|
その日のコンサートは某巨大レジャープールで開催されていた。
プールサイドに特設された巨大ステージの上で三体は今日も元気に舞い踊っている。
今日の衣装は会場に合わせて全員水着をベースにしたものだった。
三体とも抜群のプロポーションと、ゴムで出来た美しい肌があらわになって大変色っぽい。
最初渡辺は衣装が水着ベースということで今日は人形たちにとっては楽なのだろうかと
考えていたが、どうもそうではないらしい。
ツバキの水着に巻かれたパレオは彼女が動くたびにその身体を気持ちよさそうに撫で付けている。
しかも今日は衣装による押さえがないために、その大きい胸はいつも以上に激しく弾んでいた。
あれは相当苦しいに違いない。
ヤエの水着にはブラのトップの位置から横一列と腰のVラインの位置に水着と同じ素材の
フリルが垂直気味に伸びていた。
但しこれだとフリルの先端は直接身体には触れていない、だが・・・・
ヤエがいつものようの激しく動くとそのフリルも激しく上下する、この振動はフリルの根元
つまりは胸部と腰部の恥ずかしい辺りにも伝わっていることだろう。
そんな位置にピンポイントに、だがもどかしいほど僅かにしか伝わらない振動によって
中はかなり切ないことになってるのではないだろうか?
ボタンの水着はスク水のようなワンピース状なのだが袖口にはパスリーフ状の、
そして腰のVラインにはパニエ状のレースのフリフリが付いている。
これはヤエのものとは違い直接身体を撫で付けているように見える。
しかもだっこしてるイノシシの縫いぐるみまでもがお揃いの水着を身に着けていた。
もちろんこちらのフリフリもダイレクトにボタンの身体を気持ちよくさせていることに
違いなかった。
何より一般の水着に比べて三着とも遥かに生地が厚いのだ。
あれなら普通にタイツを履いていたほうがまだいくらか呼吸はマシであろう。
だがそんな苦しさなど一切表に出さない三体。
そんな彼女達の様子に渡辺はやはり嫉妬を感じずにはいられなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それはステージを無事に終えて三姉妹がホテル内の控え室に向かっている最中に起きた。
特設ステージは施設内ホテルからもよく見えるようにホテルからは少し離れた場所に
建てられている。
つまりステージを終えた三体は先程まで観客で埋め尽くされていたエリアをつっきって
控え室に向かっていた。
今や世間の注目の的のこの三体のこと、当然途中でファンに囲まれてもみくちゃにされる
ことになる。
もっとも、こんな状況は三体にとっては既に手馴れたものだ。
先程までのステージの疲れは微塵も感じさせずに可愛らしい動きでファンに愛想を
振りまきながら揃って歩いている。
だが先導していた渡辺が三姉妹から注意を逸らした一瞬の出来事だった。
振り向いた渡辺がまず気づいたのは地面に投げ捨てられたイノシシのぬいぐるみであった。
先程まで固まって歩いていた姉妹の中からボタンの姿だけが忽然と消えたのだ。
渡辺が慌てて辺りを見渡すと、流水プールの方向に向かって走るボタンの後姿を発見できた。
そしてその向かう先には・・・・少女が溺れている!
着ているものから見てどうやらプールに足を滑らせたという感じだ。
だが会場内の多くの人の注目は今ツバキ達のいる人だかりに向けられていて、周りの人間の殆どは
その事には気づいていない。
僅かな移動だと思い三姉妹のトークモードは既にオフになっている。
恐らくボタンは偶然あの子に気づいたものの、このもみくちゃの状況でそれをすぐさま他人に
伝える術がなかったのだ。
だからって・・・今のその姿のボタンが向かったところで何が出来るというのだ?
