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ゲームの準備をしているマユの液晶画面には、一瞬だけ
『ぁん・・・締まるっ・・』
と言う言葉が映し出されて消える。もちろんファスナーが閉められた時に出た文字なので、仮に彼女の言葉だとしても、それはジャケットのファスナーのことを言っているのだろう。
ゲームが始まると、マユは軽快にプレイを始める。
マナと違い長いスカートがまとわりつくおかげで、非常に動きづらそうだが、マユは全く軽快にゲームを続ける。
すると、浅川と一緒にソファーに座っていたマナが、浅川の方にすり寄り、腕にしがみつくように寄り添ってきた。
「ま・・マナちゃん?」
マナは何かに耐えているようにじっとマユを見つめながら、浅川にしがみつく。
小柄な女の子が腕にしがみついて、少し見上げるように浅川の顔を見つめるその光景は、浅川にも猛烈に可愛く見える。
「ま・・マナちゃん。も・・もしかして苦しいの?あのさ、無理してもしょうがないんだし、正体が見られたくないなら、何処か別の部屋で休んでおけば?」
浅川は精一杯気を遣ってあげるが、マナは浅川の方を向くと首横に振ってイヤイヤという表現をする。
マナだってマユと同じように何時間も密閉され、しかもさっきのゲームではそれなりの運動もしていた。
この可愛らしく浅川の腕にしがみつくマナの中が、どれほど過酷なのか想像しかできないのだが、マナが休みたくないという以上、無理強いするのもおかしな話である。
しかし、何故この子達はこんなに苦しそうな事を延々と続けるのだろう。彼女らにメリットがあるとは思えない。むしろ普通に考えると、何の得にもならない気すらするのだ。
だが、そう思う反面、浅川自身、なんとなく彼女らの中で頑張っている人たちの気持ちも分かるような気がした。彼女らが、もし自分と同じような感情の元でマユやマナに扮しているのだとすれば、今頃マユやマナの中は、理想的な密閉空間なのかも知れない。
だとすれば、マナが休憩したくないという気持ちも分かる。着ぐるみを脱いで、落ち着いて楽になると言うことは、彼女らにとっては楽しみの終わりを意味しているのかもしれないのだ。
浅川はこの可哀想なほど可愛らしいマナの頭を優しく撫でてあげる。
マナは満足そうに浅川に首をもたげてリラックスする態度を見せる。
もちろん一見リラックスしているように見えても、浅川にはそうではないことがすぐに分かる。
なにしろこれだけ密着すれば、呼吸のリズムや鼓動などはさすがに伝わってくるのだから。
そして、それは、やはり想像通り、かなり激しく苦しそうである。スカートの裾は短いとはいえ、しっかりソファーに触れているので、ほとんどスカート内の空気も換気出来ないはずだった。
マナを気にかけてはいるが、マユはそれ以上に苦しそうなメイド服で、今もゲームをプレイしている。
マユのゲーム画面に合わせて「おしぃっ!」「あーそこそこ」「右に蛇だ!」と声をかけつつ応援すると、マユも嬉しそうに振り返ったりしながらゲームを続ける。
だがある時ゲーム画面のマユの腰の辺りに蛇が絡みついた。
「あー。蛇だ。払い落とせ!」
浅川はかけ声をかけるが、マユは一瞬動きを止めてしまう。
あれ?と思った瞬間に、また液晶画面が書き換わるのが目に入る。
『あっ・・そ・・そこはやめて・・・』
そこ?不思議である。蛇は腰から下腹部についてまとわりつき、実際ジャケットの丈から言って、その辺りまでしか振動の入力は出来ない。少なくとも実際に女性が感じそうな場所に、何かの刺激を感じるなどあり得ない。
だが、一瞬動きを止めた事を考えると、もしかするとマユは今、ホントに感じやすい場所への刺激を感じてしまったのかもしれない。
もしマユの身体が想像以上にかなり窮屈に全身を覆い、股間への食い込みも激しい状態なのだとすれば、確かに動き回って感じてしまうこと有るかも知れないが、現実的な話として、それなら今のタイミングより、歩いたりしゃがんだりしているタイミングの方が感じてしまいそうである。
