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「なんだ、ありゃ」
プラモの棚の前に陣取った北山の前を、女性の形をしたモノが通りすぎた。
「なんか……生で見ると、変な感じだな」
人気アニメロボットのプラモを持った東も同意する。
二人の前を通っていったのは、何とも言葉では表現しにくい存在だった。
原色のボディースーツを着込んだ女性。スーツは光沢があり、美しいプロポーションをさらに目立たせている。まるで近未来SFアニメにでも出てきそうなデザイン。ヒールの高いロングブーツが、歩くたびにかつかつと床で音をたてた。
へそや肩、太ももを露出させ、股間はギリギリまで食い込んだハイレグ。胸部は黒色だが薄い材質になっていて、女性ならではの膨らみを柔らかく覆っていた。たわわなしかし健康的に感じるのは、はじけるような笑顔のおかげだろう。
頭の上ではカチューシャに取りつけられた触覚のような黄色の飾りがゆれている。
その触覚もふくめ、彼女の全身はイエローでコーディネートされていた。ロングブーツや、それを留めるガーターベルト、スーツ、手袋……そして毛髪や瞳の色までも。
彼女の毛髪はウィッグ。いわゆる鬘だ。それも毛髪らしくないドールヘアのような質感。ところどころではねているクセ毛のように髪型を固定していた。
そして瞳にはガラスのような素材がはめ込まれている。しかしコンタクトレンズではない。ゴーグルのような大きな眼に、虹彩やハイライトが描き込まれていた。
北山と東の前を、笑顔で手を振りながら通り過ぎていく彼女。その笑顔は不自然なほどに一点の曇りもない。
そう、デフォルメされた美少女マスクで彼女の頭全体が覆われていた。
目をこらすと、露出した肌に見える部分も全て肌色のタイツだとわかる。スーツの光沢でごまかされていたが、肌に特有のテカリがあった。くわえて、彼女が動くたびに細かなしわができる。
つまり彼女は着ぐるみを着ているのだ。巨大ホビーショップ、「ホビー21」の宣伝として。
「イエロー=サザンか……」
北山は手に持ったプラモに目をやった。その箱絵には派手なデザインの宇宙戦闘機と、それに乗る設定の美少女トリオが描かれている。
トリオの左端にいる活動的な美少女こそ、目の前にいる着ぐるみの元デザインになったイエロー=サザン。数年前にそこそこ人気があった深夜アニメの、主人公の一人だ。
今では有名なイラストレイターがキャラクターデザインした事で、根強い人気がある。アニメ自体も今年ゲーム化されて人気が再燃していた。
着ぐるみの露出した背中と、ギリギリまで露出した尻とを見ながら、東がつぶやいた。
「ああいうのって、版権元に了解を取っているのかな」
北山はプラモを棚に戻しながら答えた。
「さあ……宣伝だからOKなんじゃないか。どっちにしても、目くじらたてるほどじゃないだろう」
「しかし、よくよく完成度が高いな。中にはどんな子が入っているんだろう」
眼鏡を直しつつ、東は着ぐるみの去った方角に目を向けた。
「可愛い子なら、着ぐるみを着ないで普通にコスプレするだろ」
興味がないふうに東が答える。
「いやいや、それは分からないぞ。ちょっと可愛いくらいの子だと、アニメのイメージと違うと言って嫌がる奴が多いからな」
「あんなんに興味があるのか」
「いやいや、別にそういうわけじゃ」
東はごまかすように手を振ったが、逆に北山が興味をおぼえてきた。
「……後をつけてみるか」
東は一瞬ためらいつつ、うなずいた。
「しっかしスタイル良いなあ」
東の言葉に、北山もうなずいた。
イエロー=サザンは子供達に手を振ったり、撮影認可ステージでポーズを取ったり、彼女自身が出るゲームのビラを配ったりと、店内のあちこちで働いている。
あまりにいそがしそうで、後をつける二人に気づく様子もない。
しかしさすがに疲れが出てきたのか、中腰の姿勢が増えてきた。しかし胸を強調させるポーズなために、むしろ男性客には喜ばれている。
中腰になった事で胸が両腕でつぶされ、実際以上に膨らんで見えた。むき出しになっている肩の肌色タイツにしわがより、みょうななまめかしさもある。
「胸はさすがにパッドをつけてるんだろうな。いくらなんでも大きすぎる」
ぽつりと北山がつぶやいた。
「そりゃそうだろうけど。でも、あんなに腰が細いぜ。ずいぶんダイエットしてるんだろうか」
たしかに、彼女の腰は折れそうなほどに細くくびれている。
「着ぐるみしてあんなに動き回っているから、逆にたっぷりカロリー取らないと倒れるんじゃないか」
イエローが、今度は手を後ろに組んで胸をそらした。その動きにあわせて胸がプリンのようにゆれる。そしてバシャバシャとシャッターを切る音が店内に響いた。
胸から腹、そして股間までを強調するような姿勢のまま、しばらくぴくりとも動かない。キャラクター設定画通りのポーズだ。
しかしよく見ると、けいれんするようにぷるぷるふるえている。それが彼女がフィギュアやドールではなく、中に人間が入った着ぐるみである証明だった。
ハイヒールで同じ姿勢を取るのはやはり重労働なのだろうと、東は思った。
ちらりと柱にかかった時計を北山が見た。
「もう一時間になるぞ。そろそろ江南と待ち合わせの時間だ。三階に降りよう」
このホビーショップの三階は映画館になっている。二人がプラモを見ていたのは、友人と待ち合わせた時間までの冷やかしだった。
そんな北山を東が小声で呼んだ。
「おい、レッド=ノースだ」

二人はそっと柱の影から着ぐるみのいる場所を見た。
そこにはイエロー=サザンだけでなく、赤いボディースーツを着た別の着ぐるみがポーズを取っていた。ショートカットで、ボーイッシュな表情の着ぐるみ。
例のトリオでリーダー格にあたるキャラクター、レッド=ノースだ。活動的なキャラクターのため、空手の型を披露したり、子供を高く上げてやったりしている。
やがてレッドとイエローはお互いに歩みより、客の要望で格闘しているようなポーズを取ったり、指を絡ませて友達以上な関係を見せつけたりし始めた。
「俺達もちょっとリクエストしてみるか?」
北山が少し迷った時、ふいとレッドとイエローが身体を離した。
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