友達?彼女?それとも・・・(17章) [戻る]
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マネージャーの服を引っ張るこまち。

「あ、そうか。そう言えばこまちもいたんだな。」

 マネージャーは、こまちの存在をすっかり忘れていたといった雰囲気で言う。
 すると、こまちは少し可愛らしく拗ねた態度を取る。

「もうそろそろ元に戻りたいって事じゃない?」

 相沢がこまちの言葉を代弁する。
 するとこまちはウンウンと頷く。

「そうねぇ。もう和志君がいなくなって随分時間もたっているから、今頃和志君、とってもツライかもねぇ。」

 小暮がこまちに話しかけるように言う。
 小暮の言葉にもウンウンと頷くこまち。

「でも、私、まだこまちちゃんと一緒にいたいなぁ。可愛いし」

 小暮が冗談ぽく言うと、こまちはプルプル首を横に振る。

「そのしぐさがまた可愛いのよねぇ。中の事情を知らなかったらこんなに可愛い着ぐるみいないのになぁ。」

 こまちの態度を見て楽しそうに言う相沢。

「でも中の事情を知っちゃってるからねー。こうして可愛く演技している時も気持ちいいんだろうなぁ。」

 さらに相沢は、わざわざ解説するなと言いたくなるような事を言う。
 和志はどんな気持ちで相沢の言葉を聞いているのだろうか。

「まぁでも、さすがにそろそろヤバイんじゃないか?」

 小暮と相沢がなかなか和志を戻そうとしない様子を見て、マネージャーが言う。

「あ。確かに。特に男の子は回数に限界があるもんね!」

 小暮が少し可愛らしくこまちに言う。
 こまちはウンウンと頷いているが、そのしぐさも股可愛い。だが実際、マネージャーの言う事は事実だろう。
 いくらベテランの和志と言えども、この着ぐるみとあれだけの衣装を着て、長時間イベントをこなした後、今までこの部屋で散々弄ばれたり弄んだりしていたのだ。裏側で密かに果てた回数は、かなりの数のはずである。
 結局、この30分ぐらい後に、和志はこまちから解放される。

 和志が出てきた時には散々苛められた文句を言ってやろうと、少し腹を立てながら和志の帰りを待っていた真一だったが、余程疲れたのか、マラソンを完走した後のランナーのようにフラフラになっている様子を見て、さすがに余り文句を言う事も出来なかった。

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そして1週間が過ぎる。
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 マネージャーとの約束通り、真一は、ホビー21の外での初イベントに向かう為、専用バスに乗り込むスタッフ達の中にいた。和志達演者グループは別の専用バスに乗って移動となる為、真一はサポートスタッフ達のグループにいる。
 この1週間、真一は色々な事を考えていた。
 自分が少し天狗になっていた事。
 もっと人を見て、色々学んだり、羨ましいと思ったりする事で向上心が芽生えると言う事。
 全てはゆっくりだが、徐々に動かなかった歯車が回り始める感じは掴めていた。訓練生である真一自身には伝えられていない事ではあるが、実際この1週間の訓練所での評価は今までにも増して良くなっていた。

 今回も、半ば無理矢理借り出されたサポートではあるが、前回以上に色々勉強する気でいた。
 前回と違い、演者が誰かを分かっているだけに、心に余裕を持てるというのも真一の向上心にとってはプラスだった。

 バスは1時間ぐらい高速道路を走り、人口100万人ぐらいの比較的大きな都市にある大型家電店に辿り着く。
 ここのゲームソフトコーナーに作られた特設ステージが今日の会場である。
 イベントはホビー21と比べると小規模だが、約2時間の構成で、午後1時から開催される。
 終了が3時という事で、着ぐるみの演者は開始前と終了後の時間も含め、3時間ぐらいは着ぐるみに拘束される事になるが、ホビー21の演者には3時間は特に問題にならない時間とされている。

 バスは建物の裏にある荷物の出入りの為に用意されている大型車駐車スペースに着く。
 真一達は会場の設営準備と状況の確認の為に一旦バスを離れて店内に出向く。会場は思ったよりも広く、これならイベントに問題は無さそうである。
 真一達が会場をチェックして準備を行っている間に、数台のバスは並行に並んで連結され、2階がせり上がり、レーシングチームのモーターホームの如く、ちょっとした建物へと変化する。

