Doll Club(3)-「NEXT STEP」 [戻る]
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 気づけば隆はすっかり「DollClub」にはまっていた。酒もタバコもやらない、ギャンブルもしない。趣味らしい趣味といえばたまに見るアニメとパソコンゲームぐらい、ここ最近では着ぐるみにはまっていたとは言え多額の出費がいるのは面を買うぐらいのものである。
 そんな調子だから隆の手元には入社以来からのボーナスがかなりの額あった。電化製品などの大きい買い物はそれなりにしているけれども、預金通帳には結婚資金にでもしようかと思っていたぐらいの預金があった。
 その残高があり得ない桁数になった頃。隆は自分が既に八回も「DollClub」に通ったことを改めて認識した。さて、どうしたものかな、と。ちなみにアヤを五回も指名している。
 あと一回行けばタダになるなあ。いくら会員価格でちょっと安くなるっていっても、ちょっと苦しいなあ。仕事が必ず定時で終われば夜バイトでもするんだがなあ。あぁ、また行きたいなぁ。

 そんなことを漠然と思っていたある日、家に帰り着いた隆は請求書などの郵便物の中に変な封筒を見つけた。
 白い封筒に印刷された宛名ラベル。明らかに怪しいダイレクトメールのようだ。
 普段ならすぐゴミ箱へ放るところだが、何故だか気になって裏をひっくり返して差出人を見た。そこには見慣れた「DollClub」の文字が。
「はぁ?」
 「DollClub」からのダイレクトメールとは面妖な。でも、もしかしたら「無料招待券」とか入ってたらラッキーだよな。そう思って他の郵便物を放り投げてそのダイレクトメールのようなものの封を開けた。
 中から出てきたのは二枚の紙。一枚目にはこんなことが書いてあった。

和田様
前略 平素は当店をご愛顧頂きありがとうございます。
;さて、今回和田様にとって耳寄りな情報をお届けします。入会時に答えて頂きましたアンケート内容に基づくマッチングメールでございます。 是非内容をご検討いただきたいと存じます。
もし、ご不要の際は誠にお手数ですが破棄ください。
それでは。
草々
「DollClub」
「ふーん」
 相変わらず素っ気ない。その素っ気なさからして多分本当に「DollClub」から発せられたものなのだろう。そう思って二枚目をめくって見る。

アルバイトのご案内

短時間! 高収入!
あなたも「美少女着ぐるみ」になってみませんか?

「なんじゃそりゃ!?」
 いきなり踊る怪しさ爆発の煽り文句。「短時間! 高収入!」って、マルチまがいじゃないんだから。
 極めつけは「美少女着ぐるみになってみませんか」と来たもんだ。「これホントに『DollClub』が送ってきたものなのか?」と隆が訝しんでも不思議ではない。
 でも。
 本物だったら結構いい話だよな。全部読んでみてから考えてみても損しないし。そう気を取り直して続きを読んでみることにした。

空いた時間を利用して着ぐるみを着てみませんか?
あなたのご都合の良い曜日・時間で高収入!

