梱包試験(1話) [戻る]
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ホビー21のキャラクター達を目指す役者さんは、毎日厳しい訓練を積んでいます。
現役の役者さんも含め、訓練センターはいつもキャラクターがいっぱいいます。

今日は、今から1年ぐらい前の、僕のお仕事の話しをしますね。
僕は、ホビー21の訓練センターには自由に出入りする権利が無く、上司に依頼された時にだけ、荷物運びや衣装の着替えを手伝いに行くことはあったんです。
ちなみに、当時から既に僕は着ぐるみと接する裏方の仕事をしていて、ある程度着ぐるみに対して近しい関係にありました。
ショップ内の楽屋では既に、イベントの進行責任とかも任されていました。
ですが、訓練センターにはなかなか出入りさせて貰う事は出来ません。あそこは演者達とその関係者、そして、演者候補だけが訓練のために自由な出入りを許された、このホビー21の着ぐるみの心臓部を産み出すセンター。
センターの中では、日々、可愛い女の子のお人形達が、笑顔を絶やさない中で、多量の精液や愛液を処理しているのです。
僕が、正式に訓練を受けるには、他にもいくつかハードルがあるらしくて、そのハードルがどんな物なのかも謎なので、僕は日々、ここで真面目に仕事をしながら、キャラクター担当の偉い人に認めてもらえるように頑張ってました。

そんなある時、僕の上長から言われ、また訓練センターで手伝いを依頼されました。
キャラクター達の訓練の手伝いらしいのですが、いつもは道具を運ぶだけとか、衣装の用意とかそんなレベルの仕事ですが、今回はもうちょっと大きな仕事だと言う事です。

朝、センターの受付で名前を告げると、センターの人が案内してくれて、小さな部屋に通されました。
しばらく待っていると、担当らしき人物が現れます。

「君、大林君?」
「ええ」
「そうか、君か。私は淡路だ。君の話は勝俣さんから色々聞いてるよ。期待してるから今日の仕事、頑張ってくれ」
「は、、はぁ」

 淡路さんと名乗る人物は、僕より10歳ぐらい年上に見えました。
 いきなり期待してるとか言われても、所詮手伝いだしなぁと思ったりしましたが、愛想良くしてました。
 だって、ここの人達に悪い印象を持たれたら、きっとキャラクター担当への道は遠ざかりますから。

「早速だけど今日の仕事を説明するよ」
「はい」

 早速仕事の話です。

「今日はキャラクター訓練を手伝って貰いたいんだ」
「訓練、ですか?」
「そう。今までは準備の手伝いとかだったけど、今回は訓練そのものに付き合う形になるから、ちょっと拘束時間は長いかもしれないね。時間は聞いてる?」
「え、はぁ。まぁ今日は定時まで言われてました」
「ああ、聞いてるならいい。訓練が終われば定時より早く上がれるとは思うけど、最長で定時まで拘束になるから、その点だけ覚えておいてね」
「はい。そこは大丈夫です」
「そうか。じゃあ早速訓練内容について説明しよう。簡単に言うと、君に荷物を運んでもらいたい」
「荷物?それじゃ、いつもの仕事と変わらないじゃないですか」

 そう。僕はここでの手伝いを依頼されるときは、キャラクターに接することは殆ど無く、ほぼ荷物運びなんです。

「いや、今回運ぶ荷物はちょっと違うんだ」
「いつもと違う、と言うと衣装とか道具類の準備の為の搬送ではない、って意味です?」
「ああ。荷物を運ぶことそのものが訓練なんだ」
「はい?イマイチ意味が分からないんですが・・・」
「ははは、まぁそうか。じゃ、これを見てくれ」

 そう言って淡路さんが部屋の奥にある旅行用の大きなトランクを指差しました。
 この部屋にあるのは不自然だとは思いましたが、まぁ特に気にすることは無かったんです。
 でも淡路さんがこれを運んでくれ、と言うので注目したら、確かにここにこのトランクは不自然な気がします。

「なんですか?それ」
「トランクだ。見て分かるだろ?」
「そりゃ、トランクぐらいは分かりますけど、これを運ぶ事と訓練と、どう関係が?」
「トランクを開けてみてくれ」

 淡路さんに言われ、僕はトランクを開けます。
 ロックがかかったトランクは、鍵がないと開かないようですが、鍵も付いてたので、僕は開錠する事が出来ました。
 カチャッ
 ロックがはずれ、トランクを開くと、そこには不思議なものが入っています。

