「ある実験とその成果」(研究員視点) [戻る]
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私は光沢のある銀色のスーツを渡し、早速着るよう促した。今日は我が社の店舗で活躍する着ぐるみの、着用時間をより伸ばすための実験を行う。被験者として、目の前にいる青年が研究室まで来て協力してくれている。

いま彼が持っているのは二重構造の内側にあたるもので肌との接触を増やすため全裸に直接身につける。内面には電力を効率良く取り出すための特殊なローションが塗り込んである。私は着るのを補佐すると言ったが、顔を真っ赤にして断られた。男の裸を見たところでどうもないのだが、向こうは違うようだ。うちで取り扱うのはアニメに出てくるような美少女キャラクターであるが、体力の問題もあって着用するのは男性である。彼はパーテーションの向こうに隠れて10分くらいゴソゴソやっていた。普段店舗で仕事していて何度もスーツを着てきたことだろうから、新しい着用方式に手間取ったのだろう。言わんことではない。

パーテーションから出てきた彼は、透明なプラスチックの覗き穴がふたつが顔にある以外、全身つるりと銀一色だった。通常よりも補正パッドを厚めにしておいたので、華奢な彼もしっかり丸みのある体型になっている。電源が入っていないインナースーツはただ暑いばかりだから興奮することもないだろうが、勃起の膨らみが分からないようにする工夫もされている。

続けて見た目をつくる外側の部分を手渡す。ここでは便宜上キャラクタースキンとでも呼ぶことにしておこう。私は担当外なのでよく知らないが、デザインを行っている部署へ借り受けを依頼する際、こんな雰囲気のものにしてくれと軽く注文はさせてもらった。受け取るとき、担当者は「この子は葵という名前です。大事に扱ってやって下さい」と言っていた。1着1着に名前がついているのだろうか。

スキンの股下には小さな切れ目があり、そこを目一杯拡げて入り込む。しおれた皮だったものが、長いストレートの黒髪に肉付きがよい体つきをした色気漂う少女になった。実のところキャラクタースキンまで着た完全な状態を間近で見るのは初めてだったし、それが私の理想そのものだったので無意識に目が釘付けになっていた。彼女は私の視線に気付いてひどく恥ずかしそうに、腕で自らの体を隠した。

そのままではバツが悪い。私は会社に泊まる際の着替えとして手元に置いてある、スウェットの上下を着るように勧めた。だが彼女は青年が持ってきたボストンバッグを指して、この中にあるものを着るから大丈夫だと示した。それでも構わないと言うと、下着を身につけ、アメリカンスリーブのワンピースを頭から被った。頭のサイズは人間のそれを大きく上回らないので大抵の服なら普通に着れそうだ。ワンピースは身体のシルエットがわずかに透けて見える薄手の生地で、花柄のプリントが爽やかである。

さて、仕事に取り掛かるとしよう。インナースーツには操演者の健康を保つための排熱機構があり、必要な電力は着用者自身の体温などを利用する。それには中の人間が性的興奮状態である必要がある。持続的な、でも強過ぎて「果てて」しまわないような刺激によって着用時間を延長させるのが今回の狙いである。机の端末からコマンドを打ち込み刺激を開始する。最初彼女はびくりと背筋を伸ばし、そのあと10秒もしない内に脱力してその場に膝まづいてしまった。

モニターを見る限り射精には至っていないようだった。それでも立ち上がる様子がなかったので肩を貸して近くのオフィスチェアまで連れていったが、座った途端、また反射的に背筋を伸ばすと緩々と床に崩れ落ちた。私は中止しようと提案したが彼女は首を振って拒絶した。大した頑張りだが床に転がしておくわけにもいかないので、この部屋のとなりにある仮眠室のベッドへ寝かせた。意識はあるが、時おり腰が痙攣して起き上がれないのだった。私は彼女が、葵が愛おしくてたまらなくなり、そして…

その後、実験は1時間弱続いた。詳細はプライベートなことなので省かせてもらおう。スーツを脱ぎ終え、元の服に着替え終わった彼は申し訳なさそうに「慣れるために自宅へ持って帰ってもいいでしょうか?」と申し出てきた。実験中のものを持ち出すのはとても不味いが、彼の熱意に折れて結局許可してしまったのだった。


(続く)


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