オープニングスタッフ(1話) [戻る]
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超大型総合ホビーショップ「ホビー21」

ここが、地方の郊外に店舗を出店する事が決まったのは、半年ぐらい前の事でした。
東京から新幹線に乗り、そこから更にローカル線に乗り継いで行く典型的な田舎街。そんな、僕の地元も候補地にあがりました。
ホビー21はその店舗に広大な敷地を持つ事や、スーパーマーケットなどと異なりテーマパーク的な要素も強い為、田舎で広大な土地がある場所を候補にしたようでした。
実際、鉄道のアクセスはそんなに良くないのですが、僕の田舎は高速道路からのアクセスはとてもよく、近くの政令指定都市までは高速道路で1時間以内の場所にありましたから。

そんな候補地にあがった僕の地元ですが、僕は大学に進学し、地元を離れ、東京に独り暮らしをしていました。

東京の大学を来年卒業する見込みの僕は、そろそろ進路についても考え始めた丁度そのタイミングでこの地元の出店話。
もしも本当にホビー21が僕の地元に来るのであれば、僕もそこに就職したいなと言う希望が出てきていました。

と言うのも、僕はホビー21の関東の本店に就職したい、と言う希望があったからなんです。

申し遅れました。
僕の名前は、羽田幸太郎と言います。

ここで少し、思い出話をさせてください。

思い起こせば中学時代、地元のスーパーでやっていた女児向けの魔法変身ヒロイン「プリティア」の着ぐるみキャラクターショーを、たまたま目撃してしまった事がその発端です。

それまでも、小さい頃はテレビでヒーロー物の特撮番組が好きで見ていました。
小学校に入れば、それが着ぐるみで中に人が入ってる事、ぐらいは認識していましたが、それでもかっこいいヒーロー達の活躍を純粋に楽しんでいました。

そして「プリティア」の目撃です。
肌色のタイツと女性のラインを綺麗に見せながらヒラヒラとしたスカートや飾りもあって可愛い衣装。そしてアニメ調のマスク。
確かに人が入った着ぐるみでしたが、中学生の僕はそこに妙な色気を感じてしまったんです。

ホントの事情はよく知りませんが、多分中身はアルバイトの高校生とか大学生の女性だろう、と言う想像はしました。
本職の仕事としてやってる、と言うよりは、週末だけのアルバイトなんだろうなぁと。
ですが、つまり僕から見てお姉さんの女の子が、あの中に入って身体にピッタリしたタイツを纏って、普通女の子が着たら恥ずかしいぐらいに派手で可愛い衣装を纏って、アニメのマスクを被って、そのキャラクターとして音声に合わせて演技をしてる、という事にも気付くのです。

たまたま見たのが夏場だったので、実はタイツに汗染みも浮いていました。
中は苦しいんだろうな。暑いんだろうな。どんな顔をした女の子が入って動き回ってるのかな。
苦しくてもみんなの前でマスクを外すことは出来ないんだろうけど、それってどういう気持ちなんだろうな。って。
サイン会などでは結構間近で見ることも出来たのですが、そのアニメ調のマスクも良く見ると目の黒いラインの所にスリットが入ってるのが分かりました。
そこから外を見てる人は、どういう風に外が見えているんだろうな。その時どんな気持ちなんだろうな。

あの中には僕の知らない誰かが入ってて、僕からはその人の顔は全く見えないけど、あの中からは僕らの表情も態度も丸見えなんだろうな。

そんな事を考えてしまっていました。

ショーの後のサイン会などを含めると、結局1時間半ぐらいずっと主役の女の子たちは炎天下にプリティアの姿で存在してました。
半そでシャツの僕ですらハンカチが汗でぐっしょりになってしまうぐらい暑かったのですから、きっとあの中は灼熱地獄だったはずなのに、その時に何故か、僕からは隠された灼熱地獄の空間に身を置いた見知らぬ女の子達に、モヤモヤした感情が芽生えていたんです。

