アイドルユニット「八話」 [戻る]
[前へ] [次へ]


「もう限界・・・・、ギブアップですわ」
最初の脱落者はツバキであった。
普段の衣装が常にロングスカートだったりと呼吸制御には強そうな印象があり、
また現状でも一番重ね着数が少なめだったりと一番脱落からは遠そうな印象を抱いていただけに
渡辺にとっては意外な結果であった。

「ふぅ・・・二人ともとっても頑張り屋さんなんですもの、負けました。
渡辺さん、後ろのファスナーを下ろして頂けますか?」
「あ・・ああ」
先程からの三体の様子を眺めていた渡辺にとってゼンタイの外の世界に自分だけ
取り残されてるのはやはり大変辛く感じていた。
だから一刻も早くこの状態から三体ともを開放してやりたかったのだが・・・
「あ、やはり頭の部分だけで結構ですわ、ヤエもボタンもそれで宜しいかしら?」
ツバキが尋ねるも二体の反応は無い。
無理も無い、幾重もの布によって遮られツバキの声は二人に届いてないのだ。

渡辺が耳元でささやいて二体の意思を確認する。
最初は一瞬間をおいたものの、二体ともツバキの提案にあっさりと同意してしまった。
呼吸は三体とも相変わらず深く大きく、その状態の苦しさを物語っているにも関わらずだ。
だが三体がそれを望むのなら無理に引きずり出すわけにもいかない。
渡辺は渋々、三体のフード部分だけを開放した。

ゼンタイから顔を出した姿は三体とも少し太ったように見えた。
ゼンタイの布の厚みのせいだろう。
顔が出てるとはいえ彼女たちの呼吸にとっては殆ど意味はないだろう。
体の大半は未だ厚い布に埋まったままだ。

「さて、では次のゲームに移りましょう。
こちらの部屋に用意はできてますわ」
案内されて隣の部屋に移る。
そこは一見普通の和室だった。
但しその部屋の中心には口を広げた巨大なビニール袋が置いてある。
渡辺はもう大抵の事では驚かない心構えができていたが、この後起こるであろう事を
想像すると激しく心が揺さぶられた。

「まず二人には抱き合った形でこのビニールに入ってもらいます」
ツバキの説明に合わせてヤエとボタンはビニールに入り、抱き合った形で座り込む。
「渡辺さんはビニールを引き上げて、口をそこのジッパーで止めてください。
口を閉じる前に余分な空気は外に押し出してくださいね」
見るとビニールの横に布団圧縮袋のようなジッパーが転がっていた。
「そんなことしたら呼吸ができないとか・・・そんなこと聞くだけ無駄なんだろうね」
言われるままに渡辺はビニールを引き上げ、手で余分な空気を押し出すと
ジッパーの口を閉じた。
閉じた途端ビニール袋の動きがそれまでより固くなったように見えた。
完全に密閉された証拠であろう。

「これでまた先にギブアップをした方が負けって訳かい?」
今度は先手を取って渡辺が尋ねた。
「お話が早くて助かりますわ。
二人には中で相手の体を責め合ってより早く相手を限界まで追い込んで頂きます。
但し二人とも同じ空間の息を吸ってる以上、相手の呼吸を激しくすると
その苦しみはお互いに跳ね返ってきますの。
これは先に相手を限界に持ち込むか、呼吸的に追い込むかの勝負ですわ」

言われるままに二体の勝負が開始される。
ゼンタイの手袋のせいか指の動きはややぎこちないが、普段見せることの無い
エロティックな動きが渡辺を妙な気分にさせていく。。

渡辺は気になっていたことを尋ねた。
「どうしてこんなことをするんだい」
「もちろん渡辺さんに喜んでいただく為です」
ズバリとしたツバキの答えに渡辺はドキッとする。

渡辺は彼女達の行動に翻弄されている。
正直なところ彼女達の置かれた状況が羨ましくて仕方なかった。
だが同時に、彼女たちが追い込まれるほど目が離せなくなる自分も自覚していた。

ヤエの手がボタンを、ボタンの手がヤエをそれぞれ弄ぶ。
彼女たちの体の素直な反応は、ゼンタイの上からでも互いに充分な刺激を
与え合ってることを物語っていた。
時間が経つにつれ、呼吸の乱れも大きくなってきている。
ビニールの内側は互いの股間部分の周辺から徐々に湿気を帯び始め、呼吸の苦しさは
ビニール袋の膨張収縮の大きさからも読み取れた。
空気の漏れる隙間は全くないように見えるが、
それでも彼女たちは長時間よくよく耐えている。
そしてそんな彼女達のゲームにふれる事によって確かに渡辺は激しい興奮を得ていた。