「こ・・これは?」
「何に見える?」
「人の形・・・にくりぬかれたスポンジ・・」
「そう。人が入るスペースにくりぬかれたスポンジだ」
「はぁ」
「君は、ホビー21の着ぐるみが、どういう仕組みや状態で存在しているか、分かってるよな?」
「あ、ええ。だいたいの事は話で聞いてます」
「そうだな。そもそもこのセンターに出入り出来る人間は、ホビー21製の着ぐるみの秘密を知っているはずだからな。だったら、役者が苛酷な環境に耐える訓練をここでしてることも知ってるよな?」
「え・・ええ・まぁなんとなく想像はしてました・・」
「つまり、そう言うことだ」
「つまりって・・」
「察しが悪いのか、わざと気付かないようにしているのかは分からないけど、簡単に言うと、このトランクに着ぐるみを詰め込んでとあるホテルの部屋まで運んで欲しいんだ」
「え・・・」
「ホテルはホビー21のテーマパーク内にある、オリエントホテルだ。そこに、君の名前で既に予約が入ってる。チェックインして部屋まで運ぶと、部屋には既にこのトランクのロックをはずす鍵があるから、それを探して待っててくれ。チェックインの知らせをホテルからもらえる事になってるので、それを聞いた後、われわれのスタッフが部屋に行く。開錠はスタッフがやる事になる」
「ってオリエントホテル、ここからだとむちゃくちゃ遠いじゃないですか!?」
「まぁエリア内の交通は自由に使ってくれ。パスは発行するから。ストレートに行けば30分後にはチェックイン出来るだろう。もちろんこれは訓練だから、簡単には行かない様になってるがな」
「は・・はぁ」
「運んで欲しいキャラクターは、この子だ」

 淡路さんがそう言うと、待っていたかのように部屋に入ってくる美少女キャラクター。
 150センチの小柄な体と、凹凸のはっきりしたグラマラスなボディー、そして愛くるしいアニメ顔。
 ホビー21の人気キャラクターの一人、明日菜です。
 長くサラサラな茶髪とブラウンの瞳、トレードマークの赤いリボンが頭に着いています。
 衣装は、その身体には似合わない、昔のタイプのスクール水着だが、おかげでピチピチと身体がはちきれそうになっています。
 ホビー21のキャラクターは、その身体で衣装を感じていると言います。
 つまり明日菜の中の人は、いま、この水着のフィット感や締め付けを一番敏感なところに感じているはずなのです。
 可愛らしく立ってますけど、中の人が男性だとしたら、あのスッキリした下半身の中も、相当立派に立ってるはずです。
 もちろん確率は低いけど、中身が女性と言う可能性もあるんですけどね。

「当たり前だが、いつもの支給パンツ穿いてるよな?」
「あ、ええ。もちろん」

 裏方の仕事をするようになって支給されたパンツ。
 これは着ぐるみの素材に似たもので出来ているらしく、作業中に僕のものが大きくなっても目立たないようにしてくれます。
 着ぐるみの裏事情を知る人間にとって、着ぐるみの行動は、その殆どが性的に興奮を呼ぶ物なので、それでも業務に支障が無い様に、手伝いをする人間達も常にそのパンツを身に着けているんです。
 とは言え、着ぐるみのように、特殊な条件を与えることでほぼ完璧に変化が隠されるのとは違い、より汎用的な物なので、フィット感の強いズボンだと目立つんです。
 なので作業する時は、比較的ルーズなズボンか、職場の作業ツナギを穿く事が多いんですよね。

 今日の僕は結構ダブダブなジーンズです。シャツも竹が少し長めで、股間辺りは完全に隠れる感じですね。

「じゃあ、まずは梱包だ。明日菜、準備はいいか?」

 淡路さんの質問に可愛く頷く明日菜。
 本当にこれからこのトランクに入って、輸送される試験を受ける側なのか不思議なぐらいに楽しそうな雰囲気です。
 キャラクターは、常にそのキャラクターとして存在する。と言うホビー21のポリシーに従い、実際に中にいる役者さんの都合は二の次の態度を取り続けるのも、ここのキャラクター達の特徴です。
 それは、事情を知る裏方には、実に切ない行動でもあるんですよね。

「じゃ、まずはこれ」

 淡路さんが取り出してのは、ビニール袋でした。

「ビニール?」
「ああ、輸送する人形を梱包するんだ。ビニールで」
「え?ただ明日菜があの中に入るだけじゃないの?」
「何言ってるんだ。明日菜は、今日は輸送品だ。丁寧に梱包してトランクに詰めるんだ。いいね」
「は・・はぁ」