時 間:二時間単位で好きなだけ
(労働基準法の関係で一日十時間までとさせて頂きます)
曜 日:週一日より自由にシフトを組んで頂きます。
給 与:時給二五〇〇円
勤務地:新宿
その他詳細はお電話をいただいた後面談でどうぞ。
電 話:〇三-三XXX-XXXX
 全部読んでみても胡散臭さ大爆発の内容である。第一、どこが募集しているのか会社名すらない。
「うーん」
 隆はうなってしまった。
 条件はかなりいい。いや、とびきりいい。「時給二千五百円」なんて、今日び高給バイトの代名詞である塾講師のアルバイトでもあり得ない。それこそ女性が夜の仕事でこれくらいが相場である。
「でもなぁ……」
 丸めてゴミ箱に捨てられない事情が差し迫って隆にはあった。実際懐事情はそこまで悪くなっていないが、このままでは行きたい「DollClub」にも行けやしない。これはかなり辛いものがある。
 加えてここ最近、集いに出かけても着ぐるみと遊ぶより自分が着ぐるみを着て遊ぶ方が増えてきた隆。自分が遊ぶ方は「DollClub」で存分に満たされているので、どうしてもその他一般の着ぐるみと遊ぶ気がしない。それよりも、自分が着ぐるみになって他の人を喜ばせる方にちょっと快感を見いだしてしまっている自分がいる。
 その辺りも手伝って、この手紙を放れない。ちらっと時計を見れば夜の七時半。まっとうな会社ならば今から電話しても無理だろう。
「明日、電話してみれば分かるか」
 そう呟いて手紙を自分の鞄に仕舞うと、日課であるウェブサーフィンに精を出す隆であった。

 同僚から昼食に誘われるが全て断り、牛丼屋で手早く食事を済ませた隆は、会社の近所にある公園に来ていた。周囲を油断なく見回し見知った顔がないことを確認する。
 背広の内ポケットから小さく折りたたまれた昨日の手紙を取り出すと、携帯電話のボタンを押す。
 数回の呼び出し音の後、相手が出た。
「もしもし」
「あの、ダイレクトメールを見て電話を差し上げたんですが」
「あ、アルバイト募集の方ですね。お名前よろしいですか?」
「和田と申しますが」
「和田様ですね、しばらくお待ちください」
 電話の向こうで何やら調べているようである。
「お待たせいたしました。面談のお時間は如何致しましょうか?」
「えーっと、何時頃まで大丈夫なんでしょうか?」
「和田様のご都合に合わせますので、ご都合のよろしいお時間を仰って頂けますでしょうか」
 普通こういう面接だったら、昼間の時間にやらないんだろうか。
「じゃあ、仕事帰りがいいんで今日の十九時にお願いしたいんですが」
「十九時ですね、かしこまりました。では、面接会場の案内をお送りしますので、メールアドレスをお願いします」
 地図はメールで来るらしい。隆はいつも使っているフリーメールのアドレスを教えた。これなら会社からでも確認できる。
「それでは本日十九時にお待ちしております。お越しの際は必ずDollClubの会員証をお持ちください。お忘れになりますと面談が行えませんので、必ずお持ちください」
 念を押すからには絶対いるのだろう。でも、何故いるのだろうか。不思議な話だがそういう指示なら仕方がない。会員証なら財布に入っていて肌身離さず持っている。
「分かりました。宜しくお願いします」
 そう言って隆は電話を切った。

 寄ってくる上司が残業を言いつけそうになるのを寸前で回避し、隆は定時で会社を出た。地図のメールはこっそり仕事の合間に読んでみた。その地図が妙だった。
 どこかのビルの五階らしいのだが、そのビルというのが「DollClub」の入っている建物の斜向かいなのだ。しかもメールにも「会員証を必ずお持ちください」と太字で大きく書いてあった。不思議すぎる。
 そんなわけで行き慣れてる場所への地図は不要なので、隆はメールを印刷しなかった。迷うようなら八回も通っていない。
 看板も目印もないそのビルへ辿り着くと、エレベータに乗り込み「5」を押した。今度はエレベータのところにも郵便受けにも何の張り紙もなかった。
