Anime-Doll Club(3回) [戻る]
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 僕が学食でおにぎりをぱくついていた時です。

「なんだよおまえ、貧相な昼食だなあ」

 ラーメンをトレイに乗せた先輩が机の向い側に座ってきました。

「ほうっておいてくださいよ」

 僕は残りのごはん粒を口に入れ、食堂のおばちゃんがおまけしてくれたウズラの卵を飲み込みました。

「あのイメクラに毎日通っているのか」
「ちょっと、声が大きいですよ」

 昼休みの学食は人であふれかえっています。近くには誰も座っていませんが、堂々と口にして良い話じゃありません。

「こんなにうるさいんだから、聞こえないよ」

 それでも先輩は声をひそめました。

「毎日じゃないですよ、週に二回くらいです」
「三回だろ」

 僕は先輩をにらみつけました。

「そんな顔するなよ、良いアルバイトを紹介してやるから」
「また騙すんじゃないでしょうね」
「おい心外だな。おまえも心から喜んでいるってのに」

 たしかにそれはそうですが。

「心配するなよ、とても楽なバイトだから。時間の割に、率もめちゃくちゃ高い」
「どれくらいです?」

 先輩が出した額は、一般の学生が貰えるような物ではありませんでした。

「では、いつ紹介してくれるのですか」
「ん、その内にな。楽しみにしてろよ」

 紹介すると言っておきながら、どういう事でしょうか。聞き返す間もなく、先輩はラーメンに熱中しだしました。僕の質問はそれ以上受け付けてもらえませんでした。

 結局その後いくら待っても先輩からの連絡はなく、僕はいつものように「DollClub」で着ぐるんでいました。
 もう着ぐるみが締め付ける快感にも、ゼンタイの滑らかな触感にも馴れています。がくがくと腰が震えていたのが嘘のように、自然に少女らしく振る舞えているのです。ダイエットの効果か、腹部の締め付けもずいぶんとやわらぎ、腰をかなり曲げられるようになりました。
 さすがに今でも息苦しさだけは馴れませんが。
 それに着ぐるみのくれる快感は今でも変わりません。いえ、自然にポーズが取れるようになった分だけ、美少女に変身して自分の思い通りにするという快楽はいっそう強烈になっています。
 着ぐるんだまま衣装を着替えるレパートリーも増えました。
 体の線……矯正した物ですが……をぴっちりと出すスクール水着。地味な紺色が正当派美少女を引き立ててくれます。しかも股間は意外とハイレグ。そして水抜きのための穴が、丁度股間のアレに当たってこすれます。屈伸運動をすればそれだけでどくどく射精してしまうのです。しかし射精しながらでもポーズを取り続ける事も出来るようになりました。よく見ると腰がぴくぴく動いていて、美少女の皮の中で男が射精しているとばれるんですけどね。
 他にもチャイナ服やボンテージ等、ノノミの顔立ちからはそぐわなく感じる衣装も着こなせるようになっています。新しい衣装を着る度、新しいポーズを発見する度、新しい快感が僕を責め立て、喜ばせるのです。

 しかし、ちょっとだけさびしい気持ちもあります。これだけ可愛くても、どんな格好をしようとも、観客は僕だけ。誰かに見せつけたい、この可愛らしい着ぐるみを鑑賞してほしい、そんな気持ちが生まれてきています。
 これは無い物ねだりというか、我がままなんでしょうけどね。着ぐるみは「DollClub」で貸している物だし、本当に外を歩き回れる勇気が僕にはありません。
 さて気を取り直して、夏の制服を着た僕を鏡に写してみます。最近はまず制服かアニメ設定の私服を着て、他の衣装に着替えるようにしています。その方がノノミというキャラクターを演じている気分が出ますから。
 着ぐるむのも早くなったので、制服を除いても時間内に三着は着替えられます。もちろん時間いっぱい予約した結果でもありますけどね。

 夏服は丈の短いミニスカートが特徴で、ちょっと動く度に純白のショーツがちらちら見えるのがHです。そこで呼吸していて、中にはタマがあるなんて、自分でも信じられません。
 両のこぶしを握って口元を隠し、ぶりっ子してみました。現実の少女だと変なだけですが、半分人形の着ぐるみがやると自然です。ちょっと恥ずかしい気持ちがないではないんですけどね。

 その時です。

 扉をとんとん叩く音が聞こえました。僕があわてて振り返った時には、扉は開けられてしまっていました。
 そこにはノエルが立っていました。会うのは一ヶ月ぶりですが、すらりとした姿、つんと尖った胸、さらさら流れる青い髪は全く変わりません。表情が真面目っぽいマスクをしています。
 ノエルは何も言わず……いえ、声を聞いた事は一度もありませんが、つかつかと部屋の中に入ってきました。僕は思わず聞いていました。

