DollClub~Episode 2~(5章) [戻る]
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「どう?これが新しいキャラクター、ミクちゃんよ。」

 美由紀の言葉も聞こえないほどに、鏡を見入る聡美。

 モデルとして通用しそうな素晴らしいプロポーションと、あどけない表情を持つその顔とのアンバランスさが、ミクと名付けられたこのキャラクターの怪しい雰囲気がとてもよく分かった。

 目はブラウンで、くりくりと丸く愛らしい。そして、やはりブラウンの髪の毛は、長すぎず短すぎず肩にかかる程度。幼い表情にマッチしたサラサラのストレートだ。
 この子が、お店の客を興奮させる為に行うであろう様々な行為を想像すると、それだけでも身体が熱くなる。

 ふと視線を落とすと、股間には女性の形に沿うようにしてうっすらとスリットが開いているのが分かる。
 ミクの中は想像よりは息苦しくはないのだが、それでもやはりチューブにより呼吸している事で、もの凄い閉塞感を感じていた。その上でスリットを見てしまったことで、実際に自分の吸っている空気があんな場所から届けられていると言うことを再認識してしまう。

「ふふふ。さすがに驚いちゃった?私も最初はビックリして言葉にならなかったの。でもね。これで終わりじゃないのよ?この後は衣装を着て、さらにミクちゃんとして振る舞う必要があるの。こんな事で驚いてる場合じゃないんだから。」

 その美由紀の言葉に我に返る聡美。
 そう。まだこれで終わりではないのだ。

 淡々と衣装を準備する美由紀。

「今日は初めてだから楽なのを選んでおくね。」

 そう言って持ってきた衣装は、ごくありふれたピンク色のワンピースだった。

「こういうは脱ぎ着がしやすいから楽なの。それにワンピースでも少しゆったり目のサイズだしね。」

 聡美は用意されたワンピースを手にした。

「あ、ちょっとまって」

 美由紀が聡美を止める。

「ちゃんと下着も着けなきゃダメよ。」

 美由紀はそう言って特に飾り気のないシンプルなデザインのパンティーとブラを差し出した。
 聡美はシャツを置くと、その下着を手にする。

「パンティーは履ける?」

 美由紀の質問に、当然とばかりに頷く聡美。
 そのままパンティーを履く。足を持ち上げようとすると身体に入っているパッドがその動作に合わせて動き、思わず眉間にシワを寄せて耐える。
 だが、まだこのぐらいならば我慢の範囲である。そのままパンティーを身につける為に下半身にフィットさせた瞬間だった。
 一番敏感な股間の突起に、まるで息でも吹きかけられるようなゾクゾクっとする刺激が襲ってきたのだ。
 何が起こったのか分からず、その場でへっぴり腰になり動きが止まってしまう聡美。

「やっぱり感じちゃった?股間のセンサーは敏感だから、布がフィットするとその刺激をあなたに伝えちゃうの。レースの付いた物とかシルクやサテンのサラサラした物は、もっと刺激が強いんだけど、この下着はまだ楽なのよ。」

 美由紀の言うことも半分ぐらい意識に入ってこないほど、もどかしい快感に襲われ続ける聡美は、なんとかこの刺激から逃れようと腰を振って快感を引き離そうとする。
 だが、もちろんこの快感は聡美をくまなく覆い尽くした着ぐるみによって生み出されている物なので、腰を振ったぐらいでは快感の発生源は離れない。パンティーを脱げばとりあえず収まるのだが半分パニックになっている聡美は、そんな冷静な判断も出来ない。

 ただひたすら、モゾモゾゾワゾワと刺激が続く下半身に、なすすべ無く耐えていると、次第に冷静さを取り戻してきた。
 快感から逃れようと腰を振ることで、パンティーがシワを作って動き、よりセンサーを刺激するため、冷静になるにつれ刺激も弱まってきた。

「少しは落ち着いた?」

 美由紀の問いかけに頷く聡美。

「そう。大変だけど頑張ってね。こうして身体を興奮させないと、スーツの中で酸欠と蒸し風呂状態で倒れちゃうことになるから。」

 酸欠と蒸し風呂で倒れるか、快感に耐え続けるかのトレードオフと言うことだろう。

 そう言えば先ほどから息が苦しくなっていることにも気付く。
 もちろん、パンティーが呼吸口を覆った事による息苦しさだと直ぐに気付いた。
 だが、これを脱ぐわけには行かないので、この息苦しさにも慣れるしかない。