 エレベータが開くと正面に「面接は一番奥の部屋です」と張り紙がしてあった。降りて左右を見渡すと左に二部屋、右に三部屋あるようだ。隆は指示されているとおり右奥の部屋へ進んだ。
 扉の横にカードリーダがあり「会員証を通してください」とある。これで解鍵するから会員証がいるのか。確かに忘れたら面談できないな。納得はしたものの、「DollClub」との関連性が全く見えない。
 不思議な気分満載で中に入ってまた驚く。内装が「DollClub」のプレイルームそっくりだったからだ。というより、プレイルームそのものと言ってもいい。
 テレビに電話にカラーボックス、クローゼットにダブルベッド。ちょっと違うのはソファーが二脚あって真ん中にガラステーブルが置いてあるところだけだ。
 ちょっと早めに来たので中には誰れもいなかった。仕方がないのでソファーに腰を下ろして面接官が来るのを待つことにする。
 しばらくして入り口のドアが開くと、二人の人間が入ってきた。一人は見た目二十代後半の男性、もう一人は、着ぐるみ。と言うよりアヤ。
「%#※$□△&○●*~~!!」
 声にならない叫び声と共に目を白黒させて隆は驚いた。ここに何故アヤが。
「はじめまして」
 と丁寧に挨拶をして男性は名刺を差し出した。そこには「DollClub マネージャ 高尾久志」とある。
「あ、どうも。頂戴いたします」
 咄嗟に立ち上がって両手で名刺を受け取る隆。この辺りが悲しいサラリーマンの性かもしれない。
「どうぞお座りください」
 そう言って高尾は促す。言われるままに隆は腰を下ろした。
「何かお飲みになりますか?」
「はあ。じゃあ、アイスコーヒーを」
「アヤ、アイスコーヒー二つ持ってきて」
 高尾はアヤに指示を出し自分も隆の向かいへ座る。
「いつも当倶楽部をご愛顧頂きましてありがとうございます」
「あ、いえ。こちらこそ」
「それで、早速なんですが」
 と高尾は紙束を隆の前に差し出した。表紙に「DollClub製着ぐるみについて」とある。にぎにぎしく「For Your Eyes Only.読了後は確実にご返却ください」と赤で注意書きまでされている。
「当倶楽部で使われている着ぐるみは、材質や製法その他に至るまで全て特注品となっています。まあ、和田様自身で体験されておりますのでいちいち私の方からは説明不要と思いますが」
 中をめくると「DollClub製着ぐるみの特徴」から始まり、いろいろと特徴が箇条書きされていた。確かに読まなくてもアヤを見ていれば特注なのはよく分かる。
 そこへアヤがアイスコーヒーをトレイに乗せやって来た。
「ありがとう」
「あ、ありがとう」
 隆と高尾の前にグラスを一つずつ置き、高尾の横へ腰を下ろした。その一挙手一投足が気になって、隆は横目でちらちらとアヤの様子を窺っていた。その視線に気づいたのか、高尾から見えない位置でこっそりアヤが左手を振った。それを見た隆はばつが悪くて慌てて目の前の資料に視線を移す。
「そのおかげでお客様には大変ご好評をいただいているのですが、一つ難点がございまして」
 とそこで高尾は言葉を切った。
「中に入る人間、すなわち内臓のことなんですが、どうしても体力を必要とするんですね。ですから、どうしても女性の方にお願いすることが出来ないんです」
「はぁ……。はぁっ!?」
 軽く受け流す予定だったが、ダブルテイクで隆は驚いた。
 「女性にお願いできない」イコール「男性にお願いしてる」に他ならない。ということは、「DollClub」にいる着ぐるみは、全員男性が内臓ということか。じゃあ、この目の前にいるアヤも、いや今まで指名したあの娘もあの娘もみんな、男が演じていたというのか。
 隆は少なからず衝撃を受けた。別に嫌悪感はない。内臓がどうであれ見た目可愛ければそれでいい、と隆は考えているからだ。それよりもみんな凄すぎる。内臓が男性なんて全然気づかせない特注着ぐるみもそうだが、演技力というかそういうのも並大抵のものではないだろう。普通どんなに努力したって骨格が違うのだから、どうしても男性っぽいところが出てしまう。
