成田君最大の受難?(1話) [戻る]
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こんにちは。
今日は僕の受けた最大の受難について話してみたいと思います。
最大、と書いたのには理由があります。

僕はこの受難を最後に、今後はもうこの手の受難から逃れる事になったのです。
こうする以外に受難から逃れる方法は無かったのですが、いろいろ考えたと言うよりは、結果的にその方法を取る事になってしまいました。

それでは、僕が受けた最大の受難の話と、その後の話です。

僕が訓練センターに通い始めて数年が経過していました。
普通なら、とっくの昔に辞めるか、会社から才能が無いとクビにされるか、のどちらかだと思うのですが、それでも僕はぎりぎりのところで踏みとどまっていました。

もちろん僕はいつの日か着ぐるみに入って、かつて友達だった北野達がやっているような、可愛い女の子の中で苦しくて気持ちいい時間を過ごしてみたい、と思っていました。それが唯一最大の原動力でもありました。

それと、訓練センターの教官や、着ぐるみ部門のマネージャから、僕の評判は割と良かったと言うのもあります。
確かに我慢が出来ず、30分程度で演技が出来なくなる、と言う最大にして最強の欠点があるのですが、そこまでの演技力はとても評価されていました。
北野もその点は認めてくれているらしく、直接的にも、間接的にも、そう言う話は聞きました。

ただ、まぁこの評価、については僕を引きとめる口実、と言う気もしていました。
だって、僕の立場って相当に便利ですから。
中身をある程度把握してて、気も使える人物。
訓練センターで一定期間訓練を続けると、いずれ僕のようにサポートスタッフに回される事になる訳ですが、長続きしないんですよね。
そりゃこんなに悔しい思いを続けるなら、辞めてしまおう、と思う人もいるでしょうし、あるいは、ある程度サポートスタッフをしながら訓練を積んで実戦に投入される人も多いです。

僕はそういう意味では落ちこぼれと言って良かったのです。
自信は完全に喪失してましたし、もはや惰性で続けている、と言う感じになっていました。

昔は北野が自信を付けさせる為に、色々画策したり、わざと嫉妬させて奮起させようとしたりもしたらしいですが、既にそういう時期も越えてしまい、最近では割と僕がサポートする事が当たり前になってる感じはありました。
悔しくて仕方ないし、北野の入る着ぐるみに羨ましい気持ちばかり抱いてしまいます。
その気持ちを少しでも癒す為に訓練に行くのですが、結局、気持ちいいだけで成果はゼロと言える日々でした。

さすがにもう、自分に才能は無いんだな、と思うようになったのは、先日のアダルトビデオ撮影の頃からでした。

友達も、彼女も失い、自暴自棄になっていたというのもあります。

その頃、僕には一つだけ幸せな事がありました。
訓練センターで、自らの才能の無さから色々やる気を失っていた僕に、優しく接してくれた女性。
瞳さんて言う少し茶色がかった綺麗なウエーブ髪の大人っぽい女の子。
彼女も訓練センターに通い始めて、今はサポートもやるようになったらしいです。
まるで以前の麻里みたいですね。
このままだと彼女もまた、僕より先に役者デビューを果たすんだろうなぁと思うと自分が情けなくなりました。

ですが彼女は優しかった。
こんな何の取り柄もない自分に、それでも演技力は凄いと絶賛してくれ、僕に演技を教わりたいと言って来ました。

そんな風にして訓練センターで一緒に過ごすうちに心を許し、やがてお付き合いすることに。
彼女には申し訳なかったので、麻里のことは包み隠さず話しました。
以前ここでそういう事があったので、訓練センターの女性と付き合うのは勇気がいる事も話しました。
ですが彼女はそんな僕に優しくしてくれました。なので付き合ってみることにしたのです。

とは言え、才能が無いと言う状況には変わりありません。
全く演技力の進展が無いまま、今後を考えたんです。

いよいよ退職も含めた選択肢を考えていて、彼女はもちろん、マネージャや訓練教官に相談もしていました。
ホビー21を辞めたいとも思ったのですが、せめて着ぐるみと関わらない部署への移動も、訓練センターを退所する条件と共にお願いしてみました。
ですが、マネージャも教官も引き止める事に必死になってくれました。

