おや,ザクロねえさんが...
会社から帰ってくると,今日はエリカが迎えに出てこない.あれ,と思って,
覗き込む.リビングからテレビの音が聞こえてくるので,エリカがいるのは間違いな
いんだけど...
「エリカ?いるの?今帰ったよ.」
エリカは返事できないから声が返ってくるわけじゃない.ボクはちょっと心配
になって中に入ってみた.
ソファに少女が一人座っていたが,それはエリカではなかった.
等身大のミュウミュウのザクロねえさんの人形が座っていたのだ.じっとして
動かない.
<ありえねくねーー?>
「え?どういうこと?エリカ?」
ボクが声を立てると,ザクロねえさんはくるりとこちらを振り向いた.やっぱ
り着ぐるみだ.エリカの着ぐるみを着ている人が,今日だけはミュウミュウの格好を
しているのだろうか?いつものエリカ人形とは違って,今日は布の全身タイツを着て
いるし,頭もフルフェイスのヘルメットのような感じだ.ミュウミュウのザクロねえ
さん,って知ってると思うけど,全部紫色の衣装で,首輪,ブラジャー,腕輪(上腕
につける),ホットパンツ,脚輪(腿につける),ロングブーツをつけてるんだけ
ど,脚がすらっとしてて,すごくスタイルがいいんだ.これはエリカだよ.ボクは程
なく分かった.
「やっぱりエリカでしょう?この着ぐるみどうしたの?」
ザクロは体を起こしてパソコンに向かおうとしたけれど,ひざを机にぶつけて
転んでしまった.まるで目が見えないようだ.どうしてだろう,着ぐるみはちゃんと
覗き穴があって,そこから外が見えるようになっているはずなのに.
ザクロは痛そうにひざをさすりながら,自分の首を上に持ち上げるようなしぐ
さをして見せた.「これ,脱いでいい?」といっているように見えた.
ボクはザクロ(=エリカ)の着ぐるみを着ている人が顔を見せてくれるのかと
思った.だから,「いいよいいよ」と首を縦に振った.ザクロは耳のあたりに両手を
当てると器用に下を向きながら頭を動かした.首から頭だけが外れた.ザクロは布の
全身タイツを着ていたが,顔のところには穴が開いていて,そこからは素顔が見えて
いる・・・いや,素顔が..見えているはずなのだが...
そこにはエリカの顔があった.えーーーありえない.エリカが着ぐるみを着て
いたわけ?え,ちょっと待て.エリカは「中に人は入っていない」って力説するけれ
ど,本当は中に人が入っていて,それでゴム製のエリカ人形を着ているんだよね.こ
のゴム人形は切れ目がなくて,脱ぐ方法も分からないほどで,で,さらに息も苦しい
んだよね.その上から,さらに布の全身タイツを着て(ま,これはそんなじゃないと
思うけど)その上から,着ぐるみの頭をかぶってたわけ?そんなに何重にも着ぐるん
でも平気なわけ?全身タイツの顔のところから,お人形の顔が見えているのはなんだ
か変な感じだった.しかも,頭を脱いだとたん,エリカは「暑い暑い」といわんばか
りに両手で顔のあたりを仰いでいたのだ.エリカは「やっと見えるようになった」と
いう感じでパソコンのエディタを開いてタイプし始めた.
「これ,目の位置があってなくて,外がよく見えないのよ.」
「それはいいけど,これはどうしたの?誰かからもらったの?」
「あ,ザクロでしょう?これ.友達が一日貸してくれる,っていうから,借り
てきたの.」
「友達...って?昼間,友達と会ってるの?」
エリカはちょっとしまったという感じで両手で髪をかきあげた.
「あのね,実はね,エリカ,昼間まだホビー21でお仕事してるの.」
これは初耳だった.ボクがいない間にエリカはホビー21へ行っていたんだ.
別にウチで寝てたわけじゃないんだ.
「まあ,それはそれでいいけど,こんなの借りてきて大丈夫なの?着ぐるみ劇
団とかの持ち物なんでしょう?」
「うん,でもまあ,一晩くらいならいいって.でも,これ着て外を歩かないで
ね,って言われた.」
これ着て,っていうけど,その前にエリカの格好で外を歩くんだって...と
ボクは思った.
