アイドルユニット「七話」 [戻る]
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「こ、交際!?」
素っ頓狂な声を上げる渡辺。
いきなり話が飛躍しすぎて渡辺の脳内処理能力が付いてきていない。

だがそんな様子を見たツバキは悲しそうな声で言う。
「あら、私達のこと・・お嫌いですか?
そうですよね・・・こんな人形の姿に閉じ込められて暮らしている私たちなんて
普通じゃないですし・・・」
「あ~、いや。そうじゃなくて・・・」

これはからかわれているのだろうか?
ヤエとボタンの様子を見るものの、2体とも真剣な眼差しをこちらに向けている
・・・様に見える。
少なくともからかわれてる訳ではない気迫のようなものは感じた。

「一体どうして・・?」
とりあえず話を聞いてみることにした。
「今の私達があるのは渡辺さんのお陰ですから・・・」
ツバキは喋りだす。
「デビューコンサートのときも特設プールステージのときも、他にもこのスーツのお陰で
倒れそうになったとき、ピンチになったとき・・・沢山ありましたよね。
でもどんな時にも必ず渡辺さんは傍にいてくださいましたわ。
もしこのまま精一杯やって倒れちゃうことがあっても、私達だけではどうしようもないですけど
渡辺さんならきっと助けてくださる。
そう信じてこれたからこそ、どんな辛い状況でも最後まで頑張れたんです。

三姉妹一同、皆渡辺さんを信じております。
他の方がマネージャーではここまで来れませんでしたわ」
ツバキの台詞に合わせてヤエもボタンも相槌を打つようにリアクションする。

「そ、そうかな・・・」
むしろ渡辺にとっては全て無力感を感じるエピソードでしかなかった訳なのだが・・・・
だがそれでも彼女らの心の支えになれてたのならば決して悪い気はしなかった。

「そして私たちにとってその感情はいつしか恋に変わりました。
ですが渡辺さんはお一人。
姉妹で一人の殿方を取り合っては今まで培ってきた仲も台無しになってしまいます。
ですから今のうちに誰が身を引くのかはっきりとさせて頂くことに致しました。
これ以上辛くなる前に・・・」
ツバキの声は本当に辛そうだ。
「そんなこと七瀬さんに知れたら拙いんじゃないの?」
「今日みたいにこの部屋で会うようにしてる限りはバレませんわ」
それもそうかもしれない、だけど・・・

「ごめん、僕には・・・」
「そうですわよね」
はっきり断ろうとした渡辺の言葉をツバキが遮った。
「渡辺さんも急に一人を選べなんて言われたら刻ですわよね・・・
でしたらと思いましてあるゲームを考えましたの」
「ゲーム?」
ついついツバキのペースに乗せられて反応してしまった渡辺。

「渡辺さんにも喜んでもらうために三人で考えましたのよ。
折角いらして下さったんですもの、ゲームだけでもお付き合い頂いて罰は当たらないと思いますわ」
ヤエもボタンも手を取ってきた、どうやらこれは逃げられそうにも無い。
せめてゲームとやらまでは観念して付き合うしかなさそうだ。

「わかったよ・・・で、どんなゲームなんだい?」
「ありがとうございます、ではその足元の衣装ケースを空けて下さいます?」

見ると確かにすぐ足元に衣装ケースが置かれていた。
すぐに両脇のロックを外して蓋を開けてみると小さく丸められた色とりどりの布のようなものが
綺麗に整列している。これはもしや・・・・

「全身タイツ、ゼンタイって申しますのよ」
いつもお嬢様然としたツバキの口からこんな解説を聞くと少々違和感を感じる。
だがやはりそうか、しかしこんなものが何故・・・?