既に監視員も少女に気づき急行しようとしてるのだが、イベントによるこの混雑の為
思うように前に進めないでいる。
一方ボタンはその小さくて細身の体を活かし、人混みを縫うように走っていた。
いつものオドオドした姿からは想像が付かないほどの俊敏さだ。
渡辺もこうしては居られない。
すぐにボタンを追って走り出す。
ツバキもヤエもすぐに状況を飲み込めたようだ。
だがやはり自分達が混雑の中心に居るために思うように動けない。
そうしている間に・・・
ザバンという音と共にボタンはプールに飛び込んだ。
渡辺は青ざめた。
何故なら三澄姉妹のようなID社の人形の呼吸口は股間にあって、そこが塞がれてしまえば
後はゴムの皮膚部分から取り入れられるほんの僅かな外気でしか息が出来なくなる。
ましてやプールなんかに入ってしまえばその皮膚すら大半は水の中に沈む。
ボタンの行動はまさに自殺行為に他ならなかったのだ。
ボタンは少女に手を差し出すも、その手を掴まれた次の瞬間にはボタン自身の体まで
水の中に消えてしまう。
溺れている人間を助けるのは非常に困難なのだ。
ましてやボタンの体格は子供そのものなのだ、溺れている子と比べてもさほど大きな
違いはない。
もう駄目かと思った次の瞬間、再び水面に二人の顔が浮かび上がった。
今度は上手い具合に後方に回り、助け出すことが出来たようだ。
ようやく追いついた監視員が子供を助け上げる。
周りからは拍手が起きていた。
だがまだ終わった訳ではない。
ボタンは未だ水中に居るのだ。
誰も少女の様態のほうが心配なようで、急いでボタンを助けようとする気配はない。
笑顔のまま水面から浮かんでるボタンの顔、中の大変な状況など全く感じさせない
その笑顔が今は災いし、ボタンの危機的状況に周りはまるで気づけないのである。
そもそも呼吸口が股間にしか存在しないなど、一体その場の誰が想像できようか。
ボタン自身も自力での上陸を試みているのだが、プールサイドの素材と
ボタンの全身を包み込んでいる特殊ゴムの相性が弱いのか、上手くプール淵を
掴めずにいるようだ。
だうやら先程まで少女を苦しめていた水流にも足を引っ張られているようである。
体の表面積の2割くらいしか水面から出ていない今の状態では、皮膚からの
呼吸で耐える続けるのも限界があるだろう。
ここでようやく渡辺がその場に追いついた。
すぐさま水中に差し出した腕にボタンはびっしりとしがみ付く。
これでようやくボタンを水中から引き上げることが出来た。
だが勿論、これでもまだ終わった訳ではない。
そのまま座り込んでしまったボタン。
粗く上下する肩と、腕から伝わってくるバクバクとした心臓の鼓動が中の
危機的状況を物語っていた。
第一まだ水着は濡れたままなのだ。
先程よりマシとはいえ、水を吸った布に呼吸口が覆われていては充分な呼吸が出来るとは
到底思えない。
ヤエのように覆ってる面積が狭い水着ならまだしも、ボタンのようなワンピース型水着では
股間からの空気の逃げ場は殆ど無いのである。
観衆の中とはいえここは少々恥ずかしい格好になってでも呼吸口を確保するべきなのか?
渡辺は悩んだのだが・・
不意に渡辺の視界の隅から伸びてきた白い手、
ボタンはよろよろと立ち上がりそれにしがみ付いた。
ツバキだ。
どこから持ってきたのか分からないが大きなタオルでボタンの体を拭いてあげている。
ヤエは先ほど投げ捨てられたぬいぐるみを拾ってきたのであろう、それを優しくボタンに
返してあげた。
そして・・・
何事も無かったかのように三人はまたホテル方向に向かって歩き出したのだ。
流石にこれには驚いたが、すぐに渡辺は気付く。
そうだった、今のボタンの辛さを最もリアルに共感しているのは他ならない彼女たちなのだ。
この決断を下すことが一番辛いのもまた彼女たちなのだろう。
だがその彼女達がボタンを信じて決めたことなのだ。
それをマネージャーである自分が信じなくてどうする。
後ろの渡辺の様子に気づいたのか、ボタンが渡辺のほうを振り返り(大丈夫・・・)とでも
言うように小さくゆっくりと頷いた。
肩の上下はまだ決して収まってはいない。
渡辺は先導を再開した。
不自然ではない範囲ギリギリのスピードで、一秒でも早くボタンを苦しみから解放できるように。
ちらりと後ろを振り返るとボタンを真ん中に3列になって歩く姉妹の姿がある。
可愛くじゃれあうこの三体、それぞれに過酷な状況を秘めつつも信頼で繋がった人形達。
恐らくこのビーチサイドという空間も彼女達からしてみれば他者の感じるそれとは
全く違った世界なのだろう。
確かにその場にいるのに、精神的にも五感的にも三体だけのとても遠い世界にいる彼女達が
渡辺にはとても羨ましく思え、そして共に過ごしてきながらもその世界に近づくことの出来ない
自分の立場がとてももどかしかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『へぇー、ショーちゃんの担当ってあのミスミ☆シスターズだったんだね』
「うん、デビューも無事終わってようやくこの事だけは隠す必要が無くなったよ」
『ふーん、ナルホドねー。
それにしてもあの娘達カワイーよねっ!
・・・・でーぇー、ショーちゃんの本命はどのコなのかなぁー??』
「なっ!?・・きき、キミを差し置いてそんな訳・・・・
第一、そんなこと考えてるようじゃマネージャー失格だし、それに彼女達は・・・」
『おおおー!?動揺してますねー、ムキになってますねー!?
これは益々怪しいです渡辺マネージャー!』
「からかわないでよ梨恵ちゃん・・・」
『ダイジョーブだって、お人形さん相手の浮気なら私も怒ったりしないし』
「も~・・・・」
『さぁハクジョーしなっ!ホレ、ホレ・・・』
『・・恵ちゃんお風呂・・げ、ヤベっ!』
「!?」
『あ!ああああーっと、じゃあ今日はこれで切るねっ!
オヤスミ!!』
「え?あ、ちょっと待・・」
ピッ、ツーツー・・・
その夜、渡辺は寝付けなかった。
電話の向こうから微かに聞こえてきたのは確かに若い男の声だったのだ。
<To Be Continued>
|
|