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真一が果てたのを確認するように真一から離れる3人。
のぞみはすぐに部屋から出て行くと、ほんの少しの時間で戻ってくる。
マネージャーを連れてきたのである。
「終わった?」
放心状態の真一に楽しそうに聞くマネージャー。
真一がしばらくボーーっとしている様子を見て、こまちとひかりがウンウンと頷く。
「そっか。だいぶ気持ちよかったようだね。まぁ悔しいだろうが罰ゲームだ。」
放心しながら聞く真一。
「さて、じゃあ取り敢えず、のぞみの正解を教えてあげるかね?」
マネージャは、のぞみに向かってそう話す。
のぞみはウンウンと頷くと、部屋から出て行ってしまった。
そんなやりとりの中、しばらく放心状態だった真一も次第に気力を取り戻す。
「どうやら落ち着いてきたか?」
「え・・ぇえ・・・まぁ・・」
「そうか。ならいい。当たらなかったから罰ゲームだったが、楽しめたようだね。」
「楽しめたって・・・悔しい方が大きいですよ。。」
真一は本音を言う。
確かに気持ちは良かった。そこいらの風俗より余程技術もあり気持ちは良かったのだが、むしろ、彼女達に弄ばれた気持ちの方が強いのも事実だった。
「悔しいか?」
「そりゃまぁ。」
ふてくされるように言う真一。
その様子を見て、何故か少し嬉しそうなマネージャー
「なんか嬉しそうですねぇ。」
ヤケ気味に真一が言うと、少し真面目な顔になったマネージャーが言い返す。
「ああ。今回の企画意図からすれば、君が悔しがるのは想定している事だ。つまり君は私の計算通りに悔しくなっている。」
「・・・・予定通りって事っすか。」
「そうだな。」
「だったら、そろそろ足りない物ってのを教えてくれてもいいじゃないですかぁ」
「それはまだ、ダメだ。ゲームとして受けたからには、最後までゲームは終わらせて貰う。」
「くそぉ。こんな変なゲーム、やるなんて言わなきゃ良かった。」
ふて腐れるように言う真一。
「だいたい、こうして今答え合わせをするって事は、今朝、最初にどのキャラクターの中身が和志かって聞いた時、答えを知ってたって事なんですよね?」
「まぁ、そうかもしれないな。」
「なんだってこんなややこしい事するんです?だいたい、なにか言いたい事があるなら直接言えばいいじゃないですか?こんな手の込んだ事して、いったい何をしたいんです?」
さすがに腹の立つ真一は、語気を強めて言う。
「さっきから言っているとおり、君の為だ。とにかく君に欠けている物に気づいて欲しい。それも自力で。」
「自力で?」
「ああ。さっき言ったように、君は実に惜しい位置にいる。操演の能力だけを取れば、今でも新人離れした技量がある事は私も理解している。恐らくは和志君と同等か、状況によってはそれ以上の演技もこなせると思っている。だが今はダメだ。」
あくまでも何かが足りないというマネージャーの言葉に少々弱気になってくる真一。
「なんか良く分かんないなぁ。」
「まぁ、そう言うなって。今に今日の事が意味を持ってくる。」
「そうかなぁ。単に落ちこぼれが優等生に見せつけられて嫌みなだけだったと思うんだけどなぁ。」
「そう思うなら仕方がない。だが、私は君が理解してくれると考えているからこそ、こう言うゲームを用意しているんだ。」
「ちぇっ。そんなに簡単に理解出来ると思えないよ。気づいてるならもうとっくに気づいているはずだし。」
確かに、何かが欠けているとしても、もしホントに自分が気づくのであれば、とっくに気づいていても良さそうだと思えたのだ。
所が現実には何が自分に不足しているのか分からないばかりか、目の前で展開される着ぐるみ達の妖艶な姿に翻弄され、ただ、悔しさと羨ましさを覚えるだけの時間を過ごしているだけだった。