だとすると腰から下腹部にかけての蛇のまとわりつき攻撃が、マユには敏感な場所への刺激と錯覚してしまったのだろうか。
浅川は疑問に思いながらも、その後全く普通にプレイを続けるマユに、やはりあの液晶は誤動作するのかと思い直す。
結局マユは、浅川と変わらないぐらいの時間プレイを続ける事に成功し、再びマナの順番になる。
「マナちゃん、どうする?やめておくかい?」
まだ浅川の横で大人しくしているマナに、浅川が質問すると、マナはゆっくり首を振って、テレビの前に向かう。
再び窮屈そうなジャケットを着込んだマナは、颯爽とゲームを開始する。
『マナちゃん頑張れー!』
マユも応援を続けているが、2巡目ともなれば、彼女らの中もさぞかし過酷だろう。それでも彼女らはそんな苦しそうな気配は相変わらず見せない。
マユは、マナより更に長時間プレイしていたにもかかわらず、元気に応援を続けている。
結局この日は全員で4巡程プレイし、浅川もうっすらと汗が滲む程身体を使った。そして気づくと夕方7時を回っていた。
「ふぅ。結構楽しかったけど、ホントに君らは大丈夫なのか?」
浅川は気を遣って彼女らに訪ねるが、彼女らは元気そうに頷いている。
「そうか。じ・・じゃあなんかそろそろお腹減ったし、食べるもの無いかい?」
『わかりましたー。じゃあご主人様にとっておきのお食事を持ってきますねー』
マユはそう言ってキッチンに向かう。マナもチョコチョコと後を付いている。
伊豆の時は急だった事から冷凍のピザだったが、今回は何か準備している様子だった。
待ち時間、暇を持て余す浅川は、部屋の中をきょろきょろ眺めていると、また例の液晶画面の変化に気づく。
『ぁっ・・・だ・・だめっ・・我慢しないとばれちゃう・・』
液晶画面に不思議な文字が浮かび、その言葉にふとマユの方へ視線を送る浅川。
だが、マユは何事もないように作業を続けている。
『どうしよう・・さっきイケなかったから疼いてる・・・我慢出来るかなぁ・・・・』
その言葉は、ホントにマユが発しているとはとても思えない程、態度とのギャップがあった。
だが、この言葉の意味を素直に取るなら、マユの中ではイキそこねた人物が悶々としながら我慢していると言うことになる。
マユの動きにそんな様子は微塵も感じないが、先程からこの画面に時折出力される文字は、どうも単なる誤動作と言うには、あまりに不思議な点が多い。
もし、本当にこんな状態でマユの中に存在しているのであれば、演技など出来無いような気はするが、これだけ特殊な着ぐるみである。あり得ない話じゃないとも思えた。
そして、その考えがさらにリアルに感じられることが起きる。
『・・す・・スカートの中・・苦しいよぉ・・マナちゃん短いから羨ましいなぁ・・ご主人様にバレないようにめくる方法なんて無いよね・・・頑張るしかないか・・・』
ここまで来ると完全にマユの中の人物のつぶやきである。
恐らく発話の制御が上手くいかず、言葉にしたくない文字も一部が変換されているのかもしれない。
だとすると、これはまさにマユの本音。
言葉を発しないマユは、マナにすら本音を伝えることが出来ないだろうが、実はマナの短いスカートが羨ましいのだ。そして、何故は知らないが、中では快感に耐えながらの演技が続いているのだろう。
この事実は、浅川には衝撃的すぎた。
あの中は苦しいという想像は、事実であり、その上、イク事が出来なかったと言うぐらいだから、実際にイク寸前になるほど気持ちのいい状態なのだ。
想像通り、いやそれ以上の理想的な密閉空間があの中に存在しているのである。
だがもちろん、こんな事実はこの液晶画面を見なければ全くうかがい知れないことだろう。なにしろ彼女たち2人は、とても楽しそうに食事の支度をしているのだから。
食事の準備をすませた彼女たちは、全く何事もなく、テキパキと食事を運び、浅川の前に並べる。
「ご・・ゴージャスだね。」
並んだ食事は、刺身の盛り合わせや酢の物、和え物、煮物、と言った和風の料理ではあるが、かなり立派に作り込まれていた。
電磁調理器やレンジでここまで作れるのかと思える程である。さらに日本酒も添えられている。