「いったいどうしたの? 今日は指名してないけれど」

 もちろんマウスピースをはめ、マスクを通してですから声が届くはずもありません。それどころか僕は自分が着ぐるみになっている事も忘れていました。
 僕が今なっている、ノノミとおそろいの夏服をノエルは着ています。
 ノエルは僕の目の前までやってきて、見下ろしてきました。僕は気押されて後ろのベッドに尻餅をついてしまいます。そのままノエルは僕に覆いかぶさってきます。

「クスッ」

 ノエルが笑ったような声を出しました。しかしくぐもっていて、年齢や性別は分かりませんでした。
 ですけれど、この状況はどう言えば良いのでしょう。僕から見たら少女であるノエルが大学生の男に迫ってきている図です。しかしノエルは着ぐるみだし、僕も着ぐるみをしているので、傍からは着ぐるみ美少女同士がたわむれているように見えるでしょう。実際、鏡を横目で見るとノエルがノノミを押し倒しているとしか見えません。ノエルもここのスタッフだから、僕が男だと知っているはずですが。
 ノエルが腕を伸ばしてきました。そのままノノミの胸をもみしだきます。その感覚は僕の股間に直接伝達されて。

「あふっ」

 僕は射精してしまいました。最近は着ぐるむ時は勃起するだけなので、今日初めての射精です。
 ノエルはさらに上体を被せてきて、そのたわわな胸とノノミの胸をくっつけました。柔らかいのに張りのある乳房の感触をノノミの乳房で、つまり股間で感じます。経験はありませんが、パイズリみたいな感じで、僕は再び射精していました。
 自分の腰がびくびくとけいれんしているのが分かります。そしてノエルの腰も震えているのが互いに触れた太ももから感じられました。彼女……いや、彼を指名した時も似たような事がありました。あの時は感じやすい女性とばかり思っていました。しかし今ではノエルが射精しているのだと分かります。
 やはりノエルも男が演じていたのです。
 しかし信じられません。こんなに美しいプロポーションをしているのに。長身を除いては、男を感じさせる部分はどこにも無いのです。

「ノノミも充分可愛いよ。女の子にしか見えない」

 ノエルの声が聞こえました。マスク越しでくぐもっていて、しかも調子を変えているのでしょう、男の声には聞こえません。しかし……

 僕の驚きに気づいたのか、ノエルは着ぐるみの唇に人差し指を当て、シーというしぐさをしました。いつものマスクが悪戯っぽい小悪魔のように見えます。
 ノエルが僕のスカートの中に手を入れてきました。最初は太ももの外を撫でさすり、内側のももに指先を動かしてきます。内側は太ももをふっくらと見せるパッドが薄いため、触られる快感が直接伝わってきます。
 そしてじらすように何度も行ったり来たりをくり返し、ついに僕の股間に直接触れてきました。
 ここはゼンタイでも薄い部分と、下着の薄い布の二枚分しかありません。両脇についたパッドのおかげで、なだらかに女性らしく見えますが、上向きに収納された僕自身が入っているのです。
 僕はもはや抵抗する気はありませんでした。逆にこちらもノエルの胸をいじってあげます。ノエルの体も僕の着ぐるみと同じ構造のようで、胸の感覚は股間に繋がっているようです。着ぐるみは表情を変えませんが、中の男は快感に耐えているようでした。
 しかし相手の指先は容赦せず、僕の息子をなぞるように走ります。僕はまた射精してしまいました。
 同時に、ノエルも。人形のような美少女は、見えないペニスが……事実、隠されて……あるように腰を動かします。
 気づいた時、僕達は靴を脱いでベッドに上がっていました。互いの指先をからめあい、足を組み合って、気持ち良くさせあいます。ただでも熱く息苦しいのに、そんな事をやっていたため、ゼンタイの中は汗でびしょびしょに濡れて、呼吸も困難になります。
 そして上にノエル、下にノノミがとなるよう重なりあって、お互いの股間をこすりつけあいました。女性同士でやるような感じですが、実際はそこに男性器があるのです。タイツとショーツ、スカート越しに感じる相手の体があまりに気持ち良くて、僕達は何度となく射精してしまいます。
 もちろん体液はパッドに吸収され、膨らみも目立たないようになっているので、横から見たら着ぐるみをした女性同士のたわむれとしか見えないでしょう。それも制服を着たままなので、ほんの悪戯程度としか。皮膚も全てタイツで覆われているため、不潔感はありません。
 僕達はそのまま力一杯抱き合いました。熱気のこもった相手の体が燃えているように感じます。中の人間の性別なんて関係ありません。ここにいるのはアニメから現実に飛び出てきた二人の美少女なのですから。

