お嬢様物語:再会(3話) [戻る]
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 着太郎に伊豆での出来事を話してから数日後、浅川の職場に一通の電子メールが届く。
 誰だろうか?

 そのメールには添付ファイルらしいものも付属しておらず、タイトルも『取材依頼』となっていたので特に疑問もなく開けてみることにした。

 するとそこには、『浅川が書いた雑誌記事を、いつも見ていて感心している。今度新しいペンションを作ったので是非取材に来て欲しい。』という事がかかれていた。
 普通は職場への取材依頼は、職場の代表メールアドレスに届く。
 しかも浅川の仕事場のメールアドレスはあまり世間には知られていないはずなので、不思議に思ってよく見ると、自宅のメールボックスに届いたメールが、職場に転送されてきたと分かった。

 でも自宅のメールアドレスなど、ますます非公開なのだ。何故そこに取材依頼が来るのか分からなかったので、無視することにした。

 だが、翌日も同様のメールが届く。しかも今度はURL入りだ。

 怪しいとは思ったが、スクリプトやらを全てOFFにしたブラウザで、そのURLを開くと、トップページには綺麗な新築らしいペンションの画像が現れた。

 どうやらこのペンションは山梨の富士五湖の山麓に新築された物らしく、おいしいうどんを手作り出来る事が売りのペンションとのことだった。メールの内容も良く読むと、かなり丁寧で、決して怪しいメールとは思えない。
 浅川は思い切って返事を書き、次の週末の午後に取材に行くことになった。

    :
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 そして時は流れ、週末。
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 社用の車に取材道具と簡単な着替えを詰め込み、例のペンションを目指して中央高速をぶっ飛ばす。
 都内の大渋滞を抜け、遅れを取り戻す為に法定速度の1.5倍ぐらいの速度で突っ走ると、さすがにほとんどの車は道を譲り、浅川が完全に流れをリードする。
 抜き去った車の安全を確認しようとバックミラーをチラチラみると、ある時、猛烈な勢いで浅川の車に迫り来る1台の車があった。
 低く平べったく真っ赤なその車は、みるみるうちに浅川の背後に迫り、浅川が車線を変更して道を譲るまもなく、爆音を残してあっさりと左車線から抜いていく。抜きさる時の巨大なリアウイングは、一瞬だけフェラーリF40にも見えた。

 ケーニッヒ・コンペティション・エボリューション。

 優雅で美しいデザインを持つオリジナルのフェラーリテスタロッサを、ドイツにあるチューナー、ケーニッヒが無惨にも切り裂き、継ぎ足し、激しく野蛮なスタイルに作り替え、5リッター12気筒180度V型ベルリネッタボクサーエンジンは、ツインターボとスーパーチャージャーの力を借りて、最終モデルで実に1200馬力と言う途方もない出力を絞り出す。
 公称最高速度は時速370キロにも達し、安全の為に時速320キロでスピードリミッターが作動すると言われているヨーロピアン馬鹿丸出しの怪物である。

 爆音と共にあっと言う間に走り去るケーニッヒコンペティションエボリューションを眺めながら、中央高速を富士五湖方面に向かい、後はナビに従って目的地を探し出す。

 ナビに案内された場所は、富士五湖から少し離れた山麓の貸別荘が沢山立つエリアの一角だった。
 だが、写真で見た綺麗なペンションは全く見あたらない。

 ナビは地図が古くて実際の道路と違う事もあり、浅川はまたナビに裏切られたとぶつぶつ文句を言いながら車をスローダウンさせ、住所を辿って周辺を探してみる。

 だか、調べた結果、住所で書かれた場所と思われる場所はやはりこの貸別荘群の一角である事が分かる。
 おかしいなと思いつつも、その建物の横にあったパーキングスペースに車を入れると、貸別荘らしき建物に入ってみることにした。
 駐車場には既に1台ワゴン車が止まっていたので、宿泊客がいるのかもしれない。とするとやはりここはペンションなのだろうか?
 時計を見ると既に3時を回っている。約束は午後としか言ってないので、もう訪ねて行っても問題ないはずだ。

 浅川はドアをノックする。

 コンコン

「ごめんくださーい。○○出版から取材に来た浅川です~」

 するとしばらく何の反応もない。
 ふたたびノックする。

 コンコン

「ごめんくださーい。」

 パタパタパタパタ・・・
 ドアの向こうで足音が聞こえる。誰かがドアを開けに来たのだろう。

 ガチャリ

 そしてゆっくりとドアが開く。
 浅川はそっと中をのぞき込むようにして建物の中に入って行く。

「こんにち・・・・・・え゛・・・・」

 浅川は、目の前の光景を疑った。

 ペンションと言いつつもどう見ても貸別荘というそのドアを開けて貰い、中に入るとそこにはあり得ない光景があった。

 一瞬ビックリして玄関の外に飛び出る浅川。
 駐車場を見ると、浅川の乗ってきた車の隣にはワゴン車。これはよく見ると、アウディーRS6アバントである。。。
 もう一度恐る恐るドアを開ける浅川。

 以前見た光景。。。
 そこにはメイド服を着たお人形が嬉しそうに手を振って待っていた。

「マ・・・マユちゃん??」

 浅川の言葉に、嬉しそうに大きく頷くマユ。
 そして大げさに手を振り浅川を招き入れるとリビングに案内される。

 リビングではマナも待っていた。
 彼女たちの出で立ちは、まさに伊豆の時と同じメイド服であり、相変わらずエプロンに隠れているが非常にボディーコンシャスな上半身と、フワリと広がって可愛らしいスカートで浅川を誘惑している。
 恐らくは呼吸をしているであろうスカートの中が気になってはいたが、それにも増して疑問だって事を質問してみる。

