友達?彼女?それとも・・・(10章) [戻る]
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 着替えを終了したのぞみが、鏡で身だしなみを整えてその場を離れる。
 のぞみ自身は満足そうに頷いて優雅に鏡の前を離れるが、のぞみを操演している人物が同じ気持ちでいるとは限らない。
 真一の経験から言っても、この着替えた直後の姿を鏡で映している時は、相当に興奮度が高い。
 鏡に映っている見た目に対して、実際に演者の置かれている立場があまりにもかけ離れている状況が興奮を煽るのだ。
 のぞみを優雅に動かしている人物は、優雅に見えるこののぞみの中でいったいどのような状況を体験しているのだろうか。

 次はひかりの順番である。
 スタイルも3人中で最もいいひかりがアンダーショーツ1枚で真一の前に立つと言う事は、本来であれば相当に嫌らしい姿のはずだが、真一には今のひかりよりも既に着替えが済んでいるのぞみの方が遙かに嫌らしく見えている。
 恐らく彼女を女性として見ればかなり嫌らしい恰好なのだろうが、現実的に彼女は着ぐるみであり、本物の女性ではない作り物だ。つまり、せいぜい全裸姿のマネキンと言う程度の物なのである。それよりもむしろ、着ぐるみの裏側に隠された真実を知っている真一にとって、衣装を着た事によりのぞみが、いや、のぞみの演者が受けているはずの事実の方が余程嫌らしい事なのだ。
 のぞみがお淑やかであればある程、その裏側に隠された真実とのギャップを想像してしまうのである。

 そう言う意味ではひかりに着替えさせるのも余り気が進まない真一である。
 だが、これは仕事であり、あくまでも真一は真実は何も知らないスタッフの1人としてここに存在している。
 着ぐるみの中にいる演者も、和志以外は真一の事は知らないはずであり、だからこそ、何があっても彼女達は彼女達でいようとしている。和志自身はメールの内容から、真一の状況が分かっていながら、恐らくその状況を裏でほくそ笑み楽しんでいるのである。そしてその事実を悟られないように他の演者同様、真実を隠し続けている。
 残念ながら、こう言う状況で、今更、真一が中味の事実を知っているように振る舞うわけには行かないのである。

 ひかりの着替えも、のぞみと同じ手順である。
 ブラを着け、タイツ2枚を穿かせ、ブラウスを着せ、リボンを付け、スカート、ベスト、ジャケットを着せて、靴を履かせる。
 手順だけを書けば、特にどうと言う事はない着替えであるが、その裏側を想像してしまう真一にとっては、かなりツライ仕事と言って間違いない。
 ひかりが感じる素振り、苦しむ素振りを垣間見せてくれればまだ気は楽になれるのだが、あくまでひかりはひかりとして、淡々と着替えさせられている為、余計に裏側を考えてしまうのである。

 最後はこまちである。
 こまちも、他の2人と同様に着替えさせる。
 スタイルの良いひかりと違い、こまちは僅かにだがボリュームのある身体をしている為、衣類へのフィット感はいっそう強く見える。いや、厳密に言えば3人とも専用の衣装であるし、サイズは計算されているので、全ての衣装のフィットした圧力は3人とも同じはずなのだが、表面の柔らかい部分が多いこまちの方が見た目のフィット感は強いのだ。
 このフィット感は、先程まで着ていたスーツのように完全に全身を包み隠すような衣装では出てこない。全身を均等に締め付ける事になるから、食い込んだりする部分が肉眼では分かりにくいのだ。
 こういった割と普通の服の方が、身に纏った時に締め付ける部分が、面ではなく点や線になりやすい。そして、その部分が身体にムッチリと食い込む事で視覚的フィット感も高くなるのである。
 無論視覚的にだけではなく、彼女達の皮膚となる部分に備わるセンサーから裏側へ伝わる圧力も、視覚同様にしっかりと伝えられているはずである。

