お嬢様物語:フローラ(3話) [戻る]
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 マユに渡されたレオタードとショーツ、そしてパンストを手に、渋々着替えに行くマオ。
 隣の部屋の電気を付けると、パツパツの身体とドレスの締め付けに耐えながら、背中に手を回してドレスのファスナーを下ろす。
 マオの身体でこういう行為を行うこと自体、相当に感じることなのだが、今の浅川にはその後に待っているであろう官能の世界を想像すると、ますます興奮が高まっていた。

 手際よくドレスを脱ぎ、下着を取り払ったマオは、一瞬だけホッとする全裸になった。全ての衣装が取り払われたことでかなり快感も収まり、呼吸も楽になるのだ。
 とは言っても、まだマオの身体そのものの締め付けと、胸などの各部の揺れから来る快感が収まっている分けではないので、実際には開放感と言うにはちょっと苦しい。
 だがそれでも、この開放感を味わうと、改めてマオの身体に衣装を身に纏うことが、どれだけ大変なことなのかがよく分かるのである。

 一時の開放感の後は、いよいよ下準備である。
 まずはショーツ。これはレオタード用の物でハイレグカットがキツイが、この程度の物は既に履き慣れているのでマオは特に苦もなく履く。もちろんフィット感は強烈で食い込みも強いのだが、それでも今までの数々の修羅場を思えばこの布一枚ぐらいでは問題にはならない。
 次にパンストである。これも履き慣れた物で特に苦もなく履く。多少サポートが強いが、それでもこれまで履いてきた強力なサポートタイプの物に比べれば楽な物である。
 そしてレオタード。レオタードは胸の部分にはカップがあり、マオの胸が収まるようになっていて、これも問題なく着られる。マオには少々小さいサイズではあるが、それでもまあ耐えられるレベルの物だった。

 浅川は、マユの用意した物だからもっと凄い物なのかという想像があったので、少しだけ拍子抜けだった。
 もちろん3枚の布が重なった場所からの呼吸は苦しいのだが、先程までのドレスのように籠もることもなく、一緒に履いていたタイツ程厚手でもなくショーツも薄いので、むしろ少し物足りないぐらいに思っていた。

 とりあえずレオタードを着終えたマオは、今に戻る。

『着てきたわよ。』

 マオは少し不機嫌そうに言う。

『うわぁ、お嬢様綺麗~』
『さすがですわ。スタイルも抜群です。』

 2人は少しお世辞を言うと、マユが着ぐるみのタイツをマオに手渡す。

『じゃあお嬢様。早速これを着て下さい。』
『え・・ええ。分かったわ』

 マオはタイツを受け取ると背中のファスナーを開き、後ろから入り込むようにして着込んでいく。
 足の先から順番に履き、腰まで履いたら今度は両手、そしてタイツの中に肩を入れ、最後に首のフードを被る。

『あ、背中のファスナーは着太郎さんに手伝って貰いましょうよ。着太郎さんは趣味でご自分でも持っているようですから手慣れているはずですし。』

 マユは着太郎に、マオのタイツを閉じるようにお願いする。

「え?ぼ・・僕?」
『お願いできます?』
「ええ。まぁいいですけど。」

 突然のことに少しドキドキしながら席を立ち、マオの背中のファスナーを閉じる着太郎。

 チーーッ

 着太郎はファスナーを閉じながら、このタイツのサポート力の強さを実感する。実際、いつも自分の着ているタイツの数倍強い力でファスナーを閉じる着太郎に抵抗するタイツの力を感じた。ファスナーを閉め、このタイツに締め付けられるマオに少し嫉妬する。

 実はマオの中にいる浅川にとっても想像以上の締め付けであった。
 下半身から上半身まで、顔の表面以外の全ての場所がピチピチにフィットし、それだけでゾクっとする程気持ちが良くなるのが分かった。
 また、厚手の生地のため、先程までは余裕だと思えた呼吸が一気に苦しくなる。
 前回着せられたスカートの中程ではないが、その次ぐらいには感じる苦しさだった。
 ほんの一瞬ではあるがタイツを脱ぎ捨てて楽になりたいという衝動に駆られた程である。

『わぁ、なんか面白ろーい』

 そんな事情を気にしてない様子のマナは、マオの全身タイツ姿を楽しそうに見ている。
 確かに肌タイツだけの姿というのはあまり格好のいい物でもない為、マオも恥ずかしそうにポリポリと頭を掻く。

『このままお面も被ってくださいますか?』

 マユはそう言いながら着ぐるみの面をマオに手渡す。

『え?これは最後じゃないの??』
『違います。面下と繋がってるので、最初に被ってから衣装を着ないといけないんです。』
『そ・・そうなの?分かったわ。被ればいいのね。』

