友達?彼女?それとも・・・(11章) [戻る]
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 真一がインターホンで着ぐるみに呼びかけると、しばらくして3人がドアの奥から出てくる。
 グリーティングの為に再び着替えを行うのだ。

 グリーティングの衣装は最初に着ていた宇宙服タイプのスーツになる。
 これだけ長時間操演を続けた彼女達にとって、あのスーツを再び着込むと言うのは一体どんな気持ちなのだろうか。
 本音ではもうこんな苦しい衣装は着たくないと考えているのだろうか。
 あるいは真一が心の奥で想像している通りの、実にストレートな気持ちなのだろうか。
 どの娘が和志なのだろうか。
 どの娘が女性の操演なのだろうか。

 そんな事を考えていると、真一の息子はパッドの中で益々疼いた。

 着替え自体は手際よく行った。色々な事を考えてしまうと、真一自身が辛くなるからである。
 だが、和志以外は女性が操演を行っていると思うと、今まで以上に着替えさせるのが辛かった。
 訓練中に座学として着ぐるみの構造を学ぶ際、女性用に製造されたパッドは、男性のように1点のみを重点的に刺激するのではなく、センサーはまんべんなく、女性が感じやすいポイントを刺激する構造を取っているらしい。
 つまり、両胸と、股間の表と内側からの刺激である。
 真一は女性ではないため、この4箇所からの同時の刺激がどれだけ大変なものなのかは実体験では分からないが、説明を受けた時聞かされた言葉を信じるなら、女性の方が何倍も刺激を感じるようである。男性と比べイク回数に物理的制限も少ない事から、より興奮状態をキープしやすいようになっているらしいのだ。
 男性の操演ですら、着ている衣装が責め具と化すこの身体である。
 女性の場合、その刺激は相当過酷なのではないかと想像出来た。
 座学で教わった時、こぼれ話として聞いた内容によると、訓練中の女性の中には、普段自分が着ている服を見ただけで着ぐるみの中でこの服を装着した時の事を思い出し、下着にいらないシミを作ってしまう程、最初の頃は辛い思いをするらしい。

 もちろんここにいる着ぐるみ達の演技は見事と言え、ある程度実情を知っている真一ですら、その裏側の事実をなかなか垣間見る事すら出来ないでいる。
 恐らくは選抜された2名の女性も、心の内はひた隠し、必死に担当キャラクターを演じているはずだ。

 だが、真一は、自分が着せるこの衣装が彼女達を苦しめていると思うと堪らない気持ちになってしまう。
 3人に順番にスーツを着せながら、これが和志なのか?あるいは廊下で見かけたあの美人が入っているのか?と言う想像をしてしまう。
 誰が入っているかが分からない事で、この想像が真一の中で激しい嫉妬と羨望に変わっていくのだが、悔しい事に、立場上、真一には何も出来ないのである。

 スーツを着終えた3人はスタンバイの間、鏡の前で自分の姿をチェックしている。
 真一の着付けが悪かったのか、3人ともスーツを身体になじませようと袖や足を引っ張ったりしている様子が分かる。
 やはり真一は3人を前に動揺していたのだろうか。
 そのせいでちゃんと着付け出来なかったのだとすれば、微妙な衣装のフィット感の悪さや、逆にフィットしすぎている部分があるはずであり、それは着ている演者からすれば、予想していた感覚に輪をかけて苦しい状況となっているはずだ。
 もちろん各所のフィット感を自分で直す事で是正されるはずだが、見た目の感じでは、最初に着ていた時と変わらない様子である為、わざと、今より着心地を悪化させようとしている着ぐるみがいたとしても、本人以外にはそれが着崩れを直しているのか悪化させているのかを判別するのは難しい事のように思えた。

