|
浅川の執拗な追求に観念したのか、マユは浅川の疑問に対する答えを話し始める。
『ご主人様・・ご主人様を困らせる気なんて無かったの。ただ、ご主人様が私たちで楽しんでくれていればそれで良かったの。』
「そりゃ楽しかったことは楽しかったけど・・」
『でも、ご主人様が私たちのことを想像していたの、分かってた。分かってて、もっともっと想像して貰って、もっともっと興奮して貰って、楽しんで貰いたかったの。興奮して気持ちよくなって貰えたら喜んでくれると思ったから・・』
「そう言われてもねぇ・・確かに興奮する事は事実だが、それにしたって俺と君らとの立場の圧倒的違いを見せつけられると、ちょっと悲しさもあるもんだよ。」
『立場の差なんて・・そんなの無い。私もご主人様と気持ちは一緒なの。だから、ご主人様が私たちを想像して楽しめるように衣装もゲームも態度も、全部一生懸命考えて頑張ったの。』
「やっぱり計算ずくか・・」
『ごめんなさい・・でももう無理ね。そこまで推理してたのなら本当の事言います。でも、もしかすると本当のことを言うと、ご主人様、もっとショックを受けるかも・・と思って・・』
「もっと?なんか凄い事実でもあるのか?」
『分からない。それはご主人様がどう受け取るか次第。でももっといっぱい妄想させて、もっといっぱい苦しめたら、私たち申し訳なくて・・』
「もうここまで聞いたんだ。知らないで苦しむよりは知って苦しむ方が気は楽だ。」
『わかりました。じゃあホントのことを言います。』
マユの言葉にごくりと生唾を飲む浅川。
『私たち・・ご主人様の想像通り、私たちマユとマナは着ぐるみで、その中に演じている人がいるの。その人は、やっぱりご主人様の言うとおり、股間からの空気を吸って呼吸しているわ。だから本当はとっても苦しいんだけど、私たちマユとマナは苦しくないから、苦しくない演技をしているの。』
「なるほど・・・やっぱりか。」
『出入り口も多分気づいているとおり、お尻の割れ目にそって作ってあるわ。だから下着を着ている限り外からは絶対に分からない。でも衣装を着込めば着込む程、外から隔離されていくから中にいる私達の中の人の閉塞感はかなり凄いの。身体が全身ピチピチに貼り付いて、隙間もほとんど無いから、身体をストレッチさせてもストレッチした気がしない程窮屈なの。』
「それも何となく想像通りだな。」
『それに、私達、身体が特殊なラバーだから、内側は凄く蒸れて、蒸し風呂みたいになってるの。私たちの身体は汗を通さないからサラサラに見えるけど、中はサウナスーツと変わらないわ。』
「でも、君らはそれを半日近く着続けているんだろ?普通に考えたらそれは無理だろ。」
『ええ。普通は無理。だから特殊なラバーなの。私たちの身体は、ある条件を満たすと、通気性と放熱性とか、他にも色々特別な変化が出て内部の熱や湿気を逃がすことが出来るの。』
「つまりその仕組みによって長時間着ていても平気だと?」
『そう。でもその仕組みを機能させる条件がちょっと問題なの。』
「条件?」
『その条件って言うのは、中にいる人が興奮状態を保つって事なの。』
「こ・・興奮?怒ったりしてるのか??」
『意地悪。分かってるくせに・・つまりその・・気持ちよくなる・・・』
「気持ちよく・・・なるほど、それでさっきのキッチンでのつぶやきになるのか・・」
マユは観念したように頷く
『私たちの身体には表面にセンサーが埋め込んであって、圧力とか、布の擦れ、布のシワの動きとかを内側に高感度で伝える仕組みがあるの。』
「圧力って、つまり触ってるとかそう言うのが分かるって事?布の擦れとシワってのは??」
『圧力はそのとおり。触れているかどうかも分かるし、着ている服のフィット感とかも伝わるの。それに布の擦れとかシワも、同様に伝わるから、服を着て動き回ると言うことは、服に身体中をなで回されているような物なの。』
その言葉にまじまじとマユの服を見つめる。
清楚でセクシーなメイド服は、デザインにより彼女の身体をかなり浮き立たせ、パフスリーブとエプロンがなければ上半身は相当なボディーコンシャスであることが分かる。
そして、その布が彼女を撫で回しているのだとすれば、かなり嫌らしい感触だと想像出来る。
「つまり、ずっとメイド服に撫で回されているって事?」
浅川の言葉に頷くマユ。