 パンティーのあとは、ブラも身につける。パンティーと同じようにシンプルなブラだが、先ほどのことを考えると、このブラを身につけたあと襲う刺激を想像してしまう。
 いつも自分がするように、普通にブラを身につけるだけなのに、なぜかもの凄く緊張しながら、肩ひもをかけ、そっとブラを胸に当てた。

「ん・・・」

 胸全体が直接ブラに包まれた感触が伝わると同時に、股間のパッドが内側から軽く広がる。
 背中に手を回してホックを留めると、よりいっそう胸への圧迫が強くなり、同時に股間も刺激される。
 聡美は我慢しているつもりだが、腰が微妙に反応しているのが美由紀からはよく分かった。

「じゃあ、いよいよ服を着ましょう。」

 美由紀に促され、ワンピースを手にする。
 背中のファスナーを開き、そっと足をワンピースの中に入れる。その感も体中からの刺激は続き、聡美の興奮は高まっていく。
 身体がワンピースに入り込み、布と身体が擦れあうようになると、その刺激がよりいっそう強くなる。まるで、胸や大事な場所を衣類で優しく撫でられているような、どうにももどかしい快感が襲うのである。もっと弱い刺激であれば我慢も出来るであろうし、逆にもっと強い刺激であっても、ぐっと堪える事も出来そうだった。だが、この微妙な刺激は、何処に力を入れて何処の刺激を無視すれば我慢出来るのか、美由紀に聞きたいと思うほど、どうにも意地悪な感覚だった。
 逃れるには衣装を脱ぎ捨てる以外にない。だが、キャラクターとして、当然着ていなければならない衣装を放棄する事など出来るわけもない。
 逃げ場のない快感とでも言うのだろうか。

 この状況に、ある種の絶望感と共に、不思議な感覚が聡美を襲う。

 ここのショップのキャラクター達は、皆お客さんにお人形として接する。カメラを通してその濡れ場も何度も見ていた。何となくではあるが、美由紀自身もその中身を想像して興奮していた。
 自分の意志とは無関係に、人形としてお客さんに扱われ、自らも人形として振る舞う。
 人形というベールに包まれたその裏側にいる人物は、確かに存在していたが、確かに存在しない存在であった。

 今、自分はその確実に存在していたが見えなかった世界にいる。
 あのお人形達の裏側で起きていたことを、自らが体験出来る状況にいる。

 美由紀は自分のことも、中で起きている事態も知っているはずだ。だが、知っているとは言っても全ては経験から来る想像でしかないはずだ。今、本当にこのキャラクターの内側で起こっている自体は、聡美以外に知る人物はいない。そう思ったらなぜか堪らなく、この空間にいることを幸せに感じて来た。

 特殊な構造の着ぐるみに完全に包囲され、身体をいいように弄ばれ、それでもキャラクターになりきる演技を強要させる。
 普通に考えれば、このどうにもならない程のもどかしい快感からは、早く逃れたいと思うのであろうが、今の聡美は、この空間から逃れたいと思わなくなっていた。

「ファスナー閉じられる?」

 様子を伺っていた美由紀は、聡美が少し落ち着いた頃を見計らって言った。

 聡美は頷くと、自力でファスナーを引き上げようと背中に手を回す。だが、やはり慣れていない聡美にとって、背中に手を回したことで、身体中と衣装が生み出す刺激は、想像以上で、何度も失敗する。

「ほら、無理しちゃダメよ。まだまだ練習しないとね。」

 見かねた美由紀がそう言ってファスナーを閉めてくれる。
 チーーッ
 ファスナーが閉まった事で、よりいっそう身体にフィットしたワンピースは、聡美の興奮を増幅していった。
 また、スカートが股間を覆うことで、呼吸自体もさらに蒸れて苦しくなるのがわかった。
 普段何気なく、当たり前のように着ていた洋服が、もの凄く意地悪で苦しい物に見えてくる。
 最初の説明では、これはまだルーズで楽な服装なのだという。確かに腰回りや胸回りを見ると、決してピチピチにフィットしているボディコンタイプではなく、むしろ上品に、少し余裕がありすぎるぐらいに感じられる。それでもこの感覚。これがもしチャイナドレスのようなフィット感の強い物だった、どれほど感じてしまっていたのだろう。
 そう思うと、なんとなくではあるが、実際にチャイナドレスを着てみたい衝動にも駆られてしまっていた。