「そこで、頂きましたアンケート結果を基に、内臓をお願いできそうな方にこうしてお声をかけている次第なんですね」
「はあ」
「もちろん、なかなか着こなせるものでもございませんので訓練期間も設けてありますし、最初の面談の時に適性検査も兼ねてお試しいただくことにしていただいております。あ、四ページ目から先は着方の解説になってます」
 衝撃の事実が証されるあまり、隆は気の利いた返答が出来ない。所在なげに資料をめくると高尾の言ったとおり四ページ目から写真入りで詳細な解説が載っていた。
「で、こちらがその着ぐるみの装備一式になります」
 気がつくと目の前に段ボール箱が一つ。隆が中を覗き込むとショートボブの愛らしい顔つきの面がこちらを見て微笑んでいた。
「まあ、いろいろ口で説明しても今ひとつイメージが掴めないと思いますので、実際にお試しください。その上で内臓としてやっていただけるかをご判断ください。もちろん、やって頂けるのでしたらアフターフォローも含めてきっちりこちらでバックアップさせて頂きます」
「……わかりました」
 実物を目にして、隆はかなり「やってみたい」方に気持ちが傾いていた。しかし、本当に自分に務まるのだろうか。
「訓練期間の長さは特に設けておりません。こちらで問題がないと判断し次第、お店の方に出て頂くことになります。訓練の間は既に働いている着ぐるみがきちんと指導いたします。和田様の担当はこのアヤが行います」
 高尾がそう言うと、アヤが「よろしくね」と頭を下げた。
 アヤが教官なら一も二もなくOKである。いや、むしろ積極的にやりたい。
「よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。では早速適正を判断させて頂きたいので、着替えてください。私の方はここで失礼いたしますが、アヤが指示しますのでそれに従ってください」
「分かりました」
「では、お店でお逢いできるのを楽しみにしております」
 そう言い残して高尾は部屋を出た。





「じゃあ、よろしくお願いします」
 つい丁寧に頭を下げる隆。「こちらこそ」と言わんばかりにアヤも丁寧にお辞儀をする。
「まずは……、服を脱ぐのか」
 説明書きを見ると、まず最初の指示が「全裸になれ」とある。パンツも含めて全部脱げ、ということなのだろうか。
「これって、パンツも脱ぐの?」
 隆はアヤに尋ねる。すると、どこから持ってきたのかアヤがスケッチブックにサインペンで何やら書き始めた。
『そうだよ(恥)』
 なるほど。アヤは話せないからこうやってコミュニケートするのね、と隆は妙に感心してしまった。今まではこちらが何か尋ねるとそれにジェスチャーで答える程度だったので、このやり取りの仕方は新鮮だった。
 別に今までアヤの前でパンツを脱いだことがないとは言わないが、何となく気恥ずかしい思いがする。しかし教官の指示とあらば仕方がない。すぱっと隆はトランクスを脱ぎ捨て全裸になる。
「次は、と」
 次の指示は「性転換パットを穿け」とある。なんじゃそりゃ。
 箱の中を漁ると、シリコンのような素材で出来たブリーフ型の物体が出てきた。きっとこれのことであろうと判断すると、隆は両足を通し、ふと気になりアヤに訊いてみる。
「ねえ、これって上向き? 下向き?」
 そう、男性のシンボルをどう納めていいのか判断できなかったのだ。しかも、説明書には記述がない。
『……上向き(恥)』
 アヤはもじもじとしてから、サインペンでひときわ小さく書いた。
「あ、そう。ありがとう」
 恥ずかしそうに答えるアヤの仕草に、隆もつい恥ずかしくなってしまう。慌てて腰までパットを引き上げる。すると、女性のようななだらかな股間が出来上がった。一つ違うのは女性のような性器の形はしておらず、つるんとしたなめらかな股間になった。これなら目立たないな、と変な関心をした隆は、ついその丘を人差し指でなぞる。
