アイドルユニット「二話」 [戻る]
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七瀬による人形達の紹介は続いていた。

それにしてもこうやって動き出すと、お人形らしく大人しくしていた時よりも
「人が中に入ってる」というリアル感が更に強調される。
というか皆、じっとしてればそれに人が入ってると思えないくらいのプロポーション
(約一体マニア向けだが)だし肌も継ぎ目やスリットすら見当たらず人形にしか見えないだろう。
それにしてもこの三者三様のキャラクター、
これが決して中の人の素なんてことはありえないだろう。
三人ともキャラクターを完璧に演じきっていて素が全く見られない、その事に中の人と自分との
何か果てしない距離のようなものを感じてしまう渡辺であった。

「ではマネージャーである渡辺さんにはこれをお預けしておきます」
七瀬が先程操作していた携帯端末を渡される。
「これは・・・・?」
「彼女達の手綱・・・もといコントロール端末です」
「コントロール端末?」
「残念ながら彼女達のトーク機能は完璧ではないのです。
トーク可能な状態で居続けると急激にバッテリーを消費する上、"内側への負担"も非常に
大きくなります。
なのでトークの必要の無いときは・・・」
七瀬が目の前でボタンを操作すると、また三体の人形がびくっと震えた。
「このようにしてトークモードから喋ることは出来ないが
バッテリー消費の少ない通常モードへと切り替えます。
また内側の生命維持機能にも電気は必要なため、バッテリーが少なくなると自動的に
通常モードに移行されるようにも設定されてます。
それと頻繁なON・OFFも控えてくださいね、
切り替える一瞬はバッテリーの消費も"内側への負担"も最も大きくなりますので♪」
何故だろうか、何となく確信犯めいた悪意のようなものをこの男から感じる。
「わ・・分かりました。
ところで気になったのですが"内側の負担"って何のことでしょうか?」
「それは・・・内緒です♪(にっこり)」



「さて、皆様と彼女との顔合わせはこれまでとして次に・・・」
七瀬の言葉に慌てて割ってはいる渡辺。
「ちょちょちょ!ま・・待ってください。
まだ彼女たちについて何も知りえてないですよ!?」
「詳しいプロフィールなら企画書に全て書いておいた筈ですよ?」
「着ぐるみキャラとしてはこれでも良いとして、中の人のことは何も・・・」

そうなのだ。
企画書には彼女たちについての事細かな設定が書かれているのだが、
肝心の中身についての情報は一切載っていないのである。
だから今日は中の娘達との顔合わせがあるものだと思い込んでいたのだが・・・

だが七瀬は渡辺をきっと見すえて言い放つ。
「渡辺さん、さっきから気になっていたのですが"着ぐるみ"だの"中の人"だのといった
発言は今後控えてください。
彼女たちはれっきとした"人形"であり"中の人"とか
そのプロフィールだとかいったものは存在しないのです」
冷静だが重みをきかせた発言に一瞬たじたじとなる渡辺。
すると七瀬はまた表情を和らげ。
「・・・といったスタンスを対外的には貫いて頂かなくてはならないのですが・・・・
その様子ですと納得して頂けそうにありませんね」
やれやれといった顔で続ける。
「そうですね・・例えば御社のオーディションで定員から外れつつも、このまま手放すには
非常に惜しい才能を感じさせた娘。
その様な娘達の中からこの企画をよくご理解頂いた上で参加したいといった娘を
極秘に再スカウトしたケースもあります。
今回は中の人のことなどをマスコミに探られたくない為に、情報管理を徹底してましたので
最近ようやく企画に参加された渡辺さんにはその事すらも伝わって無かったようですね。
まぁ無理も無いかもしれません、中の人本人ですらこの事は身近な人にすら口外しては
いけないことになっていますから」

なんともご大層な企画である。
しかしそんな事で自分にマネージャーが務まるのだろうか?
いや、中の人のことが知りたいのはそもそもビジネス上の理由だけではない。
すぐ近くにいるのに埋めようの無い人形の中と自分の距離、それを少しでも埋めたかったのだ。

「『そのケースもある』という事は別のケースも存在するということですね?」
「ええ。
そうして集まった3名にID社内及びホビー21での研修を受けてもらい、
厳しい訓練を経てようやく今こうやってデビューの下準備が整ったのです。
『別のケース』の内容は今は内緒にしておきましょう」
「どうしてですか?」
「その方が面白いからです♪(にっこり)」
「な・・・!?」
流石にこれには驚愕するも。
「冗談ですよ。
決して渡辺さんの事を信用していないわけでは無いですが、
今私が機密事項をべらべらと喋って万が一それが漏れたりしたら大事ですからね。
それこそここは芸能プロ、万が一にも何処かに産業スパイやマスコミの盗聴器なんかが
仕掛けられてないとは言い切れません。
で・す・か・ら、くれぐれも今後はいついかなる時間・場所でも
彼女達を"人形"として扱ってください。
大丈夫、信頼関係を築いていけばいつかは必ず彼女達のほうから
心を開いてくれる日が来るでしょう」
穏やかな笑みでそう諭すも、やはり目は笑っていない・・・

丸めこめられてるとしか思えないが、この男のキャラにはどうも勝てそうに無い。
いや、しかしこれからはこの娘達に付きっ切りでマネジメントすることになるのだ。
彼女達の秘密にはどの道否応無く触れることになるだろう。

