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今回は[この質問]への回答をヒントに書いた作品です。
みなさん、オートアクションドールって知ってます?
最近流行ってるロボット技術を取り入れた動くフィギュアです。
昔は、動物型の家庭用ペットロボットが流行りましたが、今は動作精度が格段に向上し、人間型のロボットでも小型であればかなりなめらかな動作をするんですよね。
そして、こう言う動くフィギュアをオートアクションドール、って言ってるんです。
正確にはメーカーによって製品名は異なるんですけど、最初に有名になったのがこのオートアクションドールだったので、他のメーカーの製品もなぜかこう呼ばれています。
当初は手を振るとかの軽いアクションだったのが、だんだんポージングの変更やら簡単な移動も可能な作りになり、そして今回は元祖のオートアクションドールを作成したメーカーが満を持して発表した新作が、「オートアクションドール カレン」です。
今回の製品は、これまでのものよりサイズは大きくなっていて、身長は40センチほどあるのですが、その代わりロボットの技術がふんだんに使われていて、これまでに無く滑らかに動くらしいんです。
衣装の類は集めなおさなければなりませんが、ペットロボットのように自立して動いて、命令も聞いてくれるフィギュア。
これは相当に期待出来るんじゃないでしょうか?
機能的にはほぼ完璧に完成しているらしいですが、残念ながらバッテリー駆動時間の問題で、とても短時間しか駆動できないのが現在の問題との事です。
とは言え、これも解決策は考えられていて、実は本来ならすでに世の中に出回っている最新プロセッサを使えば消費電力が劇的に下がるらしく、その結果バッテリー問題は解決するらしいです。
が、現状、このプロセッサの販売計画が滞り、今回の製品そのものの発売も遅れてしまっているらしいのです。
ただ、毎年二回、夏と冬に開催される模型の祭典「ワンダーカーニバル」の、今年の夏の会でこの製品のデモンストレーションがあるらしく、僕はそれを見に行ってみることにしたんです。
現状では連続駆動時間が非常に短いらしいのですが、それでもデモをすると言うのですから期待したい。
と言う事で、猛暑の中、朝から東京湾岸の大きなコンベンションホールに出向くのでした。
電車の乗り継ぎも結構大変ですが、どうにかたどり着くと、目的のブースへ。
ブースには、8メーター×3メーターぐらいのステージらしい台が用意され、そこには、カバーが掛けられています。
僕が着いた時にはまだ初回ステージ開始の30分前でしたが、すでに人は結構集まってて、このオートアクションドールの注目の高さが分かりますね。
なんとかステージが良く見える場所を確保して、30分程待つといよいよステージ開始です。
何人かのコンパニオンのお姉さんが、ステージにかかっている布のカバーをはずします。
すると、ステージは透明のアクリルで出来た高さ50センチぐらいの壁で囲まれているのが分かります。
なるほど。万が一の誤作動の時に、このステージからフィギュアが転落するのを防止する仕組みなんでしょうね。
それと、ステージの中にはセットが組まれていて、フィギュアのサイズに合わせたインテリアが置かれています。
いくつかのデザインがあり、一つは洋風の応接間のセット。学校の教室風のセット。宮殿の一室のような豪華なセットもあります。
それぞれのセットに、複数のフィギュアが、いろんなポーズで設置されています。
学校セットでは椅子に座った制服姿のフィギュア達がいたり、応接セットではメイド姿のフィギュアが何体か設置されていたり、宮殿セットでは豪華なドレスを纏ったフィギュア達がいたり。