「毎日ご一緒してるんですもの、それくらい分かりますわ」
ツバキはまた先程の言葉を繰り返した。

もう既に袋の内側の湿気は水滴に変わり、袋の縮張の速度もかなり激しくなっていた。
だが勝負は付かない、二体とも本当に大丈夫なのだろうか?
「あら・・・うっかりしてましたわ」
不意にツバキが漏らした。
「ギブアップの意思表示の仕方、まだ決めてませんでしたわね」
「ええっ!?」
確かに先程のゲームでは両手を挙げて降参ポーズをとることで終えられた。
だが今回は二人が座って入ってぴったりなサイズのビニール袋の中での勝負だ。
しかも余分な空気を予め抜いたことで、二体の体の稼動域は恐ろしく狭い。
よくよく考えれば手を上げる余裕など二体には無かったのだ。
とするとギブアップできなかっただけで二体は既に限界を迎えてるのかもしれない。

慌てた渡辺は二体を閉じ込めていた袋のジッパーを外すと二体を袋の外に
引っ張り出した。
ヤエもボタンも床に手を付いて両肩で息をしている、やはり限界だったのだ。
だが・・・

「まぁ、折角二人ともまだまだ頑張れたのに・・・
これでは勝負はやり直しですわね」
ツバキは信じられないことを平然と口にした。
「ええ?」
渡辺は否定しようとしたが、その前にヤエとボタンが立ち上がり先程のゲーム中と
同じ体勢を作った。
まだ大丈夫とでも言いたいのだろうか?
だが二体とも肩は激しく上下したままだ、もうこれ以上ゲームを続けられる
状態には思えない。

彼女たちはそうまでして決着をつけたいのだろうか・・・・
二体とも今まで音を上げたところなんて見たことが無い、恐らく今の僅かな
インターバルを挟んだ事で二体の地獄のような時間はまだまだ終わることは
無いだろう。
だがどれだけ頑張って勝利を掴んでも僕は彼女達の想いに応える事が出来ない。
そう考えた渡辺は強い罪悪感に駆られる。
もうこれ以上続けさせるわけにはいかない。
渡辺は決心した。

「ごめん、キミたちが僕のために頑張ってくれるのは嬉しい。
だけどキミたちと付き合うわけにはいかないんだ!」
渡辺は頭を下げた。
「まぁ・・・やっぱり私たちのことがお嫌いですの?」
「いやいや、そういう訳じゃなくて・・・」
渡辺は観念し、梨恵という長年付き合っている彼女が居ることを白状した。

彼女達を落胆させてしまうだろうか・・・
渡辺は心配したがツバキの答えは意外なものであった。
「ウフフ、実は薄々気づいておりました。
渡辺さんの口からそれを聞けて私達もようやく気持ちの整理が付けられますわ」
「え・・」
見るとヤエもボタンも満足そうに頷いている。
悲しませずに済んだのは良かったが、こうもあっさりしていると
それはそれで複雑な気持ちだ。

「ですが渡辺さん、最近その彼女さんとは上手くいってないんではございませんか?」
「えええ・・?」
ツバキの言葉に尚も驚く。
「毎日ご一緒してるんですもの、それくらい分かりますわ」
何もかもお見通しということだろうか。
「ですが私たちがこうまで体を張ったのに渡辺さんはその方を選ばれたんです。
だったらその方と幸せになって頂かないと私達の想いも努力も報われませんわ。
だから何があっても彼女のことを信じてあげて下さい。
約束・・・してくださいます?」
「あ・・ああ、勿論だよ」
ツバキに上目遣いに迫られた渡辺はなし崩し的に約束させられてしまった。

「ウフフ、では今日はもうお開きに致しましょうか?」
「ええ、もう?」
ツバキのいきなりの提案にまたもや戸惑うも。
「あら、レディーに恥をかかせておいてまだ居座るおつもりですの?」
「あ・・うう・・」
「大丈夫です、明日のお仕事までには皆気持ちの整理は付けられますから・・。
だから今日だけは私たち三体だけにしてください」
こう言われては仕方が無い。
渡辺はもう引き上げることにした。

せめてゼンタイのファスナーだけでも下ろしていこうかと尋ねたが、
自分達で出来るからとツバキは断った。
そして三体に玄関まで見送られ渡辺は帰っていく。

疑念は尽きないが今日はもう精神的に限界だった。
色々考えるのは今はもう無理だ、ただ・・
『仮に今日の出来事を詳しく梨恵に聞かれたところで正直に説明することは出来ないな・・・
梨恵も何かしら事情があったのかもしれない、今は彼女を信じてみよう』
そう心に決めていた。

