メイド☆ダウト「第2話」 [戻る]
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仕事の中身



 哲也は今までにいろんなアルバイトを経験している。コンビニの店員に始まり、交通量調査、工事現場の交通整理など様々だ。給料のためにきつい仕事をこなす覚悟はある哲也だが、「非日常的な世界観のアルバイト」を前にしてにはただ呆然とするしかなかった。

「ですから、リールのようなiメイドとなって屋敷内の執務をしていただきたいんです」

 哲也に聞こえてないと思った琴音さんは、改めて哲也に説明する。哲也はまるで関心が霧散したように、琴音さんを見つめたまま凝固していた。

「はっ!?僕がメイドさんの仕事をするんですか?リールさんみたいな着ぐるみを着て」
「着ぐるみじゃありません。iメイドです」

 なんとか現実に戻ってきた哲也を、琴音さんは容赦なく責め立てる。

「どっちも同じじゃないですか。着ぐるみの仕事とメイドさんの仕事を両方やるんですし」
「哲也さん。それは違うんです」
「どう違うんですか」
「iメイドは単なる仮装ではなく、ある製品のモニターを兼ねています。一番の目的は、執務をこなすことで採取できるデータを取ることなんです」
「モニターですか?」
「はい。私共の会社は繊維メーカーで、最近になり新しい繊維や技術が次々と開発されました。実用化には様々なデータを取る必要があったのですが、会社の重要機密のため大々的なテストができない状態だったんです」
「それでメイドさんに白羽の矢が立ったわけですか」
「はい。この屋敷は社長の別邸です。ここで働くメイドも会社の従業員にですので、秘密を守るためにも、モニターを探すにも好都合だったんです」

 琴音さんのいう事には一理あった。社員であれば会社の秘密を守るのは当然だし、会社関係者の敷地なら外部との接触が絶てるのでおあつらえ向きだ。ただし、「なぜ美少女キャラの着ぐるみなのか?」という根本的な疑問は依然として残った。

「また、なんで美少女キャラなんですか?」
「開発者の趣味です」
「………………」
「開発した者が、どうしてもこれでやりたいと。もちろん抵抗はあったのですが、研究の権利は社員が保有しているもので妥協するしかなかったんです」

 世の中は広い。そう思いこんで、哲也は琴音さんの説明を黙って聞く。

「でも、モニターの仕事がとても厳しく、志願者が殆ど現れなかったんです。体力面の問題や、募集をメイドに限定しておこなったのが主な原因なんですけど」

 大部分が別の原因だと思う哲也。ただ、琴音さんは話すのも恥ずかしそうな顔をしているので、あえて突っ込む必要はなさそうだった。琴音さん救済のため、哲也は別の質問をする。

「男性社員がやるって方法はできなかったんですか?」
「始めはメイドだけに募集がかかりました。そのお話は出たのですが機密を知る人間がこれ以上増えては困るので、男性社員には口外できない状態に陥っているんです」

 先に男性社員に声をかけなかった理由は、2つしかない。開発者の趣味か、かえって応募が殺到するのを避けるためのいずれかだろう。琴音さんはうつむき加減で、哲也の疲れた表情を読み取っている。聞いてる側も、話す側もどんどん恥ずかしくなっていた。

「ところで、僕が配属になった場合はどこで働くんですか?」

 哲也の思いがけない質問に、琴音さんはハッとした表情で哲也の顔を見る。この話をしてもなお、哲也は興味を持っていてくれたことに琴音さんは驚いたのだった。iメイドに興味があるのか、同情されたのかはわからない。とにかく、琴音さんはとてもうれしかった。

「働くのはこの建物の中になります。他の場所にもiメイドはいるんですが、この建物はリールしかいないので優先的に配属されるることになります」
「ということは、僕がやってもまだ足りないんですね」
「はい。少なくともあと1人は必要です」

 喜びに浸っていること琴音さんだが、実は哲也の考えを読み切っていなかった。哲也は「しょうがない。働いてみようか」という天使の気持ちと、「このままじゃ済まさないよ、琴音さ~ん」という悪魔の気持ちの両方を持っていたのだ。葛藤がが嫌いな哲也は、天使と悪魔の気持ちを両方とも立てることを企てていたのである。

「琴音さん。やってもいいですけど、1つだけ条件があるんです」
「なんでしょうか。何でも言ってください」
「琴音さんも一緒にiメイドで働きましょう」
 琴音さん硬直。
「不足している人数は補えるし、琴音さんは後ろめたい気持ちを引きずらないで済みますからね。一石二鳥だと思いませんか?」
「でも、私はiメイドのスケジュールを管理するお仕事をしてるんですよ」

 笑顔のまま涙を流したい気持ちの琴音さんは、哲也が天使にも悪魔にも…もとい、悪魔にも悪魔にも見えた。悪魔の甘いささやきに負けるまいと、琴音さんは必至に抵抗する。

「他の人に任せましょうよ。iメイドをやらない人は一杯いるでしょうから」

 琴音さんあっさり撃沈。
 実をいえば、琴音さんがiメイドになる話は前からあった。モニターの補充が一向に進展しなかったので、責任者だった琴音さんに責任を取らせる意味であるが。その時は、何とか事なきを得たものの、代わりに後輩の沙由理さんが「リール」になる羽目になった。
 今は哲也さんから誘われ、さらにこの会話をリールが聞いてしまっている。断れば哲也が内定を辞退する可能性があったので、そうなると責任は免れないと琴音さんは思った。代わりに責任を被ってくれそうな人もいなかったので、もはや、琴音さんに言い逃れする方法は思いつかなかった。

「やったーっ!」
『やったーっ!』

 声は1人分だが、2人が同じように喜びの声をあげる。届かぬ声の主は、哲也に賞賛の言葉を述べた。まるで琴音さんに恨みがあるかのように、心底喜んでいるようだった。
 ただ、その様子は微塵も外に漏れることはなく、それを聞き届ける人も1人しかいなかった。悲しい現実ではあるが当の本人は指して気にした様子もなく、むしろバレないのを良いことに好き放題言っている。次の仕事があるまで、ケース内のiメイドはそんな事を考えていた…のかもしれない。


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