七瀬は続けた。
「さてさて、では気を取り直して彼女達の送り迎えについて説明させて頂く為に
場所を変えさせて頂きましょう。
あ、ここからは渡辺さんお一人で結構です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やって来たのは、都内某所の高層マンションのとある部屋の前であった。
「渡辺さんには彼女達の仕事の際、
ここ彼女達の部屋までの送り迎えをお願いすることになります」
目を、耳を疑った。
もっともここに向かう車中で聞かされた彼女達のスーツの構造や股間呼吸のことも驚愕と
切ない気持ちを抱かせるに充分足りるものであったが・・・
何より驚いたのは三体の人形がその姿のままここまで来たということだ。
そしてこの部屋が彼女達の部屋だということ、ご丁寧に表札もちゃんと『三澄』の表札まで
付いていて中は女性らしい可愛さと生活感が感じられる、三姉妹の住居としては
ごくごく自然な佇まいが再現されていた。
しげしげと見入っていたらヤエに「だーめ!」とばかりに扉を閉められる。

七瀬の台詞に流石に戸惑った渡辺。
「ええっと・・・お話が今一飲み込めてないんですが・・」
「だ・か・ら。ここが彼女達の家なんですよ。
彼女達はこの姿のままここから出かけて、この姿で仕事をして、この姿で帰ってくるんです」
「ええっ、そんな。
だって仕事のときだけ着ぐるんでればいいだけのことでは?
第一、食事やトイレにだって・・・」
「渡辺サン・・・」
七瀬は引きつった笑みの上、こめかみに青筋を立てていた。
「何度言ったら分かってもらえるんでしょう?彼女達は人形なんです。
着ぐるみでもなければ食事やトイレだって必要ありません。
まぁ電気だけはちょっと必要ですから・・
その為の端末の端末の操作は抜かりなくお願いしますね」
「そ・・そんなぁ・・・」
助け舟を求めて彼女達を見るも、彼女達すら七瀬の発言にウンウンと同調している。

と、言うことは・・・だ。
今のような切ない距離感を今後もずっと感じていかねばならない、そういう事なのか。
考えただけで目の前が真っ暗になった。

「あ、ちなみに仮に中の人が居たとしても渡辺さんだけには会わせることはありませんので。
だってそうでしょう?マネージャーとして顔が割れてる貴方がイベント会場なんかで
見知らぬ女の子と親しげにしてたら
『この人が中の人です』って言ってるようなものじゃないですか。
それでマスコミに裏を取られたりした日にはこの企画のコンセプト自体が
崩壊してしまいますからねぇ♪」

渡辺の精神は七瀬の言葉によって更に深く葬られた。
台詞終盤での七瀬の不適な笑みにすら全く気づかない程に。

「その点ここなら安全です。
ここは公には知られていませんが実はマンション丸ごとID社の持ち物件でセキュリティは万全。
入居者もID社の関係者ばかりで秘密が外に漏れる危険はありません。
例え一階ロビーの外で待ち伏せされても多くの利用者の中から
"その人"が特定されることは無いでしょう」
嬉々として話す七瀬だが、渡辺の心は満身創痍であった。
「ハハ・・・御社はさすがですね・・・(苦笑
じゃあ用事も終わったことですし・・僕は今日はこれで上がります・・。
お疲れ様でした・・・・」

七瀬と人形達はエレベーター前まで見送りに来てくれた。
三体とも渡辺の姿を心配そうに見守っている。
もっとも、その視線こそが彼の心を痛めつける一番の凶器なのだが。
「お疲れ様でした♪
なぁに、世の中悪いことばかりでは終わりませんよ」
エレベーター閉まり際の七瀬の言葉だけがやけに頭に残った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピリリリリリ・・・・・ピッ。
『もしもーし?』
「うん、もしもし」
『どうしたの、元気ないぞー?』
「あはは、今日は色々と疲れちゃってね」
『今日から新しい企画に付いたんだったよね。
どう?お仕事ツライ?』
「ああ~、うん。守秘義務で詳しいことは言えないんだけど、確かにちょっと辛い・・かな」
『そっかぁ・・・・』
「ああ、ごめん。
キミだって新天地で頑張ってるんだよね、僕も負けないから心配しないで!
仕事に悩みは付き物だから」
『おおっ、めげないショーちゃんカッコイーぞっ!』
「ハハハ・・・
そういや梨恵ちゃんもレッスンとやらが終わって本番とやらが近いんじゃないの?」
『ウン・・、こっちもこっちで詳しいこと話せないのがツライけどね』
「分かったら絶対応援に行くのになぁ・・、昔からの夢だった演劇のお仕事って話だし」
『でもお互い休み無いしねー』
「そうだね~。
でも今度のオフ日は会えるんだよね?」
『ウン、さ来週の水曜日・・・ふぁぁぁぁぁ・・・
ウウ~、こっちも今日は大変なお仕事でイロイロと疲れちゃった・・・』
「じゃあお互いお疲れって事で今日はもう寝よっか?」
『そだね、オヤスミー』
「オヤスミ~」
『・・ショーちゃん?』
「?」
『世の中きっと悪いコトばっかじゃないよ。じゃね!』
ピッ、ツーツー・・・

   <To Be Continued>


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