定例仮面舞踏会(前編) [戻る]
[次へ]


聖包学園・女子寮。
この学び舎の女生徒達は、全員がここから登校する。
女生徒は、全員が特殊な女性型の着ぐるみを着用して日中生活し、これを脱ぐことは自室や特定の場所以外では許されない。

そのため、ここには普通の寮には存在しない設備・制度が存在していた。

それは、寮生たちの着用するスーツをクリーニングするための設備と、スーツを回収するための仕組み。
毎日のように着用する特殊な構造のスーツは、着用者の興奮状態においてある程度の通気性を得るが、
(興奮状態で人体から汗とともに分泌される何らかの成分、あるいは興奮状態で身体から発する何らかの要素が関係していると思われるが、詳しいことはスーツの開発陣しか知る由が無い)
着用者の発した汗を外には逃がさず、また、性的興奮を持続するために股間部分に搭載されているシステムの関係上、着用者が中で出したものもスーツ内部の股間部に溜め込まれる。
それらの処理のこともあり、女生徒の着ぐるみ…特に内側に着る白い素体スーツはほぼ毎日必ずクリーニングを行わなければならない。
女生徒に与えられる着ぐるみ一式の中で、白い素体スーツは必ず7着以上の複数着が支給され、日替わりで着用する。
そして、着用後の汗や体液で汚れたスーツはクリーニングに出すのだ。
寮には1日数回クリーニングの担当スタッフが各階を回り、女生徒が脱ぎ捨てた白いスーツを回収する手はずになっており、
回収後は学園敷地内にあるクリーニング設備で一括処理が行われ、翌日以降に寮の各部屋に戻ってくるのである。
着ぐるみにはそれぞれ着用する生徒の識別番号が記憶されたICチップが頭部に内蔵されており、手違いが起こらないよう配慮されている。
このICチップを使ったシステムは、クリーニング以外にも学内の様々な場所で活用されていた。

ある日の夕方。僕はいつも通り、前日に着た白い素体スーツをクリーニングスタッフに預けていた。
回収カートのボックスには、ラバーのような質感の白い人型のものが大量に投げ込まれており、自分のスーツもその中に入れる。
スタッフは一階ごと、各生徒の部屋を一軒づつ周りながらスーツを回収していくのだ。

『あ、秋桜さん、こんにちは』

隣の部屋の小春さんが、人工音声で声をかけてきた。彼女も今日はこの時間にスーツを預けるようだった。
小春さんは入学当初からの女生徒の一人で、僕が女生徒に昇格してこの寮に越してからは色々とよくしてもらっている。
彼女の背丈はごく一般的な14歳くらいの女の子のそれで、胸はほんの少し自分のより小さい。
栗色の髪の毛が両サイドにまとまってちっちゃく可愛くツインテールが作られている。
顔には元気っ娘という感じの表情が作られ、全体的に活発そうな雰囲気を持っていた。

『小春さん、今日もお疲れ様です』
『おたがいにね。あなたがここに来て暫く経ったけど、調子はどうかしら?』
『わたしも、この身体にだいぶ慣れてきましたよ。毎日が刺激的なのは間違いないです』

人工音声の設定は、女生徒全員に支給されているPCを白い素体スーツにある端子とケーブルで繋げることである程度調整できた。
PC側で口調や一人称、ボイスパターンやピッチなどの細かい設定が可能なのだ。
僕が着ているスーツではごく普通の女の子の口調に設定していて、一人称も「わたし」に設定されている。
女生徒には自分が所持している素体スーツ全てに同じ設定をすることが推奨されているけれど、
中には一着ごとに微妙に設定を変えたりして楽しんでる女生徒もいるらしい。

『ふうん・・・その割には、あまり楽しそうじゃないように見えることがあるんだけど』
『そう、ですか・・・?』
『なんというか・・・何かが物足りないって思ってるんじゃないかなって。
 秋桜さん、あまりポイントを使って何かを購入してはいないみたいだし』
『それは・・・』

確かに、そうなのだ。僕は学園で設定されている「ポイント」を全然使っていない。
着ぐるみのカスタマイズだけでなく、雑貨などの購入などにも活用できるポイントシステムだったのだけれど、
僕はそれを殆ど使わず、溜めてばかりだった。

『ごめんなさい、気になったものだったから。何か困りごとでもあったら遠慮なく相談してね?』
『あ、ありがとうございます。』

その後、小春さんと数分世間話で盛り上がった後は挨拶をして自室に戻った。
自室に支給されている姿見には、僕の現在の姿が写し出されている。
背丈や胸はは小春さんより少しだけ大きく、黒く艶やかなショートボブの髪の毛に、清楚そうな顔を持った姿だ。

少しして、制服や下着を脱ぎ捨て肌色の樹脂で出来た裸身になると、そのままお尻の割れ目を開き、外側の外皮スーツを脱ぎにかかる。
数分の時間をかけながら、肌色の樹脂の下に封じ込められた無機質な白い身体を開放していく。

