お嬢様物語:雨宿り(3話) [戻る]
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 ビキニ姿の彼女たちは、身体の分かる範囲にはつなぎ目や隙間がない事が分かった。
 これでは、この着ぐるみをどうやって着たのか。どこから呼吸を行っているのか。それが全く分からない。

 浅川は、背中のファスナーを開けたら簡単に出入り出来るのだろうと思っていただけに、その事実は衝撃的であった。
 簡単に出入り出来る着ぐるみだと思っていたから、気軽な気持ちで彼女らの遊びに付き合っていたのだが、ここまで完璧に中を隠されると、どうしても、この2人の着ぐるみが気になって仕方がなかった。

 確実にこのマユとマナの中には誰かがいる。それは理屈から言って間違いないのに、その2人がどうやって中に入り、どうやって息をしているのかが全く分からないのだ。
 何となく、自分だけが知らない事実があることに、ちょっとした嫉妬を覚えていた。

 ただ、あまりに興味があることを示すと、恐らく彼女らの思うつぼである。

「なるほど。どうやらホントに人形なんだね。悪かったよ。もう気にしないことにする。」

 浅川は、これ以上詮索すると自分が興味津々なことが2人にバレると思い、もう諦めたと言うアピールをする。

 2人は嬉しそうに頷くと、再びテーブルの向こうに立つ。
 マユがマナのメイド服を手にして、順番にマナに着せてあげている。真っ白なタイツが下半身を覆い、パニエ、ペチコート、そしてメイド服、エプロン。次々とマナが布に覆われていく。
 衣装を着終わったマナは軽くポーズを取ると、今度はマユの服を手にする。そしてその服をマユに着せようとするが、次の瞬間、何かを思いついたように服を床に置いてポンと手を叩く。

 そのままマナはマユの服を浅川の所に持ってきて手渡す。
 マユは何事かと眺めていたが、浅川に服を手渡したことで状況を理解したようだった。もちろん浅川自身、服を手渡された時点で理解出来た。この服をマユに着せろと言うことなのだ。

「え?俺が?!」

 意外な展開に聞き返す浅川。
 マユもマナもウンウンと頷く。

「ま・・まじ・・・?」

 と言いながら、女物の服を脱がせた経験はそれなりにあるが、着せる経験はなかなか無いと、少し緊張してしまう。

 だが、マユは既に浅川の前に立ち、着せて貰うのを待っている。
 こうなっては拒否するのもおかしな話だと諦め、彼女に服を着せる事にした。

 とはいえ最初から大変だ。タイツなど人に穿かせた経験はない。どうやって穿かせればいいのか苦労しながらなんとか下半身を包み込むが、どうも股の部分が余ってしまってフィットしていない。
 まぁいいか、と諦めてパニエを手にしようしとしたら、すかさずマナがマユの股を指さして抗議のポーズを取る。

「ここ・・・・ちゃんとやらないとダメ?」

 マナはウンと頷く。マユを見てみると、マユも当然だろうと言う感じで頷いている。
 人形とは言っているが明らかに見知らぬ女性の下半身がこの内側にある。しかもゴムで長時間覆われていればかなり蒸れているはずだった。布をフィットさせるためとはいえ、そんな下半身に対して、これ以上何かするのは躊躇してしまう。
 しかし、まぁ2人がやれと言う以上仕方ない。
 要領がよく分からず、直接股ぐらに手を入れ、引っ張って持ち上げてみたり、と無理矢理フィットさせた。しかし、強くするわけに行かず、なるべくソフトにしていたため(何せ中にいる女性が痛がっては可哀想だから)かなり時間はかかる。
 そして、この時、浅川は一つの衝撃的な事実を突き止める事になる。

 何度か試行錯誤して、股ぐらのたるんだタイツをつまんで上にフィットさせるようにズラしていると、丁度女性の割れ目に沿って、何かなま暖かい空気が漏れていることに気づいたのだ。

