着ぐるみ使い(3話)-「増殖」 [戻る]
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 ・・・夢を見た。

 何も無い白い場所に多数の着ぐるみを着た人が居た。皆床に座ったり寝転んだり、2人、3人、あるいはもっと複数で集まっては卑猥な遊戯をしているようだった。
 目の前にひときわ沢山の着ぐるみ達が集まっていた。中に何かあるみたいだった。かき分けてみると中に居たのはチアキだった。
 無数の着ぐるみ達の全身タイツに覆われた無表情な手が、チアキの身体に伸びて身体のあらゆるところを刺激してく、身体をよじって悶えるチアキ。
 次の瞬間、僕は彼らの真中にいて目の前は沢山の面に遮られていた。髪型や瞳の色こそ違うが皆同じ輪郭で同じように笑顔で僕を見下ろしている。
 逃れようと必死にもがくが、そこから伸びる手が、僕の腕や脚を抑えて自由を奪い、僕のうなじを撫で、乳首を摘まみ、胸を鷲掴みにし、腰や臍の辺りをなぞり、腿の内側をさすり、股間をまさぐり、指を挿入してきた。
 もがけばもがくほど、彼らの手がエスカレートしていく、ああっ、やめろ、んんんんっ・・・


 のり子さんのオリジナル企画、ハルカ、ナツキ、そしてチアキの3人組の寸劇は好評で、劇の合間にも観客と握手やサイン会と僕たちは忙しくなった。
 気を良くした経営母体の遊園地も広場に特設ステージを作り、グッズまで計画までし始めた。
 さらにのり子さんはマスコミなどにも積極的にアプローチし、新聞や雑誌の取材まで来始めていた。
 驚いたのはのり子さんが、演じている僕たちを彼らに取材させることだった。
 着ぐるみの中身が取材を受けるなど常識外れな事で僕は反対だったが、のり子さんは意に返さない。
 案の定、マスコミはこぞって、むしろ滑稽に男が演じていることを伝えていた。僕達の写真と一緒にだ。
 そのせいで観客が減ることを心配したが、意外にもむしろ増えたらしい。
 企画と3人の演技力の勝利よとのり子さんは得意げだったが、僕たちの仕事が世間の知るところとなったのはちょっと問題だった。

 遊園地が休みの日、僕は久しぶりに学校へ行った。
 バイトが忙しくて学校どころでは無かったからだ。しかも遊園地からは劇団の僕達に正社員登用の話もきている。単位落としても就職すれば良かった。
 教室に入るとさっそく何人かのクラスメートから声を掛けられた。
 ほとんどがからかい半分だったが、同じクラスメートの中で信二だけは何故かいろいろ聞きたがり、結局今夜家へ遊びに来るという。
 彼の熱心な態度に何がひっかかりを感じながらぼんやりと久々の授業を受けた。

 彼が来る前に家に帰ると、荷物がひとつ届いていた。
 以前、見た箱だった。そう、チアキが入っていたものと同じものだった。
 開けてみると、やはり着ぐるみ一式が入っていた。チアキより少し丸顔で髪は短く目は紺色、服はチアキ達と同じ制服だった。
 一瞬、着てみたい衝動に駆られたが、信二との約束時間が迫っていたので、すべて箱に戻し部屋の隅に置いた。
 やがて信二がやってきて、最近の学校の様子などしばらくよもやま話が続いたが、目がきょろきょろと落ち着かない。
 何か相談があるんだろと促すと、ちょっと恥ずかしそうな顔をして話し始めた。

「実は俺、この前に遊園地へおまえを見に行ったんだ。」
「あはは、何照れてるんだよ、恥ずかしいのは俺の方だよ。」
「いや、こんなこと言ったら変と思うかもしれないけど、おまえ冗談抜きで可愛かったよ。その何て言うかその・・・。」

 言うべきがどうか躊躇っているようだった。僕は胸騒ぎを感じながら次の言葉を待った。

「いやその・・・羨ましくってさ。おまえがさ。」

 信二は顔を俯けて黙ってしまった。
 僕には理解出来た。彼にとっては精一杯の告白なのだろう、相手によっては大恥じをかきかねないリスクを覚悟で言ったのだ。
 僕を信じて打ち明けてくれたことが嬉しかった。
 そして僕の視線の向こうに、さっき届いたばかりの箱があった。