自分も早くあの3人の立場になりたいと思えば思う程、今の自分の立場に腹が立っていた。
のぞみが部屋から出て行って約20分。真一とマネージャーの会話が一段落した頃、部屋のドアが開く。
ガチャッ
ドアの向こうからは、スラリとスタイルのいい、ショートカットのヘアスタイルをした美しい女性が入ってきた。
髪の毛は湿り気を帯び、それを拭う為かタオルを髪の毛に当てている。また、目が涙目のように充血している。
「小暮君。お疲れー」
マネージャーが女性に向かって言った。
真一も彼女が小暮である事はすぐに分かった。なにしろ美人2人が、この店の着ぐるみを着る為の訓練を受けていたのだから、訓練仲間の間では有名だったのだ。
「もーーっ。マネージャーが色々注文出すから、結局4時間半も着続けなきゃならなかったじゃないですかぁ」
小暮は少し恥ずかしそうに、そして少しだけ怒ったような口調でマネージャーに文句を言う。
「まぁそう言いつつ結構楽しそうだったじゃないか。初仕事にしては上出来だよ。これならもう何でも演じられるな。」
マネージャーはニヤニヤと笑いながら言う。
それを見て、更に恥ずかしそうにする小暮。
「じゃあ真一君に紹介しておこう。のぞみの操演をして貰っていた小暮君だ。」
照れている小暮の事など無視するかのように、小暮を真一に紹介するマネージャー。
「あ、はい。か・・金森真一です。」
なんとなく真一も照れる。この綺麗な女性が先程まで、のぞみの中で奮闘を繰り返しながら、最後には真一の上に乗って責めていたのだ。
「あっ・・はじめまして・・かな?私、小暮唯って言います。今日はのぞみの操演でいろいろお世話になりました。」
小暮の挨拶に照れまくる真一。
「あ・・どーも。一応はじめまして、ですよね。研修中に何度か見かけて知ってたんですけどね。」
なんとか返事をする真一。
「私も、何度か見かけて知ってるんですよ。凄く演技が上手い人がいるって聞いてたんです。」
「演技が上手い?うーん。」
真一は小暮の言葉に困る。
「俺なんて、落ちこぼれっすよ。全然ダメだから、こうしてサポートやる事になってるんだし。」
困った末に少し自虐的に話しをする真一。
「そんな事無いですって。私、何度か訓練中の姿見みましたけど、凄く女の子らしい可愛いキャラクターになってましたよ。明らかに他の訓練生とはレベルが違う動きでしたし。」
小暮の言葉を聞きながら、ひかりとこまちも横で頷いている。
「そうだ。だからさっきも言ったように君は非常に優秀なんだ。」
マネージャーも割り込む。
「そんな事言われてもなぁ。実際、こうしてサポートに回っているのが真実なんじゃないの?」
「どうしても自分を落ちこぼれにしたいみたいだな。仕方ない。少しヒントを出そう。君は落ちこぼれなどではなく、むしろ優秀過ぎるんだ。そこに問題がある。」
「優秀過ぎて・・問題?」
「そうだ。そこに重大な問題がある。うちの着ぐるみ操演者のほぼ全てに備わっていて、君に欠けている重大な問題だ。」
マネージャーは簡単に言うが、真一には何が重大なのかさっぱり理解出来ない。
「多分なんですけど・・」
様子を見ていた小暮が話しをはじめる。
「・・・真一君て、着ぐるみ操演の練習で、他の訓練生に悔しい思いをさせられた経験て無いんじゃないですか?」
「ん?あ・・まぁ。」
小暮の言うように、確かに真一は、訓練生の中では優秀だった事もあり、ほぼどんなメニューでもトップクラスでクリアしていた。
和志と家で練習を繰り返していた為、その後に訓練をはじめても、最初から真一は経験済みの事が多かったのである。
例えて言うなら、既にかなりの時間、無免許で運転した経験をもったまま教習所に通っているような物である。
真一からすれば、和志という経験豊富な人物とのより実践的訓練を経験済みだったことで、訓練生達の受けている訓練はかなりヌルく感じていたのである。