才能はあるんだから訓練は続けろ、と言われても、壁が全く越えられないのだからどうにもならないですよね。

北野達は何であんなに気持ちいい状態で耐えていられるのか不思議で仕方ありません。
僕のは訓練用スーツで、そもそも感度が落とされているはずなのに、それでも耐えられないのですから。
本番用なんて経験した事ありませんけど、とても耐えられる気がしません。
入ってみたいと思うけど、こっそり入る事も出来ませんしね。

なのでホントにどうしたもんか、と悩んだ末に、訓練センターを退所して着ぐるみとは関わらない部署に異動したい、とお願いした訳です。

その結果、訓練センター長にまで呼び出されて、留意させられました。
最初はホントに社交辞令で「才能がある」なんて言われてるんだろうなと思っていた訳ですが、ここまで来ると、もしかしてホントに才能はあるのかも、と言う気にはなりますよね。
でも、現実は厳しく、スーツの快感に耐える事が出来ずにいる訳です。

そう言う話を訓練センター長と教官の前でしていたら、教官が一つの提案をしてくれました。
スーツの感度を落としてみよう、と。
本来はこう言う事はしないのだが、実際僕が長時間耐えられる程度の感度に落として調整し、徐々に体を慣らすようにしてみる、と言う案でした。

僕としては、結局元の感度に戻されたら耐えられなくなる、と思っていたので、気持ちとしては半信半疑だったのですが、偉い人たちがそこまで言うのだから、と、その提案に乗る事にしました。

新しいスーツの調整の為に、今まで僕が使っていた訓練用のスーツは回収される事になりました。
特別な破損が無ければ、通常、訓練用スーツは1人1着が与えられ、それを訓練期間はずっと利用する訳です。
僕の場合、訓練センターに入所してから今までずっと壊れる事無く同じスーツでした。
そもそも僕は長時間着用の訓練なんて出来なかったので、スーツが壊れるほど使い込まれていないんです。
ですから、定期的なメンテナンス以外では初めて調整となります。
彼女にもその事を話したら、それならちょっと提案がある、と言う事で何やら訓練センターの人に交渉しているようでした。
僕にはその理由は教えてもらえませんでしたが、実はこれが、後に僕の運命を大きく変える事になるのでした。

調整には数日かかるらしく、その間は訓練センターにも行く事が無く、ただただ悶々とする日々でした。

そして、調整が完了したのです。
ようやく、感度が緩くなった自分用の訓練スーツが完成したので、試着と調整のチェックも兼ねて、数日ぶりに訓練センターに訪れたんです。

そして、僕の最大の受難、がやってきます。

訓練センターに到着した僕を待っていたのは、難しい顔をしたマネージャと訓練教官、そして見知らぬ顔の男性でした。
3人の前にはテーブルに乗った、僕の為の訓練スーツが置かれています。
僕は何事かと、思いました。

僕「なんかあったんですか?」

恐る恐る聞いてみます。
表情を見ると、明らかに良い知らせとは言えない雰囲気だったので、色々悪い事が頭をよぎります。
調整が出来ず、クビかもしれない。そんなことすら頭に浮かびました。

そんな不安そうな僕を見て、何かとても申し訳なさそうに口を開いたのは、訓練教官でした。

教官「あー、うーん、いやまぁ何だ。まず座ってくれ」
僕「はぁ」

教官に言われてテーブルの反対側にある椅子に座る僕。
僕が着席すると、それを見て3人も着席します。

僕「も・・・もしかして・・・クビとかですか・・」

怖かったのでいきなり結論を聞こうと質問します。
すると教官は言いました。

教官「気をしっかり持って聞いてほしい事がある。実はな・・・」

その切り出しから見て、才能は無い、とかそう言う類の説明だろうと思いました。

教官「実は・・このスーツについて、いささか問題があった」
僕「問題・・?」
教官「まぁ詳しい事は、この技術部の坂本君に話して貰おう」

どうやら見知らぬ男性は技術部の坂本さんと言う人らしいです。

坂本「はじめまして。坂本です」
僕「成田です。よろしくお願いします」
坂本「早速ですが、成田さんの訓練スーツに問題が発生していたのでその報告です」
僕「問題?もしかして、これ以上調整は出来ない、と言った感じですか?」
坂本「いえ、そう言う物ではなく、もちろん調整は可能ですし、これはすでにちゃんと調整はしてあります」
僕「と言う事は刺激は大分弱くなってる・・と?」
坂本「ええ。相当弱くなってるはずです」
僕「相当・・・やはりかなり感度落とさないと厳しいって事ですね・・・」
坂本「そうですね。元々の設定から考えると、これなら耐えられるだろう、と言うレベルまでかなり感度は落ちてます」