そんな中でコンパニオンのお姉さんのプレゼンテーションが始まります。
商品の紹介。現状の問題点と解決できそうだという展望。そして、本来の楽しみとして、実際にフィギュアを動かして遊んでみると言う感じです。
ステージにいっぱいあるフィギュアは全てカレンなのですが、その中で3体がオートアクションドールだとの事です。
ただし3体中2体は、まだ稼働時間が短いタイプで、残り1体はプロセッサメーカーから割り当てられた新型プロセッサのサンプル版を使っている、製品版にかなり近いバッテリー駆動をするタイプ。
これは、製品版と現状の比較をする上でもいいアイデアですね。
コンパニオンのお姉さんによると、バッテリーは非接触充電式で、通常は椅子型クレイドルに座っている事で充電可能なのだそうです。
充電用の椅子もいろんなタイプが発売予定で、衣装や好みで選択できるみたいです。
スイッチは、主電源は背中付近に存在するみたいですが、皮膚の中に埋まる押し込み式のスイッチらしく、裸になってもスイッチは目立たないそうです。
主電源以外に、リモコンによるスイッチがあって、それをONする事で、自立稼働が始まる仕組みたいですね。
コンパニオンのお姉さんは、次々にリモコンのスイッチを押すと、女子高生、メイド、お姫様の3体のドールが動き始めました。
ただ、少しだけ気になったのは、お姫様の稼働開始の瞬間、一瞬だけですがピクリと不自然な反応をしたようにも見えました。
まだ動作のチューニングが完璧ではないのですかね。
コンパニオンのお姉さんが、ステージに向かって挨拶をすると、ドール達はそれぞれのキャラクターに従った挨拶をしました。
リモコンでキャラクター設定をする事も可能らしく、あらかじめ、女子高生、メイド、お姫様の設定をインプットしているとの事でした。
他にも、いろいろなタイプの女性の立場が設定として用意されているらしく、その設定に沿った動きをするようになっています。
女子高生ならフレンドリーな挨拶を返し、メイドさんはご主人さまに対する挨拶、お姫様は優雅な感じの挨拶を披露してくれました。
その後も、何か取ってきてくれ、という指令に、そのものを取って戻ってきたり、お姉さんの腕をマッサージしてくれたり、と、色々な行動パターンが設定されていて、そのほか、何も指令しないと自立して勝手にそのキャラクターっぽい動作を始めます。
コンパニオンのお姉さんがいろんなパターンの動作を見せてくれるのですが、開始から20分程度でメイドさん、25分程度で女子高生のバッテリーが切れてしまい、自動的に椅子に着席してしまいます。
お姫様のみ、まだ余裕で稼働を続けているみたいでした。
コンパニオンのお姉さんの説明によると、お姫様を選んだ理由は、このドレスで、他の衣装と比べて布が多く抵抗が多くて重いのに、それを着続けて稼働できるスタミナを見せる為だそうでした。
実際、新型プロセッサが量産されるようになれば、このドールと同等の稼働時間を確保できるのだそうです。
その後もお姫様は稼働を続け、お客さん達もいろんな質問をしたり、いろんな命令をしたり、と楽しんでいる様子。
僕もちょっと命令して、腕をマッサージしてもらいました。
腕を差し出すと、小さな体で一生懸命マッサージしてくれるのが可愛いですね。
サテンの手袋をしているので、手がすべすべしてて気持ちよかったですし。
ただ、手からも伝わってくるのですが、ちょっと熱を持ってる気はしました。この中にいろんな機能が詰め込まれている分、発熱は結構ありそうですね。
あと、なぜか分かりませんがサテンから少し湿気も感じました。
ドールが水冷って事は無いと思うので、夏の湿気が原因ですかね?