部屋の姿見には、程よくくびれた腰やお尻にすらっとした美しいラインの脚、
大きすぎず小さすぎない膨らみ加減の乳房を持った、白いラバーに包まれた人形が立っていた。
下のほうには、脱ぎ捨てられ中身を失った肌色のスーツが写る。
この白い人形の中に、僕の本当の姿が密封されている。女の子が持たざるものを持った身体が。
けれど、まだ脱がない。それから数時間ほど、僕はその姿のままだった。

僕はそのまま学校の宿題や予習を行い、明日の授業の準備が終わってもそのままテレビやPCでくつろいでいた。

やがて、布団の上で横になり、両手で全身をなで上げ、股間の呼吸口を指でさすり、偽りの乳房をゆっくり揉みしだく。
満たされないものを、なんとか埋め合わせようとするために・・・

自分一人しか居ない室内に、ラバーの擦れるような音が微かに鳴り響いていた。



聖包学園には、生徒間に伝わる謎の噂がいくつもある。
特に知名度の高いものは学園の七不思議と言われるまでに有名であるが、それ以外にも妙な噂はいくつもある。

その中の一つに「消える人影」の話がある。
一ヶ月に一度あるかないかだが、第三土曜日の深夜、とっくに寮の門限が過ぎた時間に
外側の着ぐるみを脱いで白い素体姿になった女生徒が学園敷地内で目撃されることがあるのだ。

門限を過ぎた深夜、しかも本来着ていなければならない外皮を脱ぎ捨てての徘徊。普通ならば校則違反で厳重注意ものである。
夜の敷地内では教員達(当然着ぐるみは外皮まで着用)が巡回しており、捕まってもおかしくないはずなのであるが、
その女生徒は、毎度何処かに消えてしまうのだという。正しく言うなら、捕まった話が今まで無いのだ。
これだけの目撃証言がありながら、一度も捕まったり厳重注意をされたケースが無いとなると、どうにも不可解な話である。
この噂は僕が入学した頃から既に女生徒の間で流れていた噂らしく、半年ほどして晴れて女生徒「秋桜」となった僕の耳にも程なくして入ってきた。

僕はその話を聞いて、他の女生徒同様に不可解に思うのと同時に、少し胸が高鳴るのを感じていた。
外皮を脱いで「無機質な姿」になり敷地内を徘徊するという行為に、どうにも惹かれるものを感じたのだ。

まだ昇格できていない男子達の目標である女生徒になった僕だったが、その頃は物足りなさを感じていた。
自分の求めている「変身」と紙一重で違うと思ったのだ。これは女生徒になる前から思っていたことだった。
着ぐるみによる女生徒への変身は、あくまで普通の人(着ぐるみだけれど)への変身に近い。
でも、僕はもっと違った変身をしてみたいと思っていた。もっと現実から離れた変身というか、なんというか。

僕は小さい頃から、漫画、アニメ、小説、ゲームなどのフィクションな世界の女の子への憧れを持っていた。
平たく言うなら、二次元の女の子か。よく、二次元の女の子にぞっこんになってしまう人は居ると思う。
ただ僕の場合、それは恋愛感情とは別の憧れだと思う。僕は、彼女らになりたいって思ってしまったのだ。

変身ヒロインや、メカ少女。機動兵器のパイロットスーツや、戦闘用バトルスーツ。
フィクションだからこそ可能な、彼女達の現実離れしたデザインのコスチュームやデザインは、僕の目を釘付けにして放さない。
特に好きだったのは、ゲーセンでよく遊んだ対戦ゲームに出てくるキャラクターで、姿からモーションから何から全てが大好きだった。

自分はこの性だけど、出来ることならこんな姿になってみたい。そんな気持ちが昔からあった。
この学園に入学できたのも、そんな願望があったからだろうか。

だけれど、そんな願望ゆえに、僕は現状に満足できなかったのかもしれない。
女生徒にはなれたけれど、それは僕の理想の姿とは少し違う。もっと現実離れした姿になりたい。憧れの彼女達のような・・・

せめて、学園内で使える「ポイント」で購入できるものの中にコスプレ衣装のようなものがあって欲しかったけれど、
渡された学園の衣装カタログにあるのは、学校の制服や体操着など、一般的なものが殆どだった。
学園の母体になっている会社では、着ぐるみに着せるハイクオリティな衣装が日々作られているという話なのだけれど、
校則には「規律の乱れに繋がるため、生徒の校舎内での指定制服以外の着用は原則禁止」というものがあり、
僕ら生徒が購入できるのは、カタログにあるものだけだった。僕の満足のいくものは、そこには無い。

その時は、もう少しでも満足できそうな方法は、自室で外皮を脱ぎ、白い素体スーツだけの姿になることくらいだった。
この無機質な姿が、まるでアンドロイドの少女みたいに思えたのだ。全て着込んでいるより、これだけ着ているほうが現実離れした変身に近づけているように感じた。
授業が終わって自室に帰ると、着ぐるんでいる時は大抵この姿で過ごしていたのだ。
だからこそ、件の噂にも惹かれるものを感じていたんだと思う。

・・・それがまさか、「噂の真相」と「求めていた変身へのチャンス」が一度に舞い込んで来るなんて、この時の僕はまだ思いもしなかった。



「定例仮面舞踏会」





ある日の夜・・・スーツを全て脱ぎ去り本当の姿になってから、パジャマを着て寝る準備をしていた時だった。
部屋の窓に「コン・・・」と何かが当たったのだ。こんな時間に、外に誰かがいるのかと一瞬混乱する。
気になった僕は部屋のカーテンを開き(着ぐるみ着用時以外は推奨されない行為だが)外の様子を伺った。