 着替えが終わり3分程経った頃、スタッフが楽屋に入ってくる。

 いよいよ出番かと思ったのだが、スタッフの話を聞くと、どうやらステージの片づけや客の誘導がまだ完了していないようで、あと15分ぐらい時間が必要だとの事であった。
 その為、結局、着替えが終わった着ぐるみ達は一旦各自の個室に戻る事になる。

 着ぐるみ達が個室に戻ったのを見計らって、真一は先程聞きそびれた事を和志にメールしてみる。

『どうでもいいけど、お前、どのキャラクターに入ってるんだ?分かんないと余計な気を遣うから教えろよ。』

 ストレートに聞いてみる。
 しばらくして返事が返ってくる。

 タイトルは『内緒!』である。中を開けると

『今は内緒だよ。サポートスタッフに着ぐるみの中身の情報を教えることは規程違反でしょ?仕事が終わったら今度教えてあげるね。それよりさ、真一君、間違ってるでしょ。僕の着ているスーツ、最初に着ていたのと違うよ?たぶん着替えた後に衣装が他のキャラクターのと混ざっちゃったんだと思うけど、これ、絶対他のキャラクターの着ていた物だよ。少しだけど丈も短いし、さっきより胸も股間もウエストも締め付けが増してて、気が遠くなるぐらい気持ちよくなっちゃってるよ。こんなので演技しろって、ちょっと意地悪すぎる。それに、股間から入ってくる空気がちょっと臭うんだ。多分自分の着ていた物じゃないから、吐息と一緒に湿気が漏れて空気穴近くの布に染みちゃってるのかもしれない。これ、2人の女の子のうちどちらかの1人の臭いだよね。スカートの中で籠もって蒸れて、凄い臭いになってて、冷静に演技続けるのがとっても辛いよ。あ、でも安心してね。あとで真一君に誘導されてグリーティングする時、真一君が見ても多分僕の興奮には気づかないように演技を続けるからさ。もちろんお客さんにも絶対分からないはずだよ。
追伸:楽屋でも足を揃えて座ってるから凄く苦しいし股間が締め付けられて気持ちよくて気が遠くなるよ。でもこれを我慢するのがいいんだよね。真一君なら分かるでしょ?』

 メールを読んでいるだけで、今の和志の状況が想像出来てしまう程凄い内容だった。
 それにしてもスーツのサイズを間違えたと言うのは事実だろうか?そう言えば着ぐるみ達にスーツを着せた時、みな一様にスーツを身体になじませようとしていたのを思い出した。
 あの動作は、つまり先程までと身体へのフィット感が異なる事で違和感があった為の動作だったのだろう。
 だが、もしそうなら何故あの場で何らかのアクションでスーツが違うと訴えなかったのだろうか。
 1人でもその事実に気づけば、スーツの着替えが可能だったはずなのに、誰1人違う事をアピールしなかった。
 非常に悔しいのだが、和志がその状況を楽しんでいる事はメールからも想像できた。だが、他の2人の女性も同様に自分の置かれた状況を堪能していると言う事なのだろうか?
 もしそうであるとすれば、やはり、この店で着ぐるみの俳優に選ばれる人材というのは嗜好が特殊なのだと実感出来る。

 真一がメールを読んで悔しい思いをしていると、再びスタッフが楽屋に現れ、着ぐるみ達の出番が近い事を告げた。
 真一は個室へのインターホンで着ぐるみ達を呼びだし、いよいよグリーティングの準備に入る。

 呼び出しから程なくして、3人のキャラクターが勢揃いする。
 3人とも至って普通である。
 この中の1人は和志が中に入り、先程のメールにある状況を目の前で体験しているはずなのだが、そんな様子は全く見えない。
 ついスカートの辺りに目線が落ちる。
 この中の蒸れた空気とはどんな空気なのだろうか・・・真一は思いを馳せるが、実際にそれを体験出来るのは目の前にいる、選ばれた3人のみなのだ。
 もうそろそろ3人が着ぐるみの操演を開始してから3時間は経過している。
 確かに見た目より遙かに通気性や放熱性の高い素材で出来た着ぐるみであり、3時間操演し続ける事は可能である。だが、その代償として3時間もの間、意地の悪い刺激に晒され続ける必要があり、この刺激に耐える為の労力は完全にラバー製の着ぐるみを着続けて1時間以上操演する事と、それほど変わらないような気がする。その上、楽とは言っても、熱が篭もらない訳ではない彼女たちのボディーの内側は、スーツに覆われていることもあり、蒸し風呂状態である事も間違いないのである。

