|
練習が終わって、卓郎と幸一は普段と変わりなく帰って行った。
今でも昨日見たハルカとナツキの中身は彼らだったことが信じられなかった。
「今日の練習はなかなか良かったわ、皆、キャラクターに成りきってきたわよ」
面の向こうで、椅子に腰掛けたのり子さんが僕を眺めていた。表情はいつもと変わらないが、どことなく眼差しには強い光があった。
練習を始めてすでに2時間、この全身タイツは汗じみが出ないかわりに通気性が悪く、中の僕の体はどこも汗に濡れており、特に矯正具と皮膚の間には汗が溜まり、隙間が少ない面と顔の間には汗の匂いと熱気がよどんだようになっている。だから大きく息を吐いても、その熱気が僕の顔の前をぐるぐる回っているだけだった。
普通ならすぐに脱ぎ捨ててシャワーでも浴びたいところだが、僕は昔からこういう状態をあまり不快だと思わなかった。外から閉ざされ、むしろ圧迫感すらあるこの状態でも、時には快感に感じて興奮してしまう。
「チアキ、何から始める?」
「何からって?」
彼女の質問の意味が分からなかったが、僕は内心、昨日のことを思い出して興奮し始めていた。
彼女は立ち上がると、服のまま僕の身体に身をゆだねてきた。
「怪獣の着ぐるみに憧れた話、私それを聞いてピンときたの。」
僕は以前,彼女に話したことを思い出した。それは僕が怪獣の着ぐるみを着ることに憧れた少年時代の話だった。特撮の番組を見ていても、僕が考えているのはヒーローや怪獣の中に入っている人のことだった。
そしていつも僕はその着ぐるみが欲しいと思っていた。これも変身願望の範疇だろうか。特に人間の形に近い宇宙人などのキャラは羨望の的だった。
しかし、子供にそんな願いは叶うはずも無い。仕方なしに僕は夜、布団に入ると、頭から足の先までくまなく掛け布団を巻き付け、全身に圧迫感を感じながら、好みの怪獣着ぐるみの中に入った自分を夢想していたのだった。
そして彼女には言わなかったが、僕の生まれて初めての射精はその最中だった。
「あなたのような特別な人を私は探していたの。」
彼女は僕の面にキスをし、さらに頬の辺りを舐め始めたようだった。それを見ることは出来ないが目を閉じて官能に耽り始めた彼女の表情と、面から伝わる音がそれを感じさせた。
「特別って?」
「あなたは天性の着ぐるみフェッチ、だから思いだけで着ぐるみと一体になれるはず。さぁ、身体で感じてみて。」
少年の頃より密かに抱きつづけた嗜好を実現するために、僕は今のバイトに就いていた。動物の着ぐるみでは物足りないが、たまに特別な企画があって、レンタルされた怪獣や怪人の着ぐるみを着ることがある。長年の夢が叶う瞬間、そんな時、操演中でも僕はしばし絶頂を迎えてしまうことがあった。そして理由を付けては着ぐるみを自宅に持ち帰り、鏡の前でまた着てみるのだった。
彼女は僕の手首を握ると、僕の手のひらを僕自身の胸に押し付け、そして矯正具の胸を揉むように動かした。矯正具の胸だったが、全身タイツの布を通しての感触は本物のようだった。しかも手で押さえられている胸の方も、手の指の動きまでがどんどん伝わってくる。その感触をこらえようとして僕は思わず体をこわばらせた。
「ほらね。作り物の胸があなたの一部になっているのを感じるでしょ。」
彼女は面白そうにさらに激しく手を動かし、ついに僕は我慢出来ずに声を上げてしまった。
「ふふ、声まで可愛くなっちゃって。」
僕はそんな声で喘いだのだろうか。
もう片方の胸を今度は彼女が触り始め、面にキスの雨を降らせていく。いつしか僕も彼女の身体に触れ、彼女の胸をまさぐるようになっていた。
「ちょっと待って。私も着替えるから。」
彼女は僕から離れるとロッカーの陰へと消えた。何を着替えるというのだろう。
僕はチアキのまま椅子に腰掛けて彼女を待った。
そして10分程経って、彼女が姿を現した。
驚いたことに彼女もまた僕と同じ着ぐるみを着ていた。着ている制服も同じで、ただ髪型や瞳の色がハルカやナツキ、そしてチアキとも違っていた。
「ユキコよ。よろしくね。」
ぺこりと頭を下げる彼女の面の奥からのり子さんの声がした。
しかしこちらに歩いてくる感じは、少しスキップをするような感じで、まるで舞台に登場したヒロインのようだった。
「驚いたでしょ。でもこれが私の本当の姿なの。チアキと同じね。」
「本当の姿?」
「そう、私も天性の着ぐるみフェッチ、この姿こそ私のあるべき姿なの。」
着ぐるみがあるべき姿。僕もただ漠然とではあったが、そんなふうに考えたことがあった。
「私ね、子供の頃、デパートの屋上とかでキャラクターショーを見るのが好きだったの。」
そう言いつつ彼女は再び僕の胸へと手を伸ばした。僕の身体は前にも増して敏感になっていて、思わずビクッと身体を強張らせた。
「ふふっ、私もその頃からアニメのキャラクターの中に入ることに憧れたの。」
