マスコット(2話) [戻る]
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 ジャンケン大会のあとは、ゲーム制作者の対談の脇役として、マスコットとして彼らの話を盛り上げる。

 対談中は、アイはユイの車いすの後ろに立って、カメラを向けるファン達に愛想を振りまく。
 ただし、あとで撮影会もあるので、ここではホントにその場で軽くポーズを取ったりするだけである。
 また、基本的には対談中のリアクションも取りながらの行動となる。

 作者達の突っ込みに頭をポリポリかいて照れて見せたり、おどけて見せたり、時には切ないラブストーリーの話に悲しそうな演技をしたり、まさしくゲームに出てくるキャラクターとしての演技をこなす。

 このときも常にアイはユイより大きなリアクションを取り、アイの活発なイメージとユイのお淑やかなイメージをしっかり演じている。
 時々、アイが優しそうにユイの髪の毛を撫でたり、軽く肩に手を乗せたりとスキンシップを図っているが、その演技からはイヤらしさは全くなく、ホントに友達と言う感じである。
 また、頭や肩はそれほど感じやすい部分ではない為、触られているユイとってもそれほど物理的には辛くはない。

 確かに物理的にはユイにとってもアイにとってもそれほど負担に行為ではない。だが、精神的にはどうなのだろうか。

 お互い、それぞれの着ぐるみの内側では、大変な状態と戦っている事は十分に承知している。

 アイにしてみれば、ユイの髪の毛を撫でながら、このユイという可愛らしくもお淑やかな女の子の着ぐるみの中で起きているであろう事実を想像しながら、冷静に演技を行うことは、さぞかし辛い事だと思える。
 なにしろアイは自由に動き、好きなように気持ちよくなれる立場にいるのだが、今頭を撫でた、この可愛らしい着ぐるみは、車いすに座り、自由に動くことを許されていないのだ。
 アイの中にいる状態ですら、かなり苦しく切ない思いをしている。
 なんとか動いて空気を入れ換えたり、興奮や快感をコントロール出来るから、頑張っていられるのだとしたら、目の前で何事もなく椅子に座っているユイの中は、いったいどれほど辛いのだろう。
 ユイの膝はピタリと閉じ、しっかり膝掛けもかかっている。
 見た目には凄くいいのだが、それがどういう意味を持っているのか、アイならばよく分かる。
 上から見下ろす格好になるが、デザイン上プリーツはついているが、実際の空気穴のある辺りはタイトスカートで覆われている。揃えた足の付け根と股間の部分に出来る三角の窪地の裏側を想像すると、冷静に演技出来るのが不思議ですらある。

 もっとも、それはユイにとっても似たような物だ。
 ユイ自身確かに苦しいが、アイ程強烈な刺激を受け続けているわけではない。
 アイが自分を優しく撫でてくる。可愛らしくスキンシップを取ってくる。自分もそれに合わせて優しくお淑やかな女の子を演じているが、触れられた手の裏側にいる、アイ役の役者を襲う激しい刺激を想像すると、いたたまれなくなってくるかもしれない。
 そんなに無理して動いたらどれだけ辛いだろう。そんなに無理して可愛らしく振る舞ったら、どれだけ苦しいだろう。今の自分ですらかなり呼吸が苦しいのに、あれだけ激しい動きを続けたらさぞかし呼吸が荒くなるはずだ。いくら自由に動いて空気を入れ換えられるとは言っても、物には限度もあるし、そもそもこの着ぐるみの呼吸口から供給出来る空気はそれほど多くはないのだ。
 ユイの背中辺りには、スカートで覆われたアイの呼吸口があるはずだ。振り向くことは出来ないがその部分を想像しながらも、冷静に演技を出来ているのだとすれば、さすがにプロだと思える。

 お互いそんな状況の中、1時間にも及ぶ開発者の対談コーナーも終わる。
 もちろんその間、彼女たちはずっとステージ上にいた。

 対談が終わると、最後に彼女たちの握手会とサイン会である。
 ステージ脇に作られた特設のブースに2人で並び、お客さんとのコミュニケーションを図る。
 その光景は、事情を知らない人間には、恐らくごく普通にキャンペーンをやっているアイドルやキャンペーンガール達と何ら変わらない物に見えるはずだ。

