アイドルユニット「三話」 [戻る]
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三澄姉妹との顔合わせから数日後。
渡辺はデビューを控えた三姉妹のレッスンの為に今日も朝のお迎えに来ていた。

今日は道がすいていたので指定の時間よりいくらか早く到着できたのだが、
三姉妹は今日も既に1F玄関ロビーで待機していてくれている。

三体の人形がロビーで仲むつまじくくつろぐ。
そんなある種異様な光景なのだが、周りが特にある一定以上の反応を示さないのは
流石はID社の所有マンションといったところか。

しかし毎回お迎え時間を予め指定してるとはいえ、一体彼女達はどれだけ早く
人形への変身を終えてしまっているのだろう?

こちらから声を掛けるまでもなく三体は渡辺の到着に気づいた。

(あら、渡辺さん。ごきげんよう)
(あ、ナベちゃんだ。おっはよ~!)
(おはよ・・ナベ)

まるでそんな声が聞こえた気がした。
トークモードのスイッチを入れてないのでこれは幻聴に過ぎないのだが、
三体の送ってくるアクションはどれも的確かつキャラクター性が出ていて
機能無しでも充分感情が伝わってくるように感じる。

ヤエはすぐさま駆け寄ってくる。
お上品に立ち上がったツバキはそれに続こうとするが、ふと何かに気づき振り返る。
ボタンが上着のすそを持って放さないのだ。
ツバキがボタンの頭をよしよしと撫でてあげると、ボタンも立ち上がり
ツバキの服のすそを掴んだままついて来る。

その光景を見ながら渡辺は三澄姉妹と出会った日、このマンションに来る車中での
会話を思い出していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「感度伝達センサー?」
「ええ、人形がその皮膚で感じる刺激・・主に衣装などによるものですね。
それを敏感に感じ取り内側の"恥ずかしいところ"に直接伝える機能です。
例えば人がタイツなどを履いた場合・・・・」

ID社の社用バスの後部座席、3方にソファーが並べられ中央にはテーブルが置かれている。
まるで簡単なパーティーが開けるくらいのその一角にくつろいだ七瀬はさも楽しげに
話しているが、隣でそれを聞く渡辺の表情は対照的で目は泳ぎまくっている。

「・・・・という訳で、中は非常に気持ち良い刺激で満たされることになるのです。
もっとも、中に人がいれば・・・という話ですが♪」
「失礼かもしれませんがにわかには信じがたいお話ですね・・・だって・・」
ちらりと視線を反対側のソファーへと移す。

そこでは三姉妹がくつろいでいた。
ボタンはツバキの膝の上に上半身を寝かせて丸くなっており、人形は表情が無い筈なのに
その顔はとても幸せそうに見える。
その背中を優しく撫でるツバキの姿はまるで聖母のように穏やかだ。

「こんな穏やかな体の中にそのような淫靡な世界が広がってるようには到底思えない・・と?
まぁ普通はそうでしょうね、それこそがID社製人形の醍醐味の一つでもあるわけですから」
七瀬のトークは止まらない。
「だけど考えてみてください、ツバキは先程からずっとボタンに袖を裾を引っ張られています。
これは言い換えれば本人が予測し得ない刺激を
他者によって絶え間なく与えられ続けているということです。
特にツバキは姉妹の中でも一番のスタイル、衣装が引っ張られるたびにあの大きくて敏感な胸が
右へ左へ引っ張られひしゃげられ、そんな刺激がセンサーにより伝わった状態で
普通の人間が中に居たとすれば平気で居られる訳がありません。

ついでに言うと先程お話した呼吸の問題でもそうです。
ヤエのような厚手のスパッツやボタンのようなミニスカートにもそれぞれ特有の苦しさや
もどかしさはあるでしょうが、こと長く装着し続けることにおいてツバキのような
ロングスカートはもっとも中を苦しめる部類の衣装に他なりませんから。

ましてや先程からツバキは膝上にボタンを抱いています。
これによる更なる呼吸口の狭窄や、ボタンの動きから伝わる刺激できっと中は想像を絶する
事態になっているでしょうね♪

でもそれでも決してツバキはボタンを押し退けたりはしません。
何故ならツバキは天使のような女性で、一女性としてありえない接触でない限りそれを
決して拒んだりはしないという"設定"ですから。

衣装にしたって三体については細かく設定されており、ツバキの場合は舞台衣装はともかく
私服に至ってはほぼ常時ロングスカートと定められています。

ちなみにボタンの行動も『極度のお姉ちゃん子で、特にツバキになついており
その膝の上で甘えるのが大好き』という"設定"に基づいてのものです。

だから恐らくこの場で一番辛い思いをしてるのはツバキの中の人でしょうね。
まぁ、もちろんそんなものは"架空の存在"なので実際にはこれは全く意味のない話ですが♪」

聞いてて愕然とした。

ボタンは上半身を起こし、(そうなの?)とでも言いたげにツバキの顔を覗き込む。
するとツバキは(大丈夫よ)とでも言わんばかりにボタンの頭を優しく撫で撫でした。
ボタンは両手を頬に当ててとても幸せそうだ。

やっぱりでまかせだ、こんな可愛い娘達の中がそんな羨ましいことになってるなんて。
第一、七瀬という男は先程から自分をからかって楽しんでいるきらいがある。

・・などと渡辺が思った刹那。

(じゃあアタシも~!)
とでも言わんばかりの勢いで不意にヤエがツバキの背中側から抱きついてきたのだ。
その手は服の上からダイレクトにツバキの大ぶりの胸を鷲づかみにしていた。
指の谷間から浮き上がる膨らみがその柔らかさとボリュームを物語っている。

その時の変化を、それはほんの僅かな瞬間だったが渡辺は見逃さなかった。
ツバキの腰が切なそうに後ろに引けたのだ。
たまたまツバキに注目していなければその一瞬の変化には気づけ無かっただろう。
だが確かに、今までの穏やかな動きとは別物の反応がそこにはあった。

やはり七瀬の話は全て本当だったのだ。

一瞬の間をおいて渡辺の心が平常を取り出した頃にはツバキは既に元の穏やかな動きに
戻っており、ヤエの頭を可愛く小突いてたしなめている。
ヤエは(てへっ)といった感じで片手を頭の後ろに廻しているが反省の色は薄そうだ。

呆然とする渡辺の反応に満足げな表情を浮かべた後、
可愛らしい寸隙を繰り広げる姉妹に視線を移して七瀬は言った。
「これも"設定"通り♪」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「その・・・ボタンちゃん?
たまにはツバキさんから手を放してあげても良いんじゃないかな・・(汗」

渡辺は勇気を出して言って見たものの・・・・

ツバキは(どうしてですの?)と言わんばかりに首をかしげるのみ。
ボタンは(やだぁ~)と言わんばかりにツバキの腰に手を廻し・・
そしてそれを見たヤエは再びツバキの背後から・・・・・



どうやらこの件は気に留めるほうが逆効果だ・・。
そう半ば諦めながら渡辺の一日は始まるのであった。

   <To Be Continued>


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