三姉妹に出会って以来、渡辺は着ぐるみ系のサイトを巡回するようになっていた。
三姉妹の構造や秘密に興味を持ち、あわよくば同じようなものを手に入れる手段が無いか
知りたかったのだ。
長い間調べまわった結果、確かに出来の良い着ぐるみは大量に見つかったものの
ID社の着ぐるみに関しては入手手段どころか構造やホビー21での『中の人』の情報まで、
全くといっていいほど有益な情報は入手できなかった。
だがそういった調べ物の中で着ぐるみフェチ系のアイテムについてはどんどん詳しくなって
いっていた。
ゼンタイもそういったサイトを巡回してるうちに見つけたアイテムの一つだ。

一つ手にとって広げてみる。
やはり「モジモジ君」のように顔に穴が開いてる訳ではない、全身を完全に布で覆ってしまう
ゼンタイだった。
上下のファスナーが首の後ろで合わさる構造になっているがファスナーの持ち手は異様に小さい。

「それはオペコット製のものでゼンタイとしてはポピュラーなタイプですわ」
ついつい見入ってしまってるとツバキが解説してくれた。
「伸縮性に優れて滑々した肌触りが魅力ですの。
その隣はスムース製、柔らかい肌触りが病み付きになりますわ。
ベロアは布自体の厚みと独特の肌触りがあります、その縫製ですと上に重ね着した場合に
起毛が『かえし』の役割をして、着る時はするする入るのに脱ぐ時は脱ぎにくいという
面白い効果も生まれます。
エナメルコーティングはその光沢感がたまりませんの。
それからそちらのは・・・」
説明が止まらない。
なんだかいつものツバキとはキャラが明らかに違うような気がする・・・
先程内情をカムアウトしたせいでキャラ作りのたがが外れたのだろうか・・?

「詳しいんだね・・。
で、これを一体どうするのかな?」
「渡辺さん、野球拳ってご存知ですわよね?」
またまたツバキには決して似つかわしくない語句が飛び出した。
勿論渡辺は知らないわけではないのだが・・・

「通常の野球拳はジャンケンに負けた人が衣類を一枚ずつ脱いでいきますよね。
ですが、私たちではそれでは勝負になりませんの。
ですので趣向を変えて、負けた人はどんどんゼンタイを重ね着していくルールに
致しました」
「ええっ、それって・・・」
少し考えれば分かる、彼女たちは股間呼吸と僅かな皮膚呼吸のみで息を吸っているのだ。
その上から全身を何重にも布で覆うとなると・・・

「ウフフ、渡辺さん今呼吸のことばかり考えてらっしゃいますよね?」
いきなり図星を突かれた。
「なななんでそう思う?」
「隠さらなくても良いんですのよ?
毎日ご一緒させていただいてるんですもの、渡辺さんが何を好きなのか、どういうものに
興味がおありなのか、私達には分かりますわ」
反論しようかとも思ったがここまで的を射ていると返す言葉も見当たらない。
「ですがそれだけではございませんのよ。
私達の肌から受けた刺激がどのように中に伝わるのかはご存知ですよね?
更にゼンタイには外部からの刺激を気持ちよく増幅させて中に伝える効果がありますの。
この二つが組み合わさるとどうなるか・・・もうお分かりですよね?」
聞いているだけで頭がクラクラしてくる。

「渡辺さんには負けた人にゼンタイを着せる係を受け持ってもらいますわ。
同じサイズのゼンタイを重ね続けると末端の血流が止まっていきますが、このゼンタイは
重ね着用に微妙なサイズ調整がされてますの。
ゼンタイに付けてあるタグは分かりますわね?」

確かにゼンタイごとにタグが添えてあった。

「そのタグに着せるキャラと何着目かが書かれています。
その順番どおりに着せていくと何着重ねても末端の血流が止まる事はないように
サイズが調整されてますの。
そうして重ねて行きまして、最初に両手をあげてギブアップを示した人が
最初の脱落者になります」
「最初・・・っていうとこれで一人にまで絞るわけじゃないのかい?」
「まだ他にもゲームは用意してございますわ♪」
なんだか楽しそうに答えた。
まるで今日のツバキは七瀬が乗り移ったようだ。
いや、だがツバキの場合は自身もその責め苦のうちに身を置くことになるのだ、
なのに何故このように平然と説明してられるのだろう?

