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200×年8月某日
旅行雑誌の編集者として、あちこち取材に回っている浅川道夫は、西伊豆に新規オープンしたペンションの取材を終え、今夜中に東京の編集部に戻ろうと、熱海方面に向け夜の山道を愛車で飛ばしていた。
数日前から台風が相模湾方面に接近してくるとの情報があり、今日の取材も心配された。日中は風が強いだけで、どうにか天気は持ったのだが、夕方から急速に雨雲が現れ、あっと言う間に嵐になってしまっていた。
その影響で、どうも熱海に抜ける新道は、風で倒された大木が横たわり通行止めとなっていた。
新道を反対側に向かい、迂回路を取れば、遠回りではあるが道のいい道路を走れる。
すっかり夜になり車の台数はまばらになったが、そのほとんどの車はUターンして迂回路を目指しているようだ。中には大柄すぎてUターン出来ず、何度も切り返している車もいた。
バックするためにめに開けたドアが風に煽られて大変そうな、ランボルギーニ・カウンタックLP5000クワトロバルボーレなども見かけた。
浅川は個人的に車が好きだったのでこういう車には目がないのだが、カウンタックはその中でも第一次スーパーカーブームの主役だった事もあり、性能はともかく、そのデザインにずっと憧れを持っていた。
そんな車を見られたことが、ちょっとした感動であった。
浅川も迂回路を考えたが、このまま台風が強くなり高速道路が通行止にでもなると、いよいよ編集部に戻れなくなると思い、少し道は悪いし曲がりくねってはいるが、旧道を通って最短経路で熱海方面を目指すことにした。
いつくかのトンネルと橋を通り抜けると、地図には出ていない小さな分かれ道があった。
その分かれ道を通り抜け、再びしばらく行くと、道路を土砂がふさいでいた。
「くそ。この道もダメなのか・・・」
浅川は舌打ちするように言い放ち、ため息を一つつく。
仕方がないので迂回路を通る為Uターンし、元来た道を目指す。すると先程は気にも留めなかった分けれ道が目につく。道の入り口を見る限り、林道のような雰囲気ではあるが、上手くすれば先程の土砂崩れの場所をバイパス出来るかもしれない。
どっちにしてもここがダメなら戻ってくればいいと判断した浅川は、物は試しとばかりに、この道を行ってみることにした。
街灯も何もない単なる山道は、くねくねと曲がりながら山奥へと続いている。
20分ぐらい走って結局行き着いた先は行き止まりで、再びがっかりしながら、やはり来た道を引き返して迂回路を通る事にした。
しかし、来た道を引き返すつもりが、30分以上走り回っても、結局元の道らしい場所に出られない。カーナビは付いているが、道が出てない上、あまりにもくねくねなので現在位置が正しいのかどうかすら怪しい。
自分の位置を見ると、ほんの100メートルぐらい横にそれれば地図上の道に出られるのだが、そちら方向はどう見ても山で、道らしい物は見あたらない。
真っ暗な事もあり、結局浅川は、ナビ付きの車で、しかも伊豆などというメジャーな場所で、完全に道に迷ってしまった。旅行雑誌の編集者としてはかなり情けなかったが、どうやら携帯は通じるようなので、編集部に電話して、今日中に戻るのは諦めたと告げ、何処かに駐車して一泊して、台風をやり過ごしたあとでのんびり帰り道を探すことにした。
丁度いい駐車スペースを探そうと、少し林道をウロウロすると、こんな場所には似つかわしくないような一軒の家が現れた。
家は外見からそれほど大きくはないようだが、かなり綺麗な洋風の建物で、一見すると別荘のような雰囲気すらある。
駐車スペースにはワゴン車が1台止められているし、カーテン越しに明かりも見えるので、恐らくは誰かが泊まりに来たのだろう。
ワゴン車はアウディRS6アバントと言う、一見すると普通のアウディーのワゴンだが、実は450馬力を誇る高級スポーツワゴンで、浅川は車のオーナーがちょっと羨ましかった。
しかし、こんな林道の奥の別荘に来るとは、余程安い値段だったのだろうか。浅川は少し余計なお世話とも言える心配をしながら、そのアウディーの横に車を止め、別荘らしい建物に行ってみる。
コンコン。