すると、寮の敷地の外に人影が居たのだ。門限はとっくに過ぎている筈なのに。
一瞬「噂の外皮を脱いだ女生徒だろうか」と思ったのだが、シルエットが違った。そう、シルエットが。
そのシルエットは、学生服とは全然違うものだった。もっと非現実的な感じで、どこかで見たような形状なのだ。

僕は、冷静さを失っていたと思う。門限を破ってでも、あの人影の正体を確かめたい。そう強く思っていた。
急いで素体と外皮を着込み「秋桜」に戻ると、動き易いジャージ姿で僕はこっそりと寮を脱出する。

・・・運良く、寮母さん(着ぐるみの)と鉢合わせせずに寮から抜け出せたが、先ほど人影が立っていた場所には既に誰も居ない。
落ち着いて周囲を見回す。すると、公園広場の方に走ってゆくあの人影が。僕も走って後をつける。

無機質なミラーレンズ越しに写る、信じられない光景。

彼女は、公園広場の噴水の前に立っていた。

メカニカルな装甲に包まれながらも、可憐な肢体を形成しているボディ。
ピンクと白をメインに構成された、短いスカートのドレスのようなアーマー。
装甲板で作られたツインテールに、胸に大きく輝くハートマーク。

それは、僕がよく知っている、あのゲームの少女型メカと同じ姿。

細部に至るまで精巧に作られたそのボディは、まさしくモニターから飛び出してきたような出来だった。

僕はその場でへたりこみ、呆然としてしまっていた。そして、へその下に収まっているモノが窮屈になる。
どういう経緯なのかはわからないものの、誰かがあのキャラの着ぐるみ、いや機ぐるみを着ているのだ。それも完璧な出来のものを。
そんなものを可憐に着こなしている目の前の人物への猛烈な嫉妬、そして、自分自身もこんな姿になってみたい…そんな願望がソレを硬くさせてしまうのだ。

正直、完全にこの女の子の姿に惚れてしまっていた。あるいは、嫉妬か憧れか。

『びっくりさせちゃって、ゴメンね。』

会話機能によって発せられたボイスも、その姿に似合ったものだった。
元のゲームの声とはまた違った趣があり、それがまた魅力的に感じる。

数十秒の間惚けていた僕だったが、やがて冷静になるとマスクの奥で焦り始める。
門限を越えた深夜の外出をやらかしてしまったのだ。バレればただではすまない。

『あっ、あわわわわわ・・・・・やっちゃったぁ~~~~』
『大丈夫、誰にも言わないから』
『・・・・・え?』

慌てふためく僕だったが、目の前の彼女は落ち着いた様子でそう言ってきた。

『今日は、キミに用があって会いにきたの。』
『よ、用事?』
『・・・キミ、もっと違う「変身」がしたいと思ってないかな?』
『!?』

図星を突かれていた。

『ど、どうしてそんなことを・・・』
『それは秘密。けど、今こうして私を見ているキミの様子を見る限り、正解に思えるんだけど』
『うっ・・・』

確かにそうかもしれない。興味ない人だったら、引いたりもっと違う反応をするのかも。

『かくいう私も、最初はキミとおんなじだったからね。』
『同じって・・・』
『他の子たちとちょっと違った好みを持っているのは、キミだけじゃないってこと。』

僕以外にも、特殊な願望を持った生徒が居る・・・?
目の前の彼女もその一人ということなのだろうか。
それにしても、どうして僕の好みを彼女が?まったくわからない。

『・・・それでキミに、渡したいものがあるの。』

そう言って、彼女が差し出したのは、封筒に入った招待状らしきものだった。

『後で読んでみて。きっと、キミにとって悪い話じゃないと思うから…待ってるからね。』

そう言うと、彼女はかわいらしい仕草で走り去っていく。

小さくなっていく彼女の姿を、夢心地で見つめていた僕だったが、やがて渡された封筒へと視線が落ちる。

||||||||||||||||||||||||| 

 聖包学園 定例仮面舞踏会のお知らせ

 今の自分とはまた違った「変身」をしてみたいあなたへ。

 当舞踏会は、更なる「変身」を望む方を歓迎いたします。

 来週土曜 23時
 公園広場の外れの倉庫の裏に案内人を待機させておりますので
 同封のICカードをお見せ下さい。会場へとご案内いたします。
 お越しの際は外側の姿を脱ぎ、部外者に見つからぬようご注意ください。

