お嬢様物語:K・始動(1話) [戻る]
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 およそ1ヶ月。

 梶原の予想通り、あっと言う間にマオを着こなせるようになった浅川は、仕事から帰ると家では食事と風呂と寝る時以外、ほとんどマオで過ごすようになっていた。
 そして、その週末の梶原の家での定例の練習会では、一通りの練習のあと、いよいよ、着太郎をターゲットとする、着太郎取り込み作戦。名付けて『プロジェクトK』が始まろうとしていた。

「じゃあ今日はいよいよプロジェクトKの手順について説明します。」

 梶原がおおよそのたたき台を作り、それを3人で議論する形で修正して、シナリオを作っていく。
 約2時間の議論の結果、おおよそ次のようなシナリオを想定した。

 まず、着太郎と遭遇する方法である。
 間違ってもこちらからコンタクトを取ってはいけない。あくまでも着太郎側からコンタクトを取るか、偶然見つかると言う方法が望ましかった。
 こちらからコンタクトを取ると、その時点でこちら側の方が着太郎に興味を示していることが分かってしまう。あくまでも着太郎側から興味を持って貰い、いろいろなことを想像して貰う必要があるのだ。
 また、簡単にこちらの事情を着太郎に話すと、万が一、着太郎がこの着ぐるみのテストに参加しないと言った場合、情報がリークしてしまう恐れがある。脳裏から着ぐるみが離れない状態を作って、確実にテストに参加して貰うためには、着太郎側からのコンタクトは必要な事である。

 そこで、浅川を使う事にする。
 浅川は元々この着ぐるみと遭遇したことのある唯一の人間と言うことになっていた。そして、その情報を元に着太郎は情報収集を行っていた。
 なので、浅川に偽の情報を流して貰い、着太郎を着ぐるみの待機する場所に呼び寄せて貰う。それも出来れば着ぐるみがいる場所を伝えるのではなく、手がかりを伝えて着太郎自身がその場所を探す方がいい。

 うまく着太郎が着ぐるみ達を発見したら、ここからは浅川に対して2人がやったような事を行い、徐々に着太郎の興味を着ぐるみの中に引かせ、やがては自分も入ってみたいと思わせるようにする。
 これで最後に全てをネタばらしすれば、恐らく着ぐるみのテストを拒否すること無いだろう。

 と言う結論になった。

 ここで大事なのは、着太郎との最初のコンタクトであろう。

 上手く手がかりを着太郎に提示し、着太郎自らが自力で遭遇するチャンスを作る必要があるのだ。

 そこで浅川は着太郎に嘘の情報をリークする。
 伊豆と富士五湖の別荘での事件について調べた結果、浅川の持つ旅行関係の情報網から、ある2人組の存在が浮かんだと言うのだ。
 その2人は仮名を使いネットで予約をしているらしく、実際にどこに住んでいる何者かは分からないが、2件とも同じ名前での予約を行っており、しかもこの2つの別荘を、1ヶ月に1度ぐらいのペースで使っている事にする。
 つまりこの名前を捕捉できれば、次の遭遇チャンスに巡り会えるかも知れないと言う事である。

 実は、この2件の貸別荘自体は、本当に偽名で、しかも同一名で予約していた。他にもいくつか別荘を使っていたのだが、それは全て別の名前での予約なので、除外した。
 その為、この嘘も、この2件だけを取れば嘘ではなくなり、信憑性が出てくるのだ。

 さらに嘘をリアルにするため、再び伊豆の別荘に同一名で予約を入れ、実際に予約通りに宿泊して楽しむ。浅川に取っては2度目だがマオとしては初参加の練習会は、それはそれは濃密な物で、家に帰らずこのままもう一泊したいと思う程楽しめた。
 と、同時に、この練習会は、プロジェクトKの練習会でもあり、楽しめるが非常にハードでもあった。
 なにしろ浅川以上に着ぐるみ慣れしているはずの着太郎である。簡単なことでは驚かないだろうし簡単なことでは興奮もしないだろう。そこで浅川の時に使った作戦をアレンジしたり、新たな小道具を用意して、それらの効果を試していたのだ。

 また、この準備期間の間には、マユにだけ装備されていた発話の機能を、他の2人にも装備してのテストも行った。各個人の脳波をサンプリングするための言語シートの黙読は、浅川にも田端にもかなり大変だったが、その努力の成果もあり、2人は素晴らしく可愛らしい声を手に入れた。

 こうした準備以外にも、梶原達はあるホームページを準備していた。
 このページは、実際には存在しない架空の貸別荘のページである。そして、この貸別荘のページを富士五湖の貸別荘の住所として掲載したのだ。
 事前に着太郎のIPアドレスは調査済みである。
 着太郎からのリクエストは架空のサイトへ、その他の人は本物へジャンプするようにサーバを設定し、着太郎がこのサイトを見つけるのを待っていた。
 また、田端が作っていた着ぐるみ系ウェブログサイトに良く出入りしていることもアドレスの調査から分かり、そのサイトを利用して、田端の記事から偽の別荘サイトへリンクを貼る。
 田端は着太郎を知っているのだが、着太郎側は田端とは面識がないのは都合が良かった。
 着太郎も警戒せずにブログを読み、興味があれば普通にリンクをクリックするはずだったからである。

