされてたんですよ。
その時は中からの視界も淡いイエローの色でぼやけてて凄く外が見辛かったと伝えられたことがありました、特に外から強いライトを浴びると何も見えなくなると・・
僕にとっては同情どころか嫉妬しか抱けない内容でしたけどね。
もしかしたら今日の3体も視界は結構悪いのかもしれません。
3体とも少女魔法戦士に変身した後の衣装に身を包んでいます。
これも近くで見ると割としっかりした生地で作られていて、ぱっと見の印象と違い締め付けはきつそうなものでした。
そうそう、今までは推測でしかなかったものが今ようやく確信に変わりました。
『すまみー』はやはり『まりか』の中に入ってるようです。
明らかに『まりか』だけ他の2体に比べて動きがたどたどしいです。
部屋に入るときも両側に『さよこ』と『マナさん』が控え2体に手を引いて誘導されてるような形でしたし、
ぱっと見ただけでも『まりか』が一番呼吸が荒いのも分かります。
『まりか』のミニスカートは中にチュチュがぎっしり詰め込まれた構造なんですが、そのチュチュが股間からの呼吸により
さわさわと大きく揺れてるのが分かります。
もっとも、後の2体に入る片方は最早ベテランと言ってもいい北野ですし、もう片方もそれなりの経験者が配役されてることでしょう。
流石にここで同等の演技を見せられたらいつまでたっても着ぐるみデビューできない僕の立場が無いです。
でもそれでも『すまみー』は今こうして着ぐるみデビューの機会を迎えてるんですよね・・・
そう思うと内心悔しさで溢れてきましたが、それを表に出さずにサポートの仕事に専念せねばなりません。
とりあえず一番辛そうな『まりか』にはパイプ椅子を進めることにしました。
慣れた2体はこちらから指示を出さずとも姿見や化粧机の鏡で衣装や髪の乱れをチェックし出してるので特に今はサポートの必要は無いでしょう。
その時、インカムにマネージャーからの直接通信が入りました。
マネージャーは今は店内で誘導スタッフの指揮にあたってる予定でした、一体どうしたんでしょう?
先ほどの余裕とは一転してとても真剣な口調です。
『ちょっと困ったことになった、想定してたより遥かに客の入りが多いんだ。
どうやら禁止してあったにもかかわらず顧客の誰かがこのイベントの情報を拡散したみたいだ。
こんなこともあろうかとその手の掲示板やSNSには監視が入っていたはずだったんだが・・・
どこか社でも把握できてないクローズドなネットワークを利用されたんだろう』
「ええっ!?」
僕は驚きました。
「で・・でもイベントは整理券制だから関係ない人は参加できないんですよね?
だったら多少客入りが多くても進行には影響ないんじゃないですか?」
『それがどうやら整理券まで偽造する奴が現れたみたいなんだ』
「そんな・・・」
『先にいくらか提示してもらって確認したんだが、どれも見た目では区別が付かないほど精巧に作られている。
更にご丁寧なことに通し番号までばらけて書き換えられていてね・・・
これじゃあ今からの短い時間ではどれが本物か判別できない』
「じ・・じゃあ?これからのイベントはどうなるんです?中止ですか?」
『いや、事前でならまだしも今となってはそれは無理だ。
今日のためにわざわざ遠方からいらしてるスペシャル会員様までいらっしゃるんだ。
何よりこれだけの人が集まってしまった以上、中止しては反ってパニックを招きかねない。
こうなれば本物、偽者を問わず整理券を持ってるお客様には全て参加して頂くほかないな・・
だがこの客入り、速めに流したとしても一時間では捌ききれないぞ・・』
その時ふと、視界の隅に椅子に座った姿勢のままごそごそもぞもぞと動く『まりか』の姿が映りました。
ですが今はそれどころではありません。
『場合によっては間に小休止は挟むことになるかもしれんが、予定より長時間出ることが可能かどうかキャラクター達に確認を取っておいてくれ。
こちらは人員を増やしてお客様の整理誘導にあたる』
「は、はい。了解しました」
イベントの時間延長は普段のホビー21だと割と珍しくも無いことですが、今日は着ぐるみ慣れしてない『すまみー』が参加してるのです。
僕はその事がとても気にかかりましたし、マネージャーが慌てる理由も恐らくは同じなのでしょう。
『それと・・』
と、ここで急に周囲に憚る様に小声になったマネージャー。
『実は今、君の練習用インナースーツをキャラクターに合わせて急いで調整させてる。
今日のイベントは中の人を公表してる以上入れ替わりは避けたいし、そもそも杞憂かもしれないが・・
もしもの時のため演技の観察と入れ替わる心の準備はしておいてくれ』
そう伝え終わると僕の返事も待たないまま回線が切られました。
もっとも僕の方もすぐに返事が出来る状態ではありませんでした。
予期せずいきなり巡って来たチャンスの驚きで一瞬息が止まるほどだったからです。
驚きから醒めるまで数秒はかかったと思います、その間に今度は喜びが沸いて来てガッツポーズを取りそうになりますがそれをグッと堪えます。
今は着ぐるみ達のサポート中、それに『まりか』が時間延長に耐えられるかどうかも確認を取らねばなりません。
僕は息を整え『まりか』に向き直りますが、その時目に飛び込んできた光景に後悔することになります。
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