 そう言ってチラリと明日菜を見たら、楽しそうに頷きます。
 
「あぁ。そうだ。明日菜はちゃんと例の装備は着けてるな?」

 淡路さんが明日菜に質問すると、明日菜は頷きました。

「よし、後で一回テストしよう。テストするのは分かってたはずだが、既に準備は整ってるか?」

 そう言って淡路さんは明日菜を見ると、明日菜が頷きます。

「じゃあ、ビニールを被せて、しっかりナイロンファスナーを固定するんだ」

 淡路さんに言われて、ビニールを見ると、まるで寝袋のようなビニールで、背中にナイロンファスナーがあります。
 ただ、両足は不思議な構造です。つま先部分は1つにまとめられているのですが、太ももの辺りだけは、2本に分かれていて、それぞれ別の足を入れるようになっているみたいです。
 よく見ると、股の部分に細かい穴があります。
 つまり、この部分の隙間と股の穴が呼吸経路になるって事でしょう。

 明日菜の身体をビニールに埋め込みます。ビニールには両手を通す穴もあり、そこに両手を入れさせると、自然と前で胸を抱えるように固定されています。
 最後にファスナーを閉めると、思った以上にピチピチで、綺麗に手を伸ばして立っている状態になりました。
 両足の自由が利かなくなっている明日菜を、僕が手で支えながら、しゃがませて、トランクに埋め込んでいきます。
 硬めとは言え、スポンジですから多少融通が利き、何とか右半身をトランクに埋め込むことが出来ます。
 姿勢は体育座りのような感じですが、両手は胸を抱えるようになっていますので、本来の体育座りとはちょっと違う感じです。
 ビニールのピリピリと言う音と、スポンジと擦れるサワサワと言う音が聞こえる中、僕は呼吸経路の確認をしました。

「呼吸は大丈夫?」

 明日菜に質問すると、その場で頷きます。と言っても頭もスポンジに埋まっているので、あんまり動けないのですけどね。
 股の間を確認すると、体育座りすると、丁度股の所に出っ張ったスポンジあり、それが食い込むように当たり、そのせいで股と股の間に隙間が作られます。
 これで、両足が閉じても隙間が確保できて、スポンジの間を通って呼吸が外に逃げるんですね。
 それと、お尻の辺りは、トランクに、目立たないけど布張りになっている部分があり、ここが明日菜のお尻の割れ目と触れ合う感じになっています。
 1センチぐらいスポンジが挟まってるのですが、ほぼここから呼吸するって感じでしょう。
ただ、そのスポンジも、ビニールに開いた呼吸用の穴の部分を避けるように配置されています。
 そのせいで、少しだけビニールに隙間が出来、呼吸に合わせて、ビニールがピラピラと動き、明日菜の股間に触れたり離れたりを繰り返しています。
 ここは相当敏感だと聞いていますから、さぞやムズムズしそうですし、実際明日菜の太ももの付け根やお尻は、見える範囲でムズムズ切なそう。
 見ているだけで苦しそうですが、明日菜は笑顔を崩しません。

「じゃ、閉じるよ?」

 僕が聞くと、明日菜はまた窮屈そうな顔を動かして頷きます。
 僕はゆっくりと明日菜の左半身を蓋側のスポンジに埋め込みながら、最終的にトランクの蓋を閉め、パチリとロックします。

「よし。じゃあ呼吸の確認だ。下の布から漏れ出てるか見てくれ」

 淡路さんの言うままに、僕はトランクの底の布の部分に手をかざすと、生暖かくて湿り気たっぷりの空気が出入りしてるのが分かりました。
 いまや、明日菜はピッタリと窮屈そうなスクール水着の上からビニールに覆われ、そのままスポンジに埋め込まれた状態で殆ど身動きが出来ないはずです。
 ビニールの僅かに残った遊びの部分が、呼吸に合わせて明日菜の大事な部分を優しく撫で続けているはずですが、梱包された状態で、その感覚から逃れる術もないでしょう。
 トランクの中で何が起きているのか、もはや僕には知る方法も無く、ただトランクを外から眺めるだけです。

「じゃあ、一旦ロック解除のテストをするぞ。明日菜、聞こえてるな? そのままロックを外してみてくれ」

 淡路さんは、そう言うとしばらくの沈黙があります。時間にして1分か2分でしょうか?
 すると、何もしてないはずのトランクのロックがカチリと外れたんです。

「あっ・・」

 僕は思わず声を出してびっくりしてしまいました。

「今のは緊急時の脱出テストだ。よし。異常時にはこれで脱出出来るな」

 そう。ホビー21では、どれだけ苛酷な環境にあっても、最終的に役者の安全を最優先する仕組みが出来ているんです。
 耐久試験と言われていますが、最悪の場合自力で出る方法を確保しているんですね。
 どうやって外したかは知りませんが、身動きが殆ど取れないはずの明日菜は、中から自力でロックを外したのでした。
 淡路さんはせっかく外れたロックを、トランクの扉を開ける事無く再びパチリと閉めてしまいました。

