着ぐるみ使い(1話)-「マネージャー」 [戻る]
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「もう、そろそろお払い箱かな?」

今にもごみ箱に捨てられそうなほど薄汚れた熊の着ぐるみの解れを手入れしながら、幸一がつぶやいた。
着ぐるみ劇団「ミック」の事務所で僕たちは暇を持て余していた。

「おいおい、明日は久々に仕事だからな。」

卓郎が言う。

明日は近所のスーパーの店頭で短い芝居とチラシ配りの仕事が入っていた。
劇団と言っても団員は僕と卓郎、幸一の3人だけ、着ぐるみもありふれた動物のものばかりでどれも数年の使用でくたびれている。
新しい着ぐるみでも買えればいいのだが、本業の遊園地経営も不振で、僕たちのような学生アルバイトで食いつないでいるこの劇団にそんなお金も無かった。

そんな劇団に一人の女の子が加わった。名前をのり子さんと言った。
もともと遊園地の事務所で働いていたらしいが、有名私立の学生で育ちもよく、裕福らしいことは服装でも分かった。清純な顔立ちに白い肌、肩を越す長い髪、彼女に見つめられると冴えない僕たちも平常心ではいられなかった。
そんな女の子が何故よりにもよってこんな劇団で働くのか分からなかったが、もっと不思議だったのは、彼女は着ぐるみを着ないということだった。つまり彼女の仕事は演技指導とマネージャーだということ。まぁ、 長年使って男の体臭が消えない着ぐるみを着ることに抵抗があるのはごもっともだが。
来て早々、彼女は僕たちの出すゴミでちらかった事務所をせっせと掃除し始めた。そして仕事の時は一緒に荷物を運んでくれ、やがて事務所は綺麗に片付き、人手が増えて仕事も楽になった。

それから1ヶ月後のある日、僕たちが事務所に入ると、机の上にダンボール箱が3つ置かれていた。
新しい着ぐるみらしかった。さっそく開けてみようとすると彼女が部屋に入って来た。

「それぞれに名前が書いてあるでしょ。ハルカが卓郎さん、ナツキが幸一さん、そしてチアキが誠さんのなの。」

女性の名前だったのが一瞬気になったが、3人はそれぞれのダンボールを受け取り、開けてみると、中から出てきたのは、アニメキャラのような女の子の面とセーラー服、体型を矯正する用具、そして白に近い肌色の全身タイツだった。

「これ、俺たちが?この手は経験無いんだけど。」

卓郎と幸一が口をそろえて言った。

「いいでしょ、私の企画なの。さっそく着てみて。」

なんだかうれしそうに話すのり子さんを横目に3人とも戸惑っていた。
こんなの着たくないのもやまやまだったが、仕事だし、何よりも皆のり子さんには誰も逆らえないようになっていた。

「説明書を読んでね、私は外で待ってるわ」

そう言って彼女は出て行ってしまった。

「おい、どうする?」
「最近、ほんと仕事無くて金も無いしな」

そんなことを言いながら僕たちはしぶしぶ服を脱ぎ始めた。

「全裸になれって書いてあるぜ」

確かに全裸の男性の絵に矯正具の着け方が書かれている。なんとあの部分の位置と矯正具との合わせ方まで書いてあった。

「おい、これ見ろよ。」

幸一が矯正具の一部を指差して言う。腰につける矯正具の股間部分には、女性のそのものの形が付けられている。
矯正具は樹脂で出来ているらしかったが、触ってみると柔らかく、その感触は人間の身体に近い感じだった。

「へへへ、ちょっとリアルすぎねぇか、これ」

その部分を触れたりして3人はふざけながら矯正具を装着していく。
矯正具の色は皆白なのだが、各部分はかなりリアルに作られ、胸にはちゃんと乳首まであって全て身につけ終わるとなにやら艶かしく、お互いの姿を見比べながら3人とも静かになった。

「誠、アニメキャラの着ぐるみってこんなにリアルに作ってるのかよ?」

僕は少しだけバイトで着たことがあったが、綿や布を丸めたようなもっと単純なものだった。
余計な想像をしているのが恥ずかしくて、僕はすぐに全身タイツを着始め、後の二人も慌てて着た。タイツもまた普通のものと違って伸縮性に優れているらしく、矯正具の形をそのまま浮き彫りにしていて、さらに艶かしく、慌てて服を身につけようとしてまた驚いた。

