某びぎんずないと [戻る]


目の前に広がる壁一面の大きな鏡、そしてそこに映る全身銀色の人影。
つるんとした頭部には目も鼻もありませんが口に当たる部分にだけは横向けに一筋の溝が刻まれてます。

ボクが小さいころのテレビCMに登場したコーラのイメージキャラクターを連想させるその頭部。
しかしその体はマッチョな男性体系だったそれとは対照的です。
首は細く肩幅は狭く、女性らしい体の凹凸が強調された非常にスレンダーなボディ。
一切継ぎ目がなく一糸纏わぬその体は頭の先からつま先まで金属的な光沢に包まれており、その姿はまるで現代彫刻のよう。
だが大きく上下する肩はそれが確実に生きていることを物語ってます。

ボクが口をあけると鏡の中の金属人間の口にもぽっかりと穴が空きました。
舌を突き出すとやはりそれも真似をして舌を出します、ただしその舌もボディ同様銀色の輝きを放ってます。

ボクは今、七瀬さんのお屋敷の一室に来ています。

なんでボクみたいな操演者になりたての新米が面識の殆ど無かった七瀬さんのお屋敷に来ているのかからお話せねばなりませんね。

この春からの新番組「人魚姫ピュアマーメイド」はご存知の方も多いかと思います。
人魚がモチーフの変身ヒロインもののテレビアニメで、メインスポンサーはご存知ホビー21を経営するID社グループですから。

もちろんID社グループがスポンサーということは他の例に漏れず今回も登場キャラの"お人形"が製作されます。
今回の場合は元々"お人形"のほうの構想ありきで製作されたアニメだって噂もありますが・・・
なんせ主人公が変身する「シルキーピュアマーメイド」は人魚だけに下半身が魚のひれになっていたり、戦うのが殆ど水の中だったりと条件が特殊なんです。
そのために"お人形"のほうも今までのキャラクターとはまったく違った仕掛けが沢山施されており、そういうところからもこんな噂が立つのかもしれません。

実は明日はホビー21の大水槽を使い、そのキャラクターのお披露目を兼ねて一般やマスコミに向けた新番組発表会が開催されます。
そして今日はその前夜祭とでも言うべき、ごくごく関係者・・それもこの企画実現に向けて表や裏で協力したとされる方々に向けての"お人形"お披露目パーティーがここ七瀬邸で開かれるのです。

本来ならそこで"お人形"を担当するのはボクのような新米ではなく、お芝居やダンスも上手くて今回のスーツの試作段階から関わってるという先輩の操演者さんが務めるのが妥当なんですが・・・
そのは先輩は今頃は明日の発表会に向けてホビー21で最終リハーサルや準備の真っ最中。
しかも今回は演技やダンスは殆ど必要ないということでチームの中で一番新米になるボクが早くスーツに慣れるための訓練もかねて抜擢されたそうです。

あ、「チーム」って言うのは今回シルキーを登場させるにあたって結成された操演者のチームのことです。
ホビー21の"お人形"は今回のボクみたいに誰かの代役で入るときを除けば殆どの場合1キャラにつき操演者一人というのが基本だと思うんですが、シルキーの場合は特別に複数人で担当することになり、そのメンバーを纏めてチームと呼んでます。

まだ他のメンバーの顔や名前も知らないんですけどね。
ボクがチームに内定していたことを知らされたのもつい先日なんで・・・
操演候補生の中から実技試験やの結果や水泳経験を元に選んで頂けたそうです。
いきなり候補生全員が水泳試験なんかさせられたので何かあるかもとは思ってたんですが、まさかこんな事だったとは。

チームのメンバーに内定したことと今回のパーティーのことを告げられてから今日までは練習用の資料を元にシルキーのキャラを掴むことだけでいっぱいいっぱいでした。
初めて任された大役なので緊張と不安で押し潰されそうですが、精一杯頑張りたいです。

さて、そんなこんなで私は今回の企画のリーダーである七瀬さんのお屋敷に招かれ、今はここ準備室にて待機中です。
窓は無く奥と左手2面の壁が一面ガラス張りのダンススタジオのような部屋。
それほど広いわけではないですがスピーカーも備え付けられており、右手側には男女別のロッカールームまであります。
恐らく普段は実際にダンスレッスンなんかにも使われてるものだと思います。
但し床はぴったりとビニールシートが敷かれて目張りされています。
なんにせよ個人宅の一室とは到底思えません。
入り口から案内してくれたお兄さんはここでアンダースーツに着替えておくようにだけボクに告げると忙しそうに出て行ってしまいました。
それ以降は長い時間ずっと一人きりです。