「おまえもなってみる?」
「えっ?」
「今、新しい着ぐるみがあるんだ。着てみるか?」

 
 のり子さんの次の企画に合わせて、劇団にも新しい団員が入ってきた。皆素人らしいが我々のことはよく知っていて、のり子さんの面接で選ばれた男性女性それぞれ5名づつ。すぐに新しい脚本に合わせて作られた着ぐるみを着て練習が始まった。
 経験者と思えるぐらい新しいメンバーは僕らと違って筋がいいらしく、前と違って練習はどんどん捗っていく。
 もちろんのり子さんの居残り練習も無かった。
 そして僕は家に帰ったら帰ったで信二や何人かの人が着ぐるみを楽しむのを手伝ったりしていた。
 皆、直接、または紹介されて僕のところにやってきた人たちだった。
 どちらかと言うと大人しい感じの人が多いが、着ぐるみを着ると別人のようにはしゃぐ。そしてその姿を写真に収めたりしていく。
 身の回りで着ぐるみを着る人がどんどん増えていく、それが何か不思議な感じだった。こんなに着ぐるみに惹かれる人間が居るとは思わなかった。

 そして遊園地での新しい劇がスタートした日の夜、のり子さんから、新しい着ぐるみ劇のお披露目記念パーティがあるので来て欲しいと有名ホテルに呼び出された。そんなパーティ、今まで聞いたことが無かったが、言われるままにチアキ一式を持ってそのホテルを訪れた。
 案内されて33階のエレベータを出るとのり子さんが待っていた。

「ようこそ、チアキ。さぁ、あの控え室で着替えて。」

 控え室に入ると部屋の隅に沢山のバッグが置かれていた。中には見慣れたものもある。卓郎や幸一のだ。新しい団員達のもあった。しかしバッグはその倍以上も置かれている。何かショーでも行われているのだろうか?
 小さな不安をもちつつ、僕はチアキへと着替えた。
 最後に髪を整えて控え室を出ると、そこに着ぐるみが一人待っていた。ユキコだった。
 前と同じ制服姿、しかし明るい周囲のせいか華やいで見えた。あの時は気づかなかったが、すらりと姿勢が良く、腰も胸もほどほどでバランスの取れた体格はより魅力的に見えた。
 そして僕はあの日のことを思い出してしまい、つい下半身に力が篭った。

「お久しぶりね。元気にしてた?」
「いったいいつ着替えたの?」
「ふふっ、本来の姿に戻るのは容易いのよ。」

 ユキコはそう言うと、僕と腕を組んでパーティ会場へといざなった。
 その会場に入った時、僕は我が目を疑った。
 本来はVIPルームなのだろうか?30畳ほどの広さの部屋に、着ぐるみがざっと30人は居るだろうか。皆、髪型は様々だが同じような面に同じ制服を身に着けている。そして会場のそこここに置かれたソファーやベッドに座って思い思いの相手と談笑しているようだった。

「驚いたでしょ。」
「皆、何者なの?」
「劇団の人たち、それからそのファンね、特に熱烈な。」
「ファンまでが着ぐるみを着て?」
「そう、憧れがその対象との同一化を望むの。そして着ぐるみを着ることが好きになるのよ。」

 着ぐるみを着ることが好きになる、その言葉が何故か僕の心の中で響いた。
 僕はユキコと近くのソファーへ座った。改めて周囲を見回した。やはり面は一つ一つが少しづつ異なっている。しかしちょっと見た程度ではこの中に居るであろう見慣れたはずのハルカやナツキすらその判別をするのは難しかった。

「私は自分で着ぐるみを着るのが好きだけど、人に着せてその人を着ぐるみの虜にしちゃうのも好きなのよ。これってちょっとした快感だと思わない?」
「これは君の趣味の成果だね。」
「いいえ、あなたのよ。」
「えっ?」
「そろそろあなたに本当のことを話す時がきたわ。」

 ユキコはそう言うと向き直った。面の奥の目が光ったような気がした。

「実は今まで隠していたけど、私の目的は劇団のマネージャーじゃないの。ある組織のエージェント、任務は“着ぐるみ使い”」

 そして彼女は何ら臆することも無く、ある秘密組織の指示でまず我々3人に美少女着ぐるみを着せ、自分の仲間となるように教育した事。その僕ら3人を舞台に立たせ、またマスコミに出すことで潜在的な美少女着ぐるみ嗜好の人間をおびき寄せ、同じ着ぐるみを与えることで、彼らも3人と同じよう教育いや洗脳し、さらに着ぐるみを着る人間を増やす計画であることを語った。
 僕は彼女の背後に何かがあることを薄々気づいていた。そして彼女の術中にはまっていることも。しかし、僕たちを使ってこんなに多くの人間を巻き込んでいたとは。そしてもしかしたら・・・。