それ以来、ネットを調べたりしてショーのスケジュールを知ると、地元の近所の大型スーパーではショーが定期的にある事を知り、年に何度かは内緒で通うようになりました。

そんなある日。ネットでこんな噂を耳にしました。
プリティアショーには、主役の5人の女の子キャラに男性が入る事もある。と。

この瞬間まで、疑いなく中身は女性だと思っていたプリティアに、痩せて小柄な男性が入ってる可能性がある、と言うのです。
この話が真実なのかどうかは分かりませんでした。
ですが確かに、もしあの中に男性が入っていても、多分外から見分けられる自信は無い気がします。
女性的なライン、と言ってもそれは衣装のデザインですし、そう言われれば男性の身体でも中に納まる事は可能な気がしました。
股間の男性のシンボルはスカートに隠れて見えませんし、仮にアクション中に見えても一瞬ですから、上手く隠していれば判別が出来るとは思えません。

でも、その時ネットに出ていた写真には、明らかに男性の物らしい膨らみがそのスカートの中にちらっとあったのです。
大きくなっている訳では無いので、ほのかな膨らみではありますが、言われてみれば女性じゃない、と言う気がしました。

僕も過去に自分のデジカメで撮影した写真をひっくり返してみてみると、もしかしたらこれは男性の痕跡なんじゃないか?と思える写真もありました。
青いキャラクターのスカートの中に膨らみっぽい痕跡があったのです。
青は身長が高い設定のキャラ。つまり他のみんなが女性で、あのキャラクターだけは男性が入ったとしても、背丈の違和感が無いのです。

実はデジカメを手にいれてからは、プリティアショーを見に行っては写真を撮り、中の女の子たちが悪戦苦闘してる様子を見て悶々とし、オカズにも使っていました。
タイツでピッタリ覆われた首のライン、足や腰のラインに中の女性を妄想してもいました。
グローブで覆われた手の写真で、この中の女性に手を動かしてもらい扱かれたら・・なんて妄想もしてました。
このブーツで踏まれたり、このブーツにしがみついてふくらはぎの感触を味わったりしてみたい、なんて事も考えました。
もっと言うなら、その中に自分が女性として入っている事を想像したりもしていました。

僕が自分で撮ったプリティアの写真は、余すことなく自慰のオカズに使っていたんです。

その写真に、実は男性が入っていた可能性。

僕は絶望的な感情を持ちました。
自分が抜いていた写真の中身が女性ではなく男性なのだとしたら、僕はその男性の姿を見てオカズにしていた、と言う事です。
自分は男性が好きなんて事は全く無いのに、男性の姿に興奮していた。
この悔しい気持ちは、しばらくすると、嫉妬に変わって行きました。

つまり、その男性はプリティアの姿になる事で、結果的に僕の男性としての性欲を弄んだんです。
本来、僕が勃つはずの無い『男性』と言う性別なのに、あの着ぐるみに入って動き回る事で、中の女性を想像し、興奮させられてしまった。
そんな中に入り続けていた男性に、羨ましい、と言う感情を持ってしまったんです。

見た目は可愛い魔法少女。衣装も、成人女性であれば恥ずかしがって着れない気がするぐらい、女の子だから許されるようなヒラヒラしたデザインと、女性っぽいタイトなデザインを組み合わせた物。
男性である僕は当然そんな衣装を着たことはありません。
でも、あの中に入っている男性は、そんな性別の違いを乗り越えて、女性であってもある程度の年齢なら恥ずかしくなりそうなあの可愛い衣装を纏っている。
あのタイトの服の着心地や、ヒラヒラしたスカートやリボンの揺れ動く感覚を身体で感じている。
膝まで覆うような長いブーツを履いて動き回る時に産まれるであろう、足の抵抗も身体で感じている。
僕は、そんな男性を外から見て、女性を妄想して抜いてしまった。
何も知らず、あのグローブに包まれる手で扱かれる所を妄想し、ブーツの感触を妄想し、抜いてしまった。

