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「どうです?マオちゃんは。」
梶原が歓迎の言葉を告げるが、浅川には届かない。
鏡に映るマオは、あまりにも可憐で、清楚で、とても自分とは思えない容姿である。
全裸の時も素晴らしいと思ったが、服を着た事でよりマオの可愛らしさが引き立つ。
この可愛らしい人形の奥に自分がいることが信じられない。
確かにセーラー服は設定には合わないが、もともと美形なので問題にも思えない。ちょっと大人びた高校生として十分通じるだろう。
「この衣装は割と楽なタイプの物なんですが、それでも結構凄いでしょ?」
梶原の言葉にゆっくり頷くマオ。
マオは全くその中の様子を覆い隠し、鏡に向かって優しく微笑んでいる。
だが、その裏側では、激しい快感と息苦しさに耐えている浅川がいる。また、既にマオの中はかなり蒸し暑くなっている。服を着たことでその蒸し暑さも増し、冬とは思えない程のサウナ状態なのである。
まだ浅川はマオに入って30分もたっていないのだ。にも関わらずこの状態である。
マナの中を想像すると、その中の状態がよりリアルに想像出来る今となっては、何事もないフリをしているマナが凄く愛おしく思える。
「さ、そこに立ってないで、こっちに来て座ってくつろいで下さい。ね。マオちゃん。」
梶原は、マオに対して言う。
浅川は、この状態でくつろぐなんて無理だと思いながらも、梶原の「マオちゃん」と言う言葉に、自分がマオとしてくつろがなければいけないと言う状況を思い知る。
そう。今は浅川道夫という男性はこの世にいないのだ。いま存在するのは着ぐるみ美少女人形のマオのみである。
マナやマユがそうであるように、マオもまた、人形として当然の行動を要求されるのだ。
全身をふるわせ快感に耐えながら、なんとかソファーに腰掛けるマオ。
だが、ソファーに腰掛けると、思いの外お尻の位置が低く、またふかふかのソファーがお尻を沈ませるので、より一層深く沈み込む。
このため股間が食い込み、パッドの締め付けも増し、ただ座っているだけでも気持ちいい。
その上、深く沈んだソファーとスカートが外気を遮断し、呼吸が更に辛くなる。
浅川は冷静さを失う程の快感に、目をギュッと瞑って耐えるのだが、ほんの少しの欲求に負けて足をギュッと閉じ、股間に圧力を加えてしまう。
息苦しさと快感の中で、ついに限界を迎えて、イッてしまったことが分かる程身体を反応させてしまう浅川。
「あーあ。やっぱり我慢出来なかったですね。まぁでも最初にしてはよく頑張ってますよ。ホントにこれなら1ヶ月もすれば普通にしていられるかもしれませんね。」
とても褒められているという気分にはなれないが、それでも自分が体験している全てが、今まで想像は出来ても手には入れられないと思っていた憧れの行為であり、その場にいられる自分が嬉しくて仕方なかった。
どんなに苦しくても、どんなに気持ちよくても、彼らが外に出たくないという気持ちが良く分かった。
イッた直後でもすぐに刺激は始まり、あっと言う間に浅川を回復させる。
もちろん外から見ていてそれに気づく者はいないだろう。
「さて、じゃあ、今後の計画を説明しましょう。」
梶原の言葉に浅川は頷く。
その言葉にマナも近づいてきてソファーに座り込む。
「まずマオちゃん。あなたは出来るだけ早くその姿に慣れること。」
再び頷く浅川。
「慣れるために今日からしばらくそのスーツは貸しますから、自宅でしっかり練習して、週に1度うちに集まって全体で練習もします。」
2人は梶原の言葉に頷く。
「で、計画通り、次のターゲットは着太郎さんです。彼は間違いなくこういう着ぐるみに興味がある上、浅川さんからも情報が行ってるので、この着ぐるみの中がどんな状態か、と言う想像は付いているはずです。しかも都合がいい事に、中身の性別は女だと伝わっている。ですよね?」
梶原はマオに聞く。
マオはうんと頷く。
実際浅川は、着太郎に着ぐるみの捜索のための情報として、伊豆での出来事と富士五湖での出来事を話していた。
富士五湖では、中の人間は過酷で、しかも感じている事まで分かっていたので、その話は全て伝えてある。
そう言う意味では、初めて見た段階から着太郎は事実に近い想像を出来る状態にある。ただ一点。中が男性だと言うことを除いては。
「そこで、浅川さんに情報をリークしてもらって、着太郎さんをおびき出し、我々がお出迎えする。最初から全てを伝えるのではなく、徐々に色々な事を想像して貰いながら楽しんで貰って、最後に浅川さんの時のように我々に取り込む。」
梶原の作戦に2人は頷きながら聞き入る。
「大切なのは、着太郎さんが、なんとしても着てみたいと思ってくれるように、徹底して誘惑すると言うことですね。着太郎さんが着て4人のサンプルが集まれば、多分会社の着ぐるみのテストとしても十分データは取れるからね。」
恐らく興味があるであろう着太郎を、より確実に蟻地獄のように捕まえて、テストに参加させるための巧妙な作戦という事なのだろう。
「と言うわけで、今日は終わり。とりあえず脱いでお開きにしましょう。マナちゃんはずっと着続けて大変だっただろうし。」
