お嬢様物語:雨宿り(2話) [戻る]
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 相変わらずテレビが付いている。時間を見ると、1時間ぐらいはうとうとしていたようだ。
 ニュースを見てしばらくすると、今日早く起きたのが理由か、うとうとしてくる。
 ソファーの座り心地も良く、空調も丁度いい状態だったので、そのまま軽く寝てしまったようだ。




 ふと目がさめる。




 相変わらずテレビが付いている。時間を見ると、1時間ぐらいはうとうとしていたようだ。
 ソファーに座ったまま両手を上に伸ばして身体をほぐす。

「ん・・・んーーー。ふぅ」

 身体を伸ばすともの凄く気持ちが良く、すっきりした。

 そして、何気なく右を向く。

 ソファーは横に4人ぐらい腰がかけられる。浅川はほぼ真ん中に陣取りうたた寝していたが、その右側に、誰かが座っていた。
 黒くて長い髪の女性。

 いや、先程クローゼットで見た等身大のフィギュア人形だ。

 事態が飲み込めず浅川は言葉を失う。次の瞬間反対方向にも気配を感じて振り向く。
 するとやはりソファーにはウェーブがかったブラウンの髪の女性。ではなく、やはり先程の人形だ。

「え・・・え?!」

 よく分からずポツリとつぶやくと。
 姉の人形はくるっと顔をこちらに向け、可愛く小首をかしげてお辞儀をした。

「・・・・」

 浅川はゆっくりと後ろを振り返る。

 今度は妹がくるりと顔を向け、可愛らしく手を振った。

「な・・・・」

 人形が動いている・・・
 浅川はあまりの衝撃に言葉すら出なくなっている。腰も抜け、逃げる気力も失い、ただただ慌てている。

 そんな浅川を気にすることもなく、2体の人形はソファーをスリスリと移動し、浅川を両サイドからサンドイッチするようにくっつく。
 そして、妹が、ソファーの後ろからなにやら取り出した。

 それはスケッチブックのようだ。そしていつの間にか手にサインペンが握られている。

 妹が手際よく何かを書いて、浅川にスケッチブックを手渡す。
 浅川は恐る恐る手に取ると、書いてある文字を読んだ。

『こんにちは。私たち、この家に住んでるマナとマユって言うの。私がマナで、隣がお姉さんのマユよ。よろしくね!さっきは突然だったから驚いちゃったけど、ちょっと楽しかったよ!』

「マナちゃんと・・・マユちゃん???」

 浅川がぼそりと言うと、2人とも可愛らしくウンウンと頷いた。

 再びスケッチブックを手に取ると何かを書き浅川に手渡すマナ。

『あなたは誰?どうしてここにいるの?』

 今度は浅川への質問が書かれている。

「あ・・お・・おれは浅川。雑誌のライターしてるんだけど、取材で道に迷ってたまたまここを通りがかったら明かりがついてて、一晩泊めて貰おうと思ったら誰もいなかったんだ・・・」

 マナはその話にウンウンと頷くと、OKサインを出して再び何かをスケッチブックに書いて手渡す。

『そっか。それじゃ一晩一緒にいましょ。私たちなら気にしないでね。お客さんいる方が楽しいし、歓迎するわ』

「あ・・・ありがとう・・・」

 何となくではあるが、2人からは宿泊許可が出たようだ。しかし、浅川は根本的な疑問としてこの2人が何者なのか、凄く気になっていたので、思い切って聞いてみる。

「あ・・あのさ・・・泊めてくれるのはありがたいんだけどさ・・・」

 2人はその言葉にウンウンと頷いて聞いている。

「君らって、なんで着ぐるみに入ってるの???それもこんなゴム製じゃ暑いだろ。それに、そもそも顔に空気穴も見あたらないし、ずっと入ってたら苦しいんじゃない?脱いだら??」