 マユの話に納得して面を被るマオ。
 だが、マオは被るのに手こずる。やはり人が直接被るのではなく、着ぐるみの上から被るというのは、なかなか感覚が掴みづらいのだ。

『こうかしら?』
『もう少しぎゅっとアゴを引いてから。。』
『これでいい?』
『あ、少しずれちゃってます。。』

 なかなか被りきれないマオの手助けをしながら被せてあげるマユ。
 どうにか被せ終わると、首の後ろのファスナーを閉じ、面下の両脇のひもを結んで、面下が脱げ落ちることがないようにする。

『これでいいと思いますわ。』
『そ・そう?』

 マユの言葉に応えるマオは、面の内側から話をしているので少し籠もった声になっている。

『なんか首の周りが凄く気持ち悪いわ。これ。』
『面下のサイズも少し小さいみたいですね。締め付けられて苦しいですか?』
『ううん、そうじゃなくて、なんかムズムズするって言うのかしら。フィットしたタイツを引き剥がしたくなるの。』
『あー、それ、私も昔思ってました。結構首にまとわりついたタイツがムズムズして妙にこそばゆいんですよね。』

 マオはウンウンと頷いている。

『でも、着ぐるみに入る人は少しぐらい大変でも我慢しなきゃダメなんですよ。見た目が可愛ければいいんです。』
『なんか着ぐるみって大変なのねー』

 マオの言葉を聞きながら、着太郎は、マオの中にいる「誰か」の方が余程大変そうに見えた。

『それではこれから衣装を着せますね。』
『で・・でもこれじゃあんまりよく見えないわ。それにタイツのせいで手先の感覚も少し悪くなって細かいファスナー閉めたりするのが大変そうよ?』
『そうですね。それじゃあ誰かに手伝って貰いましょう。そうだ、じゃあ着太郎さん。お嬢様に衣装を着せてあげて下さいます?』

 唐突に着太郎に着替えの手伝いをお願いするマユ。

「ぼ・・衣装も僕が??」
『ダメかしら?』
「い・・いや、別にダメって事はないけど・・」
『じゃあお願いするわ。いいでしょ?』

 マオは面越しの籠もった声で着太郎にお願いする。
 もちろんこの声はマオの「人工的に作られた声」なのだが、発話をマオの顔から行っているので、面を被ると声も籠もるのである。
 その声は、着太郎にとって、普通の女性の籠もった声よりも何倍も興奮できる声であった。
 何しろ、今目の前にいる着ぐるみの裏側にいるはずの声の主の女性は、着ぐるみなのだ。
 本当の人間はその内側で声を殺し、恐らくは蒸し暑さや苦しさにも耐えながら「マオ」を演じているのである。

『まずは下着よ。』

 マユはそう言いながら衣装を着る順番に着太郎に手渡す。

 手渡された下着はキャラクターショーの物と言うにはあまりにも凝った作りの、ちゃんとした下着であった。
 ショーツ、ブラとも綺麗にレースが入り、豪華絢爛な衣装の下に着るのにふさわしい。
 また、タイツも薄く透き通るような白で、履けば肌色タイツにつつまれたマオの足がうっすらと見えそうである。

 着太郎はこのショーツ、ブラ、タイツを手慣れた手つきで着せていく。
 ただ、ショーツやタイツを引き上げる時には、どうしても気になっていた股間の辺りに、不自然にならないように手のひらをかざし、マオの呼吸を確認してみた。もちろんマオの呼吸はしっかりとゆっくりと続けられており、手のひらの感触が着太郎を興奮させる。
 また、ブラのホックを留める時には、マオの大きな胸がムッチリと締め付けられているのがよく分かった。そしてブラを付けたことで、面下が脱げづらくなった。これなら不意のアクシデントで面が取れることもないのだろう。

『じゃあ次はこれね。』

 マユがそう言って手渡したのはパニエである。
 但しよく見ると、着太郎の知っているパニエとはちょっと作りが違うことに気づく。

「こ・・これは?」

 着太郎はそのちょっと違った部分をマユに指摘する。

『これは短パンみたいに履くの。この方がパニエがズレて来ないんです。着ぐるみって肌の感覚がなくなるから衣装がズレても気づかないことが多くて、そう言うのを防ぐために最初からズレにくくしてあるんです。』
「な・・なるほど。」

 確かに実際に着ぐるみをしている着太郎としては納得する説明ではある。
 特に補正した上らか肌タイツを着る場合、衣装の締め付け等は伝わるが、なかなか細かい感触は伝わって来ない物である。そう考えるとマユの説明にはおかしな事は無いのだが、やはりどう考えてもパニエの内側がショートパンツになっているのは不自然だった。
 表側から見るとショートパンツの外側にもヒラヒラした布が付いているおかげで、ちょっと見る分にはこれがショートパンツとは思えない。だが裏側から見ると、かなりしっかりしたショートパンツがパニエの中に埋もれているのが分かる。

