メイド☆ダウト「第1話」 [戻る]
[次へ]

iメイド



 地元の大学に通う哲也は、友人の紹介で珍しいアルバイトをすることになった。仕事の細かい内容は紹介してくれた友達も知らず、大学近くの豪邸で働くことだけしか教えてもらえなかった。働く場所もさることながら時給が非常に高額だったので、哲也はそのアルバイトが本当にあるのかと始めは疑っていた。しかし、見たこともない豪邸で面接をして、内定の連絡までもらってしまうとさすがに信じないわけにはいかなかった。
 内定をもらってから数日後、哲也は面接をしてくれた琴音さんという女性から電話をもらった。仕事の細かい説明をしたいので、都合の良い時に屋敷へ来て欲しいという。その日は講義もなく特に用事もなかったので、「今日でも大丈夫ですよ」と哲也は答えた。琴音さんは「是非とも」と言ってくれたので、哲也はすぐ例の屋敷へ訪れることにした。

「こんにちは。お呼びだてしてごめんなさい」

 哲也を暖かく出迎えてくれたのは、先ほどの電話の主「琴音さん」である。藍色のドレスに真っ白なエプロン、頭にカチューシャというメイドさんの定番ともいうべき格好をしている。また、腰まで伸びた髪は動くたびに鮮やかに揺れ、穏やかな顔立ちは哲也をドキドキさせた。ちなみに、哲也より1つ上のお姉さんである。

「暇ですし全然大丈夫ですよ。それで今日はどんな用事ですか?」
「実は先日の面接でも秘密にしていたお仕事のことを、ご説明しようと思っています」
「やっと聞けますね。個人的には力仕事かなと思ってるんですけど違いますか?」
「そうですね、体力は確かに必要ですが力はさほど必要ありません。どういうものかはご覧いただくのがいいと思いますの。そちらへご案内しましょう」

 そう言って琴音さんは屋敷の奥へと案内してくれた。面接で応接室に通された以外、哲也も屋敷の構造は全く知らないので、延々と伸びた廊下や窓から見える幾つもの豪邸は、まるで違う国にいるような気分にさせた。

「こちらになります」

 数分歩くと廊下に並ぶ幾つものドアから、琴音さんは木製の扉を選びその前で立ち止まった。デザインは一般的なもので、これといった装飾は特にない。琴音さんは時折周りの人気を確認してから、ノックして扉をゆっくりと開いた。

「どうぞ」
「すいません。失礼します」

 哲也が通された部屋は20畳ほどの広で、入ってすぐ右側の壁には珍しい木製のロッカーが並んでいた。部屋の奥、向かいの壁には大きなクローゼットになっていて、ほぼ壁の全面をカーテン式のドアが占めている。哲也は何の部屋かを伺うようにあちこち眺めていると、正面の窓際にある椅子に座る可愛らしい少女を見て思わず声を張り上げた。

「うわっ!!」

 哲也の驚きに反応するように、少女はゆっくり哲也の方へ顔を向けた。琴音さんと同じメイド服を着ていてるのだが、髪は若葉のような雄々しく若々しい輝きを放ち、大きな瞳は琴音さんのように優しい。目の前にいたのは少女の姿を意匠化したもの、アニメに登場する美少女キャラクターそのままだった。中に人が入っていると想像はできたが、肌は同色の生地に、顔はマスクによって全てが覆われていたのでいまいち実感が湧かなかった。

「驚きましたか。こちらは『リール』さんと言いまして、私と一緒にこの屋敷で働いているメイドなんです」
「働いているって…、この『着ぐるみ』がですか?」
「ここでは着ぐるみとは言いません。私たちは『iメイド』と呼んでいます」

 『リール』と呼ばれた着ぐるみは、両手をグーの形で口元に当ててモジモジしている。
哲也が着ぐるみと言ったことに恥ずかしがっているようだ。

「は、はじめまして」

 とりあえず挨拶をして反応を伺ってみると、リールは丁寧におじぎをしてくれた。着ぐるみを演じているせいか、やはり話してはこない。しかし、リールの感情や考えていることは仕草から十分に伝わった。

「いや~、ビックリしました。こんな綺麗なメイドさんがいるなんて思いもしなかった」
「お世辞がお上手ですね。でも、あまり言うとリールが調子に乗っちゃいますから、ほどほどにしてくださいね」

 リールは腰に手を当てて、顔を琴音さんに向け怒ったそぶりを見せる。ただ、笑顔と仕草がまったく一致していないので、琴音さんも哲也も怖がるどころか思わず笑ってしまった。
 琴音さんはリールがいた席に哲也を座らせてから、iメイドのこと、仕事の内容を話し始めた。タイミング良くリールがティーセットを持ってきてくれて、二人のカップに紅茶を注いだ。

「ありがとうございます」

 哲也のお礼にリールは一礼で応えると、そのまま哲也達が入ってきた扉の方へと歩いていった。部屋を出て行くかと思ったら部屋に入った直後の死角、扉の裏側にあった大きなケースの前で歩みを止めた。

「では、次のお仕事があるまで待っていてください」


琴音さんの言葉を聞き届けると、リールはケースのドアを開けてなんとその中に入ってしまった。ケースは電話ボックスほどもあり、淵が木でできている以外は四方と天井を透明なガラスがはめ込まれている。リールは入ってきた方向に体を向けると、ケースのドアを閉めた。

「いいですか?」

 琴音さんは何かを確かめるように、ケースの中に入ったリールに声を掛ける。リールは起立の姿勢のまま、顔だけをこちらに向けて頷いた。琴音さんはテーブルに置かれていたリモコンのようなものを手に取ると、リールに向けて「休憩」と書かれたボタンを押した。
「な、なにをしてるんですか?」
「リールの休憩ですよ」

 全く意味がわからないので琴音さんに質問してみたが、一言で済まされてしまった。リールは既にこちらを向いておらず、まっすぐ正面を見据えたまま起立の姿勢をとり続けている。

「iメイドは着替えにとても時間がかかるため、働いている間は休憩中もiメイドでいなくてはいけないんです」
「それがあのケースの中にはいることと関係あるんですか?」
「ケースの中に入り、このリモコンの『休憩』というボタンを押すとiメイドの姿勢が起の姿勢で固定されます。全身の力を抜いても倒れませんから、その間に休憩を取るというわけです」
「なんか、ものすごく大変そうですね」
「はい、ですから哲也様には一刻も早く慣れて頂きますね」
「…は!?」


[戻る] [次へ]