 貴方様のご来場を、心からお待ちしております。

|||||||||||||||||||||||||

こっそり寮に戻り自室で改めてスーツを脱いだ後、封を開けた招待状には、そう書かれていた。

学園の、仮面舞踏会・・・?そんなイベントは案内には載っていなかった。

表沙汰になっていない、謎のイベント・・・そこに行けば、彼女に逢えるのだろうか。

彼女も、こうやって誘われたからこそ、あの姿を手に入れたってことなのだろうか。

そもそも、あの機ぐるみ、もとい着ぐるみはいったい・・・混乱してばっかりだ。

気になりながらも、僕はひとまず寝ることにした。流石に寮を抜け出すのは堪えたのだ。



『・・・桜さん・・・秋桜さん!』

『はうっ!?』

『授業中に寝てはダメよ!もっと夜はしっかり睡眠しなさい!』

『すっ、すみませんっ!』

翌日は寝不足になり、担任の先生(もちろん着ぐるみ)にたたき起こされる体たらくだった。
夜更かしをした上に、あんなものを見てしまったのだ。リラックスして眠れというほうが無茶な話だった。

それだけでなく、朝から晩まで、あの娘と招待状のことで頭がいっぱい。何もかも上の空だったように思う。

『秋桜さん・・・ほんと、大丈夫?』
『だ、大丈夫です・・・たぶん・・・』

放課後、隣の小春さんも心配して声をかけてくれた。けどあの出来事を言うわけにもいかない。
寮を抜け出した上にとんでもないものを見た、なんて話をしたら風紀委員や先生達ににらまれそうだ。

『はぁ・・・これは重傷だわ・・・ ・・・・・・ったかな・・・』
『・・・?』

呆れた仕草を見せた小春さんが、その時何かを一人ごちたような気がしたけれど、何を言ったのかはよくわからなかった。



そして、土曜日の夜。僕は白い素体姿で靴だけ履いて寮を抜け出していた。もちろんあのICカードを握って。

いかにも怪しげなイベントで数日悩んだけれど、結局僕はこのイベントに行くことを心に決めた。
やっぱり、興味があったのだ。彼女の姿は、僕が望んでいたものだった。
このイベントに、僕の望んでいるものがある。そう思えてならなかったのだ。

正直、心臓の高鳴りが止まらない。門限を破るという背徳感に、生徒に見られているかもしれない恐怖と教員に見つかるかもしれない恐怖。
そして、この無機質な姿で外を歩いているという事実が、様々な感情の入り混じった興奮を煽っていた。
不謹慎にも、下腹部に隠されたものの硬さが少し増しているのがわかる。この状況に、僅かながらに興奮してしまっていた。

緊張しながら、公園広場の倉庫へ足を進める・・・

『待ってたわよ、秋桜さん』
『せっ・・・先生!?』

そこで待っていたのは、なんと担任の先生だった。

『ど、どうし・・・』
『しーっ。それよりカードは持ってきている?』
『えっ。カ、カードカード・・・は、はい』
『はい、確認しました。私が「案内人」よ』

ただただ仰天するしかなかった。こんな謎のイベントに、教師まで関わっているなんて。

『色々聞きたいことはあるでしょうけど、後で話すから、今は指示に従ってね?』
『は、はぁ・・・』

そう言った先生は、後ろに置いてあったカートを前に出してきた。
そこには、人一人入れるくらい大きなダンボールの箱が積まれている。

『とりあえず、ここに入ってちょうだい。』
『ええっ!?』
『会場への道は生徒には内緒なの。だからこの中で会場に着くまで待ってて欲しいのよ』

学園の母体の会社が、着ぐるみを運ぶときにこういったダンボールを使うことがあるとは噂で聞いていたけれど・・・
実際に入ることになるなんて。意を決して僕はダンボールの中に横になって入る。

『じゃあ、閉めるわ。ちょっと揺れるけど我慢してね』
『は、はい』

ダンボールのフタが閉じられ、ガムテープを貼られたようだ。そして、カートが移動をはじめる。
僕は揺られながら、例の噂のことを考えていた。忽然と消える素体着ぐるみの謎・・・
教員が巡回している中なのにどうして捕まらなかったのかと考えていたけど、どうやらこれが真相だったみたいだ。
捕まらなかったんじゃない。教員は捕まえるのではなく、生徒を運んでいたんだ。それも、秘密のイベントの会場へ。
だから一度も、捕まったという話がなかった。こう言うとあれだけど、要は教員もグルだったんだ。
こうやって自分が当事者になっている以上、そう思わざるを得ない。



箱にしまわれた僕は、どこかへと運ばれている。途中では自動ドアのような音がしたり、エレベーターらしきものに載っている感じもあった。
そして、時間にして15分くらいだろうか。ダンボールの封が開けられ、僕は解放される。
周りを伺ってみると、まるで地下の駐車場のような空間だった。

『お待たせ。ここが入り口よ』

目の前のドアに、先生が立っていた。この先がイベント会場らしい。
案内され、僕は会場に足を踏み入れる。

『まずは、メンバー登録を済ませましょう』
『会員制ってことですか?』
『ええ。渡されたICカードと、あなたの身体そのものが登録情報になるの』
『ええっ!?身体って、もしかしてこのスーツがですか!』

学園で使われる着ぐるみには全て、固有の識別番号が割り振られている。
そのデータはスーツの頭部に各種センサーやシステムと共に組み込まれたICチップが記録しており、偽ることは難しい。
学内の所々にこれを使った認証システムでログがとられており、女生徒が何か粗相を働こうものなら、速攻で照会が行われるという。
・・・寮にはそれっぽいものが何故か殆ど設置されていないのだけれど、
もしかしたら見えないところに隠してあって、門限破りは全てお見通しなのかもしれない。改めて背筋が凍る。