 実際田端の記事に「こんな場所でロケしたいなぁ」などと書き込み、リンクを貼ると、翌日には着太郎がアクセスした記録が見つかる。

 これで、着太郎が貸別荘に連絡を取り、予約の状況を聞き出す為の準備が出来たことになる。
 もちろんその連絡先の電話番号も偽物で、実は田端の家に繋がっているのだが。

 準備が整い、浅川が着太郎に情報をリークすると、さっそく着太郎から田端宛に電話が入る。
 実は田端も着太郎と面識はあるのだが、会話は交わしたことがないので、一番疑われにくいのだ。
 田端は、お客様のプライバシーですので予約内容はお伝えできない、と言う事を告げると、着太郎は次の手に出る。
 実は旅行雑誌記者の浅川が「その予約した本人の親だと言えば教えてくれる」と告げていた。もちろんこんな事を告げても本来はプライバシーの管理がしっかりしたところでは教えてくれない。だが、田端に繋がっているのでそこは全く問題なく教えて貰えるのだ。
 事前に浅川から聞き出していた予約名「小笠原薫」の親と名乗り予約日を聞き出す。
 田端は予定通り、予約日を告げ、これで着太郎が「小笠原薫」と名乗る人物の予約日を知ることが出来た。

 あとは当日実際に着太郎が小笠原を探しに来るかどうか、と言う点である。準備しても着太郎がいなければ意味が無い。
 そこで浅川は着太郎にメールを出し、当日夜に「合わないか?」と言う。
 着太郎からの返事は、その日はちょっと仕事を休んで用事があるのでNGとのことだ。

 これで十中八九、着太郎は富士五湖の別荘に来ると思われた。

 浅川が初めてマオになってから、数々の準備を経て2ヶ月が過ぎた頃、いよいよ作戦開始本番となる。

 本番の当日は、浅川も仕事休んで現地へ向かう。
 いったん3人で梶原の家に集まり、梶原の車で移動となった。

 車中では既に何度かの打ち合わせと練習で決めた内容を再確認する。
 基本設定として、マオはお嬢様で、そのお嬢様に使えるメイドがマユとマナとなる。
 今回はマオのゲストとして着太郎が来るという設定だ。

 高速を下り順調に車を富士五湖方面に走らせると、比較的タイトなワインディングが続くダウンヒルで、後方から猛然と近づく乗用車に気づいた。
 最初は運転している梶原が気づき、450馬力のアウディーのパワーで振り切りにかかるが、それでもみるみる近づいてピタリと後ろにつき、僅かな直線区間であっさりと抜いていった。

「な・・なんだあれ・・・」

 梶原は自分の車が、乗用車風の車に抜かれたことが信じられない様子だった。

「あれはランチャデルタでしょ。ちょっと違うようにも見えたけど、確かインテグラーレだっけ?ラリーとかに出てたやつ。確かにあれは速いよなぁ」

 すかさず田端が車名を言った。

「でもこの車も450馬力あるんだよ?あのカーブの曲がり方とか、普通じゃないぞ。」
「いやいや。インテグラーレはラリーのチャンピオンカーだもん。あのぐらい普通だと思うよ。」

 どうやら田端も車は好きなようである。ただ浅川は気づいていた。デルタはデルタでもインテグラーレではない。
 あれは間違いなくデルタS4だった。

 ラリー037とインテグラーレのちょうど中間的スタイルを持ち、一見するとスマートなハッチバックスタイルの形状と丸4灯のヘッドライトから、とてもその驚異的ポテンシャルを想像するのは難しいが、1986年当時の最強最速のグループBラリーマシンである。ホモロゲーション取得のためにごく少数の生産しかされなかった珍しい車である。
 走り去る音からもノーマルとは思えないそのエンジンは、確実に300馬力を超えているはずであり、いくら450馬力のアウディーとは言っても、ラグジュアリー指向で重い車体と比較的柔らかめのサスを持つこの車に、3人+大量の荷物を抱えている状態では、高速道路でもない限り勝負にはならないのだろう。

 自分の車が抜かれたことが少しショックだったのか、梶原は無口になる。

「まぁまぁ。あれは相手が悪い。乗ってるドライバーの腕も凄いし、仕方ないと思うよ。」

 浅川がフォローするが、結局別荘に付くまで、梶原は悔しいから今度S4を買ってやると言っていた。
 限定だからほとんど程度のいいタマがないと告げると、じゃああいつに勝てる車を買うと言うので、それなら国産のラリーベース車2台のどちらかをチューニングすることを勧めた。
 この国産ラリーベース車2台であれば、それなりのチューニングを施していれば、高速道路でもない限り、ほとんどどんな車にも性能で負けることはないと思われるのだから。