「な・・・・なんで2人がここにいるの???」

 浅川の素朴な疑問に、待ってましたとばかりに、ノートパソコンぐらいの大きさの液晶モニターを手渡す。

「なにこれ?液晶モニター?」

 浅川の質問に、マユは液晶モニターの画面を指さす。
 すると、そこに次のような文字が現れる。

『じゃーーん。これが私の新兵器。会話モニターでーす!』

 特に誰かが何かを入力したわけでもないのに、いいタイミングでマユの言葉らしい文字が出てきた。

「会話モニター??」

 思わず画面の文字をリピートする浅川。するとその言葉に応えるように、ほとんどタイムラグも無く画面上に文字が現れ始めた。

『そう!ご主人様とスムーズに会話する為に用意したの!これはね。私の思っている事を画面に表示してくれる装置なの。』
「それ、ホントか?凄いな。」
『へっへー。ご主人様は最新技術に疎いのねー。これは脳波だけで意思を表示する装置の研究から出来た物なのよー。頭の中でワープロしてるみたいな感じ?マナちゃんのはまだ無いんだけど、これあると楽でしょ?』

 浅川にはイマイチ信じられない光景だったが、確実にマユとの会話が成立している事を考えると、本当に彼女の思考が文字になっているようだった。

「まぁ、これで会話はしやすいってのは分かったけど・・・やっぱり・・なんで君らがここにいるの??それが凄く不思議なんだけど・・・」
『えへへ。風の噂でご主人様がやってくるって聞いたので、先に来て待ってたの!また一緒に遊びましょ?』
「噂にって・・・どうして・・・あ・・もしかして、あのメールは君らか?」

 浅川からすれば、そもそもこの取材依頼のメール自体不審な点が多かった。彼女らが何らかの方法で浅川のアドレスを調べて、今日のこの日をセッティングしたと考えると納得行く点も多い。

『・・・うん・・』

 マユは小さく申し訳なさそうに文字を表示する。文字の装飾を行うことで感情も表現出来るようだ。
 そして2人はもの凄くしょんぼりしている様子である。

「まったく・・一応仕事で呼ばれてきたのに、これじゃ、全く仕事にならないよ。いくらなんでもこんなやり方は良くないだろ?遊びたいなら素直に言えばいいんだ。そうすりゃ俺だって時間作って遊びに来たのに・・・」

 浅川はとりあえず文句を言う。だが、最後にやはり彼女らに会いたかったという本音が少し出てしまう。

『ごめんなさい・・でもご主人様に警戒されずに会うにはこんな方法しか思いつかなかったの。』
「まぁいいや。もうここまで来たら仕方ない。今夜は一泊して帰るさ。」

 浅川は渋々泊まるような言い回しをしているが、実は内心嬉しくて仕方なかった。着太郎ですらまだ一度も見たことがないと言う幻の着ぐるみを2度も見て、しかも彼女ら自らがコンタクトしてきたのだから。

 マユ達は浅川の泊まっていくと言う一言に凄く喜んでいる様子だが、浅川としても今夜は前回より予備知識も豊富だし、絶対に彼女たちの真実を掴んでやろうと思っていた。

「今回は前回みたいにトンズラさせないからな。覚悟しておけよ~~」

 ちょっと冗談ぽく言うと、マユ達はウンウンと頷いている。何処まで本気か分からないが、一応頷いている事は確かだ。

『でも私たちに秘密なんてないもん!』

 マユはこの場でも相変わらずだ。浅川からすれば、今回はしくじらなければ絶対帰り際にしっぽは掴めると言う核心があったので、その言葉を聞きながら内心ほくそ笑んでいた。

『そう言えばご主人様。寒くないですか?外はだいぶ気温も低いみたいですけど』

 確かにもう世間は冬である。まだ雪は積もっていないとはいえ、上着なしで外に出るのは厳しい程だ。だが、言われてみるとこの部屋は暖かい。

「いや、全然寒くないよ。むしろTシャツでもいいぐらい暖かいよ。」

 恐らくは26~7度に設定されているであろうエアコンは、シャツ一枚でも過ごせる程快適な状態になっていた。

『じゃあ平気ね。』

 マユはそう言うと納得している。
 しかしよく考えてみると、マユ達にとってはこの温度は決して楽だとは思えない。
 何時に来るのかも分からない浅川を、着ぐるみを着て衣装を着込んで、部屋を暖めて待っていたのだ。
 彼女たちの身体は伊豆でも見たとおりゴムであり、その中に長時間いると言うことは、それはそれはもの凄い蒸れ方をするはずだ。
 伊豆での出来事以来、仕事でも積極的に着ぐるみ系の職場を取材したりして、裏事情を聞いている浅川は、ヒーロー物などのウエットスーツで出来た着ぐるみは特に地獄で、1時間も着ていると大の男でも相当辛いと言う話を聞いている。そして、ゴムの身体で動き回ること自体、相当体力を使うとも聞く。また、ゴムには通気性が無いので内部に熱が籠もり、蒸し風呂のような状況になるのだ。ヒーロー物のマスクは小さな口元のスリットと目に開けられた視界以外の穴が無く、かなり呼吸も苦しいのである。
 そう言う着ぐるみですら1時間が限界というのに、恐らくそんなウエットスーツ製の着ぐるみより、さらに窮屈に身体にフィットしたゴムを着込むマユとマナの中にいる人物は、少なくとも顔には隙間らしい穴はなく、唯一の外界との接点がスカートの中のタイツや下着で厳重に覆われた股間に開いた穴から呼吸をしてるはずなのである。
 浅川はマユやマナの中で蒸されながら狭く苦しい身体の中で演技を続ける女性達を想像し、早くも興奮しつつあった。


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