『ご主人様の為に頑張って作ったのよ!食べてね!!』
マナも横でピースサインを出してアピールする。
「あぁ。いただくよ。いただきまーす。」
浅川は立派な食事を食べ始める。
確かに美味い。お金を取れそうなぐらい見事な出来だ。
だか、それでも浅川は、食事が喉を通らない。
『美味しくないですかぁ?ご主人様ぁ・・』
ソファーに座ったマユとマナは、浅川を心配そうにのぞき込む。
「い・・いや、美味いよ。美味い。」
『その割にはお箸が進んでないみたいですけど・・・』
「あ・すまんすまん・・食欲がね。ちょっと無いんだよ・・」
『え~っ・・お食事にしたいって言ったの、ご主人様じゃないですか~。』
「あぁ。確かにそうだった、そうだったけと・・」
『マズイならマズイって言って下さいね~遠慮は良くないですよ?』
「・・・い・・いや、そうじゃないんだ・・」
やはり気になって食事が進まない浅川だが、食べなければ申し訳ないという想いもあり普段なら15分もあれば食事は済んでしまう所を、倍以上の時間をかけて完食する。
「ふぅ・・ごちそうさま。ありがとうね。美味かったよ。」
『本当ですか~?正直に言って下さいよ~。隠し事は良くないですよ~』
隠し事・・浅川はその言葉を聞き、意を決して聞いてみることにする。
「あの・・あのさ・・」
『なんです?ご主人様。』
「あの・・もし・・苦しかったら、無理せずスカートめくって換気してくれていいんだよ・・?」
『え?!やだーご主人様ったらー。まだ言ってるんですかー。私たちはお人形だから苦しくなんて無いんですよ!』
想像通り、教科書通りの答えである。だが、今回は引き下がらない。
「いやさ、さっきね。ここにちょっと出たんだ。」
『何がですか?』
「文字だよ。文字。」
『今もご主人様、読んでるじゃないですか。』
「ああ。そうだけど、さっき君らが食事の支度をしている時にさ、ちょっとだけ文字が出てきたんだ」
その言葉を聞き、マユが急に動揺する。
それは態度でも液晶の画面でもはっきり分かる。今までの動揺している「フリ」とはあきらかに違う。
『え!?そ・・それはきっと誤動作ですよ・・』
「いや・・あれは確実に君の言葉だよ。それもマユちゃんじゃなくて、マユちゃんの中にいるはずの君の、ね。」
食い下がる浅川に、少したじろいでいるマユ。
「俺の予想が正しければ、君らは着ぐるみで、中には人がいて、しかも股間からの空気を吸っている。それに、なんらかの理由で中ではかなり気持ちよくもなっている。演技でここまで誤魔化すのは見事なもんだと思うが、ここに出た文字も含めて、状況証拠から総合的に判断すると、大幅に間違ってる推理とは思えないんだ。」
言葉に困るマユを尻目に、浅川は続ける。
「君らが何でそんな状態で着ぐるみを着続け、しかも俺を挑発するのか分からないが、あきらかに君らは着ぐるみで、中には人がいる。違うか?」
『そ・・そんな・・私達・・挑発なんて・・』
「まぁ確かに、露骨な挑発はしてない。それは事実だ。だけどな。君らだって薄々気づいてるだろ?俺が君らみたいな着ぐるみを見て興奮している事ぐらい。こんな事言うのは悔しいが、実際俺は、君らみたいな着ぐるみの中に入っている人物が、羨ましいとすら思ってたんだ。俺は男で、逆立ちしたって君らの中には入れない事ぐらい分かってる。だけど、だからこそ、絶対行けない場所にいる君らが羨ましくて仕方ないんだ。頼む・・頼むからこれ以上、俺を悩ませないでくれないか・・」
あまりはっきり言うのも格好悪い話だが、いつまでも隠していて彼女らに焦らされ続けるのは精神的にも辛い。そう思った浅川は、思い切り本音をぶちまけてしまう。
マユは困ったようにマナを見つめ、マナもどうしていいか分からない様子だった。
だがしばらくすると、マナが手近にあった紙に何かを書き、マユに手渡す。チラリとその紙が目に入ると、そこには『もうそろそろいいんじやない?』と書かれてあった。
マユは意を決したように頷くと、浅川に話し始める。
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