衣装のドレスもツヤツヤでしたが、特にウエストからバストにかけての凹凸はさすがにフィギュアと言えますね。
ドレスがピチピチなので窮屈そうなバストラインがライトに照らされて凄くエッチっぽくも見えました。
ドールの動きに合わせてバスト周りのシワが変化しバストが揺れてるのを見ると、柔らかい素材で出来てるんでしょうから、触ったら結構プニプニで気持ちいいのかもしれません。
さすがにドールとは言え触る勇気は無かったですけどね。
ショーは1時間で一旦終了になり、その後30分のインターバルで再びショーがある、と言うのを3ステージ繰り返す感じみたいでした。
僕はインターバルの時に他のブースも見物しつつ、最終ステージまで見てしまいました。
それで分かったのですが、多分現行のプロセッサ搭載ドールだと20分稼働して1時間ぐらい充電しないと再稼働できないんでしょうね。
一方で新型プロセッサ搭載ドールなら、1時間稼働して30分充電して、また1時間稼働する事が出来るぐらいに電力に余裕がある。
これは相当な性能の違いという気がしました。
インターバルの時にチラっとだけ見えたのですが、お姫様だけは専門のメンテナンスをする人がいるみたいですね。
男の人がリモコンで何かをチェックしているようでした。
ただ、その男の人の顔つきが、なんだか物凄く悔しそうと言うか羨ましそうと言うか、不思議な表情ではあったんですけどね。
あれはいったい何だったんでしょうね。
いずれにしても、今回のショーを見て、僕はこの新型オートアクションドールに大いに興味がわきました。
限定生産で結構な価格らしいのですが、今からバイトしてなんとか手に入れられないか、頑張ってみようかと思います。
オートアクションドール「カレン」の仕事の話が舞い込んだのは今から2ヶ月程前の事でした。
今回のお話は、とある玩具メーカーが、ロボット技術系の会社と協力して、このオートアクションドール「カレン」を売り出そうとした事がそもそものきっかけです。
設計は良かったのですが、予定していた低消費電力のプロセッサが間に合わず、お披露目イベントとなるワンダーカーニバルでのデモンストレーションに間に合わない、と言う事になったのです。
当初はサンプルのプロセッサを使って試験をし、デモを出来るレベルにまでは仕上がっていたのですが、プロセッサメーカーの都合により、一旦サンプルのプロセッサを返却する事になったのでした。
どうやら熱処理に問題があるらしく、その部分の設計をやり直すとの事。
ただ、それをしているとワンダーカーニバルには間に合わなくなるので、デモが出来ない、と言う状況になったのです。
実はこの玩具メーカーは、ホビー21との取引がある会社さん。
開発チームの幹部には、実はもともとホビー21出身の人間がいて、実を言うといまでも休みの日に、たまにホビー21で着ぐるみの中身をやっているそうです。
そう言う、裏事情を知っている幹部がホビー21と通じている事で、販促イベントなどで着ぐるみを出したりしやすかったんですね。
そして、今回、この緊急事態に、玩具メーカーからホビー21技術部門への相談があった訳です。
そこで、最新のシステムを使った着ぐるみを使ってプレゼンテーションをする、と言う案が浮上しました。
細胞縮小効果を最大限高める技術により、人間の身長を40センチにまで縮める事が可能になりました。
ただし、まだ特殊な周波数と電極を必要とする為、このシートを量産が出来ず、実質的にワンオフのスペシャルな着ぐるみになる、と。
ですが、ワンオフの着ぐるみとは言え、つまり、その着ぐるみはフィギュアと同程度のサイズに縮み、人間がフィギュアのふりをして動くと言う事になる訳です。
しかも、センサー密度が高くなるので感度が高く、呼吸口は小さくなるので息苦しさも倍増するという悪条件。
この環境に耐えられる役者は限られている、と言う事で、色々検討された揚句、僕、ではなく、僕の友達で、役者をやっている、北野と言う男が選ばれました。
僕はと言うと、北野の友達で、役者修業中、かつ、今はもっぱら着ぐるみのサポート専門になっている、成田行夫と申します。
いろんな着ぐるみのサポートを続けながら、自分も中に入れるように修行してるのですが、感じながら普通に振る舞う、と言う行為に慣れる事が中々できず、もう何年も訓練生を続けています。