梶原の声で、今日の着ぐるみは終わりと告げられ、少し残念な浅川。
だが確かにマナは今日一番長く着続けている。しかもあれだけ苦しそうな格好で、だ。そろそろ解放してあげないとホントに辛いのかもしれないと浅川は思った。
脱ぐ方は、着るのと逆の手順である。
慣れてない浅川には大変な作業であるが、ただ、それでも苦しい方から解放の方向へ向かっているので着る時よりは楽である。
また梶原も手伝ってくれたおかげで、着る時の2/3ぐらいの時間で脱ぎきることが出来た。
息も絶え絶えスーツから出てきた浅川の横に、身長が浅川と同じぐらいの見慣れない男性がニコニコしながら立っていた。
「おかえりなさい。」
男性は浅川に言った。
浅川はその男性を不思議そうに見つめる。
「私がマナ役の田端です。」
浅川が着替えに苦労している間に、さっさと脱いで服を着てしまったのだろうが、どうやらこの男性がマナに入っていたようだ。
着替えながらも会話を続ける浅川。
「あ、どうも・・浅川です。」
「いやぁ、浅川さん。初めてでここまで着れるって凄いですよ!」
田端は嬉しそうに言う。
「そ・・そう?」
少し照れながら返事をする浅川。
「ええ。実は一番才能があるかもしれないですよ。あんなに早く普通にしていられる人って初めてですから。まぁ、まだ他には僕と田端さんしかいませんけど。」
梶原が合いの手を入れる。
「で、でも田端さん、ずっとこの中で頑張ってたんでしょ?俺なんて、その姿見ただけで勝手に中で興奮してましたし・・」
「確かに今日は特にキツかったですけど、でも気持ちよかったなぁ。」
「そ・・そんなに?」
「あの格好はホントに苦しいし絶えず気持ちいい状態が続くから、かなり辛いんですけど、そこがいいんですよね。分かるでしょ?なんとなく。」
田端の素直な表現には面食らうが、確かになんとなく理解は出来た。
「ええ。まぁ。」
そう言いながら一通り浅川の着替えが終わると、さっきまでマオが座っていた場所に座る浅川。
マオの中にいると地獄のようなこのソファーも、普通に座ると、座り心地が良くリラックス出来る。
「ですから、浅川さんにも早く慣れてもらって、ああいう服を着こなせるようにしてもらわないと。」
梶原が田端の話を引き継ぐように話す。
「ま・・まじですか・・結構大変だよなぁ」
「その点なら心配してません。何度も言うけど浅川さんはかなりこういう事の素質があるみたいです。私らと比べてもずっと早く順応してる。」
梶原は説明を続ける。
「ほんとかなぁ・・」
「私なんて最初は立ってられなかったし、それは田端さんも一緒ですよ。田端さんなんて最初は服も着られなかったしね。」
「そ・それは言わないでよ~」
田端が情けなさそうに言う。
あれだけ完璧にマナを着こなしていた田端が、最初は服も着ることが出来ない状態だったのだと知り、浅川は少し自信がわいた。
「と、言うわけで、浅川さんには着ぐるみに慣れてもらうために、このスーツと衣装一式を持って帰ってもらう必要があります。持ってきてもらった鞄に詰めて帰ってもらいますが、くれぐれも人には見せないで下さいね。まだ機密の物ですから。」
「なるほど。この為に鞄をもってこいって言ってたのか。」
「ええ。最初からこういう計画でしたので。」
「それにしても、これを詰め込む想定にしちゃ、持ってこいって言った鞄、大きくないか??」
「その方がドキドキするでしょ?それとも、浅川さんは別の物を詰め込むつもりでしたか?」
梶原は楽しそうに突っ込みを入れる。
「べ・・べつの物って言われてもなぁ」
「例えばマナちゃんとか?」
梶原の発言にちょっとドキドキした。このトランクにマナを詰め込んだらそれはそれで楽しそうだったからである。
「あ・・いま変な想像してるでしょ?詰め込まれる方の身にもなって下さいよ~」
再び田端が情けない口調で言う。
「田端さんはそれが好きなんだと思ってましたよ。」
「そ・・そんなぁ~」
梶原の突っ込みには田端もタジタジのようである。
「じゃあ、とりあえず今日は、最低限の基本セットとして、この衣装とスーツと、それからこの運用マニュアルをお貸しします。住所をお知らせ頂ければ、後日マオちゃん用に衣装の詰め合わせをお送りしますから、その後はそちらも着てみて、衣装に対する感覚の理解と慣れるための練習をお願いします。」
「わ・・わかりました。」
浅川は、一通り了解すると、梶原達に手伝ってもらい、マオと衣装を梱包する。
最後にA4の紙で10ページぐらいのマニュアルを受け取り鞄に詰め込むと、今日の所は解散となった。
「じゃあ、次は来週の日曜になりますので、その時までに自力でスーツの脱着と着替えぐらいは出来るようになってください。」
「来週ですか・・・そこまでに出来るかなぁ」
少し不安な浅川がつぶやく。
「多分余裕でしょう。今日の感じから言っても数日あればもう楽しめる状態になると思いますよ。」
梶原の励ましにちょっとやる気を出した浅川は、最後に挨拶をして梶原の家を出た。
帰り際、大きな荷物を引きずりながらも、来る時以上に足早に家路についた。
こうして、この日から、浅川がマオになるための練習が始まった。
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