「おあっ?」
 指で触った感覚が、パットの中の隆自身に伝わってきた。思わず引け腰になる。
『触った感触が伝わるように出来てるの。気にしないでね』
 その様子にアヤが説明をする。気にしないで、と言われても。こんな敏感に伝わったら大変なことにならないんだろうか。何が大変かは賢明な読者諸氏なら分かると思うが。
『パットが吸収してくれるから安心していいよ(恥)』
 やはり小さい字でアヤが補足してくれる。字が小さいのはやっぱり恥ずかしいことなんだろうか。
 まあ、先輩が大丈夫というのだから大丈夫なのだろう。そう思って次の説明に移る。
 「矯正スーツを着る」。
 箱の中を見ると、やはり肌色のシリコンのような素材のウェットスーツのようなものがあった。取り出してみると頭の先から足の先まで覆うようになっていて、胸と尻が女性のようにふくよかに作られていた。
 頭の部分を見ると全体がのっぺらぼうで、目の部分が覗き窓のように銀色の何かが張り付いていた。きっとここから視界を確保しているのだろう。中を見てみると鼻と口の部分にチューブのような物が生えている。なるほど、ここから股間に向けてチューブが伸びていて、そこから呼吸しているんだな。外から股間の部分を観察すると、かなり控えめに女性器の形がかたどってあり、陰唇のところに細くスリットが開けられていた。
 観察してても仕方がないので、隆はそのスーツに両足を通し、腰の辺りまで引き上げる。さすがに女性の体型へ矯正させるためか、腰の辺りがかなり締め付けられる。どうにかこうにか格闘しながら両腕を通して肩まで着る。説明書の指示通り頭部を被り鼻と口へとチューブを装着する。
 背中のファスナーを閉じようとしたが、上手く背中に手が回らない。手をばたばたさせてうーうー唸っていると、背後にアヤがやってきてファスナーを閉じてくれた。「ありがとう」と隆がお辞儀をすると、アヤがそれに応えて小首を傾げた。その様子がはっきり見えたので視界は大丈夫だな、と隆は思った。
 しかし、想像していた以上に呼吸が辛い。着ぐるみの面は何度となく被っているから息苦しいのには慣れていたが、それでもこれはちょっと大変そうだ。しかし、我慢できないほどではない。慣れれば大丈夫そうだ。
『苦しくない? 大丈夫?』
 やはり先輩として心配なのだろうか、アヤがスケッチブックに書き込んで隆の目の前に差し出す。指でOKサインを出して答えておく。
『普段着るみたいに大きく深呼吸をする感じでね』
 アヤがアドバイスをくれる。
 次は全身タイツ。これは普段着慣れているので問題ない。と思いきや、矯正スーツのせいでなかなか手強い。しかも、タイツがスーツの太股や股間、胸の部分を通っていく度、隆のモノが敏感に刺激される。その度に腰が引けてしまう。
『最初のうちは刺激が強いと思うけど、そのうち慣れるから気にしないでね。あと、我慢しなくていいから』
 いや、気にしないで、と言われましても。こんなに刺激されたらさすがに我慢できないだろう。何が、とは聡明な読者諸氏なら説明不要だろう。
『慣れる、ってアヤはもう慣れたの?』
 やはり気になるので隆はスケッチブックへ書き込む。
『まあ、ね。でも、触られちゃうと…(ごにょごにょ』
 そういうことはやっぱり恥ずかしい様子で、アヤの書いた文字は次第に小さくなっていた。
 そんなやり取りがあった後、アヤの手伝いで何とか着終わる。
 最後は面だ。中を見てみると、目の部分以外は全面ウレタンが張ってあり、しっかりと支えて密着するようだ。呼吸のための空間を確保する必要がないのでこういう構造なのだろう。後頭部も二本のゴムバンドで固定されるように出来ており、ゴムも少し強めになっていた。こうやってきっちりずれないようにしてあるらしい。
 これもアヤに手伝ってもらって被る。腕を動かすとタイツが突っ張って胸を刺激する。さっきから間断なく刺激されているおかげで、とうとう隆は達してしまった。腰を小刻みに震わせながらだくだくと液を吐き出す。が、不思議と不快ではない。何らかの仕組みがあって液を吸収してくれるようだ。アヤが「大丈夫」としきりに言っていたのは多分このことなのだろう、と隆は納得した。