中の事情を知っているだけに、着ぐるみのサポートは中の人が羨ましくて羨ましくて仕方が無い訳ですが、それでもいつか自分もああなれる事を信じて頑張っている訳です。
ただ、やはり北野のサポートをするときは、友達が入ってるだけに、羨ましさも倍増しますし、北野があの中に入れる事に対する悔しさも相当にあります。
そんな北野のサポートを、また僕がしなければいけなくなったのは、多分僕が一番北野のサポート経験が長いからなんでしょうね。
2ヶ月前に話が出てから、わずか15日程でプロトタイプのオートアクションドール着ぐるみ。
その後微調整が行われ、最終的に、4回も手直しが発生したようです。
なるべく本物のオートアクションドールと同じ見た目にしたかったためです。
その結果、実際に着ぐるみのオートアクションドールと、ロボットのオートアクションドールとの見た目の差はほぼゼロで、僕ですら、じっとしてる状態で触らずに見分ける自信はありません。
北野の練習はプロトタイプが出来たタイミングから始まりました。
まずはこのサイズに慣れる事。ですが、さすがに北野はトップクラスの演者です。
初めて入った時からそれなりに着こなせている様子でした。
衣装も当初からドレスを予定していたので、最初からそれを着て長時間演じる練習です。
演技は上手くても、耐久力は慣れの問題もあり、さすがに初日は1時間でギブアップしていた北野ですが、10日もすれば、既に4~5時間着用は出来るようになっていました。
ただし、ドールの微調整が入る度に、苦しさや感度が増すらしく、一旦は3時間程度の着用に戻ったりしていましたけどね。
最終的には、このドール姿で、7時間の耐久操演をこなしてて、長時間着用については問題ないものの、ロボットでありながらスムーズな動き、と言うのが大変だったみたいで、何度も演技の練習を繰り返していました。
ちなみに、僕はその演技を見て、本物のオートアクションドールとの動きの差を伝える演技指導役だったりします。
この演技指導の時はホントに辛かった。
何時間もの間、北野の演じるドールの動きを見せつけられ続けるのですから。
北野は北野で、こんな小さな着ぐるみに密閉されて大変なんでしょうけど、好きでやってる事ですし、嫌なら辞めても、他にやりたい人はいる仕事なのですから、泣き言をいう話じゃないと思っています。
と言うか、まぁ北野自身泣き言を言った事は一度もないというより、むしろこういう環境に身を置く事を喜んでいる気がします。
苦しいし、暑いし、ホントに大変だよ、って愚痴りながら、半ば自慢話を聞かせてくる訳です。
一方で僕は、北野のような状況を羨ましいと思っているのに、見ているだけ、と言う立場なのですから、悔しいとしか表現できません。
もちろん僕も辞めるという選択はあるのですが、僕の場合には、これを辞めると、この先に待ってるはずの役者さんへの道が完全に閉ざされる事になってしまうので、それは最悪の選択と言えました。
自分だって一度ぐらい、北野のような立場になってみたいですから。
練習も終盤になると、北野の演技も上達し、自分で見ててもロボットの動作と北野の動作の区別がつかなくなります。
一度など、実際に本物のオートアクションドールにドレスを着せて、北野の演技と見比べたりしていたら、途中でどっちが本物なのか分からなくなった事がありました。
僕が、どっちが本物か分からないのでドールに問いかけたりしたのに、北野はわざと、無視してドールのふりを続け、最終的に、バッテリーが切れて停止した事でどちらが本物が分かったという事もありました。
後で北野からメールで、僕が迷ってる様子に凄く興奮した、と報告されて、ホントに悔しい気持ちでいっぱいになりました。
でもその甲斐あって、ホントに本物と区別できないぐらいに、ロボットっぽくてスムーズな動作を出来るようになったようです。
イベント当日は、ステージにドールと北野入りドールを設置し、カバーをかけてしばらく置いておくのですが、ブースはかなり明るいライトで照らされている為、カバーの中のステージ内の温度はかなり上がっているのが分かりました。
何でこんな情報が分かるのかって?