 順序よく列に並んだお客さんはかなりの量で、この全ての客に対して握手やサインをお願いされ、時には写真も撮ってれと頼まれる事を考えると、かなりの重労働である。が、もちろん彼女たちは笑顔を絶やすことはない。

 お客さんが来る度に手を伸ばし握手をする。そのたびに窮屈そうな胸が衣装に引っ張られて無理矢理動く。
 お客さん達の中、とくに若い男性客には、このボリューム溢れる胸の動く光景に目が釘付けとなる人もいる。もちろん彼らはアイやユイの中の事情など全く知らないはずであり、純粋に大きな胸を目で楽しんでいるだけなのである。一般的な女性にそんな事を行うのは失礼極まりない行為かもしれないが、アイドルやキャンペーンガール達は、その身体も売り物なのだから、それ自体に文句を言うはずはないし、それを理解しているからこそ身体の線を強調した衣装を身につけるのだ。
 当然アイやユイの場合も、元々のゲームのターゲットが男性客である以上、そう言った目を意識したデザインの服を着ることになり、結果、こういったイベントで、男性客に見られるのは仕方ないことである。

 おそらく普通の女性が中身の、ごく一般的な着ぐるみであれば、それはたいした問題にはならないはずだ。そう言ったキャラクターの着ぐるみに入ると言うことは、そう言う目で見られる可能性もあると言う事を理解しているはずである。
 だが、アイやユイは、中身は女性ではない。
 しかも凝視されるスタイルは全て作り物で、そのスタイルを作るためあちこちで苦しい思いもしている。その上、その強調された部分は自らの息子を刺激するパーツにもなっている。
 そんな状態で、そう言った場所を凝視されるのは、いくら着ぐるみの中に隠蔽されているとは言っても実は恥ずかしいことなのかもしれない。見つめられているだけで何となく意識して感じてしまっている可能性だってある。

 それでもアイもユイも、気にすることなく淡々と、愛想良くお客さんとのコミュニケーションをこなしているのだ。

 特に立ってお客の相手をしているアイは大変そうに見える。
 なにしろ客の中には、大人だけではなく、子供も交じっている。子供には子供の目線で握手をしてあげる事になり、そのたびに立ったりしゃがんだり、を繰り返す。
 そしてその動作の度、足の付け根辺りは突っ張り、アイの中にいる人物を締め付けているはずだ。
 腰に付いたベルトのバックルもその行為毎に彼女の中に隠された場所を刺激しているはずである。
 もちろん実際の場所はスカートに隠れて目視出来ない上、アイは至って普通に振る舞っているので、その内側で起こっているであろう事態を想像することは出来ない。

 中には一緒に写真を撮りたいと言ってくる客もいる。
 そう言う客には当然愛想良くOKを出す。

 ある男性客が並んで写真を撮りたいと言ってきた。アイは係の人にカメラを手渡すと、男性を誘導し、アイとユイに挟まれるような形で並ぶ。
 そのだんせいの目線が時折チラチラとアイの胸に注がれていた事を、アイ自身は知っているのか知らなかったのかは不明であるが、写真を撮る前に男性客の腕を捕まえてグイッと引き寄せ、少し男性客の肘が自らの胸に押しつけられるようにする。
 男性客はその瞬間、もの凄い緊張からか全身がカチコチに硬直しているのがよく分かった。
 恐らくは、その男性も、アイの胸から伝わる鼓動や呼吸を少しだけ感じることが出来たのだろう。
 一見すると分からないが、密着するとさすがに鼓動や呼吸のリズムはある程度分かるはずだ。
 そして、彼女の呼吸が、見た目とは裏腹にどれだけ激しく苦しそうで、鼓動が早いかもよく分かったはずである。
 だが、その緊張も、そんな苦しそうな内側を垣間見てしまった男性客には当然なのかもしれない。