 真一にとっても、そして、3人の着ぐるみの中にいる演者達にとっても、非常に大変な着替えの時間が無事に終わる。
 外の様子を見に行くと、丁度、声優さん達もステージ上に上がって各々の自己紹介を済ませている所だった。
 別のスタッフが、そろそろステージへの誘導を行うと告げてくる。
 3人の誘導を開始する為に、一旦部屋に戻ると、3人は大人しく並んで真一を待っていた。のぞみは軽く会釈を。ひかりは美しく頷き、こまちは軽く手を上げて挨拶する。
 ステージを覗きに行って戻るまで、僅かに30秒そこそこの事であるが、その間彼女達はじっとここで待っていたのだろう。
 普通であれば僅か30秒の待ちなど、あっと言う間であり待ちとは言えないが、彼女達にとっては30秒とは言え、何もしないで待つというのはかなり大変な時間と思えた。

 真一は他のスタッフと一緒に3人を順に誘導し、ステージ上へと案内していく。
 階段を上がる3人を、段の下から見ていると、歩く太股の動きに合わせ、スカートのプリーツがサワサワと揺れている事が良く分かる。
 何気ない衣装の揺れる様子は、お客さんやステージ上の出演者、他のスタッフ達にとっては気にも留めない些細な事であるが、真一はとても悩ましい光景に写った。
 そして恐らくは着ぐるみ達の内側で今も奮闘を続けている和志を含めた3人にとっては、見ているだけの真一以上に悩ましい存在になっているに違いなかった。
 想像の世界とは違い、現実にプリーツの揺れに合わせて撫でられ、プリーツの上のタイト部分との繋ぎ目にかかる微妙な力の変化に弄られ続けるのだ。演者にとってどれほど悩ましい衣装であっても、彼女達にとっては自分を着飾る可愛い制服であり、脱ぐという選択肢は無いはずである。
 彼女達が脱がない以上、演者はそれに従って衣装を纏い、演技を続ける必要があるのだ。
 当然演者を悩ませるのはスカートの揺ればかりではない。纏った衣装のサイズを考えると、上半身も歩いているだけで身体の凹凸に沿ってフィットした布が、突っ張り、緩み、そのたび毎に包まれた身体の表面のセンサーが布の状態を丁寧に裏側に伝えてくる。全身を使って敏感な部分をマッサージするその感覚は、自由に感じられる状態ならこれほど気持ちのいい事は無いと言える程の物だが、演者はその状況で役をこなす必要がある。
 つまり、見た目に違和感を与えないように演技を続けるには、その裏側はあまりに過酷な環境なのである。

 そんな裏側を全く感じさせることなくステージに上がった3人は、司会者の誘導により、それぞれ自分の声を担当する声優さん達と握手を交わす。
 声優さん達は、着ぐるみのあまりのリアルで可愛らしい出来に、凄い凄いを連発しいてる。その声優さん達の驚きに気を良くするかのように、楽しそうにじゃれつく着ぐるみ達。
 キャラクターとして接している為、声優さん達も着ぐるみに遠慮無くじゃれついている様子が分かる。
 その様子は仲のいい女の子達の姿その物で、見ていて実に楽しいそうである。
 もちろん、この楽しそうな様子は、着ぐるみの中で起こっている事実について理解出来る物などステージにいる演者以外の人たちの中には存在しないからこそ成立するシーンなのだが、現実を想像出来てしまう真一にとっては、非常に見ていて辛いシーンになっていた。

 ひかりの声を担当した声優さんが言う。

「うわー、ひかりちゃんて、やっぱり胸が大きかったんだねー。ゲーム中も大きいなぁと思ってたけど、実物は凄いねー」

 声に反応するように、ひかりが胸を張ってみせる。
 すると何を思ったか、声優さんはその張った胸を軽くムニュッと一揉みしてしまう。

「きゃー、柔らかーい。私より張りがあるし、凄いねー。」

 声優さんは、女友達に軽く胸を触る感覚で触れただけなのであろう。その行為自体にはイヤらしさは全く見られず、むしろ会場からも笑い声が上がる程だった。
 その笑い声に反応するかのように、ひかりも少し照れたような仕草でその場を誤魔化している。

 無論ひかりの裏側を想像出来る真一にとって、その光景はあり得ないぐらい衝撃的であり、自分のパッドの中の息子は、恥ずかしい程に固くなっていた。
 そして、恐らくは、のぞみとこまちの中にいる人物にとっては、真一以上にリアリティーのある想像をしてしまう瞬間だったに違いなかったはずである。楽しそうにひかりの様子を見守っている、のぞみとこまちの姿からは想像も出来ない興奮が、あの2人の中には存在しているはずなのだ。