 篭もって逃げない熱と蒸れた空気の中で、僅かな空気を呼吸していると、何でもない一瞬でも、苦しくて思わず可愛らしいマスクを取ってしまいたくなる衝動に襲われる。
 だが、この着ぐるみ達は、一体形成の構造を持ったボディの為、マスクだけ外す行為は不可能であり、演者の顔を外に出すには着込んだ衣装を脱ぎ、皮膚に当たるボディーを脱ぎ、最後に体型補正のスーツを脱ぎ捨てると言う複雑な手順を踏む必要がある。
 演者が厳重に着ぐるみの裏側に封印される構造のため、内部の様子を外側から伺い知ることが難しいと言う利点は、同時に演者が簡単に外部に出てこれないと言う事実にもなっているのだ。
 つまり、演者は、苦しくてもその苦しみを抱えたまま、可愛らしい着ぐるみの中に留まって演技をしなければならない。
 と、この事実だけを考えると、非常に辛い仕事のように思えるのだが、この店に働く演者は、仮に着ぐるみから出て休憩出来るような時間が与えられたとしても、何故か出てくる者はいない。それどころか、衣装も脱がず、楽屋でもキャラクターで有り続ける事が圧倒的に多い。
 着ぐるみを脱ぐのは、仕事が終わった後か、本当に緊急に体調不良に見舞われた時ぐらいなのである。

 目の前の3人のキャラクター達も、そう言った裏事情を抱えているはずだが、可愛らしい女の子達3人として楽屋から出て行く。楽屋口で3人を見送る真一に、3人はそれぞれのキャラクターに合わせ、挨拶をするように手を振る。
 お嬢様のようにゴージャスな髪の毛をなびかせ、清楚に挨拶していくのぞみ。
 吸い込まれそうになるほど透明感のある瞳が目につくが、この瞳の中に実際にいる人物は、この清楚な挨拶ですら、目に涙を浮かべて苦しみと快感を抱えながらの操演を続けているのだろうか?

 つづいて、モデルのように颯爽と挨拶をするひかり。
 ああやってシャキッと動くのも辛いはずだ。鼻孔を擽る香水のようなシャンプーのような心地よい香りに気付く真一だが、おそらく、ひかりの中はこの清々しい臭いとは似ても似つかない、噎せ返るような香りが充満しているのだろう。

 最後にこまちが出て行く。
 アイドルらしく、可愛らしい挨拶は、キュートという言葉がピッタリである。
 だが、そのキュートな動きに合わせて、窮屈そうな衣装が突っ張り、ピーンと張ってシワが出来ているのが良く見える。
 ただの服であれば、見た目がセクシーなだけだが、彼女の身体は、この衣装の張りやシワを演者に伝えているのだから、あの動きは演者には楽な事ではないはずだ。真一にとったポーズが、その可愛い姿の裏側にどのような刺激を与えているのと言うのだろうか。