相当に刺激が弱くなっている、と言う事を聞き、少し落胆しました。
多分それで長時間操演可能になるんでしょうけど、それは本番スーツとは程遠いレベルにある、と言う事になりますから。

僕「これで振り出しに戻っちゃった。僕が役者になるのは、まだまだ先が長そうだなぁ・・・」

僕はポツリと呟きました。すると教官が口を挟みます。

教官「いや・・そうではないんだ。君は才能があるんだよ」
僕「えっ? だって相当弱く調整したって事は、本番スーツに耐えられるようになるのは相当に先って事じゃないですか・・」
教官「だからそうではないんだ」
僕「そうではないって・・・意味が良く分かりません・・・」

正直、教官の言っている意味が分かりませんでした。
何しろ、相当に感度を落としたにも関わらず、本番スーツに耐えられるようになるまでの期間は長くかからない、と言ってるのですから。

教官「だから気をしっかり持って聞いてくれ、と言ってるんだ」
僕「気はしっかり持ってます。分かるように説明してくださいよ」
教官「つまり、今このスーツの感度、と言うのは本番用スーツの感度と同等に調整されている」
僕「・・・・はい?」

僕は一瞬何を言ってるのか分からず、聞き返してしまいます。
何しろ、技術部の人が「これなら耐えられるだろう、と言うレベルに感度を弱めた」と言うこのスーツを指して、教官は「本番用と同等の感度」って言うのですから。

坂本「その辺りは僕から説明させてください。実は、瞳さんと言う女性の方からお話があり、成田さんのスーツについて問題が無いか細かく調べてほしいとお願いされました。いろいろ事情を聴いたところ成田さんの訓練成績が全く向上しないのはスーツが問題なんじゃないのか、と。そこで、今回調整が入るタイミングだったので、今までより細かく成田さんの訓練用のスーツを見たところ、センサーの入力部分につけられているリンク用ICチップに異常が認められたんです」
僕「えっ・・何です、その異常って・・」
坂本「極端に外部入力感度が高く、極端に内部入力感度が弱い状態になっていました。凄く簡単に言うとちょっとの外部刺激が凄く大げさに伝わり、成田さんが我慢できないぐらい感じていても内部からの入力が弱いので、センサーが成田さんはまだ感じてない、と判断を続けてずっと強い刺激を伝え続けていたなんです。詳細をチェックしたら、通常の本番スーツの3倍以上の感度で、しかも、快感制御はほとんど働いていない状態と言えました」
僕「な・・・何でそんな事が・・・メンテナンスはちゃんと受けていたはずなのに・・・」
坂本「メンテナンスの時は専用のコマンドで動作チェックするだけなので、その部分は正常に機能してるように見えたんです。何しろテストモードでパラメータの入力と出力は別々にチェックされるので。今回、調整が入って、リアルな入出力をセンサーから取り出してみて初めて分かった、と言う事です。ICチップの初期不良でした」
僕「じ・・じゃあ今まで僕が耐えられなかったのは・・・」
坂本「ええ。間違いなくこの不良チップのせいです。ためしにベテランの役者さんにテストとしてこの感度を再現させたスーツを着用して貰った所、15分で限界に達していました」
僕「15分・・・」
坂本「発見が遅れたのは、成田さんが実際30分程度は絶えられていたから、と言うのもあります。普通であれば初心者は5分と持たないはずなのですが、成田さんは、通常の訓練スーツの1つの壁とされる30分ぐらいまで耐えられる人だった為、スーツ側に問題があるとは誰も思わなかったのです。そもそも成田さんも気付いてなかった訳ですし。そして、瞳さんがその不自然な状況に気づいたから調べられた、と言うのはありますね。」
僕「そんな・・・じゃあ・・・僕はいままで・・・」