僕にそんな感情を抱かせていた男性に、腹立たしいと言う感情と、そう言う立場に居られる男性に羨ましいと言う感情が同時に存在していました。

着ぐるみの中身は過酷でしょう。炎天下。きっと内部は熱と湿気で大変な事になっている。マスクをつけてのアクションも、呼吸が制限されて大変な気がする。
にも関わらず、人前でマスクを取る事は絶対にないのです。
あの中で、その男性は、その空間の蒸し暑さも、息苦しさもすべて体感していた。
僕は後から男性である事実を知って想像する事しかできないけれど、世の中にはあの世界を体感していた人がいたんです。

そう言う事実が積み重なって、あの中にいた人の事を、物凄く羨ましい事をしている人に感じました。
それ以来、僕は、女の子タイプの着ぐるみに入ってる可能性のある男性を想像し、勝手に嫉妬し、自分が中に入ってる事を想像して抜くようになりました。

あんな格好で人前で女の子として存在する気持ち、を味わってみたい。
あんな格好で人前で女の子に全身を覆われたまま、息苦しくて蒸し暑い世界を我慢してみたい。
あんな格好で人前で女の子として振る舞って、僕がそうであったように、男性の着ぐるみファンたちの股間を疼かせてみたい。

そんな事を考えてしまうようになりました。

高校に進学してもその嗜好は変わりませんでした。
それどころか益々この嗜好が強くなっていました。
ネットで検索を繰り返すと、趣味として女性型着ぐるみを所有し、写真を撮って公開しているような人が結構いることも知りました。
つまり、お金さえ出せば、自分の好きなキャラクターの着ぐるみを作って、その中に自分が入る事も出来ると言う事です。
プリティアのような一般のお客さんの前で着ぐるみ姿で居続けることは難しそうですが、コスプレイベントなどではそう言った着ぐるみに入って人前に出ることも経験できるようでした。
そしてこれが僕の当面の目標になったのです。
大学は一人暮らしがしたくて東京に出る事を決めていました。もちろん着ぐるみを所有する事が目的です。親と暮らしている今、着ぐるみに自由に出入りするのは難しい考えたから、何としても一人暮らしをしたかったのです。

大学の受験勉強を頑張ってる間も、僕はショーに通って写真を撮る習慣は続けていました。
ネットに公開する為、と言うより、自分がオカズに使う為、と言うのは最初から変わっていません。
ですが、中身の女性を想像して抜いていた時代と違い、男性の痕跡を探したり、自分がこの中に入ってこのキャラクターとして振る舞っている時をイメージして抜くようになりました。

また、そうやってショーに通う事で、友達も数人出来ました。
みんなキャラクターショーが好きで通ってるそうで、中には僕と同じように中の人を妄想してる人もいるみたいでした。
特に、三月さん、府梨さん、熊茂さんの3人とはとても話が合い、ショー以外でも交流するようになっていました。
お互いの写真を交換したり、着ぐるみの妄想を合ったり。
実は、着ぐるみショーをテーマにした同人誌なんかも書いて、年末の大型同人即売会に出店した事もあるんです。
そして、その時初めて、三月さんの提案でホビー21に行く事になったんです。
府梨さんと熊茂さんは当初、大東京ネズミーアイランドと言う大型テーマパークに行くつもりだったのですが、そう言えばホビー21には結構凄い人間型の着ぐるみが沢山いる事を思い出して、そっちに行くことに。
当時は高校生の貧乏旅行でしたから入場料がかからないのも選択の決め手でした。

僕らは同人即売会が終わり、年明けの開店と同時にホビー21に行き、そこで衝撃を受けます。
店内の様々な場所でグリーティングやショーをしたり、販売のお手伝いや喫茶ルームのメイドさんなんかをしてるキャラクター達を見かけます。
そのキャラクター達は、まるで等身大の動くフィギュア、と言うような生々しい見た目で、FRPで出来たマスクを被ったスーパーで見た着ぐるみとは根本から違う構造をしている事は、素人の僕にもよく分かりました。
特殊メイクなどで使われていそうな皮膚の質感に近い素材で隙間なく身体を覆い、外から見ている限り全く隙間や出入り口が見えない構造。
マリンスポーツのコーナーには、ビキニスタイルの水着を着こんでいるキャラクターもいたのですが、それだけ露出があっても、繋ぎのとかファスナーが全く見えないんです。