 事を終えた僕達はそのままベッドに寝そべり、制服を脱いで下着姿になりました。この方が呼吸が楽だからです。胸の締め付けからも少し解放されました。ノエルは肌色を映えさせる黒のスポーティな下着、僕の演じるノノミはフリルのいっぱい付いた可愛らしい下着です。
 ノノミはノエル先輩の腕枕に抱かれている状態です。マスク越しに見る先輩の横顔は、やはり美しいです。天井を見上げると汗で蒸した全身タイツから、湯気が立ち上っているのが見えました。
 息苦しさはありましたが、このまま時が止まっていてほしいという思いもありました。
 でも、童話の魔法が必ず解けるように、この時間にも終わりが来ます。
 ノエルが僕にキスするようにマスクをくっつけました。合成樹脂同士がこすれあう軽い音がしました。
 そしてノエルはベッドを降り、元のように制服を着込むと、しっかりとした足取りで部屋を出ていきました。
 横になってそれをながめていた僕も、ベッドから降ります。そのままブラジャーを外しました。着ぐるみの手でやるから少し難しいですが、もう馴れています。
 ショーツも脱ぎ、文字通り一息つきました。鏡を見ると、靴下だけを履いた等身大の人形が裸で立っています。股間の辺りが僕の荒れた呼吸に合わせ、膨らんだり縮んだりをくり返していました。
 さらに靴下を脱ぎ、カツラ、マスクの順番で着ぐるみの頭部を外します。もちろん鏡には背を向けてです。汗だくになった自分の顔なんて、見たくありませんから。
 着た時とは逆の順番にゼンタイと呼吸チューブ、矯正具を外し、パンツだけになりました。矯正用スーツは汗を吸収する材質ですが、やはり体は汗だくになっています。
 パンツに手をかけ、一気に脱ぎます。中は精液が固まり、男臭い臭いを放っています。
 マスクは机の上に置いておきます。後で業者が引き取りにくるのです。ゼンタイを含む衣装類はシャワー室にまで持っていき、回収袋に分別して入れました。
 僕はそのまま全裸で風呂場に入り、汗と疲れを流しました。

 元の服に着替えて会員特別室に向かうと、そこには先輩が座っていました。先輩は僕に気づくと雑誌から目を離し、手を挙げてきました。

「よう、着替え終わったか。」

僕と同じようにシャワーを浴びていたのか、さっぱりした表情でした。

「これは給料だ」

 そう言って封筒を机に置きました。かなりの金額が入っているようです。
 もちろんノエル先輩ではなく、大学の先輩です。……いえ、どちらでも大きな違いはありません。

「先輩だったんですね、ノエルは」

 先輩は照れたようにがしゃがしゃと髪の毛をかきました。そこにはノエルの面影はありません。ただ、よく見ると細身の体をしているなと、今さらながら気づきました。身長もほとんど同じです。

「どうしてこんな事を?」
「こういう着ぐるみは体力がいるから、男にしか出来ない。だけどぴったりの体型の奴がなかなかいなくてなあ。大学に入ったばかりのおまえを見て、十年に一人の逸材だと思った」

 背の低さで誉められたのは、おそらく幼稚園以来でしょう。

「それでこんな回りくどい真似を……」

 まずは他の着ぐるみに衣装を着せたりさせ、下着の付け方や着ぐるみの仕組みを学ばせる。次は実際に着せて、練習させてみる。そういう事だったのでしょう。

「でも最初の日には先輩とノエルが一緒にいましたが」
「体型の似た奴に着てもらったんだ。一人一人の体型に合わせているから少し無理が出たが。こう言ってはなんだが、俺の方がスタイルが良かっただろう?」

 冬服から夏服に着替えたのは、着ぐるみ自体を着替える時間を誤魔化すためだったのでしょう。

「騙したようで悪かった」

 先輩はぺこりと頭をさげた。

「ようで、じゃなくて実際に騙したんですよ。男だなんて思いもしませんでした。それも先輩みたいなむさくるしい奴だなんて」
「俺が嫌いになったか?」
「ええ、大嫌いですよ。顔も見たくないです」

 そうか、と少しさびしげに先輩はつぶやき、封筒を僕に渡しました。
「五十万円入っている。これまでの練習で仮に受け取っていた金と契約の前払いのつもりだったが、口止め料だ」

 僕はそれを受け取り、言いました。

「契約させてください。着ぐるみスタッフとして」

 先輩が驚いたように顔を上げました。

「先輩は嫌いですが、ノエルは今でも大好きですよ」

 苦笑いを浮かべて先輩が言いました。

「実を言うとな、あの鏡はマジックミラーになっていてビデオを撮影していたんだ。着ぐるみレズビデオが好きなお客さんが多くてなあ」

「……やっぱり、先輩は大嫌いです」


 こうして、僕は「DollClub」で働くようになりました。着ぐるみの視点で男の人達を喜ばせてあげるのは、自分がその喜びを知っているだけに楽しいです。
 時には仕事の後、着ぐるんだままで、先輩と同性愛的な楽しみを得たりもしています。事実、外見も中身も同性なんです。外と内の性は逆ですけどね。
 下の階で観客にショーを見せる時も、互いに楽しませあったりして。そうすると観客も喜んでくれます。
 もちろん自分よりも観客を楽しませるのが先ですけどね。内臓である僕達の事は、着ぐるみの美しさ、可憐さを楽しんでいる人には想像もつかないでしょう。

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