何と言う事でしょう。
自分は才能が無い、と思いながらも何とか我慢していたスーツが、実は元々常人には耐えられない程の刺激を伝えるものだったと言うのです。
確かに他の人のスーツと比べた事はありませんから、僕はこの感じやすいシステムが当たり前なんだと思っていたのです。
何度も何度も訓練して、どうしても耐えられず、北野達役者は凄いし、後から入って来て追い越して行った後輩も凄いと思いながら、羨ましさと自分の不甲斐なさで悲しい思いを何度もしていたのに、その理由がスーツにあったのです。
もっと早く気付いていたら、僕はとっくにもっと楽しい時間を過ごせていたかもしれないのに・・・

僕は友達であった北野も、彼女であった麻里も失いました。
その事は既に諦めていましたが、その根本原因である自分が役者になれなかった理由が、スーツの問題だったのです。
その問題に気付かずに、延々頑張っていた時間が物凄く勿体無い。その無駄な時間を思うと、無念で仕方ありません。

マネージャ「君が絶望的な気持ちになっているのは分かる。正直、我々もショックを受けているところだ。今から全てのスーツのセンサー類を総点検するつもりだ」
僕「今更そう言われても・・・」
マネージャ「スーツの感度数値を見せて貰い、確かにこれで耐えられる男性はいないという判断に至った。そして、訓練用のスーツは本番用と同等の感度に調整し直した。私の感覚では、これで3時間耐えられるなら、いきなり実戦に出られるレベルにあると考えている」
僕「そう言われても・・・直ぐに配役が決まる訳ではないですし・・・」
マネージャ「君に対しては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今まで、確かに君のような存在はありがたかった。内部を理解しサポートに徹すると言う君の仕事ぶりには、実際相当に評価が高い。そこに甘えていたところはあり、君には過酷なサポートを数々依頼していたと思っている。さすがにこの前の、北野君と麻里君が入ってるキャラクターのサポートの仕事はこちらも心苦しかった」
僕「でも頼んだじゃないですか・・・」
マネージャ「何人かいたサポートスタッフで、君が一番適任だったと判断したのだ。だが、君がどういう気持ちだったのかも良く分かっているつもりだ。仕事でなければ私もああいう仕事は回したくなかった」
僕「まぁ・・もう終わった事だからいいですけど・・・それにどうせ直ぐに配役が決まる訳じゃないから、それまではサポートスタッフでしょうし」
マネージャ「確かに普段は2ヶ月置きぐらいにキャラクターの入れ替えと新規配置のタイミングで配役を決める。今月は既にその配役決めが終わった後だ。だが、君に次の配役決定まで待って貰うつもりはない。早急に、君にふさわしい配役を決めるつもりだ。我々のせめてものお詫びになると思うが、多分君にもそれなりに満足して貰える配役にするつもりだ」
僕「・・・そうですか・・・まぁショックでしばらく何も考えられない気がしますが・・・」
マネージャ「あぁ。多分しばらくは心を落ち着かせてほしい。いずれにしてもこの調整した訓練用スーツで3時間耐えられる事だけは証明して見せてくれ。我々としてはそれが達成できれば、君はもはや訓練所に置いておくには勿体ない人材だと考えているのだから」

僕はあまりのショックな事実に言葉少なめでこの日は対応。
まさしく最大の受難でした。

帰ったら瞳にこのことを包み隠さず話しました。
瞳はその判断が極めて冷静でした。
色々な役者候補を見て勉強してきたが、僕のような演技が上手い人が、どうしても30分でダメになる、と言うのは異常な事態だと思った事。
もしも僕の身体の方に問題があるなら、定期身体検査で気づくはずであり、そこに異常がないと言う事は、通常30分耐えられる人なら、ある程度訓練すればそれ以上の長い時間、快感に耐えられるはずだと言う事。
それに耐えられないとするなら、僕に問題があるのではなく、スーツに問題があるのではないか、と考えた事。

実は彼女、結構な理系女子で、こういう論理的な考え方は得意なんだそうです。

そして彼女の推論は正しかった。
僕は彼女によって救ってもらった、とも言えます。こんなにありがたい事は無いと思っていました。
何より、僕の問題ではなくスーツの問題だと言う事が分かって一番喜んだのは彼女でした。
僕はいまだにピンと来てない感じでしたが、彼女は大喜び。自分の推論が当たった事もそうですが、僕の苦労を知っているからこその喜びと言えるのかもしれませんね。

ですが、僕としては茫然とした気持ちから全くスーツを試着する気力が出ず、調整後のスーツを試着したのはこの日から3日後の事でした。


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