 1時間程の作業の後にバスに戻ると、その変化に驚くスタッフ達。

 中に入ると、エアコン完備、バス・トイレ完備、ケータリングルーム完備、その他ほぼ必要そうな施設は全て揃っていた。
 丁度複数台あるバスの真ん中付近には、エリアの広さで畳20畳分ぐらいの場所が閉鎖された区画として存在している。
 ここは着ぐるみスタッフ専用で、管理の方式等は全てホビー21と同じ。ホビー21でバスに乗り込む際も、演者は専用のコンテナでこのエリアに運び込まれる為、演者の素顔や性別は分からないようになっている。

 イベント開始まで1時間を切った事を考えると、今頃和志達は、この閉鎖エリアの中で、のぞみ、ひかり、こまちの中に入り始めている頃かもしれない。

 スタッフルームで30分程打ち合わせがあった後、いよいよイベントに向けて動き出す。
 着ぐるみ担当のリーダーである真一は、着ぐるみの着付けを手伝う為、閉鎖エリアに隣接した着替えの部屋のドアを開ける。
 面積は狭いが、構造はホビー21の着替えに使う控え室と似ているので戸惑う事はない。
 インターホンで知らせると、ランプが点灯して着ぐるみ達が出てくるのもホビー21と同じである。

 今日も前回同様、アンダーウェア姿でドアの向こうから現れる3人。
 もう中身が誰だか分かっている分、緊張は少ないが、この子達の着替えを手伝うのは、前回と違った意味で緊張を強いる。
 なにしろ、のぞみとひかりは、演者が女性と分かっているのだ。
 着替える時に真一が与えてしまうであろう刺激に耐えて貰う事になる。

 少し緊張しつつ着ぐるみ達の着替えに入る真一を、次の週間衝撃が襲う。

 真一の前に立ったのぞみがパチリと瞬きをしたのである。

「え?!」

 真一が思わずあっけにとられると、軽く小首をかしげたのぞみは、今度はウインクをしてみせる。

「ど・・どういう事?」

 着ぐるみに質問してしまうのだが、もちろん着ぐるみ達は優しく笑っているだけで、何も答えてはくれない。
 それどころかよく見ると、ひかりもこまちも、パチパチっと瞬きをしているのが分かる。

 この一週間で、着ぐるみにこんなギミックが装備されたと言うのだろうか。
 仕組みは分からないが、ランダムとは思えない絶妙な、それでいて自然なタイミングで瞬きをしている。

 そしてその瞬き見た真一は、あっと言う間に息子を固くしていた。もちろんパッドを装備している為大きくなったモノが目立つ事はないが、ちょっと衝撃的なギミックに見えた。

 瞬きのギミックにドキドキしながらも、着ぐるみの着替えを行う真一。下着を穿かせ、ブラを付け、タイツを穿かせて制服を着せる。今回のイベントでは、着替えその物はなく、ずっとこの制服でイベントを行うという。
 宇宙服スーツではなく制服が選択された理由は良く分からないが、ホビー21の着ぐるみで、演者の興奮度が高そうな衣装が選択されなかったケースというのは珍しいと言う気がしていた。
 それにしても、着替えさせている着ぐるみ達は、真一と目が合うとその場で頷くように瞬きしたり、ウインクして真一の様子を見て楽しんでいるように思えた。

 演者が分かっても、この動作の仕組みが知りたいと思ってしまう所が、またマネージャーの罠のような気がして来る真一。新たなギミックが追加された事など、誰も何も教えてくれていなかったのだから。

 瞬きと手足の動きが連動していない事を考えると、恐らく口元などで一生懸命に操作しているのだろうが、本当の仕組みが分からないと言うのはなんとももどかしい。
 のぞみの中で、小暮は真一の様子を見てほくそ笑みながらウインクの操作をしているのかもしれない。

 ひかりも、こまちも同様に着替えさせると、やはり目をパチパチと動かしている。
 可愛らしい表情と瞬きの動きが合わさって、一層魅力的に見えるが、苦しい空間の中で定期的に瞬き操作を続けるのは案外大変なのかもしれないとも思えた。