それはともかく。この識別番号は学園内の各種サービスを利用するにも概ね必要で、登録したり利用する時には必ずといっていいほど認証がある。
このイベントにもそれが要求されるということは、これは学園が直接運営しているイベントだということでもある。

『いらっしゃいませ。初回登録はこちらでどうぞ』
『さ、いってらっしゃい。』

先生と入口の係員に促され、初回登録の作業に入る。認証を受けながら、僕はその係員に(レンズ越しに)驚きの眼差しを向けていた。
係員が着込んでいる着ぐるみは、とあるゲームに登場する事務員のキャラクターそっくりなのである。

学園の母体会社が経営するお店で働く人の中には、所謂「版権作品」のキャラクターの着ぐるみで操演する人も居るという話は聞いたことがあるけれど、
こうやってそれらしきものを見るのは初めてだ。(例の彼女は別格として)

『登録完了しましたよ。・・・気になります、私?』
『えっ!?ええ・・・』
『ふふっ、どういうことかはすぐわかりますよ。私も最初は似たようなものでしたから』

この係員さんも、あの子と同じ事を言っている。この先に、求めるものがあるのか・・・胸が高鳴る。

『ひとまずは、この先の待合ブースに向かってくださいね。そこにある窓から、中の様子がわかりますから』

指示に従い、待合ブースに着く。奥のほうには大きな窓があり、奥からは明るい光とBGM、着ぐるみの合成ボイスによる喧騒が壁越しに聞こえる。
そこにはテーブルとイスが何台かあり、何人かの素体状態になった女生徒が声をかけてきた。

『あれ、新入りさんかな?』
『は、はじめまして・・・』
『こんな状況、初めてでしょ?普段と違う姿でこうやって話したりするのとかさ』
『そう、ですね。かなりドキドキします』
『ま、そのうち慣れてくるよ。普段と違う姿になることにもね・・・』

こうやって、外皮を脱いだ姿同士で会話するというのは普段では考えられない話だった。
目の前の誰かもわからない女生徒は、直に慣れると言ってきたけれど・・・

『ま、とりあえず見てみなさいよ。この会場を』

そう促され、先ほどから光と音が聞こえてくる窓のところへ向かう。

『うわあ・・・!』

そこには、驚きの光景が広がっていた。
大きなホール。中心のステージではイベントが催され、観客の女生徒で賑わっていた。周りではテーブルで談笑する女生徒らしき人々が。
ただ、女生徒たちはみんな、その姿を「外皮ごと」変えている。

ステージのイベントを仕切っている司会は、有名アニメのヒロインにそっくりの着ぐるみを着用し、
参加者もそれぞれ違う作品のキャラクターの姿になっていた。コスチュームもかなり再現性が高い。
観客も皆、普段の女生徒としての外皮を纏った人物はおらず、色々なキャラクターの姿に「外皮ごと」変わっていた。
コスチュームも学園系アニメの制服から、ファンタジー系だったりSF系のボディスーツだったり、中にはメカ少女も何人か居る。
オリジナルのデザインと思われる姿の着ぐるみもあったけれど、総じて皆「普段とは違う姿」へと変身していたのだ。

『これが「定例仮面舞踏会」よ。』
『仮面って、もしかして・・・』
『全身を包む「普段と違う外皮」が「仮面」っていうことらしいね。いつもとまったく変わった姿になるから。』
『すごい・・・』

『さあ、あなたも楽しんだら?更衣室はあっちだから』
『あ、ありがとうございます』

胸の高鳴りとへその下の圧迫感に苛まれながら、急くように更衣室へ向かう。気が焦ってしまっていた。



更衣室は一人用の個室が何個もあるようで、未使用の部屋にICカードをかざして使うようだった。当然使用中の部屋には無断で入れない。
とにかく空き室の一つに入ってみると、休憩用のソファに空のクローゼット、ナビゲーション端末などがあった。

部屋の各所に説明が貼られており、その指示に従い、まずは端末から情報を得ることにする。ここでもICカードとスーツによる二重認証があった。

[学籍番号******** 秋桜 様 ようこそ、定例仮面舞踏会へ。まずは、当イベントの概要と各種説明事項をご確認下さい。]

端末の情報を読み進める。
何でも、このイベントは学園設立当初より運営されており、当初は「特定の趣味格好」を持つ生徒と教師数人の集まりから始まったとのこと。
校則上、指定の服以外が駄目なのはわかっていても、それでも制服以外のコスチュームを着用したい。あるいは、もっと違う姿に変身したい。
そんな思いを持った生徒と教員が集まり学園側に申請、学園側と母体会社の協力により、「特例が適用されるイベント」が作られたこと。
学内の秘密の場所に建設された特例区域で、普段演じるものとは違うタイプの着ぐるみを確保し楽しんでいたこと。
徐々に同好の士が生徒や教員から集まり、やがて大きなイベントにまで発展したことが書かれていた。