実は、ホビー21から特殊なリモコンを渡されていました。
まだ量産モデルではない特殊なスーツで作られた着ぐるみですから、いろんな部分をモニターし、開発用のデータを取る事も目的だったため、僕の持つモニターは着ぐるみの各所の情報を数値化して記録し、表示もしていました。
もちろん、リモコンですから、北野に対して指示も遅れるコントローラーはついてます。
主に、モニタリングした数値を見て異常を発見した場合に、北野側が何らかの意思を示さなければこちらから問題ないかを問い合わせるスイッチで、基本的な質問が10個程インプットされていて、それを送信すると、yes/noの回答が返る仕組みです。
yes/noの回答には、異常時の操作と言う事で、さすがにホビー21の着ぐるみにありがちな極部を使った操作は無いのですが、口を使って操作する仕組みらしいです。
そう言うモニター付きのリモコンを持っているので、モニターの数値を見ると、明らかに体温も湿度も上昇してる事が分かった為、最初は着ぐるみ内部の問題かと思い、リモコンを使っていくつか体調について問い合わせたのですが、凄く苦しいけど問題は無いとの事。
わざわざ最後に息子をひくひく反応させて元気なところをアピールする辺り、非常に腹が立ちますが、これが立場の差なんですよね。
こっそりステージのカバーの中に手を入れたら、かなり内部の空気が籠ってるのが分かりました。
カバーされた上にライトが当たってるため、空気が蒸されているのでしょう。
カバーが外されたのは1時間後。いよいよショーのスタートです。
コンパニオンのお姉さんの指示に従う形で動いたり、自立して動いたり、ホントにまるで本物のように演じていました。
ただ、リモコンのモニターを見てある事に気付きます。
コンパニオンのお姉さんが持つリモコンの操作。これに連動するかのように、着ぐるみのセンサー感度が何割か増すようになっているのです。
確かに、リモコンのボタンを押されたかどうかは着ぐるみには分かりません。
だから、リモコンと連動してボタンが押され、命令を聞くモードになっている間は、ずっとセンサー感度が増す仕組みのようなのです。
僕は全く知らなかったのですが、練習中から北野はこんな状態に耐えていたのでしょうか。
お姉さんがリモコンを操作するたびに、感度が跳ね上がり、明らかに北野の心拍数や呼吸深度、体温、そして息子の硬さが増しています。
お姉さんの操作が一瞬ならそれでもすぐに落ち着くようですが、命令を連続して行う時には、ずっと押しっぱなしになってる事もあるらしく、つまり、北野は感度が増した状態で命令を聞き演技を続ける必要があるのです。
知らなかった事とは言え、僕は練習中に無暗にボタンを押している事もありました。
こんな状態だと知っていれば、極力ボタンを押すことは避けた気がするのですが、思い返すだけでも練習中にボタン操作をしながら指示を出してているときの北野を想像し、羨ましくなってしまいます。
もちろん、今この瞬間も、北野はそんな世界を独り占めしながら、カレンとして存在し続けています。
1時間のステージを終えると充電の為のインターバルになります。
もちろん北野に充電は必要ないどころか、時間が経つほどに活動が大変になって行くのですが、周りの人達はその事実を知りませんから、カレンが椅子に座って充電している、と思っている訳です。
あの姿で椅子に座ってじっとしているのは、呼吸的に相当苦しい気がするのですが、カレンはオートアクションドールですから、苦しいそぶりなんて見せないですよね。
ですが、モニターを見ると、確かに呼吸が激しくなっているし、吸気する空気温度・湿度も高めに安定している様子。
その割に、呼吸の度に硬いものがピクンピクンと反応しているのも見えます。
リズム良く呼吸に合わせて反応している、と言う事は、何かの快感がリズムに合わせて襲ってると言う事でしょう。
でも、椅子に座ってじっとしてるカレンからはそのリズムに合わせた何か、が、最初は想像出来ませんでした。
呼吸に合わせて、と言う事なので最初はウエストに巻きつくようにフィットしたドレスの生地が、呼吸に合わせて身体を締め付けたりゆるめたりする感触かとも思ったのですが、この着ぐるみはフィギュアと言う設定上、呼吸の動きは極力消すように作られています。
とすると、考えられる理由は限られます。
可能性としてあるのは、パニエの存在。
スカートの中にぎゅっと詰まった柔らかい素材のふわふわのパニエが、彼女の呼吸口付近を塞ぎ、呼吸の度にそれがヒラヒラ揺れて敏感な場所を刺激する、と言う事です。
動ける着ぐるみなら、すぐにそのパニエの位置を変更してしまう事は可能なのですが、カレンはフィギュアであり、今は充電中。
目立った動きをする訳にはいかないのです。
呼吸はしなければさすがの北野も酸欠で倒れてしまいます。
でも、呼吸をすれば、充電が完了するまで動かす事の出来ない、敏感な部分に当たっているパニエの動き、に悩まされる事になる。