「***さん,写真とってくれない?こういうの着られるの,あんまりないで
しょう?エリカとしても,写真とっておきたいの.」
エリカがこう書いたので狭いリビングは撮影会場になった.そういえば,ボク
はエリカの写真を撮ったことがなかった.ホビー21でもそうだったし,同棲するよ
うになってからも写真には撮らなかった.(写真に撮らなくても始終目の前に本人が
いるんだから.)使い古しのデジカメで20枚くらい撮った.エリカはホビー21で
ミニショーのアルバイトをやってたくらいだから,「かわいいしぐさ」をするのが上
手だな.人差し指を立てたり,頬に手をやったり,腰に手をあてたり,とイロイロな
ポーズをしてくれた.でも,今日だけはエリカじゃない.ザクロねえさんなのだ.ボ
クはべつにミュウミュウのマンガを見たことはないから,ザクロに思い入れなどない
けれど,でも,着ぐるみが目の前にいれば話はやっぱり違う.この衣装,スカート
じゃないのにものすごくエッチくさいし,またそれがエリカの太ももで強調され
ちゃっているんだ.そうそう,尻尾も生えてるし.(さすがにこの尻尾は動きませ
ん.)
写真を撮り終わったあとも,エリカはザクロのままでいると言い出した.目が
よく見えないようで,動作が今ひとつ手探りな感じだ.ボクはザクロのエリカとテレ
ビを見ていたが,多分見ているふりをしていただけでテレビは見えていなかったよう
だ.まあ,ここまではよかったのだが,ザクロのまま寝ると言い出したときには
ちょっとビックリした.
死んでも知らないよ!とボクはホンキで思った.だって,ボクの推理によれ
ば,エリカの呼吸モードは二つあって1つは股間,もう1つはうなじのあたり.(こ
れだけ一緒に暮らしていればそのくらいは分かるよ.)でも,頭にはザクロの頭をか
ぶって閉鎖しているわけだし,股間には皮製のホットパンツをはいているから,これ
は全く空気を透過しない.呼吸できないでしょ?
でも,エリカはザクロの衣装のままベッドに横になった.着ぐるみの髪型がく
しゃくしゃになってしまわないかと,変なことが気になったが,ともかく,寝始め
た.
いつもお人形としてのエリカにはビックリさせられぱなしだったけれど,今度
ばかりはボクの想像があたってたみたい.10分もしないうちに,エリカはがばっと
おきだしてしまった.
「どうしたの?やっぱり息が苦しいんだ?」ボクはやさしく声をかけた.
エリカは肩で息をしていた.やっぱりかなり苦しいんだ.エリカはパソコンま
でもぞもぞと四つんばいで這って行くと,パソコンの電源を入れた.ボクは部屋の電
気をつけてあげた.エリカはザクロの面をはずしてタイプした.
「これ,ぜんぜんねむれなーい.やだな.あ,でもね,息が苦しいわけじゃな
いよ.エリカ,息してないから.暑くて眠れないんだよ.」
こうタイプして,エリカは人差し指を顎のあたりにあてて上を向きながら
うーーんと考えた.
「エリカね,ずっとこの着ぐるみ着ていたいから,今晩寝ないでこれ着てる.
いい?」
ボクは答えた.
「せめて,衣装を代えるとかしたら?」
「それって,ぜんぜんイミナイよー.ただね,これ,寝られないんだよ.起き
てる分にはいいんだけどね.」
「でも,寝ないと,明日大変だよ.」
何回かやり取りしたけれど,結局エリカはザクロの頭を自分の頭にはめ込んで
しまった.といっても,息が苦しいのは頭にかぶっているマスクのせいじゃない.紫
色の革のホットパンツのせいだ.だからこれを脱がない限りエリカの呼吸は楽にはな
らないはずだ.エリカは布団で寝る代わりに,壁にもたれかかって,本当の人形のよ
うに動かなくなってしまった.といっても,肩で息をしているのは分かる.テレビを
見ているときには気づかなかったけれど,きっと,すごく息が苦しいから深呼吸を続
けているんだ.
