アイドル修行もラクじゃない!【第六話】 [戻る]
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こんどは自分がお返しする番だった。田辺は着ぐるみ用の食事、テーブルに置かれた例のゼリーを手にとる。コンビニなんかで売っている、空腹をごまかす栄養素入りゼリー飲料みたいな見た目と言えば分かりやすいだろうか。パッケージが透明なので、白濁した、ぶよぶよの何かが詰まっているのがよく見える。

中身はともかく、こいつが市販のものと決定的に違うのは飲み口だ。先端にかけてじょじょに細くなる形のプラスチック。言ってしまえば、アダルトグッズのバイブレータみたいなものがくっついている。太さは親指と人差し指で小さめにマルをつくったくらい。長さは10センチほどで、ゼリーの通る穴が貫通している。

なぜこんなものが付いているのか。それは彼女の口が飾りだからだ。中の人間の口は、スリットまで延びるチューブで外へ通じている。そこへ挿入してゼリーを吸い上げる…ということをスタッフ研修で聞いていた。田辺はちょっと緊張しながら、すぐ横に座るカエデの方へ向く。

「次は俺が食べさせてあげますね」

カエデは驚いたように背筋をギクリと伸ばす。それから手の平で顔を隠してイヤイヤと首をふる。初日の集合で大人数がいるなか、これと同じ「夕食」を取ったのだから、別に気にすることなんかないだろう。それに、と田辺は思う。アソコの穴だなんて言っても所詮ただの作り物だ。

スリットはスーツの股下を細工してあるのだと篠田は説明していた。カエデの姿をまとって演じているのは男。それを見るの田辺も男。みっともない姿をさらすことを除けば、痛くも痒くもないはずだ。こうして恥ずかしがるのも演技なんだろう。田辺の腹の奥で、またチクチクと不思議な感覚がくすぶりはじめる。


田辺は昨夜、眠ったままのカエデの「中身」を目撃した。彼は…名前が分からないから仮にA君としよう…A君はその事実を知らない。こちらが一方的に相手の秘密を握っている訳だ。A君は自分の正体が男だとバレてはいけないと考えて、女の子のフリをし続けている。

A君よりも詳しく状況を把握している。なのに、中身がなんであっても目の前のカエデは、やっぱりカエデ以外の誰でもなかった。だから今のところ、田辺は彼女を女の子として扱うことしかできない。「やさしくするから心配しないで」自分で言っておいて、ナンパ野郎のセリフみたいだと内心で苦笑する。

カエデが椅子から立ち上がりベッドへ駆けていく。ふかふかのマットレスに倒れこんで、ぎゅうと身体をちぢこませ、枕に顔をうずめる。田辺はゼリーを持って追いかける。「お腹空いちゃうよ。お人形さんのごはん持ってきたから食べよう、ね?」いつの間にか敬語を使わなくなり、子どもを諭すような口調になっている。

「お人形さん」なんて言ったけど、彼女は自分が何者だと思っているのだろう。正真正銘、生身の女の子のつもりなら、人形よばわりは「あなたは作り物」という意味に聞こえてしまうのではないか。少しうかつだったかもしれない。それでも直接の会話ができない以上は探りさぐり仲を深めていくより方法がないのだった。


彼女に近づいて、そっと髪にふれる。カエデは枕の端からチラッとこちらをのぞくと、仰向けになり脚を曲げて膝が持ち上げる。セーラー服みたいな襟のついた紺色のワンピースのスカートの裾が、ツヤのある太ももをすべり落ちる。田辺は唾を飲む。中身は男だから…なんて理屈は、このビジュアルの破壊力の前にはなんの意味もなかった。

田辺もベッドに乗る。ゼリーをいったん脇に置き、両手を彼女の膝にそえる。内股にとじた脚をゆっくり拡げると、その奥のパンツが露になる。腰を包み込むように両方の腕を差し入れて、フリルのついた布をつまんで引っ張っていく。田辺の手は震えていた。彼には、女性とこんなことをした経験がなかった。


太ももを通って足首まで下着がずり下ろされると、もとは布で隠されていた秘密の場所に割れ目があらわれる。田辺は研修で教わった、食事のサポートについての記憶をたぐる。まずはパックを握ってゼリーを少量あふれ出させ、飲み口に塗りつける。ゼリーはぬめり気があり、潤滑剤の代わりになる。

ずれないよう気をつけながら先端をあてがう。飲み口が肌色のさけ目に飲み込まれ、ぷちゅくちゅくと卑猥な音を立てる。力を入れすぎないよう慎重に押すと、それに合わせてカエデの腰が浮く。その動きにわざとらしさは無かった。身体が反射的に痙攣しているようで、演技とは思えない。

おまけに「ん、ん」と鼻にかかった切ない声がする。いったいどこから…と思って耳をすませると、それは目の前のスリットから漏れ聞こえてくるのだった。中にいる人間が気持ちよくなっている。男であるA君が、ツクリモノの割れ目を刺激されて快楽にあえいでいる。これはいったい、どういうことなんだろう。