 着太郎としては、疑問は消えないが、マユの説明におかしな点があるわけでもなく、納得してマオに着せる。

 マオの足を誘導し、パニエの中に通し、そのまましっかり引き上げる。
 着太郎の想像通り、中のショートパンツは簡単にボタンを留めることが出来ない。かなり力を入れてボタンを留めてあげると、ウエストはパツパツに見えた。もちろんパニエに隠れているがウエストだけではなくショートパンツ自体、かなりパツパツにマオの身体に密着している気がする。
 マオはショートパンツの収まりが悪いのか、ほんの少しだけ太股をクイクイっと動かしてフィット感を調整しているように見えるが、少なくとも着太郎には、調整の余地がある程ゆとりがあるようには見えなかった。
 もしそれが事実なら、マオの下半身は全く改善されていないことになる。

『次はこれよ』
「これは??」
『ドレスのスカート』

 マオに渡されたのはドレスのスカートと言う。そもそもこういうドレスはワンピース型で、背中から着ておしまいと思っていたら、どうやらツーピース構造を持っているようである。しかもスカートは、スカートだけではなく、ボディーコンシャスな上半身もくっついている。上半身はタイトでノースリーブ、ハイネックと、とてもセクシーな作りである。
 このドレスは、上半身がタイトで下半身がフワリとお姫様のように広がったドレスを着て、その上から上半身だけは別の上着型のドレスを更に羽織るようになっているのだ。
 着太郎は何故、ドレスがこんな構造なのかよく分からなかった。もしかすると着回せるようにこういった作りなのかとも思った。

 マオにこの上半身がタイトでスカート部分が豪華な服を着せる。
 背中のファスナーを閉めると、タイトなドレスがマオを締め付けていく様子が分かる。背中から見るとブラジャーのラインも浮き出る程のフィットの仕方である。
 さらにハイネックの首周りもしっかりとフィットする。
 これにより、マオの着けている面下が完全にドレスに隠れ、よりしっかりとマオを面の中に封印したことになる。
 もちろん着太郎もこの事に気づいていた。

『しっかりファスナーしめました?』

 マユが着太郎に確認すると、着太郎はその場で頷く。

『お嬢様は大丈夫ですか?』

 マユはマオにも確認する。

『ええ。大丈夫よ。』

 籠もった声でそう言いながらマオもその場でウンウンと頷いた。

『じゃあ、今度はこれです。』

 そう言って上着を渡す。
 上着は背中にファスナーがあり、丈はボレロぐらいで胸から上を覆う形になっている。また、袖はかなり大きなパフスリーブに細身の長い袖が付いている。装飾はスカートに負けない程豪華絢爛で、まさにお姫様である。

 着太郎はマオにその上着を着せ、背中に回ってファスナーを閉めると、やはり予想通り胸が窮屈そうである。
 その後、マユに手渡された大きなリボンを背中で結ぶ。
 首は丸首で、下から元々着ているタイトな服のハイネックが見えている。
 ウエストと首の部分がシンプルに身体のラインを出し、胸や下半身、肩は豪華に飾られ、細い袖が手の動きをセクシーに強調する。

『次にこのネックレスですわ。』

 マユに手渡されたネックレスを着ける着太郎。

 背中に周り、長い髪の毛をまとめて右肩から胸の方に移動させて首を露出させ、ネックレスのホックを固定する。
 通常、この手の着ぐるみの場合、髪の毛をかき分けると、面と首の境界の隙間が現れ、そこからほんの僅かに中身を感じ取ることが出来る。この隙間の境界線を見てドキドキする人もいれば、隙間が少なく密閉度の高い事にドキドキする人もいる。
 マオの着ているこの着ぐるみの場合、面下、つまり首周りを覆っている布と、面が繋がっているので、この隙間が無いのだが、その為着ぐるみの密閉性が強調されている。
 着太郎にとっては密閉度の高い着ぐるみはツボなので、その光景には本当にドキドキしていた。

 もちろん、この中にいるのは人間ではなく、マオという着ぐるだと言うことは分かっている。
 マオは、この着ぐるみなど比較にならないぐらい厳重に内部と外部が隔離されている事も理解している。
 そんなマオの中にいる人物にしてみると、この着ぐるみぐらいはたいした密閉感ではないのかも知れないが、着太郎はもし自分がマオのような密閉された着ぐるみの中にいて、さらにこんなにしっかりと封印される着ぐるみを着れるのだとしたら、さぞかし楽しいだろうなと思っていた。
 と同時に、自分では辿り着けないこの着ぐるみの奥の奥に、今この瞬間もいる「誰か」の事が羨ましかった。

『最後はこの手袋と靴ですわ。これはお嬢様でも出来ますよね?』
『そうね。大丈夫よ。』

 マユは最後の手袋と靴は直接マオに手渡す。
 マオは手際よく手首までの短いサテンの手袋を着け、細身で美しく真っ白なハイヒールを履く。

『わぁ、すてき~。まるでお姫様みたい~』

 横で見ていたマナが手を叩いて喜ぶ。


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