いったいどうやってこの中に人が入ってるのか、非常に気になりました。
また、呼吸用のスリット等も見えないその顔のデザインも、この中に人の顔が入ってる事が全く想像できませんでした。

そんな美少女達が、様々な衣装で店内を動き回り、その姿でいることがまるで当たり前かのように、ずっとその姿で居続けていました。

僕と三月さんは思わずトイレに駆け込んだぐらい、着ぐるみに対して思う所がある人には、とても性的な興奮を覚える着ぐるみ達だったのです。

府梨さんや熊茂さんも、結構来るものがあったらしく、帰りの電車の中ではその話題で持ちきりとなりました。
その後もお金を作ってはホビー21まで遠征しましたし、大学は念願の東京にある私立大学に受かった為、都内で一人暮らしを始める事も出来ました。
三月さんや府梨さんも、ホビー21に通いたい一心で東京の学校に来たらしく、大学の四年間は三月さんや府梨さんとも良く遊んでいました。
熊茂さんについては関西の大学に進学したのですが、せっせとバイトして東京に通ってました。

ちなみに、熊茂さんは僕より1歳下、三月さんは同学年、府梨さんは一つ先輩でした。熊茂さんは高校も僕と同じ学校だったんですけどね。
他の2人も学校は違うけど地元は殆ど近所といって言いぐらい近い場所でした。

大学に入るとアルバイトを始め、そのお金で念願の着ぐるみを買う事も出来ました。
いくつかの工房に見積もりを出して、既に世に出回る完成品の好みと、自分の出せる金額を天秤にかけて結構悩んだ末に大手の工房に決めたりしました。
作ったキャラは、いわゆる恋愛シミュレーションゲームのキャラクター。
名門女子高を舞台にしたゲームなのですが、そのキャラクターデザインと練り込まれたキャラクターの設定で、とても人気がある作品となりました。

その作品に出てくるメインヒロインの1人「白石沙織」を発注し、人生で初めて女の子型の着ぐるみの中に入る、と言う経験をしました。
コスプレ衣装屋さんから購入した女子制服や、衣類の通販で購入したタイツや下着、ブラ、そして身体を女性のラインに近づける為のウエストニッパーやガードル、と言った、装備は、本来女性が身に着ける物。
それを男性である自分が身に着けて、そのヒロインの姿になると言うのは、想像していた以上に興奮しました。

ウエストを絞り、股間の膨らみを隠し、胸にシリコンパッドを入れてブラで固定し、その上から肌タイツを着る事で、憧れつづけた擬似的な女の子の身体の中に自分の身体を押し込むことに成功しました。
この状態で既に僕の下半身の息子は勃起を始めていたのですが、ガードルによる膨らみ隠しのせいでじんわりと締め付けが増す感覚に襲われます。

この擬似的な女の子の身体に、下着、黒タイツ、ブラ、そしてその上からミニスカートでブレザー型の制服を纏うと、絞ったウエストでもかなりタイトな感じと、肋骨の一番下が凄くタイトな感覚、そして設定通りのサイズに盛った胸が制服に押し込まれる圧力を感じました。
サワサワカサカサと衣擦れする音が、なんだかとってもエッチな気持ちを盛り上げていきます。
そしていよいよマスク。
着ぐるみ関係の知り合いに、ロングヘアは手入れが大変だと聞いていたのですが、このヒロインは黒髪ロング。
そのマスクを被って鏡の前で髪の毛を整えるのですが、そこには可愛いヒロインが立ってこっちを向いていたんです。
マスクの中は呼吸音が響き、吐息が籠って行くのが分かります。
初めてマスクを被った時は、その息苦しさから直ぐに脱ぎたくなってしまう程。呼吸の抜けが悪い閉じ口タイプのデザインを選んだのと、視界も空気が抜けないサングラス加工されたタイプを選んだからでもありますが、想像以上に息苦しく感じました。