 のぞみとこまちは、ひかりのされた行為に悶々としながらも演技を続けなければいけない時間がしばらく続くのかと思っていたはずだが、次の瞬間、そんな事を言っていられない事態になる。

 のぞみ、こまち担当の声優さんも

「わぁ、ホント?」

 と言いながら、ひかりの胸を触って自分と比べたり、声優さん達でお互いに触りあったりと言う行為をはじめ、その行為がやがて、のぞみとこまちにも飛び火してしまうのである。

「私のこまちちゃんの方がボリュームあるわよ?」
「えー、絶対のぞみよー」
「そんな事無いって、ほらほらひかりちゃんの触ってみなさいよ!」

 まるで自分たちの胸の大きさと形を競うかのように、キャラクターの胸に触れていく3人の声優さん。
 その行為を楽しくも恥ずかしそうに受け入れているキャラクター達。
 バラエティートークショーなどで、グラビアアイドルの大きな胸を女性お笑いタレントが洒落で触る程度の触り方なので見た目にイヤらしさは全くなく、むしろ笑いすらこぼれている。
 知らぬが仏、無知は罪なり、とは良く言った物だが、声優さん達は自分たちの行為が、3名の役者をどれほど苦しめているのかを全く理解せず、ただ楽しそうにしている。
 お客さん達もその行為を笑い飛ばしている為、ここにいるほぼ全員が事の重大さに気づいていないのである。
 事実に全く気づかれないように演じ続けていると言う事自体が、役者冥利に尽きると共に、このホビー21で着ぐるみの中に入っている者達にとっての醍醐味であるが、それにしても真一には切ない光景である。

 胸の触り合いは、時間にして1分もかからないホントに僅かな時間だった。その行為が終わった後の着ぐるみ達は、当然のように普通にしている。声優さん達から受けた行為を考えたらその裏側は相当に苦しい状況のはずなのだが、着ぐるみ達が苦しい状況にない今、演者が苦しい姿をお客さんに見せるわけにはいかない。着ぐるみの演者にとって、生死に関わる、あるいは怪我などの重大な危険が伴う場合を除き、演者の都合は隠し通す必要があるのである。
 ましてや、彼女達の演者は今、苦しいと言っても苦痛を感じて苦しんでいるわけではない。むしろ、胸を触られた事で裏側に伝わった刺激が、演者を興奮させてしまっているはずであり、その興奮を隠す演技が非常に苦しいと言う事である。

 着ぐるみの演者達の事情など全く知らない司会者は、その後、何事もなかったかのようにステージを進行させる。

 ここでは、寸劇をやる事になっていた。
 声優さん達に渡された台本に従い、着ぐるみ達が演技するのである。台本自体はシンプルな物であり、企画意図の中には、声に合わせきれなくなった着ぐるみ達のコミカルな姿をみんなで笑うという事もあった為台本は着ぐるみ達には知らされていない。
 ストーリーは、3人のキャラクターが自分の好きな相手を話題にして照れたり怒ったり笑ったり悔しがったり、とコミカルでちょっとドタバタタッチな物になっている。

 声優さんの声に合わせて演技をする3人のキャラクターは、時折声に付いていけなくなり、騙し騙しの演技をしているが、ほぼ演出家の読み通り、台本のコミカルなストーリーも含め会場が笑いにつつまれていた。
 特に明るいアイドル風のキャラクターであるこまちが、のぞみやひかりに言葉で責め込まれ、逆ギレしてプロレス風の技をかける場面では、こまちの技にキレがあって男性ファンも「おぉぉっ」とどよめいたりもする。
 会場内にいるほぼ全員が、彼女達は演者も女性だと信じ切っている為、華麗な技にもどよめきがある。だが真一は、実はこまちの演者が女性ではないと考えていた為、例え演者が和志だったとしても、あのぐらいの技のキレなら特に不思議ではなかった。