そんなジレンマの中で頑張ってるんです。北野は。
いや、厳密に言えば、微妙に太ももを動かして、見た目に影響ない範囲でパニエの布を敏感な部分から引き離す事は可能なはずです。
北野ぐらいのベテランになればそのぐらいの行為は難しい事ではないはずですから。
ですが、モニターの反応を見る限り、パニエが敏感な部分をヒラヒラと刺激し続けている可能性は高いように見えます。
それはつまり、北野がわざとその感覚を受け続けている、と言う事なのか、あるいは北野の技術でも引き離せないぐらいパニエにボリュームがあって、なす術が無いのか、のどちらかではないかと考えられるのです。
ただ、どちらであっても、今の北野が僕から見たら相当に羨ましく感じる環境にあるのは確かです。
わざとなのだとしたら、それをしたくなるぐらいに気持ちいい時間を楽しんでいる事になります。休憩しているはずのこの時間に、ただただ快楽を味わい続ける行為は、その後の操演時間を考えたら、かなりその先も苦しい時間になる事は分かってるはずなのに。
もちろん北野は僕がこうしてモニターしてるのも理解してるはずです。
と言う事は僕がこうして嫉妬してる事も分かっててやってる、と言う事になるのです。
一方、もしも、小手先の技術ではどうにもならないぐらいパニエのボリュームがある場合、さらに最悪です。
北野の意思に関わりなく、ただただ柔らかいパニエが敏感な部分にヒラヒラ当たる攻めを、30分間続ける事になるのです。
もちろん、わざと動く方法はあると思います。機械がイレギュラーな反応をした、と言った雰囲気で動けば、多少動いても誤魔化せる可能性はあるのです。
でも、そこまでする事無く耐えているとしたら、それは、そのヒラヒラの攻めが北野にとっても耐える楽しみをくれている、と言う事になります。
自ら想定した攻めではなく、想定外の攻めなのに、それを味わい続けてる。
逃れたいけど逃れられないジレンマがあの中にある。それを思っただけで、嫉妬心と羨望と、そして僕の息子に血が流れ込んで行く事を実感するのでした。
アクリルの壁で囲まれたステージは、回を重ねるごとに熱気を持っているようで、センサーで感じ取れる熱や湿度も初期に比べてかなり上昇しているのが分かります。
これは、もちろん北野の体温や汗の分もあるのですが、そもそも本物のドール達の発する機械的な熱もあるんだと思います。
そんな状況であっても誰も気にする事も無くステージは進行し、とうとうその日のステージを終えるのでした。
ワンダーカーニバルの閉会を迎え、片付けが始まると、僕が目を離した隙に、スタッフたちによって一旦フィギュアが片付けられてしまいました。
バックステージの一角にフィギュアが大量に並べられていて、そこに北野の入るカレンが紛れ込んでしまったのです。
衣装がドレスなので目立つかと思いきや、実は大量に用意された予備の展示フィギュアの中には、北野の入るカレンと全く同じ衣装の物もいるようで、そのドレスを着たフィギュアが10体も並んでいました。
僕「どれ?」
僕は小声で北野に聞こえるように、そして周りには聞こえない様に囁きます。
ですがフィギュアはどれも反応しません。
モニターを見ると、明らかに興奮している北野の様子が見て取れます。
そう。僕が探してるのを知ってて、人形のふりを続けて楽しんでるのです。
僕がここで大声を出してしまうと、スタッフに不思議がられます。その事を理解してるからなのか、北野は確実にわざと、人形のふりを続けているのです。
もちろん10体並んだフィギュアを一体一体手に取って確認すれば、すぐに北野入りのカレンは特定できます。
でも、触ってしまうと言う事は、余計に北野を喜ばせると言う事になるのではないか?そう考えると、触るのも悔しいのです。
僕がしばらく茫然としてると、不思議そうにスタッフが寄ってきました。
何してるのか、と問われたので、10体のうちアクションドールがどれなのか分からない事を告げると、そのスタッフは遠慮なくフィギュアを掴んで一体だけ存在する、温度の高い個体を特定しました。
スタッフ「これ、熱持ってますから機械の入ってるやつでしょうね」
そう言って僕に手渡すスタッフは、全く事情を理解して無いんでしょう。
僕はありがとうと告げて、その1体を区別して置いておくようにしました。
ですが、良く考えてみたんです。10体のフィギュアは一ヶ所に固めて並べられていたのです。
ドレスのスカートは互いのスカートと干渉しあってた。
分かりやすく言えば、スカートの裾同士がくっつきあってて床が全く見えない状態だったのです。
これが何を意味するか、と言うと、当然スカートの中の空気の抜けがより悪くなるって事ですよね。
北野はそんな中、わざとじっと僕が見つけるのを待っていた訳です。
後から問いただせば、きっと、他のスタッフに見つかったらまずいからじっとしてた、とか言い訳するでしょう。
そう言われたら僕は何も言い返せない。
でも、確実に彼は楽しんでいた。この事い悔しいと思わずして、何と言えばいいのでしょうね?