「えっ、下着がある・・・」

そう、最初は衣装の中に隠れて気づかなかったのだが、薄いブルーの本物のパンティやブラまで用意されていた。

「何もそこまで」

3人とも同じ考えだったが、リアルな部分、特に胸は薄いブラウスの上からも分かりそうで、とにかく説明書通りに着けてみた。
セーラー服は今風の夏の制服という感じのブルーのチェック、ブラウスは襟が丸くて可愛らしい感じのものだった。
そして最後に面を着けて出来上がった。
3人ともアニメのキャラか何かのようだが見たこと無かった。面の形は同じだったが、髪型や瞳の色が違っていた。

「おい、どんな気分?」

面の奥から幸一が言う。

「う~ん、なんだか変な気分だな。」

卓郎はそう答えたが、僕も同感だった。男がセーラー服姿の可愛い女子学生に変身している。動物の可愛らしさとは異次元なものだった。
そして二人はどうだか分からないが、僕は女の子になった自分を見ながらかすかな興奮に包まれ下半身はずっと硬くなったままだった。

「出来たみたいね。」

気が付くとのり子さんが扉を開けて立っていた。
のり子さんは3人の身体をチェックしていく。その顔つきが何故かいつもと違う気がした。
彼女に言われて3人がそれぞれポーズをとってみる。
この着ぐるみは動物の着ぐるみと違って動きやすかったし、動物の着ぐるみより熱がこもらないのが楽だったが、女の子として演じる時、どう動いていいのか分からなかった。

「3人はオリジナルのキャラクターなの。私が考えたのよ」
「何を演じればいいのかな?」
「私が書いたオリジナルの脚本があるの。それを練習してもらうわ」

なるほど、いよいよ演技指導な訳だ。

3人は女子高の同級生、その3人が繰り広げるドタバタなラブコメがその脚本だった。
すでに声優の吹き込んだテープが用意され、彼女の演技指導の元で練習が始まったが、少し経験のある僕以外の2人はなかなか女の子的な動きが出来ない。
特にハルカを演じる卓郎のそれは酷かった。
卓郎も自分が向いていないことを分かってか次第に練習も投げやりになったが、のり子さんは諦めなかった。
そして練習が終わったあと、ハルカは残され、のり子さんとの居残り練習が始まった。

数日後、幸一が僕に言った。

「この前、居残り練習が終わって出てきた卓郎と会ったんだけど、なんだか変だったんだ。」
「変?」
「うん、僕とすれ違ったのに何も言わないんだ。そして顔を見たら、目が空ろでそう呆然と言うか恍惚というか」
「ははっ、着ぐるみ着ての居残り練習がきついんじゃないかな」
「ならいいんだけど、なんだかあの表情が気になって。」

僕はむしろ卓郎がどんどん上手になっていくことの方が気になっていた。
ハルカの動きからぎこちなさが消えて、どんどん女の子らしくなっていた。それは練習の合間の、休憩の時ですら続いていた。とにかく手足の動き一つ一つが可愛らしい。卓郎はすっかりハルカに成りきっているのだ。
そうなると、こんどはナツキを演じる幸一の動きの悪さが目立ってしまう。そしてとうとう彼もまた、のり子さんから居残り練習を言い渡されてしまった。

それから数日、僕が居残り練習の内容を聞いても、卓郎も幸一も適当にしか答えてくれなかった。もちろんのり子さんも。しかもハルカ同様ナツキの動きもまたどんどん上達していく。
明らかに普段の練習とは違うことをしているとしか思えなかった。
そして僕はとうとう事務所の窓の鍵をこっそり開けておき、帰ったと見せかけて窓から再び事務所へと忍び込んだ。

事務所の中央、練習場所を兼ねているスペースに、着ぐるみを着た卓郎と幸一、つまりハルカとナツキが椅子に腰掛け、それと向かい合ってのり子さんが座っていた。
どこから出して来たのかメトロノームがゆっくりとしたリズムを刻んでいて、それと併せるようにのり子さんが二人に何か話し掛けていた。

「さぁ・・・・目を見て・・・・楽に・・・」

ハルカとナツキは微動だにしせず、もちろん二人の表情など見えるはずも無かったが、何か普段の卓郎と幸一ではない気がした。
突然、のり子さんが立ち上がると、二人の目の前で服を脱ぎはじめた。ブラウスからスカート、ストッキング、みるみる彼女の白い肌があらわになっていく。
そしてついには全裸になった。真っ白な身体にはほくろも無く、まるで蝋人形のようだった。
のり子さんはハルカを椅子から立たせると、ハルカの服も脱がせ始めた。そして下着まで脱がせると、のり子さんはハルカの身体に絡みつくように抱きついた。ハルカものり子さんの身体に手を回し背中や臀部を触り始めた。
本物の女性とアニメキャラの着ぐるみが全裸で抱き合っている。どういうことなのか僕は頭が混乱したままだったが、のり子さんの顔が紅く染まり、熱い吐息を吐きはじめた。
そして横に居るナツキも服を脱ぎ始めた。