 とにもかくにも全ての装備を装着し終わる。
『はじめまして、アキちゃん』
 アヤはそう書いて目の前に掲げる。そうか、この娘の名前は「アキちゃん」なのね。
『こちらこそ、よろしくね』
 アキはアヤからスケッチブックを受け取ってそう書くと、アヤに掲げお辞儀をする。
 アヤはアキの手を取って大きな姿見の前に連れてゆく。ようやく気づいたが、アヤは隆が最初にDollClubで指名した時に着せたウェイトレスの衣装を身にまとっていた。そしてその隣には全裸の着ぐるみが一人。
 顔はややアヤより幼い感じ。胸もややアヤより小さい感じだ。アヤがCカップならアキはBカップか。腰は細く括れ臀部はきちんと出っ張っている。股間も特製パットと矯正スーツのおかげでなだらかな丘を形成していた。
 どこから見ても女性であった。
 中にいる隆はそのアキの姿を見て、感動が心の底から湧き上がってくるのを感じた。この感じは初めて着ぐるみを着て変身した時に感じた感情と同じだ。いや、それ以上かもしれない。
 目の前の自分の姿への感動に浸っていると、アヤがクローゼットから何やら取り出した。そう、自分が着てるのと同じウェイトレス衣装だ。片手に衣装、もう一方は、白いスクール水着。
 アキが水着を持っている手でちらっとスカートの端をめくる。すると、股間の部分が顔を覗かせた。白のスクール水着。
 隆が最初に着せた服をアキにも着せ、「おそろいよ」と言いたいらしい。何という粋な計らい。隆は心底感動した。
 その感動を表すべくアキは大きく頷いてその衣装を受け取る。
 水着に両足を通し肩まで引き上げて両腕を通す。さっき達したばっかりなので気持ちはいいが大丈夫。しかし、呼吸孔を塞いでしまうので呼吸はさらに苦しくなる。
 続いて衣装。ブラウスに袖を通しボタンを留める。しかし矯正スーツにタイツと着込んでいるのでなかなか小さいボタンが留めにくい。アヤが留めるのを手伝ってくれる。
 スカート、エプロンにオーバーニーと順番に着ていき、最後に手首のカフスを付け終わると、アヤとお揃いの衣装を身に纏った着ぐるみが完成した。
 姿見にその姿を写してみる。そのままその場で一回転してみる。ふわっとスカートが広がり、そして太股の辺りにまとわりつく。隆は今にも舞い上がりそうになった。
 「座りましょう」とアヤが手を引きソファーへ連れてゆく。普段慣れているのと見た目より視界が広いおかげで、歩いたりすることに支障はなさそうである。ただし、歩く度に胸が揺れタイツや水着が擦れることによる快感を除けば。
 アヤが腰を下ろすのでその隣にアキも腰を下ろす。途端に息苦しさが一気に増した。さすがにちょっと耐えられないと思い、すぐにアキは立ち上がった。
『大丈夫!?』
 かなり心配になったのか、アヤが顔を覗き込む。
『ちょっと厳しいかな(苦笑)』
 とアキが答える。
 アヤは部屋の隅からパイプ椅子を二脚持ってくると、ベッドの前辺りに広げる。
『多分これなら大丈夫だと思うんだけど』
 アキはそろそろと腰を下ろす。今度はさっきよりも大分ましである。息苦しさが増したことには変わりないが、耐えられないほどではない。
『ごめんなさい。ソファーは深く腰掛けるから慣れないと苦しいよね』
 アヤが何度も頭を下げて謝る。アキは顔の前で手を振る。
『ううん。アヤは悪くないよ』
『でも、私が気づいていればアキが苦しまなくて済んだのに』
『気にしないで。どういう姿勢が苦しいのか今ので分かったから』
 「ね」とアキが小首を傾げる。
『うん。分かった。今みたいに、ダメそうだったらすぐ教えてね。約束だよ』
『はい、先輩』
『先輩なんて大げさね。アキとはお友達になりたいんだから(笑)』
『ちょっとからかっただけ(笑)』
『こら(笑)』
 「めっ」とアヤが頭を叩く真似をする。「きゃっ」とアキは両手で頭をかばった。