 それよりもヘッドロックをかけているこまちの胸に、のぞみの頭がぐいっと押しつけられている場面や、こまちにうしろから羽交い締めにそれたひかりが、ジタバタしながら暴れている時のひかりの窮屈そうな胸の動きと、羽交い締めにしているこまち本人の胸の潰れ方を見て、真一にはとても辛い気持ちになっていた。
 そんな場面のすぐ後も、のぞみは清楚にお嬢様を続け、ひかりはビシッとモデル立ちを決める。本来ここは笑う場面なのだが実情を想像出来る真一にとっては、かなり辛い場面である。

 この寸劇の舞台は、15分ぐらいの短い物だったのだが、その後に声優さん達を交えて感想を言い合うシーンでは、声優さんが自分の感想を言いながら、担当しているキャラクターの感想もその場のアドリブで声を出し、それにキャラクター達が合わせている。
 お客さんにとっても真一にとっても特に驚くようなシーンは無いのだが、それでも真一は、キャラクター達を眺めていると何故か凄く切ない思いが込み上げてくる。
 可愛らしい3人の裏側には、蓄積されている物と戦う3人が存在しているはずなのだから。

 最後は声優さん達がユニットを組んでゲームの中で歌われている挿入歌を歌う。
 特にダンスなどは無いが比較的ポップなノリの曲なので、キャラクター達も声優さん達の後ろでステップを踏む事になる。
 普通の人間にとっては軽いノリであり、ダンスというレベルの物ではないのだが、ホビー21製の着ぐるみが行う行為と考えると、見た目からは想像できない程、その裏側は過酷になる。
 和志も含め、ベテランの演者達は他のキャラクターの操演中に、ミニショーやステージでのダンスを披露する事もあるのだが、それにしてもこのステージは、既に長時間操演中の3人の演者にとってはかなりキツイステージだと思えた。

 だが3人とも、それぞれのキャラクターに見合うように曲に合わせて見事にノッている。
 違和感が全くない事が凄いのだが、3人それぞれの苦悩が隠れていると思うと堪らない気持ちになっている。

 真一自身、これだけ凄い展開を見せられ続けている為、パッドの中の息子は既に我慢により大変な状態になっていた。
 仕事中に弄る事も出来ない為、固いままパッドの中に放置しているが、気になって仕方がない。
 恐らく着ぐるみの中の3人は真一とは比較にならないぐらい固い状態で、その上から刺激を受け続け、果てそうになると刺激が弱められ、と言う循環による我慢を続けているはずである。
 尤も、演者の殆どは、長時間操演する為という理由を付けて、自ら我慢に我慢を繰り返す事が多いらしいのだが、いずれにしても極力我慢を続けているはずである。
 イクにイケない、あるいはイキそうになる自分を必死で誤魔化して我慢をする、と言う状態を演じながら続けると言うのは如何に苦しい事なのかは真一もよく理解している。
 その上、着ぐるみの中に入る事による密閉、閉塞、密着感、そして内部の臭いと、温度と湿度の上昇による不快感、さらに股間まで導かれた呼吸口を覆った布達の息苦しさと、蒸した空気の臭いによる苦しさの中から逃れる事も出来ない。
 彼女達を着飾っている衣装が、演者にとってどれだけ苦しい存在なのか。
 通常の女性が着るのであれば、ライバルの女性より目立ち、男性の目を釘付けにする為に着ているだけと言う事なのだろうか、彼女達がそれを実現する為には、その裏で演者は相当の労力を使う必要があるのだ。

 歌も終わり、声優さん達のステージも終わりに近づく。
 声優さん達の最後のお別れの前に、着ぐるみ達は楽屋に引き上げる事になる。声優さん達に手を振ってステージを下りて来る着ぐるみ達を、順に楽屋口まで誘導していく真一。
 相当に苦しいのか、のぞみは間近で見ると僅かだが肩で息をしているのが分かる程だった。無論、顔は笑顔を崩さず、のぞみらしい優雅な歩みに変化はない為、普通の人が見たら実情を知らないまま見過ごしている可能性が高いのだが、真一にはこの僅かな変化が実に切なく映っていた。
 ひかり、こまちは意外と元気そうであったが、それも見た目だけでは分からない裏事情があるはずである。

 楽屋に戻って来たと言っても着ぐるみ達は、この場では決して素には戻る事はない。ここは楽屋であっても事情を知らないスタッフが大勢出入りする場所であり、そう言う意味ではステージ上と何ら変わらない。
 その為、一見すると楽屋の中は、真一以外は華やかな女の子3人がいるだけという状況になっている。