さほど明るくない事務所の照明の下、ハルカの身体に絡みつくのり子さんの白い裸体、それはまるでアニメの一シーンのように主人公の女の子が白蛇が取り付かれて締め上げられているような怪しく官能的な光景だった。さらにのり子さんの手はやがて片方がハルカの胸に、そしてもう片方がハルカの股間へと伸びていく。どういう訳かハルカも感じているらしく、身体を時折ビクッと震わせ始めた。
そして二人は近くのソファーに倒れこみ、お互いの脚を絡めて股間を刺激しあい、やがてのり子さんが一段と大きな声を上げて二人は激しく痙攣し動かなくなった。
しばらくしてのり子さんが立ち上がり今度はナツキと絡み始めた。今度は床に倒れこむとナツキの上になったのり子さんがナツキの面に舌を這わせながらナツキの股間を執拗に責め上げていく。ナツキものり子さんの股間に指を入れて、大きく時には早く動かしてはのり子さんをのけぞらせ、そしてそれを延々続けた後、のり子さんの官能の叫びとともに二人とも激しく震えてぐったりとなった。
最後にハルカとナツキが絡み始めた。中身は卓郎と幸一のはずだが、傍から見れば全裸の女の子着ぐるみ同士の愛の行為だった。やはり男だからだろうか、今までになく激しく胸や臀部や股間を執拗に責め続け、力いぱいに脚をからめて股間を擦り付け合い、抱き合っているのが分かった。それを全裸のまま満足そうな笑みを浮かべ、時折舌で唇を舐めつつ眺めるのり子さん。
僕はその光景に興奮しながらも二人が果てるのを見るのが怖くなって、そっと窓から事務所を出た。

その夜は眠れそうに無かった。明日の練習で3人に顔を合わすことより、今日の光景が僕を悩ませ続けた。
そして夜半過ぎ、携帯がメールの着信を知らせた。のり子さんから電話して欲しいとの連絡だった。
こんな夜更けに今まで無かったことだし、今日のことを思い出し怖くなったが、急用かもしれなかったので、電話を掛けてみた。

「誠さん、ごめんね、こんな時間に。」
「うん、どうしたの?」

平静を装うように努力した。

「ふふっ、感想が聞きたくて。」
「感想って?」
「今日の居残り練習を見ていた感想よ」

僕は息が止まりそうになった。

「知ってたのよ、あなたがロッカーの陰で見ていたの。」

僕はショックで何も言えなかった。かすかな笑い声の後、彼女は続けた。

「あれでも練習なのよ、二人を女の子にするためのね。」
「練習って言ったって・・・」

僕はようやく声を出した。

「そう、女の子の着ぐるみを着ても、あの二人は男の子のままだったわ。だから面を着けたら女の子になるように暗示をかけたの。そしてその暗示が解けないよう、私が身体を張って教え込んでいたのよ。わかる?」

分かる訳のなかった。しかし彼女の声を聞いてすでに僕の身体は興奮に包まれていた。

「そうねぇ、レズって女の子らしい行為なのよ、だからレズが出来れば二人の心は女の子になった証拠なの」
「次はまさか?」

思わず聞いてしまった。

「そう、でもあなたには暗示は要らないわ。だってあなたはチアキの着ぐるみを着たら女の子になっているもの。私は知ってるわよ、あなたはチアキになることが楽しいはず。それに時々自分の姿を見てあそこを熱くしてるでしょ。」
僕は驚きのあまり気が遠くなるのを感じた。たしかに内心チアキになることが楽しかった。そして鏡に映る自分の姿に興奮していたことも。

「あなたは自分ではまだ気づいてないかもしれないけど、真性の美少女着ぐるみフェッチなのよ。着ぐるんで少女でいる時があなたの本来の姿なの。だから私は何もしなくていいの。チアキは私を受け入れてくれるわ、そしてチアキも喜んでくれるはず。」
彼女の言葉で僕の中の何かが崩れ去った気がした。

「もう着ぐるみが着たくてうずうずしてるんでしょ。明日は二人だけで居残り練習しましょ、おやすみなさい、チ・ア・キ」

受話器に口づけをする音が聞こえた。僕は受話器を置くと、のり子さんの言葉を心の中で繰り返した。

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