「多分、それが問題なんだと思うんです。」
「だ・・だって出来ちゃうんだから仕方ないじゃん。」
「うーん、私、思うんですけど、多分今の真一君て、少し自信過剰気味になっているような気がするんです。」
「自信過剰?俺が?」
「ええ。勿論本人は意識してないでしょうけど、自分なら今日の私達のやっていたショーもこなせる自信があるんじゃないですか?」
「そりゃ、やってみなくちゃ分からないけど、やれと言われれば頑張るつもりだよ。」
「ですよね。多分他の訓練生は、あの衣装と着ぐるみ見たら尻込みしちゃうと思うんです。私も最初に状況を聞いた時はこの仕事は拒否しました。マネージャーさんに言われて、事前に何度も試着していたのでなんとか持ったけど、初めてだったらあの衣装にあの身体で自分の身体をコントロールする自信なんてないですから。」
「・・・」
真一は小暮の一言に考え込む。
言われてみれば確かにあの衣装や着ぐるみの設定を見て、素直に中を羨ましいと思える自分がいた。
訓練ではあそこまで強烈な衣装は存在していないが、真一にとって訓練で着る衣装はほぼ全て着こなせるレベルだった為、ああいう苦しそうな衣装に憧れのような物もあったのである。
「ね。自信あるんですよね?」
「ま・・まぁ」
「多分、そこにヒントがあるんじゃ無いかと思うんですよ。ね。マネージャー?」
小暮がマネージャーに振ると、マネージャーもゆっくり頷く。
自信あるのは悪い事なのだろうか。真一はまた考え込んでしまう。
「ここまで言ってもまだ分からないようだな。そう言う事なら仕方ない。もう少し考えて貰うしか無さそうだ。」
「も・・もう少し?」
「そうだ。まだ2人残っているからな。2人のうちどちらが和志君か当てるゲームを続けて貰うぞ。」
「まだ続けるんですか・・・もうどっちが和志かなんてどうでもいいですよ。」
「ダメだ。どっちでも良くないんだ。君が自力で気づかないという事ならば、ゲームを続けて貰う必要がある。」
「そ・・そんなぁ。」
真一が凄く情け無さそうな顔で言うと、それを見た小暮が言う。
「生意気な事を言うようだけど、真一君はこのゲームを最後までやった方がいいと思うわ。」
「え?」
小暮もマネージャー寄りの発言をする。
「私の想像なんですけど、さっきも言ったように真一君の操演レベルは凄く高いから、何もしなくてもきっとかなりのレベルの演者になれると思うの。でも、このゲームを最後までやった後、真一君に足りない物がもし見つかったら、きっともっと楽しく演技が出来るようになるわ。」
「・・・」
「これに気づいた上で、周りの人たちの様子を見ながら演技をしていると、感じちゃうのもかなり楽しくなるしね。」
「楽しく?」
「あ・・・」
小暮は、真一に対するアドバスの話しから、勢いで若干本音を言ってしまったようだ。
すかさず真一がつっこむと、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「あーあ。本音を言っちゃて。」
マネージャーが楽しそうに言う。
「もう!マネージャーのバカ!」
「ほほー。私にバカって言う割には、この仕事が決まってやけに嬉しそうだったじゃないか。今日の為に用意した専用のパッドだって、試着の段階で結構気に入ってたんじゃないのか?」
「そ・・それは、あのパッドの方が男女を誤魔化せるから、今日の作戦にはピッタリだと思ったからよ。」
「今日の作戦?だったらあのパッドは今回だけって事にしてもいいんだぞ?普段はダイレクトに触られる事なんて無いからそこまで気にする必要はないんだし。」
「でも万が一を考えた方がいいわ。触れて何もなかったら女性って分かっちゃうじゃない。」
「うーん、小暮君。そこ、間違ってるぞ。女性って思われた方が都合がいいんだから。」
「え?!・・あ、そうか・・」