「そう、この中には信二さんとか、あなたが誘った人達も居るわよ。」

 僕は足が震えて止まらなかった。

「卓郎さんや幸一さんはもはや着ぐるみを着ている限り私の言いなりになるわ。そしてここに居る人たちも。あなたを除いてね。」
「着ぐるみを着たぐらいで、何で君の言いなりなんかに。」
「試してみる?」

 そう言うと、ハルカとナツキを呼び寄せた。
 それぞれ別方向から二人はやってきた。見慣れた面に髪型、そして体格。僕にはそれが卓郎と幸一であることが分かった。

「チアキを絞め殺して!」

 ユキコが言い終わるやいなや、二人の手が伸びて僕をぐっと押さえつけた。そしてナツキの手が僕の首を思いっきり絞め始めた。何の遠慮も無い絞め方だった。必死にもがくが僕を抑えているハルカの力も強い。
 苦しさのあまりフッと意識が遠のく瞬間、ユキコの制止する声がした。
 僕は咽ながらその場に倒れこんだ。
 涙に滲んだ視界で二人がその場を離れていくのが分かった。

「分かった?彼女達は私の操り人形でしかないの。だから余計なことは考えない方がいいわ。」

 いつのまに部屋が薄暗くなり、周囲の着ぐるみ達は何事も無いかのようにそのパートナーとの距離を狭めていた。
 僕は恐怖の中で呆然とその光景を眺めていた。

「あなたの着ぐるみ姿は人をこの世界へと惹きつける魅力があるの。ご存知?」

 いつのまにか彼女の面が僕のすぐ横にあった。彼女の熱い手が僕の腕を強く捕らえて離さない。

「あなたの周りにはあなたと同じようになりたいとう願望のある人が集まってくるの。その人達を私はただ料理しただけ。」

 僕にそんな力があるとはとても信じられなかった。でも信二の告白が胸に蘇ってくる。
 テーブルを挟んで向かいに座ったカップルがタイツに覆われたお互いの腿をなであっている。
 そして制服の上着の下から手を入れてお互いの胸をまさぐり始めた。
 ユキコの身体が覆い被さってきて、僕は無抵抗にされるがままにしていた。
 他の着ぐるみも僕の周りに集まり始めた。
 喘ぎ始めたユキコの背後で笑顔以外の表情が無い着ぐるみ達が僕を見下ろしている。そしてそこから伸びた表情の無い無数の手が全身タイツに覆われた僕の身体中を支配していく。
 その卑猥な動きが僕の心をバラバラにしていった。身につけた矯正具や通気性の悪い全身タイツの中に溜まった汗がヌルヌルした感触に変わり、彼らの手の動きをさらに感じやすいものになっていた。。
 熱い股間に誰かが指を挿入してきた。一瞬、身体がビクッと反応したが、もはや抵抗は出来ない。ユキコだろうか、あの時の動きに似ている。しかし、別の指も挿入してきた。動かぬ人形と化した僕を皆が嬲り者にしている。
 最後の力を振り絞って反抗を試みた。しかしすぐにそして前にも増して強くソファーに押さえつけられた。
 僕は無駄な抵抗を止めた。
 彼らをこの姿にしてしまったのは僕なのだ。もう引き返せない。
 僕は魂と引き換えに快楽の沼へと沈んで行った。


 炎天下の下、僕は汗だくで観客と握手をしていた。
 時折、子供に混じって大人も居る。
 僕は自分のオーラを受け取ってくれる人がどういう人か大体分かるようになっていた。
 握手の列に並んだ学生っぽいカップルの彼と面の奥の僕と目が合った。
 どうだい、可愛いだろ。君もなれるんだよ、こんな女の子に。
 彼の目の前で僕はスカートの裾を両手で持ち、可愛く腰を落として挨拶した。
 握手の後、しばらく彼は僕を見つめていた。そして離れていった。
 間もなく彼女と別れるだろう。そして僕の仲間になるんだ、フフフッ・・・


おわり


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