 その言葉を聞いた2人はヤレヤレ、分かってないなぁ、と言うような仕草をして、再び何かをスケッチブックに書く。

『私たちは着ぐるみじゃなくてマユとマナって言うお人形よ。身体もこう言う身体なだけで、空調効いてる部屋だから快適だし、お人形さんは息は吸わないの。もちろん着ぐるみじゃないから脱ぐことなんて出来ないのよ。わ・か・っ・た?』

 なんというか全く話がかみ合っていない。常識的に考えてこのような大型の人形が、人間と変わりない程スムーズに動くことはあり得ない。そう考えると、確かに良くできているしスタイルは抜群とはいえ、明らかに人が入っている人形、つまり着ぐるみなのだ。
 こんな事、それなりの年齢であれば誰だって分かる。
 にもかかわらず、彼女らは人形だと言いはる。まぁ泊めて貰う身であり、おそらく中にいる人はこの家のオーナー達なのだろうから、あまり怒らせて家を追い出されるとマズイ、と言う極めて大人な判断の元、納得することにした。

 それにしても、何故彼女らは着ぐるみを着ているのか。浅川にはさっぱり分からなかったが、2階のベッドルームで見た派手な衣装達は、着ぐるみに着せるための物のようだと理解出来た。

 と考えると、彼女らはここで人形ごっこ?のような遊びをするために泊まりに来たのだろうか。

 確かに女性なら人形遊びの一つも子供の頃にやったのだろうが、大人になってまで、しかも自ら着ぐるみに入ってまで楽しむとは、世の中いろんな趣味の人がいるもんだと関心した。

 事情が何となく飲み込め、人形が着ぐるみで、とりあえず人が入っている。つまりこの家には3人の人がいると分かって少しだけ安心した浅川は(もっとも、その肝心の着ぐるみは、自らは人形であり、人はいないと言い張っているが)、少しだけクローゼットのことを思い返していた。

 完全に人形だと思いこんでいた浅川は、彼女たちの身体を遠慮無く触っていたのだ。
 着ぐるみ越しとはいえ、中に人間がいたのであれば、かなり恥ずかしかったに違いない。しかも姉のマユちゃんに関しては一番大切なところに触れてしまっていたのだ。おそらく太ももが一瞬反応したのも、マユちゃんの中にいる人物が感じてしまったからなのだろう。
 浅川は、その時の中の人物の事を思い返し、着ぐるみの中で弄られながらじっとしている人物がいたと言う状況にちょっとだけ興奮を覚えていた。

 着ぐるみ越しとは言っても、どんな人物かは分からないが、スタイルは良さそうな女性二人を色々触っているのだ。しかもおそらく目の前にいる2人の人形の中は、その時中にいた人物がいるはずなのだ。
 そんな事を考えていると突然。

 ぐ~~っ

 と腹の虫が派手に鳴いた。

 2人の人形もその音に気づいたようで笑っている(正確には笑っているような素振りを見せている)。

「ね・・・ねぇ。マユちゃんにマナちゃん。申し訳ないけどなにか食べる物無いかい?俺、今日は朝から取材で10時頃にペンションの食事をしたきり何も食べてないんだよね。」

 浅川は申し訳なさそうに訪ねると、マユがすっと立ち上がり、ウンと頷いて台所に走っていく。スリッパであればパタパタと可愛らしい音がしそうな歩き方だが、ショートブーツのコツコツという音がフローリングの床に響いていた。

 冷蔵庫から何か取り出すと電子レンジに入れ、暖め始める。数十秒でチーンという音と共に、出来上がった物をシルバーのトレイに乗せ、脇に缶のビールも乗せてキッチンから戻ってきた。
 それを見ていたマナは、お待たせしました、と言う雰囲気で浅川の前にテーブルをずらし、そのテーブルにマユが暖めた物とビールを置く。

