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予約の当日、隆は定時になると飛び出す勢いで会社を後にした。勢い余って会社の入り口の自動ドアにつんのめりそうになりながら、地図を片手に電車を乗り継ぎ、東京でも有数の歓楽街へ到着した。
そこから迷路のようにぐるぐると歩き続け、予約時間ギリギリになってようやく辿り着いた。
そこは何の変哲もない雑居ビル。看板すら出ていない。隆は不安になりながらも入り口をくぐる。
「受付は五階です」と素っ気なくエレベータの前に看板があった。よく見るとポストの五階のところにだけこっそり「DollClub」と表示がある。間違ってはいないようだ。
逸る気持ちを抑えながらエレベータに乗り込み、受付のあるという五階を目指す。程なくして着いたフロアは、さながら病院の待合室のような雰囲気のところであった。
「あのー、予約をしてきた者なんですが……」
おそるおそる「受付」と書かれたカウンターへ近づき、中にいた店員に声をかける。
「いらっしゃいませ。初めてのご来店でしょうか?」
店員は恭しくお辞儀をしてから尋ねた。
「はぁ」
「そうしましたら、予約の際のメールを確認させて頂きたいのですが」
「あ、ここにあります」
隆は鞄から予約確認メールのプリントアウトを店員に手渡した。メールの中に「プリントアウトを持参せよ」と指示があったからだ。
「予約を確認させて頂きますのでしばらくお待ちください」
店員は手渡されたメールを眺め、カウンターにあるパソコンで何やら探しているようであった。
「お待たせいたしました。和田様でございますね。ご予約確かに承っております。それでは、当店のシステム等についてご説明いたしますので、こちらへどうぞ」
メールのプリントアウトを隆に戻すと、店員はカウンターから出て「どうぞ」と隆を促す。そして促されるままに隆は受付から続く廊下を抜け部屋に通された。
「では、当店の特徴とシステムをご説明します」
六畳ほどの部屋に椅子と机という簡素な部屋。席に着くと早速ファイルされた資料を手渡され、店員は説明を始めた。掻い摘んで書けばこんな感じである。
・DollClubは完全会員制秘密倶楽部である
・会員からの紹介がないと入会できない
・会員には秘守義務が課せられ、違反した場合は相応のペナルティが与えられる
この辺りは予約の時のページに書かれていたので軽く聞き流す。次に着ぐるみについての説明に入った。隆は聞き漏らさないようにしっかり聞く態勢に入る。
・着ぐるみは当倶楽部特製のものである
・着ぐるみに入っている人に対し、危害を加えることは認められない
・着ぐるみが拒否することを強要することは出来ない
・着ぐるみを壊す行為、または脱がす行為は厳禁である
・特製であるため呼吸口が面ではなく股間の部分にある。従って、この部分をふさぐような行為は禁止(例:風呂に入る)
・股間で呼吸しているため、本番行為は出来ない
説明が進めば進むほど、隆は逸る気持ちを抑えきれなかった。「特製着ぐるみ」とはどんな感じなのか。股間で呼吸とはどういうことなのか。もうそんなことばっかりが頭をぐるぐると巡り、だんだんと店員の説明が耳に入らなくなっていく。
「以上までで何かご質問がございますでしょうか?」
店員に訊かれ、そこではっと我に返る隆。
「いえ、特にありません」
「では、続けますね」
まさか、妄想で頭がいっぱいになっているところを見透かされたのではないか、と少し恥ずかしくなった隆は、きちんと店員の説明を受けることにした。
・時間は基本一時間で、延長は最大九十分までで十分単位。これ以上は特殊着ぐるみのため不可能である
・基本料金は四万五千円、延長料は十分千円
・一来店につき選べる着ぐるみは一体、途中チェンジは不可
「以上で説明は終わりです。ご納得頂けましたらこちらの誓約書にサインをお願いします」
納得も何も異存は全くない。というより、むしろ異存があったら着ぐるみが楽しめない。半ば本能で隆は頷くと、差し出された誓約書に何の躊躇もなくサインする。
「会員カードはお作りになりますか?」
「作ると何かいいことあるんですか?」
いいことがあるから会員カードがあるのである。すっかり舞い上がってる隆は不思議な質問をする。
「料金が一律十%引きになります。また、来店五回ごとに三十%引き、十回目のご来店で基本料金を一回サービスさせて頂きます」
「お願いします」
説明が終わると同時に言葉を発していた。何という素晴らしきサービス精神。
「では、こちらの申込書とアンケートにご記入ください」