一通りの片づけが終わると、僕らは一足先に離脱させて貰う事になりました。
最大の理由はもちろん北野の操演時間です。
早めに戻らないと彼の限界になるからです。とは言え今日は相当我慢してるのか、実はモニター上でまだ3回しか出して無かったんです。
確かに相当我慢し続けてるのがモニターでも分かりました。何しろ何度も切なそうな反応を続けているのですから。
なのでまだもう少し時間はあるはずですが、やはりここは計画通りに、と離脱する事になります。
会場を離脱した僕は、ホビー21の車に、北野入りドールを入れたケースを乗せ、一路ホビー21へ向かいます。
ケースは通気性を考慮しているとは言え、アクリルの窓がみるみる曇ってる様子。
ケースに入れないで運ぶと、ベルトで固定できない為、危険なのです。
もちろんただの人形なら万が一の時に固定されなくてもあまり問題ではない訳ですが、このドールは北野入りですから、そういう訳にはいきません。
その為、専用ケースに入れて輸送する仕組みになっていました。
交差点などで止まると、北野の入るドールから死角になるようにしてモニターを確認すると、熱気と湿気は今まででもトップクラスに高くなってる様子が分かります。
また、車の振動が影響しているのか、想像以上に興奮度が高い事も分かります。
その数値を見て、僕もいろいろ想像してしまい、思わず息子が硬くなってしまうのですが、パッドのおかげで膨らみは最小限で済んでいます。
でも僕にはただの興奮ですが、北野は今頃、僕以上に硬さを保ったままの息子を、ケースの中で蒸されながら、衣類やら車の振動やらによって気持ち良くされ続けてるんです。
助手席なんて、僕から手が届く位置にあるのに、この箱の中にはそんなにも羨ましい空間があるのです。
僕だって、こんな可愛いお人形の中に入って、ケースに入れられて輸送されてみたいですよ。
僕みたいに羨む人に運転させて、その横でお人形さんの中に入って苦しい時間を過ごしてみたいですよ。
でも、これが今の僕の立場。
悔しいけどそう言う事なんです。時々北野の入った箱を眺めて、羨ましいのと立場の差とを思い知って、落胆しながらの帰社となりました。
その夜、北野からメールがあり、実は帰りの箱の中が一番過酷だったのだそうです。結構大きな胸のせいで揺れが凄くて、でも固定されてるし、その固定を外すのは危ないから我慢してたら、胸の揺れがとても切なかったのだと。
あと、スカートのボリュームもあるせいで、それも車の振動に連動して揺れて、とてもエッチだったらしいです。
苦しいなら早く帰社して欲しかったのか、とも思ったのですが、あの時は、もっと会社が遠ければ良かったのに、と思っていたそうです。
出来ればオフの日にあの箱に入ってドライブに行きたい、とか言われたんですけど、僕は丁重に断りました。
と言うか、酷い友達ですよね。僕がどういう気持ちになるか知っててそう言う事言うんですから。
まぁ結局、僕に才能が無いせいなんですけどね。
あーあ。いったいいつになったら僕もああいう経験出来るんだろうなぁ。
と言う訳でお話は終わりです。
-おしまい-
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