ふと後ろを振り返る、三姉妹はあの後どうしてるのだろう?
気にはなったが調べるわけにはいかない。
渡辺はまた前を向いて歩き出した。

その頃あの部屋で起こっていた事態など全く知る由も無く・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

渡辺を見送った三姉妹。
玄関の扉の自動ロックが閉じられると同時に声が響いた。

「ハーイ、作戦終了です。
ではそのままリビングへ♪」

声質自体は確かにツバキのものである、
更に付け加えると発声元もツバキの口に仕込まれたスピーカーだ。
だがその声はもうツバキの動きとは全くリンクしていないし、口調も先程までとは
明らかに違っていた。

声に指示されるままツバキはリビングのドアに手をかける、その動きは先程までよりも
何となく緊張して見えた。

リビングで待ちかまえていたのは七瀬であった。
インカム付きヘッドホンを被り、テーブルの上に置いたノートパソコンを操作している。
だがつい先程までは確かにリビングどころか部屋の中に七瀬の姿は無かった、
今まで何処かに隠れていたのだろうか?

三体がやや緊張した様子でぺこりと礼をすると、また先程の声が響いた。
「皆さん、お疲れ様でした♪」「皆さん、お疲れ様でした♪」
七瀬の口から発せられた言葉とツバキの口から発せられた言葉が同調していた。
どうやら先程までのツバキの声はインカムを通じて音声変換しながら七瀬自身が
声を充てていた様だ。
流石にうっとおしかったのか、七瀬がパソコンを操作するとツバキの声は止んだ。

「それにしてもまさか皆さんにとって大事な今日の日に限って『たまたま三体とも
トークモードが故障していた』なんて・・・世の中は何が起きるか分かりませんねぇ」
七瀬はわざとらしく言った。

ヤエが抗議するようなそぶりを見せるも、七瀬は気に留めない。
「まぁ私も皆さんが私に無断でこんなことを考えていたなんて『思いもしませんでした』が・・

こんな使い方をして頂くためにオフの日であろうと
常時スーツを部屋に準備してるわけじゃないんですよ?」
責めるような、やれやれといったような口調だ。
三体とも痛いところを突かれたようでしゅんとする。

「まぁ、休日なのに部屋に篭って自主練習をするという皆さんの様子が『たまたま気になったので
覗きに来た』のは私にとっても皆さんにとっても幸いの出来事でしたね。

おかげで『偶然にも車に積まれていた三姉妹特注サイズのゼンタイ』や『巨大ビニール袋』や
『インカムセット』を有効活用することが出来ました♪」
ツバキは恥ずかしそうに顔を背け、ヤエはずっこけた。
「フフ・・皆さんも大変お楽しみだったようではないですか。
元の作戦通りただ渡辺さんを説得するよりも私のやり方のほうが反って良かったのでは?」
言われると人形たちは三者三様に「否定は出来ない」といったリアクションを返した。

ボタンがおずおずと手を上げて首の後ろを指差す。
どうやらファスナーを下ろして欲しいらしい。
もう息もかなり上がっているが、ゼンタイの手袋越しのせいでファスナーのつまみに
指が上手くかからないようだ。
ツバキやヤエも手伝おうとするが、二体とも状況は同じで上手くいかない。

三体は七瀬に視線を注ぐも。
「あれ?何でしょうか?
声が聞こえないので『何を期待されてるのか私には全く理解が出来ません』ねぇ」
七瀬は屈託ない笑顔でにこやかに答えるのみだ。

三体はすがるように七瀬に頼んだ、すると・・・
「そうだ、まだ車に『三体一緒に入れるサイズのビニール袋』が積んでありました。
ツバキは進行役のために今日はこのゲームに参加できなかったので随分切ない思いを
させてしまいましたねぇ。
ですが安心してください、今から三体仲良く遊ばせて差し上げますから♪

それが終わったら今日はスーツから開放して差し上げますよ。
但し、最初にギブアップした娘は罰ゲームとしてマンツーマンで居残り授業です。
レッスン時代以来ですからワクワクしちゃいますね♪」

三体は怯えるように固まった。
その三体を尻目に悠々と車に荷物を取りに向かおうとする七瀬、だが不意に立ち止まると
三体のうちのある人形に向けて声を投げかけた。



「ともあれ無事に仲直りできそうでよかったすね、梨恵さん」

   <To Be Continued>


[前へ] [戻る] [次へ]