「よし。これでいいわ。うん、可愛い」

 美由紀は頷きながら、聡美を鏡の前に立たせる。

「こんにちは、ミクちゃん」

 鏡をのぞき込むと、そこには可愛らしい女の子の人形が、優しく微笑んで立っていた。
 服を着ている事で、より自然にも見える。

 だが、聡美は思った。

 『この中に私がいる。』

 衣装とミクに覆われたその中心に、出口をふさがれ、外から隠蔽され、呼吸と熱を逃がすために無理矢理興奮させられながら、確かに自分が存在している。
 だが、そのことを知らなければ、この娘から、そんな状況はほとんど想像出来ないと思えた。
 ただ、ちょっと良くできた着ぐるみの人形が、可愛い服を着て立っているだけ。それだけの事なのだ。

 イベントにいる着ぐるみ。テーマパークにいる着ぐるみ。どれもお客様を楽しませるエンターテイメントの為の、単なる衣装。

 確かに中にいる人は暑いだろうし動きづらいだろう。でも、そこに興奮を見いだす人なんていないと思っていた。もちろん自分だって、テーマパークの着ぐるみに可愛らしくて思わず抱きついたり、一緒に写真を撮ってもらったことだってある。
 その時、中の人の事なんてほとんど考えることはなかった。

 だが今思えば、あの時は夏休み。真夏の炎天下。そんな中キャラクターに入って自分に接していた人たちは、さぞ苦しい状況でキャラクターを演じていたことだろう。
 笑顔のマスクに遮られ、呼吸だって難しかったかもしれない。炎天下、着ぐるみの上から衣装まで着て、その内側はサウナのようだったかもしれない。
 そんな着ぐるみの中の人を、今思い返すと、羨ましくすら思えた。
 自分でもよく分からない、この不思議な感覚。

 どんなお客さんかは分からないが、多分私もいずれ、お客さんと接する。
 ここのお客さんは、多かれ少なかれ、着ぐるみの中にも興味を持っている。秘密のベールの内側を想像しながらプレイを楽しむ人たちが非常に多いのだ。

 そんなお客さんと接すれば、当然自分のことも想像されるだろう。

 ミクの裏側にいる自分。お客はどんな想像をするのだろう。
 自分のことを想像されても相手から自分は見えないはずだ。本当の自分は知られず、演技している自分を見て、いろんな事を想像してもらう。
 そのはなんだか堪らなく楽しいことのように思えてならなかった。

 そんな想像をしていると、美由紀が横から話し始めた。

「思ったよりがんばれそうね。しばらくはここに通って練習して、自信がついたら実務に就いてもらうことになるわ。」

 美由紀の言葉に頷く聡美。

「実務って言っても、最初からここの店で働くのは無理があるわ。最初は研修で、別のお店で働くの。」

 研修?聡美は意味が分からず首をかしげる。

「実はね。ホビー21って店に、ここのキャラクターと同じ構造の着ぐるみ達が働いているフロアがあるの。そこは普通の小売店だから、マスコットとして店内を歩いたり、イベントやショーをやったりするの。そこでしばらく修行を積んで、その後でここで働くことになると思うわ。あ、もちろんそのままホビー21で働いてもらっても構わないと思うけど、私の想像では、あなたは多分、この店の勤務の方が楽しいと思うわ。」

 最後の台詞が何となく納得いかないが、口がきけないので反論も出来ず、仕方なく頷く。

「まだ、このままミクを着てられそう?」

 美由紀の言葉に反射的に首を振ってしまう。

 さすがにそろそろ限界だった。
 本当を言うと、既にミクの中は蒸れかなり暑い。先程からスカート内の籠もった空気しか吸えず結構苦しい。さらに最初から絶え間なく続く刺激によって、時折ボーーっと意識が飛びそうになる。
 これ以上この状態でいたら、自分が自分でなくなる。どうにかなってしまいそうな感覚すらあった。

「そう。じゃあ今日はこの辺でやめましょう。脱ぐの手伝って上げるわね。」

 そう言って美由紀は、ミクの衣装を脱がしにかかる。
 ファスナーを下げ、ワンピースをそっと脱がす。ワンピースはそのままハラリと床に落ちる。 と同時に、猛烈な快感もかなり収まった。身体全体から受ける刺激が相当弱くなったと言う事である。
 続いてブラ、下着、と次々と、慎重に脱がせる。
 全ての衣類が取り払われると、相当に楽になることが分かった。呼吸も、熱も、遮る物がないとかなり楽になる。さらに刺激も身体だけからの刺激であればそれほど強くはないと言うことがよく分かる。
 聡美は、ホッとしたような、少し残念なような不思議な気持ちだった。