ノックをしても誰も出てこない。台風の風雨でノックがかき消えているのか。呼び鈴を探すがそれはないらしく、浅川は大声で家人を呼び出す。
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんかー」
かなり大声を出してもなんの反応もない。
不思議に思った浅川は、軽い気持ちでドアノブを回してみる。
ガチャリ。
山奥とはいえ、不用心にも鍵はかかっていないようだった。
浅川はそっと中に入りながら、少し遠慮気味に言う。
「ごめんくださーい。どなたかいらっしゃいませんかー?」
玄関から中に聞こえる程度の声で言ってみたのだが、誰もいないようだった。
やはり建物の中は明かりがついていて、誰かいるように見えた。
「すみませーん。ちょっとおじゃましまーす」
浅川はそう言いながら靴を脱ぎ、ソロソロと家の中に入っていく。
廊下にはトイレや風呂場、2階への階段もある。そのまま廊下を抜けるとキッチンと居間が現れた。かなり広いスペースで、全部で20畳ぐらいの広さがあり、それなりに高級そうなソファーセットや大型TVがおいてある。
しかし、どういう理由か分からないが人はいないようだった。
居間以外の部屋、風呂場、トイレ、2階も探してみたが、誰一人いない。
ただ、2階のベッドルームの片隅には大きなボストンバッグやキャリーバッグが数個置かれ、一部は開梱されていた。開梱されている一部をちらりと見ると、若干の男物の衣類と、結構な量の女物の衣類がある。
家族で泊まりにでも来ているのだろうか?
それにしても女物の衣類は、普通とは違う派手な物や、かなり露出の高そうな物もあるのが気になった。
浅川はこの家族の行方が少し気になってしまう。
こんな嵐の夜に、道も分かりにくい中外出しているとは思えない。かといって、部屋に人がいる気配もない。
なんとなく狐につままれたような気分になりながら、居間に戻ろうとする。その時、浅川は部屋の片隅のクローゼットが少し開いていることに気づいた。大きめのクローゼットなので恐らくウォークイン出来るのだろう。
「ん?ここは?」
何気なくクローゼットを開ける。
「うわっ!」
クローゼットのドアを開けた瞬間、そこには驚くべき物があった。
可愛らしいメイド服を着た等身大のフィギュア人形が2体、立ったまま置かれていた。
「な・・・なんだ・・・これ?」
浅川は何故こんな場所に人形が置かれているのかさっぱり分からなかったが、とにかくそこには2体のメイド姿をした人形が置かれていた。右側がロング。左側がミニのドレスを着ている。
背丈は、ロングのメイド服の方が160センチより少し大きいぐらい。ミニのメイド服の方は150センチあるかないかという小柄なサイズである。
浅川自身が男性としては割と標準的な173センチなので、どちらもかなり可愛らしく華奢に感じた。
特にミニのドレスを着た方は、スタイルこそ非常にいいが小柄なのでかなり幼くも見える。
それにしても、突然のことにビックリはしたが、見た目に可愛らしく、また特に動く様子もないので、少し冷静に眺めてみる。
「この人形はなんだろう・・・でもここにしまってある所を見ると、多分この別荘の所有者の物なんだろうなぁ・・・世の中には変わった趣味の人がいるみたいだけど、子供の遊び道具にしちゃデカイし、旦那の趣味なのかな。」
ぶつぶつ言いながら人形を見る。
実は浅川は学生時代、模型の趣味もあり、一時はフィギュア集めにも凝っていたり、と、こういう人形の造形が嫌いではなかった。
左右2体並んだ人形のうち、右側は少しお姉さんぽく、左側の方は体型も小柄で表情のデザインも幼い。
衣装自体は、スカートの長さこそ異なるが、シルエットはそっくりで、メイド服という割に結構ボディーコンシャスで、スタイルが浮き出ている。
スカートこそフワリとメイド服らしく広がっているが、上半身はエプロンがなければかなりセクシーな、いかにも人形と言えるスタイルを見せつけている。
お姉さんの方はブラウンの髪がフワリとウェーブがかっていて、ほのかな香水の香りまでする。
一方の幼い方はかなりのロングな黒髪でストレートだ。浅川は、なんとなく、この2体を姉と妹と言う感じにイメージしていた。浅川の感覚的には右側のお姉さんが18才ぐらい。妹は15才ぐらいと言う感じだった。