「では準備して参りますわ」
そう言うと三体はリビングから出て行った。
残された渡辺はスーツケースのゼンタイの束を改めて見つめた。
軽く30着はあるだろう、一体こんなものどうやって用意したのだというのだ?
部屋の様相は普通の女の子の生活空間なのに、このゼンタイだけが異様な雰囲気を
放っている、あきらかにマッチしていない。
やはりこれは今日のためだけに用意されたものなのか?
それともそこらの箪笥や棚を開けると、他にもこのようなアイテムが
隠されているのだろうか?
手にとっていた1着をよくよく観察する、見た目の印象よりも結構厚い生地だった。

三姉妹はすぐに戻ってきた。
皆レオタード姿になっている。
渡辺にとってはレッスンなどで見慣れた姿だ。
戻ってくるまでの時間の短さから考えて、皆衣装の下にこれを着込んでいたのだろう。

「では、行きますわよ。
じゃ~んけ~ん・・・」

渡辺に有無を言わさず勝負が始まった。

「ポン!」
最初に負けたのはヤエだった。
最初にパーを出して負けるのは元気キャラの宿命か、はたまた『中の人』同士が互いに
手を読みあった結果なのかは誰にも分からない。

仕方なく渡辺は[ヤエ・一着目]というタグの付いたゼンタイを広げる。
スムース製のゼンタイだった、肌触りが非常に柔らかい。
両足先にタイツを通すとヤエは「引っ張り上げて」とばかりに立ち上がって
渡辺を手招きする。
極力渡辺の手によって着せられることが彼女達のルールなのだろうか。

渋々渡辺がタイツを引っ張り上げるとヤエの体が小刻みに震えてる振動が伝わってきた。
恐らくタイツの刺激によって中ではひどく「感じて」いるのだろう。
渡辺にもそれくらいは理解できたが、スーツの仕組みを完璧に理解していない渡辺には
感点を上手く刺激せずにタイツを履かせる方法などは分からない。
だから全身着させるまでの間に何度もヤエは切ない動きを繰り返す羽目になった。

腰までタイツを引き上げたとき、渡辺の手にヤエの吐息が当たる。
息の乱れが激しい、やはり相当感じているようだ。
フードを被せてファスナーを閉める。
やはりこのファスナーのつまみは小さい、渡辺の生身の手でも掴むのがやっとなのだ。
三姉妹が自力でこれらを脱ぎ着することなど出来るのだろうか。

そうしてようやく一着目を着せることが出来た。
マスクの上からゼンタイを着せるせいか、渡辺の目に今のヤエは普通の人のゼンタイ姿
以上に異様なものに映る。
「皺が寄ってては美しくありませんわよ、渡辺さん」
ツバキからダメ出し、いや恐らく間接的な指令が入る。
渡辺の手に撫でられて皺が伸ばされてる間もヤエはプルプルと震えながら耐えていた。
だが恐らく同じことがこの後ツバキの身にも降りかかるであろう。

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ヤエが2着目を着て以降、視界が完全に塞がれた様だ。
それ以降は渡辺が逐一勝敗を読み上げなくてはならなくなった。

ツバキのゼンタイが重なるごとに声がくぐもっていくのが分かる。
やはり発声装置はツバキの体に埋め込まれてるのだと改めて実感すると共に、そのくぐもりは
ツバキの世界が渡辺にとって遠い場所になっていく事を物語っていた。

ボタンが最初に5着目に到達する。
指が曲げにくいのだろうか、グーとチョキの判別が難しくなってきた。
股間から布越しに感じる吐息ももうかなり弱弱しい、何重にも重なった布に息の勢いが
殺されているのだろう。
6着目の辺りからはジャンケンのタイミングが全く合わなくなってきた。
恐らく布によって聴覚も大きく遮られ、ツバキのくぐもった声では届きにくくなったのだろう。
だがもう皆視界が完全に塞がれていたため、後出しであろうが特に意味はなくなっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

現在ツバキ5着ヤエ7着ボタン7着。
皆既に呼吸が相当深く大きくなっている、皆よく耐えてるようだが限界は近いようだ。
もう誰が脱落してもおかしくない。

そしてその次の勝負にて最初の脱落者が出る。

   <To Be Continued>


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