 この3人の中に和志がいる。それは間違いない事実なのだが、3人とも見事にキャラクターを演じている為、真一には判別が不可能である。
 楽屋から出て行く3人の後ろ姿を見ると、タイトなスーツのデザインもあって、惚れ惚れするぐらいセクシーな後ろ姿を見せつけている。
 あの背中も、腰も、お尻も、太股も、全ては中にいる人物が動かしている。
 3人のうち2人は、相沢さん、小暮さんと言う、キャラクターに勝るとも劣らない素晴らしいスタイルを持った女性である。
 元々近いスタイルを持った女性が、あのスタイルを実現させていたとしても、それは当然とも言える。
 しかし、和志は違う。
 2人の女性演者と区別が付かない程、見事にキャラクターを着こなし、真一を欲情させる程の後ろ姿を見せつけている。
 誰がどのキャラクターに入っているのかが分かれば、まだ精神的に余裕も出来るのだが、判別が出来ない事で、真一の嫉妬心は強烈に膨らんでいく。そして、パッドの中の息子も悔しい悲鳴を上げていく。
 そんな真一の思いなど全く気にすることなく、3人はグリーティングをはじめる。

 数名のスタッフが誘導しつつ、店内を練り歩き、お客さん達の相手をしていく。
 ホビー21においては、グリーティングにスタッフが付く事はほとんど無く、普段は単独でキャラクターが店内を巡回しているのだが、こう言う特別なイベント用のキャラクターは、客の群がり方が普段と異なる為、ちゃんとスタッフによる誘導を行うのだ。

 真一は後方から付いていく形で、着ぐるみの背後からイタズラする子供などを警戒する役目である。
 仕事とはいえ、裏事情を知っている真一にとっては、目の前で、秘密の世界を堪能しているであろう3人を守ると言う役目は、無性に悔しくて仕方がない。
 出来る事なら自分が誘導される側でいたいと思ってしまう。しかも他のスタッフと違い、真一は既に訓練生として操演の訓練を受けている立場なのだ。
 自分が頑張れれば、今回の新人として抜擢されている相沢さん、小暮さんの2人のように、自分もあの裏側の立場に立てるはずなのである。そもそも、真一は訓練生としてはトップの成績を誇ると自負していただけに、今、現実にこうしてサポートをさせられている自分の不甲斐なさを思うと余計に悔しかった。

 3人の動きは軽快で、まるで本当に仲良しの女の子達が楽しそうにワイワイとじゃれ合いながら歩いているようである。
 その雰囲気に、周りのお客さん達も遠慮無く寄ってくる。

 先程まではステージの上で脚光を浴びていた3人が、今はこうして目の前で動いているのだから、お客さん達からすれば堪らなく嬉しいはずだ。
 小さな子供から、大きめの大人まで、歩いていく先々で写真を撮られ、握手を頼まれ、サインを頼まれる。
 子供は遠慮無くキャラクター達に触れ合いを求めて寄ってくるので、キャラクター達も子供達の要求に、楽しげに対応している。
 背の低い子供は、キャラクターに気づいて貰う為、軽く身体を叩く事もあるが、子供によっては丁度下腹部の、男性演者であれば一番敏感なな物がしまってある場所を軽くポンポンと叩く。
 たまたまひかりが下腹部を叩かれているのを目撃する真一。

 当然、ひかりは何事もなかったかのように、子供と遊ぶ為にしゃがみ込む。
 しゃがむ事でタイトなスカートがピッタリとお尻から太股にかけて貼り付いている。一方で下腹部付近は細かいシワが寄っているのも分かる。
 演者は、完璧にひかりを演じている為、真一から見ても一切破綻が無いが、もしひかりの中に和志がいるのだとすれば、あの子の行った行為と、その後にしゃがんで子供の手を取ったり頭を撫でる行為はどれほど和志を悩ませている事だろう。

 もちろん和志じゃなく、他の女性演者であれば、子供のした行為自体は和志程ダイレクトに苦しまなかったはずだ。
 だが、そもそもあの部分はセンサーの感度が高くなっているはずであり、身体の奥に挿入された装備が、身体の内側から刺激を伝えている可能性が高い。
 そうだとすれば、和志じゃなくても、あのしゃがみ込んで子供と遊んでいるひかりは、実は相当に苦しい瞬間と戦っているかもしれないのである。