また、熱気も凄く感じます。
単なる制服とはいえ冬服でしたし、全身隙間なく布で覆ってる事で熱気が抜けにくいと言う事もありました。また、頭部をマスクで覆った事により熱も籠りましたし、それに加えて、あとから気づいたのですがロングヘアはショートへアに比べて更に熱が籠りやすいんですね。
良く考えたら、髪の毛の繊維って要するに化学繊維ですから、それが頭の上から腰ぐらいまで、身体の後方を覆い、両肩にもかかるぐらいボリュームがある。つまり首周りの殆どは髪の毛で覆われることになるんです。
簡単に言えば、常に、少し緩めにボリュームたっぷりのマフラーを巻いてるような感じです。
そりゃー熱も篭りますよね。
美少女の持つ美しい髪が、中に入る僕を蒸していく。この感覚にまたクラクラしてしまいました。

この経験をして分かったのですが、プリティア達は夏場に今の僕の被ってるマスクよりずっとボリュームのある髪の毛のある顔を被っていたのですから、中の人は相当に蒸し暑かったんだろうな、って思えました。

汗と熱気と呼気の苦しさで、10分もマスクを被っていられなかったのですが、それでも初体験は猛烈に感動しました。
その後、何度も自宅で変身を楽しみ、オフにも参加させて貰うようになり、次第にマスクを被っても息苦しさに耐えられる時間が延びて、やがては、一度経験してみたかった着ぐるみの姿で一晩過ごすと言う行為も出来るようになりました。

着ぐるみの入り心地は、慣れてくると最初に感じたような興奮は薄れてくるのですが、それでも全身を締め付けられる感覚や、衣装のタイトさや動きにくさは体感出来て、それで興奮もしました。
特に、自身が女性物の下着を含む衣類に身を包み、前進を適度なタイト感で締め付けられ続ける快感は、慣れていてもそれだけで興奮出来ました。
もちろん息子にゴムを着けて着ぐるみに入って、女の子の身体で一人エッチ、も経験しました。この気持ちよさは想像以上で、やがてはその姿じゃないと抜けない程にハマってしまいます。

こうして自前の着ぐるみライフを楽しみながらも、大学生活を堪能し、ホビー21にも足しげく通い、昔繋がった着ぐるみ関係の友達とも交流し、そして就職となるのでした。

実際に就活を始める頃には、最初にお話ししたように、ホビー21の郊外出店第一号の店舗候補が僕の地元だと言う噂も聞き、もしもホントなら地元でホビー21に就職できる、と言う事も可能になります。
そう言う希望を信じ、思い切ってホビー21にESを送り、面接を受け、内定を貰うように頑張ってみたんです。
すると、思ったよりとんとん拍子に念願叶って、無事にホビー21に就職できる事になりました。
また、僕が面接の時に「もし郊外一号店が僕の地元になるならそこに就職したい」と言う希望も伝えていたところ、どうやらいくつかあった候補から、ホントに僕の地元に店舗が出来る事が決まってしまい、そこの「オープニングスタッフ」と言う配属になる事も告げられました。

実際に店舗が出来るのはまだ2年ほど先らしく、就職した年から開店までの期間については本店での研修を兼ねて業務の習得となります。
最初に配属されたのは、商品の販売部門で、主に女児向けのキャラクターグッズを扱う店舗。
その後は2ヶ月ごとに移動があり、料理関係のコーナーや、スポーツ関係のコーナー、等点々として、最後はゲームのコーナーに辿り着きました。