「おー、ピザか。上手そうだね。しかもビール付きとは気が利いてるね。さすがメイドさんて所かな?」

 浅川もちょっとおだてるように2人に言うと、2には喜んでいるようだった。

「あ、でも君らも食べないの?食事の時ぐらいは脱いで一緒に食べようよ。」

 いつまでもメイドの着ぐるみを着ている2人に、浅川が声をかける。ちょっとぐらい休憩しようよ、と言う意味でもあった。
 すると、彼女らは再びスケッチブックに文字を書いて浅川に手渡す。

『お人形は食事いらないの!』

「そ・・・そうなのか・・」

 そうつぶやきながら苦笑する浅川。そこまで徹底して人形と言い張るなら仕方ないと諦めて、出された食事を食べはじめた。
 レンジで温めただけのピザではあるが、空腹も手伝いとても美味く感じた。また、よく冷えたビールも喉越しよくグビグビと飲めた。

「ふぅ。美味いねー。」

 浅川の一言に2人も喜んでいる。どうやらあくまでも人形でいるつもりらしい。そこで浅川はちょっと意地悪な質問をしてみた。

「ねぇ。君らって着ぐるみじゃなくて人形なんでしょ?」

 すると、当然のように彼女らは頷く。

「じゃあさ。身体にファスナーとかがあるのは変だよね?。まさかと思うけど、背中とかにファスナーがあるんじゃないの?」

 浅川は、この質問で彼女たちもあきらめると思った。さすがに背中のファスナーは隠せないと思ったからだ。
 そして、浅川の予想通り、彼女らはその言葉に観念したのか、部屋を出て行ってしまった。恐らく着ぐるみを脱いで来るのだろうと思った。

 10分ぐらいして彼女らが戻ってきた。しかも予想に反して再び着ぐるみのままである。そして浅川の前でテーブルを挟んで向こう側に立つ。

「え?」

 思わず浅川はビックリする。
 なんと彼女らはその場で互いのメイド服を脱がし始めたのだ。
 それも普通に脱ぐがせると言うよりは、明らかに浅川を意識して、徐々に脱がせている。

 お互いにエプロンが剥がされ、メイド服のファスナーが下ろされ、互いに服を脱がしあいながら、その身体が露出していく。メイド服が脱がされると、穿いていたペチコート、パニエ、そしてタイツを脱ぎすて、浅川の前でポーズを取る。

 彼女らは、見事なプロポーションを隠すことなく、ビキニスタイルの水着を身につけて戻ってきたのだ。
 どうやら先程戻ったのは、この水着を着込むためらしい。

 それにしても正面から見る限り全く身体にファスナーはおろか、つなぎ目らしき物はない。
 彼女らはその場でくるりと後ろを振り返る。

 背中には当然のようにファスナーが・・・無かった。
 浅川の期待とは裏腹に、ファスナーはなく、つなぎ目すら見えない。

 目を丸くしている浅川を見た2人は満足そうに頷くと、再び浅川の両サイドに座り込む。
 胸と下半身の大事なところ以外は全く包み隠さず露出しているが、間近で見ても出入り口らしき物は全く分からない。例えゴムを貼り合わせて入り口を塞いであるにしても、何処かにスジや隙間が出来ると思うのだが、彼女らはそれが全くないように見えた。

 ただ、彼女らのお腹をよく観察すると、出たり引っ込んだりしているのは分かる。つまり確実に呼吸はしているのだ。
 呼吸するぐらいだから顔の何処かに隙間でもあるのかと観察しても、口は閉じている状態で、目も隙間らしい場所はなく、外気を取り込む場所が全く見えなかった。実際にそれを裏付けるように、顔に近づいても呼吸音が聞こえないのだ。極小の隙間から呼吸しているとしたら、その隙間を通過する空気が発する音が聞こえないはずはない。大きめの隙間であれば音もなくなるだろうが、そんな隙間は全く見えない。

 と考えると、少なくとも顔や、顔に近い場所に隙間や継ぎ目があるとは思えなかったのだ。


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