 こうして別荘に付いた梶原は、実際に「小笠原薫」の名前でチェックインをすませ、3人で荷物を運び込む。
 基本的に、着太郎がいつ来てもいいように早くから準備を始める必要があるため、早速、トイレをすませ、最低限の水分を取ったあと、体内の消化器系の動作を止める薬を飲み、着替えを始める。

 もはや何度も練習した行為のため、3人とも手慣れた手つきで着替える。
 浅川も最初は大変苦労した着替えだが、今ではこの変身時の快感すら楽しめるようになっていた。

 全身をマオに包み、密封を確認し、身長155センチのマオ用に用意されたドレスを着込む。
 ドレスはメイド用の物とは違い、かなりゴージャスで、大人の気品も漂っている。
 薄い黄色の光沢の有るサテンの生地で出来たドレスは、飾り気が全くなく、かなり上半身をボディーコンシャスに包み込む。首もハイネックで、露出は全く無いのだが、光沢のある素材がピッタリとフィットするように作られているので、考え方によっては露出しているよりもセクシーである。
 袖も大きなパフスリーブ以外はシンプルな長袖で、かなり細身に、まるでサテンのグローブのようにフィットする。
 スカートは腰から美しくまっすぐにAラインを描くシンプルかつ気品のあるデザインで、やはり大人っぽい雰囲気を演出する。
 下着は衣装と同色で、やはりサテンの物を身につけ、さらにカラーのタイツもドレスと同じ色の物を穿く。もちろん少しだけサイズが小さいのは、脱いだ時に少しセクシーに見えるという理由かららしいが、実際には梶原の趣味だとの噂はある。とは言っても、浅川も文句を言う気はなかった。
 下着類はドレスを着ると隠されてしまう物であるが、ドレスの裏側で密かに楽しみたいという気持ちもあるのだ。
 パニエとペチコートは真っ白な素材で、スカートのAのラインを作っている。

 靴も大人っぽいヒールの高い物を履き、162センチぐらいの背丈になる。

 最後に真っ白のサテングローブを着けて、お嬢様らしく貴金属も身につけ、装備が終わるとマオの準備完了である。

 マユもマナも程なく準備が終わる。

 ここからは、話す言葉も女言葉で、すっかりお嬢様とメイド達の世界である。

 先程までの男所帯はそこには全くなく、完全に女の子達の園である。
 もちろん彼女たちの中では、既に始まっている激しい責め苦を堪能している3人がいるのだが。

 マオは、マナやマユに指示を出し、メイドとして部屋のセッティングを依頼する。
 元々片づいている部屋だが、梶原達が運び込んだ遊び道具を、使いやすい場所に設置し、着太郎へ食べさせる食事の準備なども事前に行う。
 マオはその様子を眺めながら、ソファーに深く座って女性のファッション誌を読みくつろぐ。

 別に誰かが見ているわけではない。3人とも事情を知った物同士である。
 着太郎が来るまでの間、演技はやめて欲望のまま行動してもいいはずである。だが、誰もそうしようとはしない。この、待っている時間すらもそれぞれのキャラクターで居続けることが、この上なく快感だったのだ。

 マオのスカートの中は激しく蒸れ、足を組んだ事で股を閉じる形になり、非常に締め付けが激しい。だが、マオは楽しそうにファッション雑誌を読んでいる。
 マユも長いスカートをひらひらさせながら、部屋のセッティングを行っている。高いところにある物を取る為に背伸びをすると、サイズの小さなメイド服がマユの身体を無理矢理引っ張るが、全く気にする様子はない。
 マナはマナで床に女の子座りをして拭き掃除である。スカートがフワリと綺麗に床に広がって、彼女の下半身を隠している。そのままズリズリと腰を滑らせるように床を移動すると、当然敏感な辺りは床からも刺激されているはずだが、全く普通に掃除している。

 3人が3人とも、それぞれお互いの状態を想像しながら、自らの状況を堪能しているのだ。

 そうして待つこと約1時間半。
 2人の片づけも、マオの読書も終わり、椅子に座って3人でくつろいでいると、誰かが玄関をノックする音が聞こえた。

 コンコン

 すぐに玄関のモニターをチェックしに走るマユ。その姿は非常に可愛らしい。
 モニターを確認したマユは、こちらに向かってOKサインを出した。どうやら着太郎が到着したらしい。

 計画通り、マナが着太郎を出迎えるため玄関に向かう。マユはこの部屋の入り口に達スタンバイし、マオはセンターの椅子に座ってくつろぐ。

 マナは玄関先に出向き、ゆっくりとドアを開ける。

「ごめんください~・・・・わっ・・」


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