要は「普段と違う姿への変身を楽しみ、交流するイベント」だということだ。
舞踏会の通りに、踊ってもよし。それ以外のイベントを楽しんでもよし。気のあう人々と交流してもよし。そういうことらしい。
母体会社にとっても、着ぐるみの運用データ収集やノウハウの蓄積など利点が大きいらしい。
ただ、学生全てがそういう趣味格好を持っているわけではない。ここに入学した以上、学生はみな着ぐるみへの興味を持っているけれど、
だからといってその中の全てが同じ趣味ではない。趣味格好は千差万別。だからこそ、本当に興味のある生徒だけが来れるようなシステムが作られたという。
そのために、「消える人影」の噂が流れ、あの入場方法が生まれた。全て、ふるいにかけるために生み出された工程だったのだ。
他にも、教員などに「学生服以外の衣装は着れないのか」と質問をするのも、参加の意思があるかどうか測る参考になっているみたいだった。
僕も、そうだった。その時から「脈あり」と判断されていたのかもしれない。

とりあえず概略を読み終え、そのまま各種説明も読んでいくことにする。

まず出てきたのは、参加者が守らなければならないルールだった。秘密のイベントである以上、当然ルールもある。

・学園が運営しているイベントであるため、学園側に生徒は自身のIDを申告・登録しなければならない
 (入場時、スーツに登録されたIDから照会されることに同意しなければならない)
・基本的に、参加する生徒間の間で「普段はどの生徒をやっているのか」といった詮索は基本的に避けること。
 (普段の素性を隠して気兼ねなく参加したい生徒などもいるため。本人たちが同意の上で互いの素性を明かすのは可)
・教員側のスタッフも、会場内では極力普段の外装から着替えること。
 (運営側に属するスタッフはある程度素性を公開している)
・相手の許可なく、装着した外装や素体スーツを脱がせようとしないこと
・会場内で普段の姿に関する話題に極力触れないこと。同時に会場外で当イベントに関する話題にも極力触れないこと。
・当イベントに関することをみだりに明かさないこと

といったことが書かれていた。どれも当然のことだと思う。

これらの事項に同意し、いよいよ着ぐるみに関する説明に入る。

この会場内で着用するスーツは、あらかじめ用意されたものをレンタルするか、オーダーメイドで作ったものになるとのこと。
レンタルにしろオーダーにしろ、利用料として学校で取得したポイントを使うようだ。
オーダーメイド品は母体会社で作るため、注文してすぐ手に入れることは出来ない。つまり、初回はレンタルだけということになる。
そういったことや、お試しという意味合いなどもあり、初回のレンタル料は無料ということも書いてある。

とにかく、借りれる外装スーツのカタログを表示してみる。
カタログは、色々なジャンルを指定してのソートが可能で、どのジャンルもすごいものが揃っている。
いわゆる表のグッズカタログとは大違いだった。どの外装も、付随するコスチュームも一級のクオリティだ。
それに、すごいのはコスチュームだけじゃない。皮膚として装着する外装も様々なタイプが網羅されている。

母体会社での主流だという、アニメや漫画のキャラクターをうまく3次元に表現したタイプのほかにも、
特殊な皮膚色や身体造形がなされたキャラクターのものも存在している。ファンタジー作品の妖精のようなタイプや、
青い肌の魔族風なタイプ、特撮の巨大ヒーローをうまく女体アレンジしたようなタイプなど・・・
その中で何よりも惹きつけられたのは、SF系のアンドロイド風の外装タイプだった。
これだけでも人間肌にメカニカルなスーツを加えたメカ少女風のものから、機械の皮膚を持ったアンドロイドタイプ、その他様々なものが網羅されていたのだ。

ハッとして、アンドロイド系の項目で検索をかける。そう、あのゲームのキャラクターのモデルを。
検索結果に映し出されたそれは、間違いなく先日間近でみたあの娘・・・
詳細を見てみると、この外装はオーダーメイドで作られたもので、現在注文した生徒しか持っていないものだった。
つまり、誰か自分と似た趣味を持っている生徒が・・・本当にあのキャラが好きな生徒が、あれを注文したことになる。
僕は自分のほかにも同じタイプの生徒がいたことに感激する一方で、このタイプの外装は現状では装着できないということに少し落胆する。
オーダーメイド専用ということになるから、注文したとしてもすぐに着れるわけじゃないようなのだ。
・・・でも、イイかもしれない。ポイントがたまりに溜まって殆ど使っていなかった僕なら、充分払える額だった。

とりあえず注文を後回しにして、今日着る外装を何にしようかと、カタログを再び見回す。
条件は、アンドロイド系のもので現在レンタル可能なもの。自分の素体ボディに合うサイズがあるのも条件だ。

そうして、あるものが目に止まる。僕はそれを借りることに決めた。

『お待たせしました~・・・どうしました?』
『い、いえ、なんでも。』

数分して、スタッフがカートに箱を載せて訪問してきたけど、びっくりした。
なんと、昔放送した特撮のアンドロイドキャラの姿だったのだ。しかも現代風にうまく造形にアレンジがかかっているではないか。
物心がつく前後の作品だったので内容は殆ど覚えてないけど、このキャラが気に入ったのだけは覚えていたんで本当にびっくりした。