店員は申込用紙を差し出す。表面に名前などの個人情報を書く欄、裏面がアンケートになっていた。
着ぐるみと逢えるのが延びてしまうが、サービス内容の前にはそれも仕方ない。書き殴るように名前や住所を記入し、裏面のアンケートに取りかかる。
「着ぐるみに目覚めたのはいつ頃のことか?」といった普通の質問から「着ぐるみを所持している、もしくは着てみたい」「内臓は女性限定でないと厭だ」といった不思議な質問まで並んでいるが、隆は怒濤の勢いでアンケートに答えていく。ちなみに「内臓」とは着ぐるみの中に入っている人間のことを指す隠語のようなものだ。
「はい、書き終わりました」
鼻息が少々荒いのは急いで書いたからなのか興奮のせいなのか。まあ、どちらも大差ないのであるが、隆は申込用紙を突き返すように店員に渡した。
両面を軽く見て書き漏れをチェックすると、店員はさっきとは違うファイルを隆の前に広げた。
「当店におります着ぐるみ美少女のリストです。本日はどれをご所望ですか?」
「……!」
広げられたファイルに載っている写真を見て、隆はさらに驚いた。そこには何十体もの美少女着ぐるみがいたのである。
確かにインターネットの予約ページにも何人か写真が小さく掲載されていた。それだけ見てもかなりレベルが高いと思っていたのだが、これほどとは。お姉さん風のキャラから眼鏡っ娘、果てはあどけないロリっぽいのまで。これだけ網羅されていれば必ず自分の気に入ったキャラクタが見つかるはず、と隆は一人頷き感心した。
しかし感心してばかりもいられない。この中から一人を選ばなくてはならないのである。
十分ほど舐め回すように写真を眺め、隆はようやく今日の相手を決めた。人気恋愛アドベンチャーゲームに出てくるキャラクタに似た着ぐるみにした。名前を「アヤちゃん」というらしい。設定年齢は十七歳。
「では、プレイルームをこの中からお選びください」
今度は部屋を選ばされる。そんなのはどうでもいいと思ったが、一応写真で確認をする。
教室のようなのからワンルームマンションのようなのまで数種類あったが、適当に自分の部屋に近いのをチョイス。
「ではこちらがルームキーになります。六階の六〇二号室です。時間五分前に内線で終了をお知らせしますので、その時に延長かどうかお返事ください。着ぐるみはお部屋に着いてから店員がお連れしますので、それまでお待ちください。では、ごゆっくり」
そう言って店員はカードキーを手渡す。
隆には、そのカードキーがこれから踏み入れる未知の世界へのチケットのように見えた。
2
階段を上って六階に行くと、マンションのようにドアが並んでいた。「602」と書かれたドアの前に立ち、隆は手にしたカードキーを差し込む。微かな音がしてロックが解除された。
中に入ると思ったより殺風景であった。テレビ台にビデオ内蔵テレビと内線電話。本棚に見立てたカラーボックス。申し訳程度にコミックと漫画雑誌が数冊。そして不釣り合いなダブルベッドにクローゼット。その時点で隆は苦笑した。
店員の説明の通りまだ着ぐるみはいなかったので、部屋の中を少し物色することにした。大きなクローゼットが気になったので、近寄って開けてみる。
すると、中にはこれでもかと言わんばかりに様々な衣装が収められていた。端から順番に物色していく。ナース服、メイド服、巫女服、ゲームに出てくる様々な学校の制服、エトセトラエトセトラ。クローゼットから溢れんばかりにいろんな服が入れられていた。
引き戸の下にある引き出しも開けてみる。
清楚な白の下着から、黒いレースの下着、ガーターに水着も多数と、それこそ引き出しからこぼれんばかりに収められていた。
それを引っ張り出しては着せた姿に妄想を馳せていたところへ、ドアチャイムの音が鳴った。
ドアを開けると宅配業者風の店員が等身大より少し大きい箱を携えて立っていた。
「おとどけものでーす」
と店員はよっこらしょ、とその箱を部屋に運び入れた。
「では、ここから時間カウント始まりますんで。ごゆっくりどうぞ」
伝票を手渡すと店員はすっといなくなった。手渡された伝票を見ると入店時間と退店予定時間などが書かれていた。
伝票を適当にテレビ台の上へ放ると、隆は置かれた箱をしげしげと眺めた。
「天地無用」「こわれもの注意」などと、本物の荷物のようにいろいろとラベルが貼られていた。よく見るとちゃんと宛先に「和田隆様」と自分の名前が入っているのがちょっと面白い。
「では、早速ご対面といきますか!」