 ただそれでも、その男性にも気づかない事実はある。
 男性客が感じていると言うことは、その鼓動がその中にも伝わっている可能性がある。自ら押しつける事で、フリーな時には感じなかった自らの鼓動も振動となって伝わっている可能性があるのだ。
 仮にそれにより、より興奮してしまうと、もっと鼓動が伝わり・・・・と言う悪循環に陥る可能性すら有る。
 しかも男性客の手を押しつけていられる時間は限られている。その間、つかの間の興奮を得たあと、刺激が弱まってしまうとしたら、アイの中はさぞかし切ない事だろう。

 男性客は写真を撮って貰うと、恥ずかしそうにポリポリと頭を掻きながらアイとユイにお辞儀をして握手をして去っていった。

 アイはその男性に愛想いっぱいに手を振るが、その心情を知るものはいない。

 一方のユイも、その光景を真横で見ている。
 自らが焦らされている上、こういった、相手を想像出来る光景を見せつけられるというのは、それはそれで辛そうである。

 しっとりと優しげに大人しく車いすに座り微笑むユイ。
 膝掛けがしっかりとカバーした足は、その奥の秘密の空間を確実に外界から遮断している。
 ほんの僅かに残る隙間から導入された空気は、やはり僅かに残ったトライアングル地帯に空気だまりを作り、ユイの中との空気交換を行っている。この僅かな空気と、ユイの皮膚が持つ通気性により、ユイの中には最低限度の空気は供給され続けるが、それ以上をどんなに望んでも、今の状態では得ることは出来ない。
 それを本当に必要とするなら、今すぐ大股を広げ、膝掛けを投げ捨て、スカートを捲り上げ、着ている下着を脱ぎ捨てるしかない。だが、もちろんお客さんの前でそのような行為は出来るわけもなく、そして、おそらくユイ自身、そんな行為は望まない。
 ユイの中にいる人物は、ユイが望まない行為は行ってはいけないのだ。

 想像出来る人にとっては、それはもの凄く大変そうではあるが、もちろん見た目には分からないので、お客さん達は全く気づいていない。
 その裏側でどれほど激しい戦いが繰り広げられているのかなど、考える人はいないのだろう。

 さて、そんなユイにとって、大変なひとときがやってくる。

 親子連れの客が親子2人で写真に収まりたいという。
 そもそもこのゲームは比較的高い年齢層をターゲットにしていると言う事もあり、お父さん世代のゲーム好きにも受けがいい。その一方で、小学校低学年などの子供には、少々難しく、またゲーム内容も恋愛物という事で、ターゲットからははずれてしまう。
 そう言う親子の場合、子供は、たいてい親のダシである。

 アイが親子を誘導し、2人の間に親子を立たせるが、どうも横に広がりすぎているようで、カメラを構えた係の人物が、もう少し詰めてくれと言う。
 だが、結構詰めてもバランスが悪く、係の人物が、ユイの膝の上に子供を抱えてはどうか?と言うアイデアを出す。

 当然アイもユイも、その提案にノリノリで賛成する。
 普通に考えて、その行為自体に問題はないのだから。

 だが、もちろんユイは普通の考えが通じない状況にある。もちろんその事実を知っているのは、この周りではアイとユイだけなので、係の人のアイデアには賛成する以外無いのだ。

 アイは楽しそうに子供を呼び寄せ、ユイの膝に乗っかって座るように誘導する。
 子供を誘導するアイは、少ししゃがんだ姿勢で歩くのだが、もちろんこれとて楽な行為ではないはず。しかも、自らユイの上に子供を乗せるような指示を出すのだ。
 そんなことをすればユイが。いや、ユイの中がどういう事になるのかは、アイ自身よく分かっているはずなのだ。
 もしかするとユイにとても同情しているのかもしれない。あるいは、ユイがとても羨ましいのかもしれない。ひょっとするとユイに嫉妬すら覚えているのかもしれない。
 だが、アイは楽しげに子供を誘導し、ユイも楽しそうにその子供を自らの膝に乗せる。