『それでは、ごゆっくり~』
『ほんと、あんなのまであるんだ・・・』

ともかく、届いた箱を開けることにする。
そこから現れたのは、メカニカルなデザインで、着るとかなりきつそうな白いストレッチエナメルのレオタード。
そして、同じ素材の左右非対称のサイハイブーツや黒いロンググローブなどが一体化した外皮スーツだった。
綺麗な長い髪の毛の生えた頭部には、ヘッドギアもセットされていた。少し触ると、脱着可能なのがわかる。
このキャラはかなり有名で需要があったからなのか、レンタル可能になっていた。こういうのも僕は好きだった。
あの娘とはまた違うキャラになるけど、今からこれが自分の身体を覆うと考えると、へその下が切なくなる。
それにしても、上手い工夫だ。腕のロンググローブや脚のサイハイブーツに各種装飾は、普通だったらズリ落ちやすいもの。
けど、これは外皮スーツと一体になっている。手袋やブーツが外皮スーツと繋がっており、
装飾パーツもスーツについた固定用ハードポイントによりがっちりとしている。
これならズリ落ちしない。着ぐるみのならではのアイデアかもしれない。

とにかく、外皮スーツを装着していく。お尻の割れ目から入り込み、頭から密着。そこから下へ下へと着込んでいく。
グローブ一体型の腕に、胸、腰・・・ぴちぴちの外装が覆っていくたびに、刺激が伝わってくる。
最後に、ブーツが一体になった脚・・・ハイヒールになっているので、一気にバランスが悪くなった。

部屋の姿見を見てみると、目の前にはサイバーなサイハイブーツとロンググローブだけを身につけ、局部を晒した裸の少女が佇んでいる。
両腕、両脚が艶やかなエナメル素材や黒いレザー風の素材に覆われているその姿が自分のものであるという事実だけでも、その外皮の奥にあるものがざわめき立つ。
数秒をかけて、素材に包まれた両手を、自分の偽りの乳房や秘部に触れさせると、その感触だけで一気に上り詰めそうになる。
けど、まだ仕上げが終わっていない。最後に、胴体を覆うレオタードを身につける。
想像通り、白いエナメル素材で出来たそれは身体をピチピチに締め上げていく。乳房や腰やお尻を・・・
それに、このレオタードは裏地の殆どまでエナメル素材になっていた。
これで肩や太腿以外は殆どがスーツに覆われてしまっている為、普通の服とは比べ物にならないくらい蒸れてくる。
スーツは呼吸確保のために、股間部のほんのわずかな部分、割れ目に沿った僅かなスペースだけにメッシュの裏地が張られ、それは線と言ってもいいものだった。
レオタードは線の多いデザインだったため、外への空気の通り道を股間部にカムフラージュして仕込んであり、空気の通り道は確保されている。
そのため、苦しくはなったものの、呼吸困難とまではいかなかった。レオタードと股間のスリットをズレないようにあわせて密着すれば、結構呼吸できる。
それよりも、別の方面で苦しさを味わうことになる。レオタードの締め付けとエナメルの素材感が、ダイレクトに下半身に伝わってきたのだ。
今まで制服の感覚しか知らなかった僕には新しい、そして悩ましい感覚。
全身を動かすたびに、エナメルの擦れる音が部屋に響き、その音、その擦れた素材の感覚までもが中に流れ込む。
そして、そんなコスチュームに包まれてある種の妖艶さと可憐さが合わさった姿が、姿見を通して視覚からも自分を刺激していく。

たまらず、へたりこんでしまった。その樹脂の皮数枚の内側で吐き出されるモノを感じながら・・・
髪が少し乱れ、女の子座りになりながら肩で息をしているような状態が、姿見に映っている。
そのまましばらくの間、自分自身の姿に見惚れながら呼吸が落ち着くのを待っていた。



へその下のものが硬さを取り戻しはじめたのを頃合に、更衣室を出て会場へ向かう。
端末の説明に従い、更衣室にあった首下げ式のケースにICカードを入れ、首にかける。
カードの空欄にイベント用のハンドルネーム(普段の名前とは別にするのが望ましい)を書いておくと、識別しやすくなるとのこと。
まだハンドルは決めておらず、今回は空欄のままにしている。
入り口の扉を開けると、壁越しだった音が膨れ上がり、(着ぐるみ越しなものの)直接耳に飛び込んでくる。
まさにイベント会場と言うに相応しい騒音で、会場は賑わっている。今はステージでイベントはやっていないようだった。
明るくなっている会場内では、やはり色々な姿になった参加者が交流している。
先ほど確認できたキャラクター以外にも、ほんとうに色々な姿の参加者が溢れていた。

会場を歩き回っていると、参加者の一人が声をかけてきた。黒いエナメル素材のサイバーなスーツに包まれた少女。
今僕が着ているキャラクターと同じ作品の別のキャラクターのはずだ。
両腕を指先まで包む黒いエナメルロンググローブの艶やかな質感に目が奪われ、一瞬下半身がキュンとなる。

『こんちは。もしかして、ここ初めて?』
『は、はい・・・』
『やっぱり。なんか初々しい感じだったもん』

外装着用後、更衣室の端末の機能を使って合成音声の調整を行っていた。
会場内では各自好きなように声を変えて楽しむことができるようで、これには生徒のプライバシー保護の意味合いもあるらしかった。
ともかく僕は今の自分の姿に合わせるように、いつもと違う音声パターンに設定している。
まぁ、僕もこのひとも元キャラに口調までなりきったわけではないんだけど。会話機能の仕様上、状況によって口調を変化させるのは難しいのだ。
だから、当たり障りないように口調はいつも通りの設定にしてきた。