「気持ち良い?」たまらず田辺は訊ねる。カエデは枕から少しだけ顔を出して、うっかりすれば見逃してしまうくらい小さくうなずいた。からだの全部を可愛いアイドルで包まれながらアソコを刺激される…そんな状況になったら、きっと興奮のあまり気持ちよくなっていると錯覚してしまうだろうな、と想像する。

田辺はそんな様子を思い描いて、はち切れそうそうに興奮している。けれども実際はそうじゃない。自分はいま、こうしていつもの姿のままでいる。悔しい気持ちが頭の中で嵐のように渦巻いて、気が狂ってしまいそうだ。


何もかも投げ出して逃げたくなるのをギリギリで踏みとどまり、バイブレータを奥まで挿入し終える。「準備、できたよ」彼女がよろよろと上半身を起こす。田辺は横へまわり、片手でゼリーのパックを掴んだまま、もう一方の腕でカエデの背中を支える。

ゼリーは普通ならいっきに飲み干せそうな量だったが、彼女はひと吸いするたびに休憩する。ぐっと身体を反らせてゼリーを飲み、それからほーっと息をつく。小さな呼吸穴から、しゅー、しゅー、と空気が出入りする音が聞こえる。小さな穴で必死に呼吸している。いったい誰がこの状況が食事中だと分かるだろうか。


たっぷり10分ほどかけて、やっとすべてのゼリーが無くなった。あとは片付けすればいい。なのに、田辺は戸惑っている。プラスチックの飲み口を引き抜くとき、カエデは…A君はまた気持ち良さそうにするのだろうか。見せつけられるなんてたまったもんじゃない。そう考えると二の足を踏んでしまうのだった。

有無を言わせずいっぺんに抜き去ってしまおうか。それなら悔しい光景を目にする時間が短くなる。けれども、それじゃあダメだ。ニセモノのアイドル美少女と、この倒錯的なごっこ遊びをやりきってこそなのだ。事務的に対応すれば田辺の中のカエデという存在が、着ぐるみを着たあいつ、でしかなくなる。魔法が消えてしまう。

「よく頑張ったねカエデ。もうはずすからね」背中に廻していた腕を下ろして再び彼女を寝かせる。それから、あいたその手をカエデの下腹部に持っていく。飲み口を引っ張るのを支えるような格好だが、実際のところそんなもの必要ない。中の人に少し意地悪してやろうと思ったのだ。

彼女が実在の女性だと思い込む訳でもない。それでいて、ただの着ぐるみだと割りきる訳でもない。事情を分かっていながらそれなりに振る舞う。田辺は、そんな「ごっこ遊び」をやってやろうとしているのだった。

へその下あたりに添えた手のひらをゆっくりと押し付ける。なにかクッションのようなもので補整されてなだらかだったが、いきり立った男性のシンボルの固さがわずかに感じられる。田辺はそこにめがけて、ぐっ、ぐっ、と指に力を込めて刺激を与える。端からは何が起きているかわからないくらいにさりげなく。

中の人への刺激をつづけながら、ゼリーの飲み口を動かす。少し引いてはまた押し、そっと回してみたり、丁寧に抜き取ろうと工夫しているようでいて、その実はねっとりとアソコをもてあそんでいる。彼女が枕つかむ手にぐっと力が入る。

喜んでもらえているみたいだ。田辺は嬉しくなって、最後の仕上げをすることにした。下腹部を押さえる手を上下にさすりながら、張り型を勢いよく引き抜く。これでイッてくれるだろうか。中身の表情が見えないので、あとどれくらいで果てそうなのか分からない。だからあくまでカエデとしての動きから予測するしかない。

果たして、彼の予測は正しかったようだ。飲み口を引き抜くのと同時に彼女が激しく痙攣した。それは男性の射精ではちょっと考えられないくらいに激しいものだった。「くひっ、ひっ、いっ」と声にならない声が股間から漏れる。わざとらしさはなく、本当に我慢できなくて出てしまった、そんな声だった。

このスーツを着ているとそんなに気持ちがいいのか。裏側にいる名前も知らない男性に対する羨ましさが、ますます増幅していく。カエデは仰向けのままで、何度も腰を上に突き出している。自分の意思で動かしている風ではなかった。見えないロープを腰に巻いて、上から引っ張られているみたいだった。

田辺は知る由もなかった。カエデ中の人物が気持ちよく果てた訳ではない、という事実を。スーツの機能により射精を強制的に止められて、気持ちいいのにイケない地獄のような天国を味わっていた。苦痛ではなかったが、快楽のあまり正気を失いそうだった。だが彼に、その影響について深く考える余裕はなかった。今はただ、腰を無心で腰を震わせているだけだった。


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