ボクとエリカ「第1回」 [戻る]
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 ボクは28歳独身.東京近郊に一人で住んでいる職業はプログラマ.ま,いたってフツーの男だと思う.でも,ある日曜の夜からボクの人生は変わっちゃった.これはそんな話です.


 日曜の夜,あれは11時頃だったかなあ.ボクはもともと宵っぱりだけど,その日はもう寝ようかと思ってた.日曜の深夜放送つまんないし,その日はネットする気にもあんまりなれなかった.電話する彼女もいないし,明日からの仕事はつまんないし,なんかどうでもいい気分だった.

 そしたら,玄関のベルがなったよ.こんな時間にベルがなるなんてホントありえない.ボクの住所知ってる人はほとんどいないし,だいたいこんな時間に来るような人もいない.押し売り強盗だとヤだなあとか思いながらボクはソファから立ち上がって玄関へ行った.あまり警戒もせずに扉を開けた.

 そこには一体の等身大の人形がたっていた.黄色のTシャツにピンクのミニスカート,その上からバーバリのロングコートをはおっている.セミロングのカーリーヘアの上からニットの帽子かぶって,グラサンしていた.脇には大きなスーツケースがあった.エリカだ.エリカ?あのエリカ?どうしてここにいるんだろ?
 エリカはボクの家の中を指差した.入ってもいいか,と聞いているようだった.ボクは誰かに見られるとまずい,という気持ちから,とにかく彼女を中に入れた.スーツケースはボクが引っ張りいれた.そして扉を閉めて,鍵をかけた.ともかく.

 エリカは玄関先に立っていた.ここで説明しなきゃいけないね.エリカは少女人形なんだ.でも歩いてここまできたのを不思議に思う人もいるでしょう?

 ボクのマンションの近くに,ホビー21っていうデパートがあるんだよ.ま,フツーのデパートだけどね,趣味の用品がとくに良くそろってるんで,ボクはよく行くんだ.このデパートのウリの1つは,等身大のアニメの美少女のような着ぐるみがミニショーをすることなんだ.とっても変わっていると思うけど,アニメに出てくるようなかわいい女の子の着ぐるみが,キャラクターの衣装かなんか着ちゃって,でフロアを普通に歩いているんだ.だから,人形なんだけど,中に人が入っているんだよね.
でも,よくデパートの屋上とかでやってる着ぐるみとはぜんぜん違うんだよ.だってね,普通の着ぐるみって,ほら,なんだかフルフェイスのヘルメットみたいな頭をかぶって,全身にはタイツみたいのを着て,それでやってるでしょう?ここのは,着ぐるみといっても,顔も体もゴムみたいなのでできてて,頭でっかちじゃないし,

ちょっと見は普通の女の子なんだけど,よく見ると顔がゴムでできててちょっとアニメっぽい顔してる,という感じ.でまた,それを着ている女の子のプロポーションがすごくいいんだ!レースクィーンみたいでさ.あれなら,別に顔を隠さなくてもいいんじゃないか,って思うけど,まあ,これがこのデパートのやり方なんだから,いいやね.ボクもヤじゃないし.
 土日には,特にすることもないんで,ボクはよくホビー21へ行く.でも,給料がいい訳じゃないから,いつも買い物するわけでもないし,自然と少女人形着ぐるみのショーを見に行ったりする.見に行くって言ったけど,やっぱりなんか恥ずかしいものを感じるから,遠くから見たり通りざまに見たり,という感じだ.中には,カメラ構えてとってる人(しかもボクと同い年くらい)もいるけど,あそこまで大胆にはなれないなあ.

 着ぐるみの少女たちは,時々は入れ替えがあるようだけど,だいたいは決まっていて5人いる.(毎週行けばそのくらいは分かるようになる.)ボクのお気に入りはエリカちゃん.髪はセミロングでちょっとカールしてる.顔は・・・・そうだなあ,誰に似てるかなあ.デビュー当時の小*優子ちゃんみたいな感じかな,ロリ入っているんだよね.ま,いいじゃないの,それがボクの好みなんだから.エリカちゃんが楽屋から出てくる時間帯とか場所とかは分かってるから,ボクはミニショーみるよりも,そこで待ってるんだよね.3階の釣具売り場のところなんだ.ちょっとストーカー気分だけど,別に本当に追いかけてるわけじゃないし.ボクはわざとらしく釣具を見つくっているようなふりをして,エリカちゃんが出てくるのを待ってる.ついたての陰からエリカちゃんがでてくる.最初のうちは横目でちらと見ていたんだけど,あんまりボクがいつもその時間にその場所にいるもんだから,あるときエリカちゃんがボクに手を振ったんだよ.ボクは思わず頭を下げちゃったね.お辞儀したってしょうがないのにね.

 手を振ってくれるのが分かっているンだったら,ボクだって手を振るぞ,という気持ちで,結局毎週決まった時間に釣具売り場へ行くようになっちゃった.エリカちゃんはボクに手を振ってくれる.ボクもちょっとだけ手を振り返す.1週間の仕事のリフレッシュのために毎週ボクはこの小さな儀式を毎週日曜日に繰りかえした.

 一回だけ,土曜日に徹夜の仕事が入っちゃって,日曜日起きらんなかったんだよね.でも,時間に遅れちゃったな,とか思いながら,やっぱりホビー21へ行った.もうミニショーは終わっている時間で,エリカちゃんもフロアーを歩き回っているんだと思うけど,どこにいるかわからなかった.ちょっと残念な気持ちになってると,遠くのほうにエリカちゃんがいるのが見えた.ボクはやっぱり習慣になってるのかな,エリカちゃんのほうへ歩いていって,手ぐらい振ろうかな,と思った.
 ちょっとビックリしたけど,エリカちゃんの方でもボクを探してたみたいなんだ.他のお客さんに愛想を振りまいているエリカちゃんが,ボクを見つけると小走りでこっちに来たんだ.でもボクに向かってちょっとしなを作って見せて,で,ボクに手を振って,そしてまたあっちへ行っちゃった.一瞬のことなんだけどね,なんかうれしかった.


 はっきり言おう.中に女の人が入っているとはいえ,人形は人形だ.28にもなって少女の人形にうつつを抜かしているボクはやっぱりちょっとキモイかもしれない.同僚に打ち明けるのはすごく恥ずかしいし,このことは誰にも言わないでいた.そしたら,これだよ.日曜日の夜11時に玄関のベルがなって,あけたらそこにエリカが立ってた.この話はここから始まるんだよ.


(第2回へ続く)

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