 ユイの誘導で膝の上にその子供が座った。

 当然、車いすと子供にサンドイッチされ、ユイはますます身動きが取れない。

 また、ユイにとって辛いのは、子供が乗った事で、足とスカートがより一層密着し、空気が溜まる空間が殆どなくなってしまっている事だ。子供のお尻の下の僅かな空間にある空気がユイの内部と繋がっている外気という事になっているのに、当然そんなことは子供は知らないので、無邪気にしている。
 しかも、こんな状態なのに、子供はユイの上で、お尻の座りが悪いのか、何度か座り直すためにクイクイとお尻を動かす。
 子供のお尻は股間から下腹部にしっかりと密着しているので、その動きがダイレクトに伝わっているのだが、当然ユイは何事もなかったかのようにしている。
 見ている観客は、誰一人として、彼女の中に存在する息子に、彼女の上に乗っている子供が攻撃を加えているとは夢にも思っていないだろう。実際に上に乗っている子供ですら想像もしていないはずだ。
 そのぐらい見事に、普通の状態を保っている。

 一見すると、彼女の中にいる役者が本当にそれほど意地悪な快感に耐え続けているのだろうか?実はセンサーなどと言う物は存在せず、ただ着ぐるみに入っているだけなのではないか?とすら思える程普通である。

 だが、安心してもいい。
 間違いなく、彼女の中では激しい戦いが、今この瞬間も続いている。早く子供に大人しくして貰って写真を撮り終えたいと願う心とは裏腹に、楽しそうに子供を手名付け、膝の上でふざける子供と一緒にじゃれあっているユイ、を、必死に演じる誰かがいるのだ。

 動き回る子供は、ほとんど触れられることの無かったユイの胸にも遠慮無くもたれかかったり、動いて当たっている。子供のそんな行為に、いちいち反応することはあり得ないし、当然ユイも反応はしない。
 優しく微笑むユイの表情が、真実を包み隠してくれているのだろう。

 そう言う状況のユイを横目に見ながら、アイもまた、何食わぬ顔をして親と並んで写真に収まる。

 ユイの上で動き回る子供を見るたびに、アイがモジモジと微妙に足をすりあわせるような動きを見せていた事など、その場にいる誰も気づいていなかったはずである。

 そうしているうちにようやく写真が取り終わる。子供は楽しそうにユイから飛び降りるとね父親に連れられてその場を去っていく。
 もちろんその子供が、自分のしたことでユイをどれだけ苦しめていたのかなど、考えること無いだろうが、ユイは、今この瞬間もその後始末に苦しんでいるかもしれないのだ。

 そのあと、この子供をきっかけに、同様の親子連れが何人もやってきて、ユイの上に座って写真に収まった。
 その度に、アイもユイも楽しそうに迎えてあげるのだが、そのたびに戦いが待っているのも事実である。
 人知れず激しい戦いが延々と続き、およそ1時間もの長い時間をかけ、数百人の行列を一組一組丁寧に相手していった。
 イタズラな子供の中にはアイやユイ(特に動いて逃げられないユイ)に対して大胆に胸などを触る事もあったが、子供のする事なので本気で怒ることもなく、平和的に相手をしていた。

 この長い列を捌く間、彼女達の間で何度我慢を強いられ、何度限界が訪れていたのか、知っている人物はいないのだが、それは長い1時間だったに違いない。

 こうしてようやく全てのイベント日程を消化したアイとユイは、専用のバスに乗ってホビー21に向かって行く。そしてバスがホビー21に着く頃には、既にバスの中にアイもユイもいなくなっていた。
 その代わりに、バスからはイベント会場では見かけない小柄な男性が2名混ざっていたようだが、そもそもホビー21のバスは、専用の出入り口に横付けされるため、一般客に目撃されることはないのである。

 アイとユイという2人のヒロインは、イベントの仕事を完璧にこなし、ゲーム制作会社の予想通り、素晴らしい集客を達成出来た。
 まさにヒロインとして見事に成立していたのだ。

 その裏側で起こっていたであろう事実については、ほとんど誰も想像すらせず、ただただ可愛いヒロイン達の振る舞いにイベント会場が盛り上がり、アイとユイにも大満足だったはずだ。

 だが、その裏には、アイとユイを激しい戦いの中で支え続けた2人の男性がいることも忘れてはならない。

[暴露編へつづく]


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