 衣装を完全装備した3人の着ぐるみは、控え室で真一と共に出番を待つ。

 その間も時折瞬きを続けている着ぐるみ達。控え室で、真一だけしかいないのにそこまで演じるのは立派だが、瞬きされる度に真一の心は締め付けられるように苦しくなるのを覚えた。
 やがてスタッフの1人が着ぐるみ達を呼びに来る。
 店内への誘導の為とグリーティングを兼ね、数人が着ぐるみを少し遠巻きにガードするようにして、建物の裏口ではなく正面に回って店内に移動する。
 僅かな時間ではあるが、野外を歩くのであるから、着ぐるみにとっても実は大変なはずだ。
 実体験として訓練で着ぐるみを着ている真一は、短時間でもエアコン無しの部屋に入ると、着ぐるみの内部に入ってくる呼吸用の空気の温度も一気に上がり、苦しさが増すのを覚えている。
 今日の野外は、夏らしいいい天気で、温度湿度共にかなり高い。移動時間は2~3分とは言え、着ぐるみ達にとっては最初から試練のはずだが、着ぐるみが歩く姿はとても楽しげである。

 正面玄関に近づくと、お客さん達の目にとまり、着ぐるみ達は早速大勢の人に囲まれる。
 写真撮影にも気軽に応じているが、もちろん野外である為、時間と共に演者達の苦しみは増しているはずである。
 さすがにイベントの進行にも差し支えるからという事で、真一がスタッフ達に指示を出して早めに店内に誘導する。
 店内ではイベント会場は上のフロアなので、移動にエスカレータを使う。真一は3人の一番後ろに着いてエスカレータに乗ると、丁度目の前はこまちの背中になった。
 制服に包まれたこまちの背中を見て、真一は、和志の事を思っていた。結局10分にも満たない時間だったが、野外で簡易のグリーティングをこの着ぐるみの中に入って行っていたのだ。
 きっと今頃着ぐるみの中は本格的に蒸し風呂のはずであり、冬服と言っていい制服を着込んでいる3人にとっては、さぞ苦しい状態にあるはずである。だが、真一は、そんな状況下にあるはずの和志に対して心底嫉妬していた。

 少し視線を落とすとスカートが目に入る。きっとこのスカートの中はかなり蒸しているに違いない。足を綺麗に揃えて立っているこまちの後ろ姿は、裏事情を考えるとそれだけでも十分興奮出来る光景である。
 上層フロアに上がる為、いくつかのエスカレータを乗り継ぐが、乗り継ぎの度に、歩みと共に腰の動きに合わせて揺れているスカートがまた悩ましい。
 後ろ側しか見えないが、前も同様に揺れ、微妙に和志を刺激し続けているはずなのである。

 何度かのエスカレータ乗り継ぎの後、目的のフロアに到着すると、用意されている着ぐるみ用の楽屋に誘導する。
 着ぐるみ用の楽屋と言っても、臨時で作られたパーティションで間仕切りされたエリアで、天井はシートによるカバーがされているだけの簡易的なものである。
 部屋の大きさは畳で言えば12畳ぐらいはあるが、荷物やら椅子やらがあり、それほど大人数では利用出来ない。
 着ぐるみ3人とスタッフの5人ほどが同時に入るといっぱいという感じである。
 尤もスタッフと着ぐるみが全員同時に入出する事は殆ど無く、スタッフはローテーションでイベントのステージの見張りや駐車場に止まっているバスとの連絡係などを担当している。
 最初のイベントは3人の着ぐるみが楽屋に到着してから約20分後に始まる。
 開始前の20分間、着ぐるみは楽屋で椅子に座ってくつろいだり、用意された姿見で身だしなみをチェックしたりして過ごす。
 スタッフ達も着ぐるみの衣装チェックを手伝ったり、スケジュール進行を確認したりと忙しくしている。
 真一も慌ただしくイベントの準備をしつつ、時々着ぐるみの様子を見ている。
 たまたま椅子に座ってじっと出番を待っているのぞみを眺めると、少しだけ足をモジモジさせながらも、パチリ、パチリ、とランダムな間隔で瞬きを繰り返している。お客さんがいるわけではない楽屋であっても「のぞみ」として瞬きを続けているのはさすがである。
 だが、やはり着ぐるみ自体がかなり切ない空間である為か、つい気を抜きがちになり易い足の動きから、少しだけ裏事情が分かる。やはりあれだけの装備をして「のぞみ」を演じているのだから、裏側は相当に我慢するのがツライ快感との戦いなのであろう。
 他の2人は楽しそうに動き回っているが裏側の事情はのぞみと大差ないはずである。むしろ快感を誤魔化す為に楽しそうに動き回っているのかもしれないが、動けば動く程直接的な快感は増していく事になるので、焦れったさに耐える事を取るか、ダイレクトな刺激に耐える事を取るか、の選択という程度の事である。
 もちろん快感だけではなく、蒸れや息苦しさ、着ぐるみに全身を締め付けられる不快感も同時に味わっているはずであるが、真一にはそのどれもが羨ましいと思える状況なのだ。