「じゃあ今度はミクを脱がせるわ。」

 美由紀はそっとお尻の割れ目かにスーツの切れ目を手に取り、一気にぐっと引っ張る。

「ここは刺激の強い場所だから、思い切って一気に引っ張る方が楽なのよ。」

 確かにちょっと無理矢理引っ張られて刺激は強かったのだが、一瞬の出来事だったので聡美もビックリしただけで済んだ。

 そのまま美由紀の誘導に従って、片足ずつ脱ぎ、その後はセーターを脱ぐ要領で胴体、頭を脱ぐ。
 胴体を脱ぐ際の胸への刺激は強烈だが、それでも衣装を着ていたときの刺激からすればたいしたことはなく、なんとか脱ぐことが出来た。もちろん中からは真っ白なスーツが現れる。

「これでよし。いよいよ最後ね。」

 美由紀の言葉に頷いて背中を向ける。
 美由紀は白いスーツの背中のファスナーをおろす。

 チーーッ

 中からはムワっとした熱気と共に汗で湿り気を帯び、赤く火照った聡美の身体が現れた。

 聡美も、背中から冷たい空気が流れ込むのを感じる。
 しばらく密閉されていたため感じることの出来なかった外の世界だ。

「お疲れ様。ここからは一人で出来るわね。」

 ここからは、ウエットスーツを脱ぐ要領で、自力で脱げると言う事らしい。
 但し、聡美の身体に埋まっているパッドを取り出すという作業が残っているのだが。

 上半身は、顔をマスクから取り出すとき、鼻に挿入したチューブを取り出すときだけ少し手間取った物の、概ねスムーズに脱ぐことが出来た。

 問題は下半身だと思われた。だが、これも杞憂に終わる。恐る恐るパッドを引き下ろして見たところ、十分に興奮していたためかヌルリとパッドが抜け出てくる。それに伴ってなま暖かい液体が太ももを濡らすのが分かった。

 どこからともなくバスタオルを美由紀が持ってくる。

「はい。左の奥にシャワーもあるから。」

 入るとき気づかなかったが、この部屋の奥にはシャワーも備わっている。
 全てを脱ぎ終えた聡美は、美由紀に案内され、シャワーへ向かった。

 シャワー室にはいると、温かいシャワーで全身の汗と体液とローションを全てきれいに流す。聡美は火照った身体を冷ますように一心不乱にシャワーを浴びる。

 しばらくしてシャワールームを出ると、美由紀が親切にも用意してくれた洋服を着る。

 朝は何も気にすることなく当たり前のように着た洋服。いつもの着慣れた普段着である。
 だが、今、服を着ながら考えていること。それは、もしミクの上からこの服を着たら・・・と言うことだった。
 聡美は、決してスタイルは悪くない体型を持ち、それを自覚していた。
 普段着とはいえ、外出するときは多少スタイルを強調する服も多い。今日も比較的タイトなパンツとカットソー。決していやらしくはないが、こうして冷静になると、身体にしっかりとフィットしているのが分かる。

 もし、これをミクが着たら。

 比較的ルーズなワンピースですらあれだけもどかしい快感だったのだから、おそらくここまでタイトな服だととても耐えられない程感じてしまいそうだ。しかも呼吸口はパンツによって完全に覆われる。
 自分のパンツの中が苦しいかどうかなんて、普通考えないだろうし、考えたこともなかった。
 でも、今、体験した世界では、現実にそこから息をする必要がある。そう考えると、興味と共に身体が再び火照るのを覚えた。

 物思いにふけっている聡美に、美由紀が声をかける。

「どう?なかなか凄い体験だったでしょ?」
「・・・・ええ。」
「あんまり言葉にならないようね。最初はそんなもんよ。」
「・・・・」

 さすがに静かになる聡美。
 聡美は、まるで美由紀に心を見透かされてしまったような気になり、少し恥ずかしかった。

「大丈夫。正常な人間なら、最初にあんな体験すれば誰だって恥ずかしいわ。でも、慣れればそれはそれは楽しい世界なんだから。」

 そう言うと、美由紀はイタズラっぽく笑う。

「今日はここまでね。後は明日から時間の取れそうな日にここで演技の練習をしてもらう事になるわ。私も手伝うから安心してね。」
「美由紀さんも?」
「そう。私があなたを一流のアクトレスにしてあげる。でも厳しいから覚悟してね。」

 聡美はその言葉を聞き、大変そうだと考えるよりも、その厳しい練習がどんな物かを想像して、再び身体を火照らせていた。

 こうして、聡美のキャラクタースーツ初体験は衝撃のまま終わる。

 もちろん家に帰っても、しばらくは体験を思い出し、身体が火照り、自慰を行ってしまった。
 だが、聡美はそれを嫌だと思わなくなっていた。むしろ早く練習して、いつでもあのスーツの中に入っていたいと思うようになっていた・・・・・


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