『それに・・下着とかタイツにも・・・』
「で・・でも全然平気な顔してゲームもしてたじゃん。感じるって言っても、実はそんなに凄い感触じゃないんだろ?」
浅川は、出来れば「その通り、それほど感じない」と言う答えが欲しかった。
そんな羨ましい状況で今日半日を過ごし、今この瞬間も過ごしいてるなど、出来れば認めたくなかったのである。
だが、無情にもマユは首を横に振る。
『凄いの・・ホントは今すぐ自分の身体を触ってイッちゃいたいぐらい意地悪な刺激なの。それに・・それだけじゃないの。私たちの大事な所はパッドがあってセンサーに合わせて動くから、その刺激も伝わってるの。』
「ホントかよ・・・そうは見えないけど・・」
『信じてくれるかどうかはご主人様次第。でもこの話は本当なの。』
「分かった。仮に本当の話だとしよう。だとしても、何故そう言う場所で長時間頑張るんだ?君らにメリットが有るようには思えないんだが・・」
『それはご主人様の気持ちと一緒。』
「俺の?」
『ご主人様は、私たちみたいな苦しそうな着ぐるみに入ってる人が羨ましいって言ったでしょ?』
「ああ。確かに。」
『私たちも同じ。こんな可愛らしいお人形に密閉されて、お人形になるのがとっても好きなの。苦しくて気持ちよくてとっても切なくて・・でも見た目は凄く可愛らしいから、演技さえ出来れば本当の私を隠せる。そんな場所にいる自分にとっても興奮出来るの・・・』
「なるほど・・やっぱりそうか。結局は自分たちの趣味に俺も付き合わされてるって事か・・」
『それは違うわ!』
「どう違うんだよ。見せつけられてる俺の身にもなってくれよ。」
『ホントに違うの。確かに伊豆での出来事は偶然だった。だからあの1日だけの事ならご主人様の言うことも間違いではないのかもしれない・・』
「じゃあ今日は違うのか?今までの事考えたら、伊豆のあの日とたいして変わらない状況だぞ?」
『今日は・・最初から計画していたことだから。』
「計画?」
マユの言葉に疑問を投げかける浅川。
マユは、ここで不思議な話を持ち出す。確かにあまりに手の込んだ方法で浅川を呼び出している事を冷静に考えると、なにか裏があるのかも知れないと思えた。
『ご主人様とは今日でお別れをしようと思ったの。私たちのことを探しているって聞いたから、きちんと私たちのことをお話ししてお別れしようと思って。』
「お別れ?ってつまりこれ以上詮索されたら困るから、俺の思いで作りに強力してくれたって事か?」
『それもある。ご主人様と私たちメイド人形が遊んだ思い出が残ってくれたらいい。それから私たちの事をお話しするって言うことは、もう私たちはご主人様のメイド人形ではいられなくなるの。』
マユの言うことは何となく理解出来た。
要するにこういう事だ。
マユ達を一生懸命さがしていると言う浅川の噂を聞き、浅川にこれ以上深入りさせない為に、思い出作りとともに真実を話して、これでもう自分たちを捜すことをやめて欲しいと言いたいのだろう。
余程トップシークレットなのか。着ぐるみ愛好家達も噂でしか聞かないというこの美少女達は、あくまでも自分たちの存在は極秘にしておきたいのだろう。
「じ・・じゃあもう本当のことを聞いた以上お別れって事か?」
浅川は不安げに聞く。
『ご主人様とは今日でお別れ。』
マユは無情にも最後を告げる。
「そっか・・まぁ君らの事が少しでも分かったから良かったよ。まだ、どんな人間が中にいて、本当はどんな状態なのかは分からないが、少なくともね君らの本音を少し聞けた気がする。ありがとう。」
浅川のお礼にマユ達は黙り込む。
「まぁ、あれだ・・君らホントは気持ちよくて仕方ないんだろ?最後だし、盛大に楽しんで終わるか?」
浅川は精一杯強がるが、お別れという事実が浅川を萎えさせていた。
マユもやる気はないと首を振る。
「はぁー。そっかー。ま、仕方ないね。じゃあ俺、どうすりゃいい?多分、俺が帰るまで君らは元に戻らないつもりだろうし、このままじゃラチ開かないよな。」
マユはプルプルと首を横に振る。
浅川が帰るまで元に戻る気が無いと言う答えが返ると思っていたので、首を横に振るマユに少し驚く。
「違うって言うのか!?じゃあ、今ここで脱ぐのか?そう言うつもりはないんだろ?」
マユはウンと頷くだけだ。
「じ・・じゃあ、後で正体を明かすって言う意味か?」