『新入りさんの目から見てこのイベント、どんな感じかな?』
『もう、夢みたいですよ・・・こんな格好に、あこがれてたんです。漫画やゲーム雑誌とか見るたびに・・・
 もし、こんなコスチュームが現実に再現されて、自分が"それに見合う身体"を持っていたら、着て見たいって。』
『そうだよねぇ。普通だったら、無茶な話だもん。それが可能になったのも、この学園のおかげだよ』
『はい・・・』

その後、彼女が会場内を案内してくれた。どの区画にどんな趣味の参加者が集まりやすいかや、ステージの催し物が月によってどんなものになるかなども、案内がてら説明してくれた。

『・・・で、あそこがロボっ娘好きな人が集まりやすい区画だよ』
『あっ・・・!』

そこに、あの娘がいた。他のゲームや漫画のロボキャラの姿をした参加者と交流していた、ピンクの彼女が。

『あの娘が気になるの?』
『いや、その・・・はい』
『ははっ、アタシもあれの原作やったことあるけど、やっぱかわいいよねー』
『あなたも、あのゲーム好きだったんですか!』
『ゲームセンター専だったけどねぇ。アタシもそのうちオーダーメイドであれやってみようかなって思ってたんだー。
 ま、見ての通り先越されちゃったけど』
『あ、あはは・・・』
『まあ、行きつけのゲームセンターは当分お預けだけど、こんなイベントもあるし退屈はしないかな』
『・・・確かに。』

その後は、イベント終了時間までゲーム関連の話題で持ちきりだった。



『ありがとうございました。今日は楽しかったです』
『そー言われると嬉しいね。次回以降はどうするの?またそのカッコ?』
『・・・いえ、違うのにしようと思ってるんです』
『そっかぁ、残念。』
『でも、これも結構好きですから、また着ると思います』
『なるほど。そんときはまたヨロシクね』

案内してくれた彼女と別れを告げると、空いている更衣室に入って脱衣にかかる。
ピチピチに密着したストレッチエナメルのレオタードは、脱ぐのも一苦労な上にいちいち艶かしい音を立てるのでキツかった。
レオタードの後には外皮も脱ぎ捨てる。後には、少女型アンドロイドの皮と、白い人形のような肢体の自分が残る。
端末の指示通り返却用ボックスに外皮を収め、受付の返却カウンターに渡す。
この後、メンテナンスされてまた誰かに借りられるとのこと。

『ご利用ありがとうございましたー。またのお越しをお待ちしております』

受付でスーツの番号確認を終えると、先生が待っていた。
他の教員も何人かいて、後ろには沢山のダンボール箱が。中には参加者が入っている途中のもあった。

『お疲れ様。寮まで運んでいくから入ってちょうだい。』
『あ、はい!』

再びダンボールに揺られ、開封された時にはもう寮の中だった。
ここは、寮の荷物置き場か。

『さて、これからはイベントの日に私に連絡してくれれば、イベントスタッフが部屋まで迎えに行くから。』
『えっ、毎回公園まで行くんじゃないんですか?』
『あれは、意思確認のようなものだから。校則を犯すリスクを払ってでもこのイベントに行きたいか。それだけの意思を測るためのね。』
『そうだったんですか・・・』
『部屋でダンボールに入って会場まで移動することになるから、そこのところはよろしく。
 運び易いように片付けておいてね。行く時も帰る時も困らないように』
『き、気をつけます・・・』
『それと、イベント関係者向けのメンバーズサイトへのアドレスを教えてあげる。』
『そんなコンテンツもあるんですか!』
『あなたの生徒番号と暗証番号が既に登録されているはずだから、それを打ち込めばログインできるわ』
『あ、ありがとうございます・・・』
『イベントの情報閲覧や、参加者同士の交流、専用のグッズの購入もできるわ。勿論、オーダーメイドの注文もね。』
『!!』
『それじゃあ、また授業でね。おやすみ』
『お、おやすみなさい』

先生が帰った後、何も知らない寮生を起こさないように部屋に戻ると、ようやく白い素体スーツを脱ぎ捨てて本来の姿を晒した。
ジッパーを空けると、隙間からはうっすらと湯気のようなものが発生していた。
朝から着続けていたスーツから開放された身体は完全に湯だっており、風呂場でジッパーの空き口を下に向けるとビチャビチャと大量の汗が流れ落ちる。
股間の硬いものが収納されていたパッドには、いつもより多めに液体が溜まっている気がする・・・
スーツをずっと着たまま寝たいと思うこともあるけど、残念ながらそうもいかない。
明日クリーニングに出すために脱いだスーツを玄関先の目印用カゴに入れ、身体から抜けた水分を補うために水道水をがぶ呑み。軽くシャワーを浴びると、すぐに布団にもぐった。
次の日の日曜日は、昼過ぎまで寝たままだった。イベントが深夜に行われる関係上、仕方のないことだと思う。


[戻る] [次へ]