 ひかりが子供と戯れていると、こまちが男性客に写真をお願いされているのが目に入る。
 他のスタッフが少し広くなっている所に誘導して、カメラで記念撮影をしてあげる。男性客がこまちの横に並んでポーズを取ると、こまちが男性客にギュッと寄り添う。当然こまちの大きな胸は男性の腕に押しつけられる。
 男性は真っ赤に照れつつ写真に収まろうとするが、スタッフが不器用らしくなかなか手渡されたデジカメのシャッターが押せない。
 男性は説明に近寄り、再び元の位置に戻ってポーズを取る。すると再びこまちがギュッと寄り添う。
 ところが、やはりスタッフが上手くシャッターを押せない。
 結局4回目の説明でようやくシャッターが押せたようだが、スタッフ自ら、ちゃんと取れているか心配なのでと、再びポーズを取り直して貰い5回目のシャッターを押した。
 合計5回ポーズを取った男性客は、5回もこまちに抱きついて貰い、満足げにしている。

 もちろんこまちも写真を撮って貰えて大喜びで、その場で小さく飛び跳ねたりもしている。
 実情を理解していない人が見たら、ただの微笑ましい光景である。
 この場で見ている人たちでは唯一、真一にとってのみ、裏を想像したくない程の興奮する光景であった。
 あの大きな胸は、常に衣装により締め付けられている為、ただグリーティングしているだけで胸への締め付けが変化し、頭がボーッとしてくる程気持ちよくなっているはずだ。
 演者の性別を問わず、胸のセンサーはしっかりと裏側に刺激を伝える。
 特に女性の場合、股間に装備したパッド以外に、自らの胸がダイレクトに刺激を受ける為(丁度、先程のひかりのケースの下腹部への刺激と逆である)胸と股間の同時責めに合い、相当に苦しい。
 もし、こまちが女性演者であるなら、そう言う切ない状態が続いているのに、さらに追い打ちをかけるように自らの胸を男性客に押しつけた事になる。
 もちろん、本人は1度だけ我慢すれば、写真を撮って終われる想定だったはずである。
 自分にとっても苦しいその行為を実行しても、それによって男性客を魅了し、照れた様子を見れば満足出来るはずだ。

 ところが現実にはスタッフが上手くカメラを操作出来なかった為、5回も同様の行為を繰り返さなければならなくなったのだ。

 仮にこまちの演者が和志だったとしても、その5回の行為は、気が遠くなる程気持ちよかったに違いない。
 男性演者にとって、キャラクターの胸は、自らの息子その物と言っていい。
 その胸をお客さんに向かって5回も押しつけるのだ。好き勝手に感じられるのであればいいのだろうが、その状態で演技を続けるとなると、意識を保つ事が困難な程の大変な状態になっているはずだ。

 その後に軽く飛び跳ねた時も、瞬間的に股間付近にかかる力は、見た目以上に大きい。
 楽しそうな雰囲気を演ずるには、こまちの演者が置かれている状況は、あまりにも過酷なのである。

 そのころのぞみは、優雅にお嬢様を演じつつ、女性のファン達に囲まれていた。
 このゲームには女性ファンも意外と多いのである。
 女性達は、のぞみその物にも興味あるようだが、それ以上に、のぞみ達が着ている衣装に興味津々のようである。
 素材を確かめるべく、衣装の裾や袖口を触ってみたり、子供達程大胆に身体を触れる事はないが、各パーツパーツを弄り倒している。
 衣装に触れているだけであり、特に罪悪感はないのであろう。彼女達に遠慮はない。
 また、のぞみも、その行為にウンウンと頷きながら、彼女達のされるがままになっている。
 スタッフも、危険無いと判断したのか特に問題視していない様子である。