彼女の片手が僕の着ているブラウスのボタンを外していく。
「そしてバイトで念願のキャラクターになった時、私は自分が何故それに憧れていたか分かったの。」
「分かったって?」
何もしていないのに、彼女の息が少し荒くなった。
僕も彼女の衣装を脱がそうと彼女に向かい合うように座った。
「初めて衣装を着て面を着けた時、何もしていないのに私・・・そう興奮して、楽屋の陰でイッちゃってたの。」
少し恥ずかしそうにユキコは面を俯けた。そのしぐさがゾクッとするほど可愛かった。
そして二人は立ち上がり、それぞれの制服を脱いで下着だけになった。
僕は彼女の下着姿を見た。パンティもブラも僕たちのと違ってレースのフリルが付いた可愛いものだった。のり子さんが普段着けているものかもしれない。
「私、着ぐるみの姿で無ければ感じられないの。」
「それで僕達に?」
「ううん、本当はあなただけに着せたかったの。」
そう言うと彼女は僕に抱きついてきた。
彼女の胸が僕の胸に重なる。その柔らかなぶつかり合いと全身タイツの中を駆け巡る熱気で僕は一瞬気が遠くなるような感じを覚えた。
彼女に押された勢いで、僕達は近くのソファーへと崩れ落ちた。
昨日、ハルカとのり子さんとの情事があった場所だ。
ユキコは僕の上に乗ると、僕のブラを外し、面を僕の胸へと埋めて始めた。
そのユキコの面の奥から熱い吐息が聞こえてくる。その声に僕の気持ちはますます高ぶっていき、ぼくも彼女の下着に手を回し、それを剥ぎ取っていく。
その指の動きに彼女の身体がかすかに反応しているのが分かった。お互い全身タイツ越しとは言え触れる彼女の身体もまた熱かった。彼女も僕と同様すでに汗まみれに違いなかった。
近くにあった鏡に、二人の姿が映っていた。まさしくアニメから飛び出たような少女達のレズシーンがそこにあって、たとえその一方が自分だと分かっていても、鏡の中でうねうねと動く二人の光景に僕の股間は暴発寸前になっていた。
「ユキコ!ダメ、イッちゃう!」
無意識のうちに僕は叫んでいた。着ぐるみの中で僕の人格までもが変わっていくのが分かった。
その声に反応してユキコは突然、僕の股間に手を当てて、矯正具の上からギュッと握り締めた。一番敏感なところへその感触が伝わって、その予期せぬ衝撃で僕はあえなく射精してしまった。
しばらくして、今度は僕がユキコの上になり、ユキコの各部を触り始めた。
全身タイツが彼女の身体の起伏を忠実に現していて、まずははっきり分かる彼女の乳首を指でつまんだり、ときにはつねったりした。
その度に、ユキコは面の奥からよがりともうめきともつかぬ声を発して体を捩じらせ抵抗した。
矯正具ではない本物なのだから、彼女の反応はストレートだった。
さらに指先で彼女の腰や背をなぞるように動かして刺激していく。
全身タイツ越しでも彼女はそうとう感じているらしく、声を上げ、右に左に身体を捩って僕の責めから逃れようとしていた。
「あぁ、チアキ、好きよ、だからお願い、もう・・・」
拒否する言葉と裏腹に、ユキコは僕の腿に股間を擦り付けるようにして動かし始めた。
その動きに刺激され、僕の股間までもがまた熱くなってくる。
ユキコの手がまた僕の股間をまさぐりはじめた。そして彼女の指が矯正具に作られた割れ目の中に無理やり分け入ってきた。
まさかとは思ったが、その部分は樹脂が薄くなっていたらしく、彼女の指はその奥を簡単に破って僕の真下辺りに直接触れてきた。
自分でも普段触らないような場所をユキコの指がスリスリと容赦なく刺激していく。その指は2本になり、刺激に耐えかねて僕は脚を閉じて必死に抵抗するが、もう彼女の悪戯はエスカレートする一方だった。
僕も彼女の部分へと指を差し込んだ。彼女の刺激的な部分に触れたらしく、彼女は声を上げてわめきながら腰を引こうとする。その腰に手を回して動けないようにして、全身タイツの布が邪魔なのに僕がさらに強引に入れると、フッと布の抵抗が無くなった。どうやら布に穴が開いたらしく彼女の部分にも僕の指が直接触れているヌルヌルした感触があった。その瞬間の刺激が強烈だったらしく、彼女は面を横に振って悲鳴をあげた。
それから間もなく、二人とも絶頂を迎えて重なり合った。
事務所からの帰り道、僕は彼女から言われたことを思い返していた。
僕は本当に特別なのだろうか。彼女も同じなのだろうか。そして彼女は僕が好きなのだろうか。
彼女の言ったことを僕はまだ100%信じる気が無かった。
かに着ぐるみの中で今まで無かったほどの異常な興奮に包まれ、矯正具が自分の身体の一部に感じられるほどの瞬間が度々あった。
でも、もっと大きな不安が僕の心を覆い始めていた。
僕は彼女のせいで二度と戻れない世界を知ってしまったかもしれない。
夕暮れの街を、家路を急ぐ僕のバッグの中には、チアキ一式が入っていた。
|
|