マネージャーとのやりとりを聞いている真一。
なんとなく本音を喋ってしまい必死に言い訳をする小暮だが、言い訳をすればする程本音がリアルに聞こえて面白い。
「なぁ。真一君だって、女性と思われるように演じたいわけだよな?」
「ま・・まぁ。」
マネージャーに同意する真一。
「つまり、君らはむしろノーマルのパッドの方が理に適っているんだ。今会は真一君が触る事を前提に用意した特注のパッドなんだから。」
「でもやっぱりあのパッドの方がいいわ。興奮を保つ為には少しでも刺激がある方が有利なんだし。」
「ったく。素直に言ったらどうなんだ?あのパッドの方が気持ちいいから使いたいって。」
「もーーっ。うるさいなーーっ。だいたい私の一存で決める話じゃないでしょ?」
「はいはい。わかったわかった。君には申し訳ないけど、仕事の為にもあのパッドを使って貰うよ。それでいいでしょ?」
食い下がる小暮を軽くあしらうマネージャー
「んーーーっ。なんかくやしい!」
ちょっと悔しそうにする小暮もまた可愛い。
「さあ。じゃあ、とりあえずのぞみの演技は小暮君だと分かったわけだ。残り2人。どっちが和志君だか分かるかね?2分の1の確立なら、さすがに当たるだろ?」
そうマネージャーに言われてふと我に返る真一。
小暮の話に気を取られていたが、確かにまだ2人の演者は特定出来ていない。
しかも、彼女達2人は、小暮から元に戻ってここで雑談している間も、ずっとキャラクターとして存在していた。
会話が成立する3人に意識が集中し、どちらかというと意識外にあったひかりとこまちだが、その間もずっとキャラクターとしての立場を崩す事はなかった。
もう5時間以上もの間、ずっとあの特別な空間に身を起き続けているのだから、裏側はさぞかし大変な状態に違いないはずなのである。
「うーん。でも、正直さっぱり想像付かないなぁ。」
ちょっと弱気な事を言う真一。
「もーっ。そんなに私の事を男みたいって思ったの?確かに和志君の演技は上手いけど、私は結構女としても自信あるんだけどなぁ。」
そう言う小暮をチラッと見る真一。
確かに、女性としても、そんじょそこいらにいる女性より、余程美しくてスタイルもいい。そんな女性を和志と思えてしまう程、この着ぐるみによる補正と和志の演技は素晴らしいという事なのだ。
「た・・確かに。でも男性が女性を演じる方が、より女性っぽいとも言いますし。」
と、一応フォローを入れる真一。
「まぁねぇ。わざわざ女が女を演じるってのも変よね。それに、のぞみってどっちかって言うとお淑やかエレガンス系でしょ?それだとあまり派手に動けないから演技もやりにくいのかもしれないわね。」
小暮の言うとおり、演技の幅という点では、一番可愛らしいこまちが、動きが派手な分広く取れる。
では、こまちが和志なのか?
そうなると、ひかりの存在も気になる。冷静になって考えてみると、殆ど性差を感じさせない2人とは言え、キャラクターの性格からなのか、ひかりがむしろ女性的に感じた。
もちろん、ひかりの方が大人っぽくモデル風の味付けをされている分、動作がエレガントだというのもあるのだが、こまちのようなアイドル風の「少し過剰な」リアクションは、男性が女性を演じる場合に少し大げさに女性を演じている状態とも思えたのだ。
だが、それは非常に素直な考え方で2人を見た場合の話しである。
むしろ和志の演技力ならば、ひかりのような女性を演じる事はそれほど難しい事ではないとも言える。むしろ女性が女性を意識した演技をすると言う意味では、わざとこまちのような、若干派手な演技をしている可能性も考えられる。
そう考えるなら、ひかりの女性っぽさは、むしろ和志の演技と言う事も考えられるのだ。
真一は真剣に考え込んでしまった。
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