いつまでも箱を眺めていても時間がもったいない。隆はいそいそと梱包を解き始めた。と言っても別に頑丈に留められているわけでもなく、上から下にガムテープを剥がしただけで完了であった。
開けてみると、エアキャップに軽く包まれた着ぐるみが入っていた。留められているテープを次々剥がしていくと、中から可愛らしい着ぐるみが全裸で姿を現した。
「おぉ……」
思わずため息が漏れる。写真で見た時も凄いと思ったが、実際本物を目の当たりにしてその出来に感心してしまう。
つぶらな瞳に可愛らしい顔つき。さらさらのショートヘアー。肌触りの良さそうなタイツに包まれた体型は出るところは出て引っ込むところはしっかりとくびれている。胸も大きすぎず小さすぎず良い形。よく見ると微かに呼吸に合わせて身体が動いている。首元に「アヤ」と書かれたタグが張られていた。
隆はいろんな着ぐるみを実際に見てきたが、確実にトップ3に入る逸品であった。
タグを剥がし箱から取り出そうと隆が手を伸ばすと、いきなりアヤが動き出し、箱から出てきた。
「うぉぉ」
いきなり動いて吃驚した隆は、変な声を上げた。その声にアヤが「ゴメンね」と手を合わせてジェスチャする。
「えー、えっと……はじめまして」
慌てた隆はお辞儀をして挨拶をする。あわせてアヤも「こんにちは」とお辞儀をした。
仕草一つ一つが可愛らしい。どうしていいかよく分からないまま、隆は口を半開きにしてじろじろとアヤの全身を眺めていた。
その視線に気づいたのか、アヤが恥ずかしそうに胸と股間を手で隠す。その仕草に隆ははっと我に返った。
「えっと、とりあえず何か着てもらわないとね」
隆は恥ずかしそうに目を逸らすと、クローゼットに近寄り衣装を物色した。
どれも着せてみたい衝動に駆られるが、時間は1時間。迷いに迷ってファミレスシミュレーションに出てくるウェイトレスの制服を手に取った。メイド服のようなその衣装は隆のお気に入りだ。ちなみに自分でも持っている。
次に下着も物色する。普通にブラジャーとパンティにしようとするが、ある物に目が留まる。
白いスクール水着、略して白スク水。
水着、特に競泳水着やスクール水着にも目がない隆にとって、これははずせなかった。ウェイトレスの制服の下がスクール水着。何とも不思議な取り合わせだが、そのシュールな取り合わせに隆は興奮した。
「じゃあ、この衣装着てくれるかな? 下はスク水で」
そう言って選んだ衣装をアヤに手渡す。特に厭がることもなくアヤは受け取った。
「向こうで着替えるところを眺めていたいんだけど、いいかな?」
ベッドを指さす隆に、ちょっと恥ずかしそうにしながらもアヤは頷いた。
ベッドに腰を下ろしてじっくりと眺める隆の前で、アヤが服を着始めた。
まずはスクール水着。右足、左足と足を通してゆき引き上げて腕も通す。豊満な身体に水着が吸い付くようによく映える。
「あ、ちょっと待って」
ウェイトレス衣装に手を伸ばしかけているアヤを隆が制止する。
「そのままくるっと一回転してもらえるかな?」
水着姿をしばらく眺めたくて、隆が注文を出した。
言われたとおりアヤがくるりと回った。ふわっと髪が揺れ、胸も微かに揺れる。その姿に早くも隆の思考は停止寸前。
(うあー。写真撮りてぇ~)
その姿を少しでも残したくてつい思ってしまう隆。しかし「カメラ・ビデオ等の映像機器は持ち込み禁止」としっかり誓約書に書かれていた。だから、隆は瞬きする間も惜しんでアヤの姿を脳内にきっちり記憶するのであった。もちろんその禁を犯して写真を撮る気など毛頭ない。禁忌を犯す、イコールこの桃源郷から永久追放。そんなことが隆に出来るはずもなかった。
アヤが衣装を持って「着替えていい?」と仕草するので、「どうぞどうぞ」と隆は促す。スクール水着姿もいいがウェイトレス姿も早く見たいのである。
オーバーニーに足を通し、ブラウス、スカート、エプロンと次々に着ていくアヤ。さすがに慣れているのか着替える動作に迷いがない。ちなみに着慣れていない隆はこの衣装を着る時には結構もたつく、というのは余計な話。
「できましたー」と言わんばかりに両手を広げてアヤがアピールする。隆は手招きして自分の横に座らせる。
小走りで近寄ってきたアヤが隆の隣に腰を下ろす。微かな石けんのいい薫りがふわっと漂う。
隆の心臓は爆発寸前であった。着ぐるみでこんなにドキドキしたのは、ここ最近なかったような気がする。恐る恐る肩に手を回して抱き寄せる。
心持ちアヤが寄り添ってくる。頬に手を添えるとアヤの唇にそっとキスをした。
隆はベッドに横になると、アヤを自分の上に乗せる。ちょうど騎乗位の格好だ。
下から見上げてもアヤの身体は魅力的だった。ふくよかな胸、細く括れた腰。太股に感じる尻も柔らかく揉み心地が良さそうだ。