 真一が見ても、彼女達は、のぞみの身体に直接触れているわけではなく、衣装の素材を確かめているだけであり、これを抑止する明確な理由があるとは思えなかった。

 彼女達の会話を聞いていると、どうやら彼女達は趣味でコスプレをやるらしい。
 恐らく次回の衣装にこのキャラクターのコスチュームを選びたいのであろう。そこで、目の前の実物を見て触っているわけである。
 会話が出来ないと分かっていながらも、女性達はのぞみに話しかけ、のぞみは何とか頷いたり首を振る事で意思を疎通する。
 着心地や、脱着方法などものぞみに聞いている様子である。

 また、所々でのぞみのスタイルの良さについての話題も出ている。大きな胸、くびれたウエスト、セクシーなヒップライン。
 コスプレをする女性にとって憧れるような理想的アニメ体型である。
 そのスタイルを言葉で彼女達から指摘されながら聞き続けるのぞみ。

 彼女達にとっては憧れる程のスタイルを持つのぞみかもしれないが、その裏側で、自らを覆い苦しめているのぞみのスタイルについての話を聞かされ続ける演者の気持ちとは、どのような物なのだろうか。
 彼女達が引っ張ったり触ったりすれば、少なからず、衣装を着ているのぞみ自身への衣装の圧迫感は変化する。
 生身の人間にとっては、どうでもいいような圧力の変化も、のぞみの身体には敏感に伝わり、それは全て裏側へと伝えられている。
 真一自身は、訓練でそこまでの状況設定を体験していないので、聞いた話になるが、演者の性別にかかわらず、ああいう微妙な圧力変化が生み出す刺激というのは、相当に切ないものだと言う。
 とすれば、ああやって女性達と戯れるのぞみの美しい表情の裏に隠された演者の顔は、眉間にシワを寄せ苦悶しているのかもしれない。
 身を捩りたくなるような切ない刺激を受けながら、女性達に囲まれて楽しく振る舞う事は楽な事とは思えない。
 もしのぞみの操演が女性であるなら、同性の前で、とても口では言えないような恥ずかしい状態を我慢しつつ、のぞみになりきって演技を続けている事になる。
 心の中で、早くみんながいなくなって欲しいと願っても、言葉を発する事も当然許されない。それどころか全てのお客さんに対して楽しげに優しく接する必要があるキャラクター達は、むしろお客さんを引き留めるぐらい楽しそうに振る舞う必要がある。
 目の前で同性に服を弄られ、スタイルを褒められ続けているその裏側で演技を続ける女性を考えると、真一も堪らなくなる。

 のぞみが和志の操演だとすれば楽なのかというとそう言うわけでもない。
 何しろ女性達に遠慮無く弄ばれているのだから。
 お客さん達は、キャラクターも、演者も同性だという事で安心して接しているのだろうが、まさかその行為が裏側にいる和志を翻弄しているとは夢にも思っていないはずである。
 そんな状況に和志がいるとしたら・・・と考えると、真一は悔しさでいっぱいになる。

 これが立場の差という事である。

 真一も頑張って、演技をし続ける事が出来さえすれば、ああいう場に自分を置く事が出来る。
 これだけ目の前で、次々と演者が羨ましいと思えてしまう場面を見せつけられると、自分の不甲斐なさを実感すると共に何とか頑張って自分もああいう場に立てるようになりたいと願うようになっていた。

 結局、グリーティングは1時間程続けられ、その間何度も、3人の裏側を想像してしまうような場面に出くわすが、ただの一度も3人が演技を出来なくなる事はなかった。その場面を目撃するたび、悔しさと共に自分も早く訓練を再開したいと言う思いが強くなっていく。

 こうして楽屋に戻り、衣装を脱いだ3人は、それぞれの個室に戻って数時間に渡り自らを密閉し続けた着ぐるみを脱ぐ事になるはずである。着ぐるみの脱着は本人が行う為、真一には彼女達がその後どうしたのかは分からない。

 仕事を終えた真一は、マネージャーに報告に行く。


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