もちろん、どの販売部門でも、店内にはその商品に関連しそうなキャラクター達が殆どずっと存在しています。
丸一日同じキャラクターと言う事は無いのですが、長い時は5時間以上、同じキャラクターが存在している事もありました。
彼女達は専門のサポートスタッフが常に監視していて、悪戯されたり、彼女達本人の不具合がありそうなときには、速やかに楽屋に誘導していました。
そう言うスタッフ達にもちょっと羨ましいなと言う感情はありましたが、やはりつい見てしまうのは着ぐるみ達。
完璧と言える中身を隠す構造により、中の人を全く感じさせないキャラクター達ですが、あれが着ぐるみである以上は、絶対に中に人が入ってるんですよね。

自分で着ぐるみに入るようになった今だからこそ分かる、中の人の過酷さを想像しては、中の人が羨ましいなと感じていました。

ただ、一つ安心できたのは、その着ぐるみはスタイルからして、仮に小柄であっても男性が化けられるとはとても思えないって事。
自分でも補正を色々研究するのですが、どうしても男性を隠せない部分はあるんですよね。下半身も、いくら膨らみを隠していても、骨盤の形状は変更できませんから、単に骨盤を模してウレタンで横を広げた程度だと色々不自然な部分が目立つんです。

ですが、彼女達はどのような衣装であっても、全く男性を感じさせる要素がありません。
背丈も小柄ですし、もちろん股間はスッキリ何もない。太ももの形状や肩、ウエストからバストにかけてのライン、その他様々なポイントで男性の痕跡が全く見えない。

つまり、こんなに羨むような着ぐるみに密閉される人は、自分とは違う性別の人って事になります。
以前プリティアのショーで感じた屈辱的な感覚を味わう事はなさそうだと、言う点では安心できましたが、それでもやっぱり中の人が羨ましいと言う感情は持っていましたし、色々観察もしていました。

そんなある日の事です。
このゲーム販売のエリアのエリアマネージャーをしている人に呼ばれ、部署の移動を命じられます。
ホントに色々な部署に点々とさせられるなぁと思いつつ、今度はどこの部署なのかと思ったら、なんと、着ぐるみのサポートをする人達の部署。
つまり、キャラクターサポートのスタッフ達に配属されることになったんです。

僕は、普段彼らを見ていて、より着ぐるみに近い所で仕事をしている事に羨ましさを感じていました。
また、サポートをする人達なら、彼女達の秘密をもう少し知る事が出来るかもしれない、と言う期待もありました。

サポートスタッフの部署で僕の上司に当たるのは、赤城さんと言いました。

部署変更の初日は、事務室でのオリエンテーション的な事から始まります。

赤城「君が羽田君?」
僕「はい!羽田幸太郎です!よろしくお願いします」
赤城「うんうん。よろしくねー。じゃあ早速話をしよう。君は最終的に、新規店舗のオープニングスタッフとして、ホビー21のキャラクターサポートをして貰う予定なんだよね」
僕「僕が、ですか?」
赤城「そうそう。もちろん開店当初は本店からも助っ人のスタッフが行くけど、多分1ヶ月ぐらいで本店に戻って来る。その後は君ら第一期のサポートスタッフがキャラクター達のサポートをする事になるんだよ。なので責任重大」
僕「ですね。気を引き締めて頑張ります」
赤城「よしよし。まずは羽田君に確認なんだけど、誓約書、書いた?」
僕「あー、この部署に配属されるって決まった時に書かされたやつですね。ええ。サインしました」

そう。
実はこの部署に来る事になった時に、僕は事務室に呼ばれて不思議な誓約書にサインをさせられたんです。
通常の業務とは異なり、着ぐるみ関係の業務に着く人たちはみんなサインをしている誓約書らしく、主に、秘密の漏洩についての規定でした。
着ぐるみに関する秘密は、仮に知ったとしても口外は禁止とされ、もし漏れたことが分かったら、相当に厳しい罰則があると書かれていました。