隆は下からアヤの胸を揉み上げる。優しく撫で回すように揉むと、感じているのかアヤはそれに合わせて腰を小刻みに動かす。その動きが臀部の下にある隆自身を小刻みに刺激してかなり気持ちがいい。
しばしブラウス越しの感触を楽しんだ後、隆はブラウスのボタンに手をかけ上から外してゆく。中から白いスクール水着に包まれた乳房が姿を現した。
堪らず隆はそのままエプロンもスカートも脱がす。アヤは脱がせやすいように身体をもぞもぞと動かしてくれる。手首にある青いリストバンドのようなカフスとオーバーニーだけは取らない。この付近が隆のこだわりである。
スクール水着姿のアヤ。遠くから見ても可愛かったが近くで見てもやはり可愛い。
このままだとスラックスに皺が寄ってしまうので、隆も自分のベルトに手をかける。気づいたアヤがその手を制す。脱がせてくれるらしい。
股間や太股を撫でるようにスラックスを脱がせてゆく。タイツの感触が直に伝わり、隆は思わず「あぁ」と声を漏らす。
トランクスは既に見事なテントを張っていた。アヤはそのテントを指先でなぞるようにする。裏筋を何度も撫でられ隆のモノはひくひくと動く。
隆もお返しとばかり下から腰を微妙に突き上げてアヤの敏感なところを刺激してあげる。隆の動きに合わせるかのようにアヤの腰も動く。中の女性もタイツ越しに気持ちよくなっているようだ。
アヤはトランクスの合わせ目から隆のモノを取り出し優しく握る。力の加減が絶妙で隆はうめき声を上げた。先の方からは既にぬらぬらと涎を垂らしている。
ゆっくりと上下にこすり始めたアヤを隆が制する。枕元に手を伸ばしゴムを取る。してくれるのはありがたかったが、やはり自分のでアヤのタイツが汚れるのは忍びなかったのだ。
封を切ろうとする隆の手からアヤはゴムを取り上げる。何事かと吃驚してアヤを見ると、封を切ってゴムを取り出した。慣れた手つきで隆のモノにゴム皮膜を被せ、右手で握ると優しく時に激しく緩急をつけながら上下に擦る。左手はやわやわと袋を刺激する。
アヤのテクニックに翻弄される隆。しかも上り詰めそうな瞬間に力を抜く、茎だけでなく先端も指で撫でるなどといった複数の技を組み合わせてくる。
しかし気持ちよくさせてもらってるだけでは申し訳が立たない。隆はお礼の意味も込めて胸を揉み身体を撫で、腰を突き上げて揺すりアヤの股間を刺激してあげる。
隆が胸を優しく時に激しくと愛撫する度にアヤは敏感に反応してくる。そんなに女性経験のない隆が愛撫するだけでもこれだけ反応してくるのだから、中の女性はきっと感じやすい質に違いない。その様子が楽しくて隆は愛撫する手を緩めずさらに執拗に責め立てる。尻の方から手を伸ばし指を這わして股間を直接刺激してやる。するとアヤの動きも一層激しくなった。激しくなればなるほどアヤも隆のモノを激しく扱き上げる。
そうしてるうちに隆の我慢も限界に達してきていた。アヤにぐっと握られた刹那、堰を切ったように白濁を吐き出した。ゴム皮膜越しに何度も噴出する。今まで経験した中で自分で処理した分も含めて一番気持ちよかったかもしれない。
と同時にアヤもひくひくと大きく腰を揺らしていた。どうやらアヤも達したらしい。
枕元にあるティッシュを数枚手に取ると、アヤはやはり慣れた手つきでゴムを外しティッシュで拭って後始末をしてくれた。達した後で敏感になっているところにきて丁寧に残滓を拭き取っている刺激に、隆のモノはやや鎌首をもたげた。
しかし壁に掛かった時計を見ると残り時間は十数分しか残されていなかった。さすがに第二ラウンドをそれだけの時間で済ませるのは難しそうだ。隆は諦めてトランクスの合わせ目に息子をしまい、アヤを乗せたまま上半身だけ身を起こした。
残りの時間を惜しむようにアヤの背中に手を回すと、ぎゅっと抱きしめた。アヤもそれに応えるように隆の背中へ手を回して身を預ける。隆の胸元にふくよかなアヤの胸が柔らかく押しつけられる。そのまましばらくアヤの抱き心地を味わった。
やがて電話が鳴り時間終了を告げられた。隆は手早く着替えもう一度アヤに近づき唇にキスをした。そしてそっと耳元に囁く。
「とっても良かったよ。ありがとう」
その言葉にアヤは頬に両手をやり身体を左右に揺らした。嬉しいやら恥ずかしいやら、といったところか。
隆は入り口まで歩いていくとアヤに振り向いた。
ベッドに座り込んだアヤは変わらぬ微笑みで手を振って見送ってくれていた。
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