最初は容姿を観察していたが、やがて2体の人形を興味津々に触ってみた。
軽く姉の右手首に触れる。
ボディーの素材はゴムのようで弾力はあるが、人間の皮膚よりも多少反発力がある。中にはちゃんと関節があるようで、本物の人間と変わらないレベルには稼動するようだ。
指先もホントに関節が存在しているようで、手のひらを少し弄くってみたりもした。
「へえ・・・良くできてるんだな。」
そう言いながら、今度は妹の身体も触ってみる。かなりセクシーなデザインのメイド服がピタリと貼り付いたウエストの辺りを、脇からさするように触る。
柔らかいと思ったが意外とパツパツで、「何か」がいっぱいに詰まっている感じはした。堅さを確認しようと少しサワサワと触ってみる。
「ん?」
浅川は一瞬だけ、この妹人形がピクリと反応した気がした。
ただ、特に何かに固定されているわけではなく、足のバランスで自立しているであろう人形を、浅川自身が触ったことで、人形が揺れたのだろうと思い直した。
「胸もこんな感じで硬いのか?」
健全な男性らしく素直に興味を引いた、少し大げさなぐらい大きな胸に触れてみる。
ムニュっ
「あ、柔らかいな。ここは。」
かなりリアルな感触が洋服とエプロン越しではあるがよく分かった。少しだけ感触を楽しむように弄っていると、このときも少しだけ違和感を感じた。
なんというか、耳元ではなく別の場所から吐息のような呼吸音が聞こえた気がしたのだ。
もちろん人形の顔から聞こえたとは思えないし、そもそも聞こえた方向はもっと下だ。
ただ、それすらも、そんな気がしただけ、であり、嵐の雨音や風の音もあるから、浅川はすぐに聞き違いだと思った。
メイド服は姉がロング、妹がミニで、妹は真っ白なタイツを穿き、ストラップのローファーを履いている。
姉の方の足がどうなっているのかに興味を移した浅川は、今度は姉の着ている服の長いスカートをめくってみた。
めくるとムワッと湿気のような物を感じた。
人形は熱を発することはないとは言っても、夏場にロングスカートでクローゼットの中では、換気も悪くずいぶんと空気が籠もっていたため、少し湿気も多かったのだろうか。
スカートの中を見ると、妹とは違い真っ黒で厚手のタイツを穿き、編み上げのショートブーツを履いているようだった。
そして、厚手のタイツ越しに少しだけ見え隠れする下着は真っ白のようだった。
「うーむ、普通の女にこんな事したらはり倒されるよな。」
浅川はそう言いながらまじまじと下半身を見つめる。
タイツという密着性の高い布のおかげで、この人形のスタイルの良さがよく分かる。
じーっと見つめているだけでは我慢出来ず、つい、軽く触れてみる。
ピトっ
人差し指でつつくように、一番興味のある部分を触ってみると、タイツ越しとはいえ、一応若干の割れ目が形作られている様子が分かる。
そこにそって指を滑らせると、ほんの僅かに、人形の太ももがキュッと閉じるような動きをした様に見えた。
「あれ??いま動いた??」
浅川はそうつぶやくが、人形は全く動かない。まぁ人形だから当然だろう。
「気のせいかな。それとも、俺が触ったから人形のバランスが崩れて揺れただけかな・・・」
とりあえず人形であるから自立して動くことは考えられないし、そもそも浅川の頭の中には人形が自立して動くなどというオカルトじみた可能性は全く無かったので、なんとなく自分で揺らしたと言う結論になった。
それにしても風雨の音が凄い。ここに泊まりに来た家族がこの場いないことが少し不安になる。
一度気になり出すとなかなか落ち着かず、人形のいるクローゼットの扉は閉じて、再び家を散策し始める。
しかし、結局家の中には自分以外は2体の人形だけで、人は全くいない様子だった。
なんとなく不思議になりながらも、とりあえず電気が来て空調も効いているこの家に一晩お世話になることにした。むろん家族が帰ってきたら事情を話して、必要なら宿泊の代金も払うつもりでいた。
暇つぶしにとテレビを付けると、ニュースで台風上陸の事が出ていた。かなりの大型で、関東地方西部を直撃するようで、通過は明日の早朝6時頃とのこと。どうも、明日の朝まではこの家に厄介になる事になりそうだった。
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