あらためて,ザクロになったエリカを見ていると、どうしてここまで変身しな
ければいけないか,不思議な気持ちになる.ボクはエリカを一人の人間として扱って
いるが,実は中に人が入っていて,人形を中で操作(操演とも言うそうだけど)して
いるしているわけで,その上から,別の着ぐるみ一式を身につけるなんて,どういう
気分なんだろう.じかにザクロの着ぐるみを着るのよりももっともっとなにか
深ーーーーいものがあるように思われた.しかも,息が苦しくても,着ぐるみを脱が
ないというその感覚,これはボクには分からない世界だった.
エリカはしばらくじっとしていたが,退屈したらしく,パソコンのほうへずり
ずりとすすみ,やっぱり頭をはずして,そしてタイプし始めた.
「これ,やっぱり苦しい.そうだ,***さん,これ着てみる?」
え?と思った.はっきり言ってボクがこういう女の子の着ぐるみを着られる体
型だとは思っていない.背は180以上あるし,おなかは出てるし,体重はオーバー
気味だし.でも,エリカみたいに,お人形になれるのならば,他に誰が見ているわけ
ではないし(エリカは見ているけれど,エリカはもうすでに着ぐるんでいるわけだ
し)試してもいいかも,と思った.
「あ,でも,***さん,オナカですぎーーーー.重量オーバーでーす.」
エリカのこの発言にボクは激しくショックを受けた.しかし,本当のことだか
ら仕方がない.がっくりしている(ふりをしている?)ボクを尻目に,エリカはその
まま荷物部屋へ行って,扉を閉めた.10分ほどもすると,いつものパジャマを着た
エリカが現われた.
エリカは率先して布団にもぐりこんだ.そのエリカを見て,ボクはまたも軽い
めまいを感じていた.エリカはザクロの着ぐるみが苦しいからとそれを脱いで普段の
パジャマに着替えた.でも,エリカ自身がすでに着ぐるみなわけだし,エリカ人形を
着ていることはとても苦しいことのはずなのだ.あれ?でも,エリカはザクロの着ぐ
るみが苦しいといい,我慢できないという.あれ?エリカ人形の着ぐるみは苦しくな
いの?あれ?だって,人形の中に入っている,という点では同じだよね.あーーーも
うわかんない!
寝よ!
アヤナ*のプラグスーツが届きました.
ある日ボクが会社から帰ると,エリカはいつものように夕食を準備して待って
いた.今日はスパゲッティだ.ミートソースが手作りでなかなかいける.オリーブオ
イルとかにんにくとかバジリコとか結構本格的に作っているようだ.(ホント一度
作っているところ見たいよ.)
食事をしながら,ボクは大きな包みが届いていることに気づいた.
「なにあれ?」
エリカは書いてよこした.
「ヤフオ*のコスプレの衣装.競り落としちゃったみたい.」
エリカに今ひとつ元気がないように思えたのは気のせいだろうか?その後会話
が途切れてしまったので,ボクは急いで食事を済ませ,黙って食器を片付けた.
ボクは興味津々だった.包みを開けるとアヤナ*のプラグスーツだった.
エリカはパソコンのエディタにタイプした.
「エリカ,そのプラグスーツ着るね.ちょっと貸して.向こうで着てくるか
ら.」
そうしてエリカはプラグスーツが入っている包みを手にとり,荷物部屋へと消
えていった.ボクはちょっと心配だった.プラグスーツを着るとエリカは全く呼吸が
できないのではないかと思ったからだ.エリカもそのことが心配だったようだ.プラ
グスーツは間近で見るとエナメル生地で作られていて,通気性はないように見える.
エリカはどうするんだろう.ボクがやめようか,って言ったのに,むきになって買っ
ちゃって,着たはいいけど呼吸ができなくなったらどうすんだろう?
そんなことをぼんやり考えていたが,なかなかエリカは出てこない.まあ,サ
イズが合わないとか,そういうこともありうるわけで,なんて考えていた.
ガタンと音がして戸が開いて,白のプラグスーツに身を包んだエリカが現われ
た.頭には青いかつらをかぶっている.かつらもセットだったようだ.よろよろっと
出てくると,こともあろうに,その場に倒れてしまった.
「エリカ!エリカ!どうしたの?大丈夫?」
ボクはむきになってプラグスーツに挑戦したエリカが窒息したのだと思った.