『着ぐるみ経験者だからジェスチャーとかは大丈夫そうね。他は大丈夫?』
『うん、やっぱり呼吸が苦しいけど、多分慣れたら大丈夫だと思う。あとは、この気持ちいいのがやっぱり気になるかな?(苦笑)』
『それも慣れるから心配しないで』
『慣れる、って感じなくなっちゃうの?』
 慣れる慣れると言われるとやっぱりそこが心配になる。不感になる、と言うこととは違うのだろうか。
『そういうのとはちょっと違うけど。何って言ったらいいのかな、最初のうちは慣れない刺激だからつい反応してしまうけど、そのうち適応してくるの。こればっかりは身体で覚えてもらったほうがいいのかも』
『ふーん』
 何となくはぐらかされてしまった気がする。
『この刺激っているのかな?』
『胸とか触られて、気持ちいい演技だけって辛くない?』
 おお、そうか。アヤの説明は的を射ている。
『それに、気持ちいい方がいいでしょ?(恥)』
 ひときわ小さい文字でアヤが付け足した。そりゃ、気持ちいい方がいいに決まってる。全く持ってその通り、とアキはうんうん頷いた。
『じゃあ、これからのスケジュールとかを説明するね』
『うん、お願い』
『アキの都合のいい時にトレーニングに来てね。時間制限はないから、アキの気が済むまで着てていいから。でも、絶対無理はしないでね』
『うん、分かった。じゃあ、今度の土曜日でいい?』
『いいよ。何時?』
『うーん、お昼の2時でいい?』
 筆談での会話は続く。一つのスケッチブックに二人で交互に書き込む。自然お互いの肩が触れ、寄り添うような形になる。タイツ越しにアヤの温もりが伝わり、手を動かすたびに肩を髪がさらさらと触れる。時折胸が腕に押しつけられ、柔らかな快感がお互いの股間に訪れる。
『了解。土曜のお昼からはアキのために空けておくね』
『そうなの?』
『うん。トレーニングに配属された娘は、基本的にそっち優先なの。だから、土曜の午後はアキだけのアヤになるの(照)』
 なるほど。マネージャ高尾の言っていた「しっかりバックアップ」とはそういうことなのか。至れり尽くせりで一人前の内臓に仕立ててくれるらしい。
 ちらりとアヤが壁に掛かった時計を見る。
『もう一時間ぐらいだけど、大丈夫?』
 そう言われてアキも時計を見る。確かにそろそろ一時間弱はこの中に閉じこめられてることになる。
『うん、大丈夫。最初は凄く大変だったけど、今はだいぶ慣れてきたみたい』
『すごいな。初めてでこんなに長く着られる人ってあんまりいないよ?』
『そうなの?』
『普通の人だとだいたい三十分ぐらいでギブアップしちゃう。短い人だと衣装に着替える間もなく脱いじゃう人もいるぐらいだし。アキは素質があるのかな。うらやましいな』
 アヤはアキの頭を優しく撫でる。褒められているようで嬉しい。
『そういうアヤはどうだったの?』
 やはりそこは気になる。
『私も最初の時は三十分ぐらいだったかな?』
 あら、アヤでもそんなもんですか。ちょっと意外だった。
『だから、ホントにすぐ順応できてるアキがうらやましいよ。これならすぐ訓練卒業かな?』
『それまでしっかりよろしくお願いします』
 ぺこりとアキはお辞儀をした。
『しっかり訓練してあげるから覚悟してね(笑)』
 冗談めかしてアヤが言う。
『そろそろ脱いじゃう? それともまだいく?』
『ううん。今日はもう脱いだ方がいいのかな』
『そうだね。これから時間はたっぷりあるから、ゆっくり時間をかけてしっかり慣れてね。アキならきっと凄く人気者になりそう』
『うん、ガンバル!』
 アキはガッツポーズを取った。その両手を取ってアヤが励ます。
 アヤに手伝ってもらいながら隆は装備を全て脱いだ。たった一時間足らずであったが、普通に吸う空気が久々のようで心地よかった。凄く汗をかいていたので軽くシャワーを浴びスーツに着替え、アヤに見送られながら部屋を後にした。


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