その言葉にはマユは首を振る。
今脱ぐというわけでもない。浅川が帰宅するまで元に戻らないと言うつもりもない。正体を明かすつもりはない。
とすると、やはり途中で浅川の目を盗んで逃げると言うことなのだろうか。
あるいは、やはり夜浅川が眠っている時に消えるというのだろうか。どちらにしても、最後は自分の手の届かない場所に行ってしまうのだと悟った浅川は、自主的に寝る提案をする。
「ったくしょうがねぇなぁ。分かったよ。この前みたいにお茶くれ。お茶。寝てる間に綺麗さっぱりいなくなってくれ。それが後腐れ無くていい。」
浅川の言葉に、そんなことはしたくないと躊躇するマユ達。
だが、浅川の気持ちとしては「どうせ消えるなら、さっさと消えてくれ」だった。目の前にいるから余計に興味が沸き、そのためにいろいろ辛い思いもする。だったら綺麗さっぱり目の前から居なくなってくれればあきらめもつくだろうと考えたのだ。
しばらく躊躇するマユ達だが、結局こうするほかにいいアイデアはないと悟ったのか、ゆっくりとお茶を用意する。
用意されたお茶はとても暖かく美味しそうだった。このお茶をぐいっと一気にすする浅川。
「はぁ飲んじゃったな。もうすぐお別れだ。君らには感謝しているよ。楽しめたし、ホントのことも少しは分かった。俺みたいな気持ちで着ぐるみを着ている人物がいるってのも勇気づけられたし。」
マユもマナも、浅川の言葉を愛おしそうにウンウンと頷いて聞いている。
そして、浅川はやがて睡魔に襲われていく・・・・・・
薄れて行く意識の中で、最後に液晶に書き出された文字を読む。
『ご主人様、さようなら・・・でも・・・』
:
:
:
どのぐらい寝たのだろうか。すっかり辺りは明るくなり、窓から差し込む日差しで目が覚める浅川。
ゆっくり起きあがると昨日のことを思い返し、おそらくはもぬけの殻である建物をくまなく探索してみる。
僅かな期待は裏切られ、2人の姿は綺麗に消えていた。
「ふぅ・・行っちまったのか・・まぁあれだ。世の中の何処かにはあの2人と、その内臓はいるんだろうから生きてりゃそのうちまた会えるかも知れないな・・」
そうつぶやきながら後かたづけをし、建物を後にする。
駐車場にはやはりアウディーは無くなり、自分の乗ってきた車だけがポツンと残されていた。
車に乗り会社に戻ると、編集長にはイタズラのメールだったと報告し、このペンション特集の記事は別の記事に差し替えられた。
家に戻って荷物の整理もほったらかすと、浅川は自宅のメールチェックし、今日の出来事を着太郎宛にメールした。
後日、着太郎と会い、この日の出来事を報告すると、着太郎自身、その着ぐるみに2度も遭遇したと言う浅川が羨ましくて仕方がない様子だった。
特に、マユ達の身体の構造についてはもの凄い興味を覚えたようで、着太郎はかなり深い部分まで質問していた。
マユ達の身体が、やはり想像通り相当な密閉性を持ち、股間から呼吸を行っていること。
そしてなにより、自らの身体が持つセンサーが触覚となり、衣服のシワやフィット感を内部に伝える事で、中にいる人間は興奮状態に置かれている、と言うことに凄い興味を持っていた。
もしその構造が事実であるとすれば、内部の人間は浅川と過ごした半日ほどの間、着ている衣装や浅川の行った行為によって、責め苦を受け続けていたことになる。
そんな過酷そうな状況でありながら、着ぐるみを着続ける女性がいることが、そもそも不思議であった。
確かに女性にも着ぐるみ愛好家は存在する。
だが、浅川が知る限り、着ぐるみの持つ拘束性に着目したサイトを運営しているのは全て男性なのだ。
そのため、彼女たちが何故そんなに深刻な話を浅川に打ち明け、去っていったのかと言う疑問に対しては、浅川にも、着太郎にも、明確な答えが見つからなかった。
一応、着太郎が浅川の話を伝えた人物をピックアップし、その中にもしかするとその着ぐるみに通じている人物がいるかも知れない、と言う事は分かったので、その件は着太郎が再調査してくれることになった。
だが、もう会うことがないと宣言されたマユ達について、今更調査してもなにか得る物はあるのか、と言う疑問は残る。
とは言っても、浅川も着太郎も、この着ぐるみに是非もう一度会いたいと言う気持ちは強かったので、少しでも出来る事をやって、彼女たちに近づく努力をした。
|
|