胸と背中のところにチャックが見つかった.意識なく倒れているエリカから慌てて手
袋をはずさせ,腕の部分を脱がせ,そしてレオタードのようになっている部分を脱が
せた.このコスチュームはパンスト状のパーツとレオタード状のパーツの二つから
なっており,ちょうど股間のところは重なり合っている.エリカがここから呼吸する
ことは全く不可能だ.エリカは苦しい息を我慢しながらコスチュームを着たまではよ
かったが,酸欠でそのまま倒れてしまったようだ.パンスト状になっている部分もす
ぐに脱がせた.エリカはその下にさらに下着のパンツをはいていた.無茶な.
ボクはエリカが股間で呼吸していることをうすうす知っていたから,パンツも
脱がせてあげた.そして,エリカのあそこを仰いであげた.多分陰部にあたるところ
から空気の出入りがあるんだろうけれど,そこを開いたりいじったりする勇気はな
かったから,せめて股間の空気を新鮮にしてあげればエリカが楽になると思った.
よかった.10分くらいでエリカは意識を取り戻した.少しの間,訳がわから
ないという感じであたりをぼんやり見ていたが,自分が裸にされていることに気づく
と,いきなり
「キャア!!」
と声をあげた.エリカが声をあげた!
「エリカ,今,キャアって言ったよね?」ボクは思わず尋ねた.
エリカは慌てて両手を口でふさぐと,そのあたりにある自分の服をあわててつ
かみあげ,荷物部屋へと逃げていってしまった.ごそごそと音がして5分後くらいに
エリカはパジャマで現われた.
両手でボクを拝むようなしぐさで「ごめん!」とやったあと,パソコンのキー
ボードをたたいた.
「ごめん.エリカ,やっぱりプラグスーツ着れなかった.ごめん.***さ
ん,脱がせてくれたんだね.」
ボクは黙ってうなずいた.だって,すぐに脱がせなければ本当に死んでしまう
と思ったからだ.
「ありがとう.***さん.エリカのこと心配してくれたんだね.」
ぼくはもう一度うなずいた.
「ホントありがとう.命の恩人かも.」
エリカは泣きそうな感じだった.エリカは崩れるようにボクの方に倒れこんで
きた.そしてボクのひざのうえでボクにしがみついた.
「エリカ,もう,こんな無茶をしないんだよ.息が詰まっちゃうからね.」
エリカはしばらくボクの膝枕で休んでいた.しばらくの間ボクはエリカは頭を
なでていた.もう息がすっかり戻ったんだろうか.ふと動き出すとパソコンのキー
ボードに向かった.
「エリカ,息なんか詰まってないよ.だって,エリカ息してないんだもん.勘
違いしないでね.きつくて気持ちが悪くなっただけだよ.」
この場に及んでそういうことを言うとは!エリカが言っていることは十分に承
知していたけれど,ボクは冗談をやらずに入られなかった.荷物部屋へ行くとプラグ
スーツを一式持ってきて,エリカに無理やり着せ始めた.
エリカは抵抗したけれど,ボクがホンキでやっていないのを知っていたから,
大してホンキで抵抗しなかった.ひとしきり2人でじゃれあったあと,エリカは再び
キーボードに向かった.
「***さん,エリカの骨拾ってくれる?そうしてくれるなら,エリカ,もう
一度プラグスーツ着てみたいな.そしたら写真とってくれる?」
このプラグスーツはもう誰も着ることなく取っておこうと思っていたのだけれ
ど,エリカはもう一度着てみるという.しかも「骨を拾う」なんて縁起でもないぞ.
「じゃ,さ.呼吸モードを変えて着ればいいじゃん.」
ボクはカマをかけていってみた.しかし,エリカはためらうことなく返事し
た.
「エリカ,息してないんだから,呼吸モードなんてないんだよ.やっぱりもう
一度着てみようかなあ.」
ボクはちょっと背筋が寒くなった.ボクは大声を出した.
「だめ!絶対ダメ.君がいなくなったらボク生きていけないもん.」
こういうと,エリカはボクのほうにゆっくりと抱きついてきた.ボクもエリカ
を抱きしめた.
ちゃんちゃん
(第11回に続く)やっと,というか,とうとう,というか,エリカの内臓が
男だと発覚します.
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