 いよいよイベントが始まると、司会の人間や、ゲーム製作スタッフ等が順次ステージに上る。
 イベントの規模としてはホビー21で開催された物よりは少し小規模だが、それでもファンとしては十分に見応えのあるイベントとなっている。
 また、ホビー21でのイベントを見て、着ぐるみの存在とその容姿の美しさに惚れ込んだファンもいるようで、カメラを構えている人たちがかなり多い。ホビー21でもかなりカメラを構える人は多かったが、その目当ての多くは声優さん達だと思われたが、今回は声優は来ない事を考えると、着ぐるみ目当てと考えるのが妥当だろう。

 製作スタッフの紹介が終わると、次はマスコットとしての着ぐるみが紹介される。
 今回の彼女達の役目はステージ上でのイベント進行のアシスタントでもある。

 まずはのぞみが紹介される。
 真一に誘導され、楽屋の表に出て行くのぞみ。出て行く直前にくるりと真一の方に向き、軽く首をかしげて手を振る。
 「行ってくるね」と言いたげな様子で出て行った。

 のぞみが登場すると製作スタッフ達も会場もぱっと明るくなる。
 司会者がのぞみを紹介しながら、キャラクターデザイン担当のスタッフにのぞみのコンセプトを聞く。
 聞きながら照れている様子ののぞみのしぐさもまた可愛い。
 しかし、現実的に考えると、このデザイン担当スタッフのせいで、こんなに苦しくて切ない着ぐるみを纏う事になった小暮は、本当に喜んだり照れたりしているのだろうか。この人が後数センチ胸を小さく設定していたら。後数センチウエストを緩めにしてくれていたら。そして後数センチ胴を長く取ってくれていたら。かなり締め付けや感度は変わっていた可能性が高い。顔ももう少しアニメ調であれば頬や鼻、口の周りに余裕があるので苦しさも随分変わっていた可能性が高い。
 自分の置かれた状況を作り出した人が目の前にいて、その人の言葉を「作ってくれた恩人」として受け入れ、演技をしなければいけないというのは、なんとも切なそうな状況である。

 ステージでは、のぞみに続いてひかりが呼ばれる。
 ひかりも真一に軽く手を振ってステージに出て行く。ステージの上では軽くウインクをすると、会場が盛り上がる。
 制作スタッフ達も、ひかりのウインクを見てのぞみやひかりがまぶたを動かしている事実に気づいて驚くと共に、興味津々で2人を見ている。
 それに答えるかのように、パチパチと瞬きをしたりウインクをして答える2人。

 操作が気になる真一は、思い切ってこまちに質問してみる。

「な・・なぁ。瞬きってどうやってるの?口とかで操作?」

 真一の質問にこまちは少しだけ考えて首を横に振る。

「違うのか・・じゃ・・じゃあどうやって」

 この質問に対しては、こまちは人差し指を一本立てて自分の口に宛う。
 ナイショ。である。
 そして、こまちはそのまま可愛らしく手を振りウインクを1つしてステージへ出て行ってしまう。

 話しをはぐらかされてしまった真一は、少し悔しそうにステージを見つめている。
 演者の口で操作というのが割と単純な仕組みだと思えたが、こまちは違うと言う。そしてよく考えると、確かにあの少しリアルな顔では口元に稼動部品のスイッチを仕込む余裕はないのかもしれない。
 仮にその余裕があっても、口で操作すると、その動きが着ぐるみの表情を少し変化させてしまいそうなぐらい、見た目のフィット感も高い。
 とすれば、やはり口の操作では難しい事なのかもしれない。
 だが、だとしたらどうやって瞬きをさせているのだろう。
 外部からリモコンで操作という可能性はあるだろうが、それなら操作担当のスタッフがいるはずである。
 今日の着ぐるみ担当スタッフの中では、真一がリーダー格であり、真一が知らないスタッフが着ぐるみを操作している事も考えにくい。
 そう考えると、どうやって瞬きを操作しているのかが、益々気になってしまう真一である。


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