「大丈夫そうだな。じゃあ早速運んでもらうから。ホテルにチェックインして、決められた部屋で待機しててくれ。」
「はい」

 僕はそう言って、トランクのハンドルを掴み、ゆっくりと動き出しました。
 さすがに人が一人入っているだけあってトランクは重いですね。
 着ぐるみそのものの重さがどの程度かは知りませんが、この重さから考えて中が小柄な女性と言う事は無い気がします。
 つまりあの可愛い明日菜は、僕のようなそこそこの体格の男性なんです。
 これがホビー21の着ぐるみの凄いところなんですが、あそこまで変化できるんですね。
 僕も憧れますが、まだまだ外から見ているだけの立場です。

 ゴロゴロと重いトランクを動かして移動し、やっとのことで訓練センターの外に出てきます。
 外は真夏。クーラーがかかった室内とは違い、汗がにじみ出てくるのがわかります。
 トランクの中には、さすがにまだ熱気は伝わっていないでしょうが、数分もすれば、僕がいる外界よりも何倍も過酷な世界になっているはずです。
 耐久試験と言うだけあって、相当過酷なようですが、明日菜は本当に大丈夫なのか、心配にすらなります。

 ゴロゴロとキャスター付きのトランクを引っ張って歩くと、手には地面からの振動が伝わってきます。
 この振動がトランクの中にどう伝わっているのかは分かりませんが、僕の手に伝わる振動から考えても、かなりしっかりと振動が伝わっている気がします。
 数分歩いてゲートをくぐり、一旦敷地の外に出ると、お客さん達の入るゲートを目指して歩きます。
 すると、正面から知った顔が近づいてきました。

「よぉ。仕事してるな」

 僕の今の直属の上長になる勝俣さんです。
 僕は立ち止まって話し始めます。

「あ、ども」
「今回運ぶ荷物はこれか。って言うかなんで敷地の外にいるんだ?荷物って何処まで運ぶんだ?」
「あ、なんかこれをオリエントホテルまで運んでくれって」
「オリエントホテル?そりゃまた随分遠いな。しかし、なんだこの荷物。いつもみたいに衣装とか小道具じゃないのか?」
「い・・いえ・・じつはこれ・・・」
「ん?何だ?」
「耐久試験とかで、中に着ぐるみが入ってるんですよ」
「あ、何?そう言う手伝い?」
「ええ。なんだかそう言う手伝いにさせられて・・・」
「しかしあれだな、ホントにただのトランクだな。開けて見せられないのか?」
「鍵がないんですよ。ホテルにチェックインしたらあるらしいんですが」
「ほほぅ」

 勝俣さんはそう言いながら、トランクを確かめるように眺め回している。

「呼吸は・・裏か」
「ええ。なんか布張りで・・・」
「そりゃまた苦しそうだな」
「ですよね・・」
「中はどういう状態なんだ?」
「水着着て、ビニールで包んでます。それとトランクの中はスポンジで敷き詰められててその隙間に収まってます」
「なるほど。それはまた凄いな」
「ええ・・・」
「これだけ暑い日に、あの着ぐるみで野外は相当蒸し風呂のはずだから、その上ビニールで包まったら、それは相当蒸すだろうな」
「・・・ですよね・・」
「その上にスポンジだと、更に保温されてしまうだろうし、最後にこのトランクのガワが、厳重に中を隔離している」
「・・・・」
「さすがだな。これだけの物を運ぶとは、さすがにホビー21の訓練だけの子とはある」
「・・・でも、何で僕なんでしょう・・僕が運ぶ必要は無い気がするのに・・・」
「多分今後、君がキャラクターに入る訓練を積む時に必要になると思って、実際の訓練を見せてるんだろ」
「なるほど・・」

 こんな話を15分ぐらい続けて、やっと勝俣さんから解放されました。
 でも、勝俣さんがわざわざいろいろ説明したせいで、余計にトランクの中のことを意識するようになってしまったんですよね。
 確かに明日菜は今、その身体の上からビニールを巻き、更にスポンジに埋まり、トランクケースに封印されています。外界との接点はトランク底面の布の部分だけ。
 最悪の場合、自力で出る方法があるとは言え、試験と言う事ですから、きっとギリギリまで頑張り続けるはずですが、この状況では、明日菜の中の人が、相当な蒸し風呂の世界にいることは想像出来てしまいます。
 ですが、僕は何故が、トランクの一番中心に存在する人に対して、大変な試験に同乗するどころか、何故かそんな中の人に羨ましさを覚えてしまうのでした。


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