ただ、そうは言っても、もしも中にどんな女の人が入ってるのか知る事が出来たら、友達とかにこっそり教えるぐらいはいいよな、ぐらいの軽い気持ちでサインしました。

でも、赤城さんの話を聞くと、どうやら本当にそう言う秘密を喋るのはリスクが高いらしく、このサインを元にとても高額な賠償金が請求される事になるみたいでした。
以前、着ぐるみの出入り口についての秘密をネットに書いた人がいたらしく、その元になった人は、会社をクビになるだけでなく、一生かかっても払えないぐらいの賠償金を背負い、今でもその借金を返済しつつ最底辺の生活を強いられることになっているそうです。
友達に漏らしただけだったそうですが、その友達が掲示板に書いてしまったんですね。
ホビー21が多額の資金をつぎ込んでそのもみ消しを行った結果、今では殆どその情報は確認できないのですが、その時にかかった資金も含め賠償金は相当な金額になったそうです。

それを聞いて、僕は少し気軽な気持ちでサインしたことにゾッとしました。
ただ、逆に言えば、そのサインの誓約を守れば、出入り口の秘密などを知る機会がある、とも言えます。
なので、僕は、絶対に秘密は守る、と言う事を改めて心に誓ったのでした。

赤城「と言う訳で、相当厳しいルールなのだが、この誓約書にサインした人は全員そのルールを守る必要があるのよね」
僕「わ・・分かりました」
赤城「ビビるのは分かるけど、そんなに難しく考えないでよね。秘密を守れればいいんだから」
僕「はい・・・でも・・この部門の人達はみんなそんなに厳しいルールを守ってるんですか?」
赤城「あーいや、そうでもない」
僕「そうでもない?だとしたら何故僕はサインさせられたんです?」
赤城「つまりサポートスタッフの殆どは、今後君が知るであろう『着ぐるみの秘密』について知る機会が無いんだ。スタッフでもごく一部の人だけしか知らない秘密だから大半のスタッフはそもそもサインをしてないんだ」
僕「一部の人しか知らない・・・」
赤城「そうそう。一部だよ。この部署でもサインしている人は10人いるかどうか。着ぐるみの中に入るスタッフとか着ぐるみのメンテナンスをするスタッフは全員サインしてるはずだけどね」
僕「この部署って何人いるんですか?」
赤城「約400人」
僕「そ・・そんなに・・・」
赤城「役者は200人程度だからその倍ぐらいのサポートスタッフがいるって事になる。でもそのうち10人しかサインしてないって事ね」
僕「部署に入りたての僕が、何でそんな重要そうなサインをさせられたんですかね・・・」
赤城「それは簡単だよ。君はオープニングスタッフとして新店舗ではリーダー的な立場になって貰うから」
僕「えっ・・僕が!?」
赤城「そう。実はね。色々観察してたんだ、君の事。観察してたのは僕じゃないよ?キャラクター部門の調査スタッフがね?で、君は割とどの部門に配属されても着ぐるみに興味がありそうだったから、と言う理由で候補に挙がった。今研修してる君の地元就職希望の人でこの部署に向いてそうな人が少なくてね。なので君が適任だと判断したらしい」
僕「なるほど」
赤城「リーダーは通常は着ぐるみの構造の知識を持った人がやる必要があるんだよね。ほら、着ぐるみの様子を見て何が起こってるか、内部事情を察したり、何か問題が発生した場合に速やかに対処する為にも、ね」
僕「確かに、知識がある方が対処しやすいですよね」
赤城「そう。だから君にはそういう学習も徐々にして貰う事になりそうなんだよね。まずはサポートに慣れて一人でサポート出来るようになって貰ってからだけどね。それまでは、先輩に付いて勉強して貰う感じかな」
僕「はい。よろしくお願いします」
赤城「じゃー早速、君の教育をしてくれる先輩を紹介するよ。ちょっと待ってね」

赤城山はそう言うと、備え付けの電話で誰かを呼びました。
1分程度経過した後、ドアがノックされました。

赤城「入っていいよー」
声「失礼します」

そう言って入って来たのは、僕よりいくつか年上そうな見た目の男性でした。


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