 最初はタイツと身体の間にある空気が行き場を失って漏れてるのかと思ったが、どうもそんな量ではない。しかも、かなり一定のリズムを刻んでいることも分かった。

「え・・・」

 思わず一瞬マナとマユを見る。
 2人はどうしたの?と言う態度を取る。

「あ・・・あのさ・・もしかして君ら、ここから呼吸してる??」

 浅川はストレートに訪ねる。

 マナはまた、スケッチブックに何かを書いて浅川に手渡す。

『お人形は呼吸なんてしないの!それは気にしちゃダメ!』

「え・・で・・でも・・・明らかに呼吸のような・・・」

『そんなこと無いの!とにかく服を着せてあげて!』

 マナは断固として認めないが明らかに呼吸だ。
 つまりこういう事だ。彼女らはつなぎ目の全くないと思われる着ぐるみを着て、唯一の外気を取り入れる場所が付いている股間から、何らかの方法(恐らくはチューブ類)で顔まで空気の通り道を造り、呼吸しているのだ。
 確かにここならば、通常は布に覆われているから呼吸口は目立たない(事実、先程のビキニのような露出度の高い衣装でもここだけは布に覆われている)。しかも顔から遠いから呼吸音も目立たなく出来るのかもしれない。
 だが、逆に言えば、これだけ遠くから外気を導入し、しかもほぼ常に何らかの布が覆っている場所から息をしていると考えると、彼女らの内部はかなり息苦しいはずである。

 ふと思い返すと、最初にこのマユがクローゼットにいた時、スカートをめくったらかなり湿気を帯びた空気がスカート内に充満していた。おそらくはクローゼットに隠れて浅川が探し当てるまでじっとしていたため、ロングスカートの中に呼吸した空気が籠もっていたのだ。つまりあのときの湿気は、彼女の中の湿気そのものなのだ。
 だとすると、今このタイツ越しに漏れている空気も、このマユの中の空気そのものであり、先程まではビキニの1枚であった呼吸口を覆う布は、浅川の手により2枚になり、しかもパニエやペチコート、そしてドレスを覆い被せてしまおうとしているのだ。

 なんというか、自らの手で、彼女の中の空気を外気から遮断してしまう事への申し訳なさと共に、少しだけそんな遮断される側が羨ましいと思っている自分がいた。

 それから、もう1点、浅川はふと思い立った事がある。
 それは出入り口についてだ。体中で見える所はくまなく見たが、そこには隙間やファスナー、つなぎ目はない。だとすると考えられる出入り口は隠れている場所と言うことになる。事実呼吸口もビキニに隠れていた。とすると出入り口もそう考えるのが自然かもしれない。
 見たわけではないので断言出来ないが、可能性があるのはやはり股の間からお尻にかけてだろう。ここならちょうど割れ目に沿って出入り口を設ければ目立たないはずだ。
 このぐらい出来のいい着ぐるみであれば、そんな場所に出入り口を作ることも可能だと思われるのだ。

 もちろん彼女らにそんなことを聞いても、知らぬ存ぜぬで押し通すだろう。今更ビキニを脱がすことも出来ないだろう。それ故確認する手段はないが、状況証拠から考えても浅川はこの自分の説に自信はあった。

 こうして、浅川は彼女たちの謎の一部について自分なりに理解し少し安心すると同時に、中の過酷な環境を想像し、なんとなく興奮していた。
 もちろんそれを悟られないように、なるべく手際良くマユに服を着せてあげた。

 だが、このメイド服。最初にも言ったとおり、生地は伸縮性がほとんど無いのに相当ボディーコンシャスであり、背中のファスナーを閉めようとすると、かなりムチムチと身体にフィットし、特に胸は窮屈そうに締め付けられているのが分かった。