 ステージ上での着ぐるみの出るイベントはこれで一通り終了するのだが、この後は各キャラクターが店内をグリーティングしたり握手会が開かれる予定になっていた。
 まだステージ上では声優さん達を交え、お別れの挨拶などが続いている為一旦このまま各キャラクター毎の個室の楽屋に引き上げ、15分ぐらいしたら着替えに戻ってくる事になっていた。

 着ぐるみ達は真一の指示の元、一旦個人の楽屋に引き上げていく。

 着ぐるみ達が去った部屋は一瞬の静寂と共に、まだ続いているステージ上の賑やかな会話が聞こえてきていた。
 だが、真一はそんなステージの事よりも、着ぐるみ達の事の方が気になって仕方がない。
 そんなとき、再び真一の携帯にメールが届く。

 タイトルには『内緒話』と書かれている。メール本文を開く。

『絶対内緒だけど、僕以外の2人の着ぐるみの中身、実は本物の女性なんだ。最近、操演訓練を受けていた5人の女性を知ってるでしょ?そのうち成績が優秀だった2人を早速実践投入したんだってさ。2人ともさすがに女性だけあって立ち居振舞いは凄く女らしいから、僕もちょっと頑張らなきゃなぁ。でも彼女達もパッドを装着して操演しているから、実は相当苦しいし辛いはずなんだよね。そんな彼女達に絡まれたりじゃれ合ったりしながら演技するのって、なんかちょっと凄くいけない事をしてるみたいで申し訳ないんだけど、僕の担当キャラクターは彼女達が中にいるキャラクター達ととても仲がいい設定だから、僕も凄く仲良しに接しているよ。もちろん彼女達も僕に気軽に接してくるし。僕のしてる事が彼女達を苛めているかも知れないと思うと演技しながらとても切なくなるけど凄く興奮しちゃうんだ。もちろん彼女達から受ける刺激も凄くて演技するのが辛くなる事もいっぱいあるけど、こんなに気持ちのいい場面を台無しにしちゃ勿体ないからと思って、凄く頑張ってるよ。』

 真一は内容を見て、和志以外は女性が演じている、と言う事実に唖然とする。
 もちろん和志の嘘という可能性もあるが、わざわざ嘘まで付いてこんなメールを送ってくる可能性は低い上に、実際に真一も、新人候補だった女性達を知っていたので、このメールの内容に嘘があるようには思えなかった。
 女性候補生達は、真一とは別グループで訓練を受けていたのだが、たまに廊下などですれ違ったりもした事があり、よく覚えていた。
 特に優秀だという2人については、通常より早めに実践的な訓練メニューに移ったらしく、2人だけで訓練所の廊下を歩いていた事を記憶していた。
 相沢さんと小暮さんと言う女性で、容姿もスタイルも抜群だった事を覚えている。背丈を考えても和志とそう変わらないと記憶していた為、あの2人の背丈なら、どのキャラクターにも入れる可能性はある。それでも、何故あれほどの容姿を持つ女性が、わざわざこんなに過酷で嫌らしい着ぐるみの操演訓練を受けているのか、と言う事が訓練仲間の間でも話題になった事があったぐらいである。
 そのまま華やかな表舞台に立てそうな容姿であるにもかかわらず、敢えてこの仕事を選び、しかも他の訓練生より早く訓練メニューを消化している事が話題となっていたのだ。

 和志のメールが嘘ではないとすれば、和志は、その美しい女性2人に囲まれて、着ぐるみの操演を続けていると言う事になる。和志の立場を想像しただけで、真一は悔しさと共に、羨ましい気持ちでいっぱいになっていた。

 メールの内容を読んだだけで興奮していた真一だが、いまだに和志がどのキャラクターに入っているのかを知らない。
 先程は聞く時間がなかったからと、慌ててメールを打って問いただしてみようとした、その時、別のスタッフが楽屋に来て、そろそろグリーティングの準備を始めてくれと告げる。
 和志のメールにすっかり気を取られて、再び肝心な事を聞きそびれた真一だが、これは仕事である。
 そう割り切って、着ぐるみ達を個室から呼びだし、着替えさせはじめた。


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