 浅川は、彼女たちがどうしてこんなに苦しそうな人形に入って、さらに自らを締め付けるような衣装を身につけているのか、自分なりに考えていた。
 普通ならこんな苦しそうな状態、一刻も早く抜け出したいはずである。イベントなどならともかく、ここで着ぐるみを着続ける理由など何もないのだ。
 しかしこうして彼女たちはマユとマナを演じ続けている。

 最初に彼女たちを発見した時、彼女達はじっと動かずほんとの人形を演じていた。胸を触った時聞こえた吐息のような音も、股間に触れた時の反応も、快感を押し殺していたとしか思えない。

 だとすると、彼女たちはこういった着ぐるみに密閉され、別の何かを演じることに興奮しているのかもしれないと考えた。

 実は、浅川自身、若干マゾっ気があった。ハードで痛そうな行為はイヤだが、拘束され不自由な中で快感を与えられることは、もの凄く興奮を煽る行為だった。
 そして、目の前の人形の中には、まさにそんな状態に置かれた女性がいる。
 なんというか、彼女らが羨ましいと言う気持ちと共に、その状況にいられない自分が悲しくもあった。自分が女性として生まれ、この着ぐるみの持ち主の知り合いだったら、是非とも中に入って見たいとすら思っていた。

 そんな浅川の気持ちなど気にも留めないように、彼女らは着せて貰った服を鏡でチェックして満足そうにしている。

「ふぅ。まいったなぁ。しかし君らは何でここにいるんだ?どうして着ぐるみ着て俺を困らせるんだ?」

 ヤレヤレという感じでつぶやく浅川。
 その言葉を聞き、マユが何かをスケッチブックに書いて渡す。こうして互いの会話がしばらく続く。

『今日は私たちお人形2人で旅行に来たの!でも台風になってつまらないなぁって思ってたの。そしたらあなたが家に迷い込んでたのよ!』

「あ、まぁ確かに迷い込んだのは俺だけど。」

『ホントはくつろぐはずだったんだけど、私たちは見てのとおり、メイド人形。だからお客さんがいたら、おもてなししなきゃいけないの!』

「え?客って俺???」

 2人はウンウンと頷く。

『そう。だから、私たちはあなたにご奉仕するために頑張るの。一生懸命頑張るわ!だから困らせてなんて言わないで。』

「いや・・まぁそんなに気を遣われてもねぇ。。。それに人形って言っても、やっぱり中は気になるし・・」

 浅川は少しだけ本音を言った。

『中?お人形の中は気にしちゃダメよ!私たちはマユとマナ。優秀なメイド人形なんだから!それともそんなに私たちの中が気になる?』

「ま・・まぁ」

『ふふふっ。素直ね。じゃあ特別。中の話じゃないけど、私たちの事。ちょっとだけ教えてあげる。』

「ホント?」

『メイド人形はご主人様に嘘は言わないわ!』

 浅川としては、中に人がいるという確証はあったので、この台詞そのものが嘘としか思えなかったがとりあえず突っ込まずにいた。

「じゃあ、その秘密とやらを教えてよ。」

『いいわ。まず私たちの身体。ゴムなの。ゴム。』

 そう言って自らの手の甲を指さす。

「そりゃ見て分かるよ。」

『それに、さっき見たと思うけど、身体につなぎ目とかもないでしょ?』

「ああ。確かに。」

『だから、中に人が入るなんて無理なのよ。それにもし私たちに人が入ってたとしたら、その人は全身ゴムに覆われてるんだからもの凄く窮屈だし暑いし苦しいと思わない?そんな中にいられるわけないと思わない?』

「それも確かにそうなんだけどさ・・」

『でしょ?さっきあなたが言ってたけど、もしスカートの中から息してるとしたら、もの凄く苦しい事だと思わない?そんなこと我慢してまで着ぐるみを着ている人がいるとは思わないでしょ?』

 浅川は内心、そんな人が確実に今目の前に2名存在するはずだとは思いつつも、まぁ納得した。

『だから、私たちはお人形なの。分かった?』

「ああ。まぁ反論出来る証拠はないからな・・・」

『でもね。』


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