いつ呼ばれるか分からなかったので急いでアンダースーツに着替えたのですが、これが失敗でした。
操演候補生の練習会や研修を兼ねたホビー21での代役でお人形の中は経験しているのですが、その時のアンダースーツと今回のそれは見た目は似ていても全然別物だったんです。

まず、呼吸が比較的苦しい。
これはいつものアンダースーツでも決して快適とまではいかないんですが、今回の場合は更に息が通りにくくなってます。
これはスーツの資料に載っていたシステムが原因かもしれません。
詳しい技術の話はよく分からないのですが、今回のスーツは水中で皮膚から酸素を取り入れる為に他のスーツのような大気中での皮膚から酸素を取り入れる機能がオミットされてるそうなんです。

とはいえ普段もお人形になって衣装を着てしまえば今の状態よりかもっと苦しいので、これはまだまだ我慢できる範囲です。
問題なのは中が蒸し風呂のように暑いこと。
着たばかりの時点では問題なく油断してたのですが、今のうちに準備体操をと思って体を動かしているうちにどんどん温度が上昇してきました。
これも水中での保温のために断熱性能を高く設計されている為だと資料で読んでいたのですが、実体験してみて初めてその凄まじさを身にしました。

せめて顔だけ外しておけば楽なのかもしれませんが、背面のジッパーが上から下に閉じる構造になっており、しかもその先端がお尻の下の辺りまで伸びています。
なので顔を出す為には背中側を股間近くまで全て開放しないと不可能なんです。

しかも今回のスーツは口の中までラバーに覆われています。
内側はボク自身の歯型から造られた形状になっており、ちゃんと装着してしまえば一切の隙間無くぴったりと口の中にフィットするのですが、実はぴったりすぎて装着するまでが大変でひどく時間がかかってしまいます。
もし今顔まで脱ぐと呼びに来た人を長時間お待たせすることにもなってしまいます。

もちろんこんな格好ですから外に人を呼びに行くわけにもいきません。
勝手のわからないお屋敷の中をうろついて、万が一こんな格好がパーティーの出席者の目に触れるようなことになれば一大事ですから。

そうこうしている内にまた更に時間が経ちました。
銀色のゴム人形の中はボク自身の汗の匂いと熱気が充満しており非常に息苦しいです。
せめて背中だけでもジッパーを開けていれば暑さだけでも多少はマシかな?
そう思い股下に垂れ下がったつまみに手を伸ばした瞬間、ドアからノックの音がしました。

なんだか恥ずかしい事をしているところを他人に見られたような気分になり、一瞬頭が真っ白になります。
はっと我に返り「どうぞ」と声を出そうとしますが、アンダースーツに覆われている上に口の中までラバーがフィットしているので声が出せない事に今度は気づきました。
仕方が無いので急いでドアに駆け寄り開くボク。

ドアの向こうから現れた影に、てっきりさっきのお兄さんが来たのだと思ってたボクはびっくりしました。
それははタキシードに身を固めた七瀬さんだったのです。

ホビー21内ではちょっとした有名人だからこの人のことを知らない人は少ないんじゃないでしょうか。
本来はホビー21の親元であるID社の社員さんらしいけど、詳しい職務は殆ど知れない謎の人。
そして何を隠そう若くしてこの豪邸を所有するオーナーにして「人魚姫ピュアマーメイド」の企画責任者。
「スーツを開発した研究者の一人」だとか「ホビー21の設立に深く関わった人物」だとか「実は何十年も前から全く歳をとってない」とかいうオカルトっぽいものまでいろんな噂の付きまとう人物でもあります。
いったいどこまでが本当なんでしょう?

ホビー21内でもよく見かける人なので知ってはいましたけど、実は直接対面するのはボクはこれが初めてなんです。
(あ、今ボクは銀色のマネキン人形になってるので直接とは言えないのかも・・?)
それにしてもこの方の存在感は独特というか何というか・・
日本人離れしたその容姿はタキシードが嫌というほどよく似合ってます。
まるでBLものに出てくるイケメン執事かヴァンパイアのような・・・

そしてその後ろから覗く二つの影にも気づきました。

あっ・・・

それはボクと一緒に操演候補生として練習会に通っていた仲良しグループの二人でした。
二人ともいつも裏で"お人形"のサポートをする時に着ているツナギ姿から察するに、今日もサポート役としてここに呼ばれたのでしょう。
二人でひとつの大きなケースを運んできたようです。

「これはこれは本日のお姫様、どうぞ宜しくお願いします」
七瀬さんは胸に手を当てて一言にっこりと会釈すると・・・
「さて、準備はできているようですね。時間が押してますので急ぎましょう。お二人とも運び入れてください」
後ろに控えた二人に指示を飛ばします。
「はい」
「はーい」
戸惑うボクを横目に二人はテキパキと準備を進めていきます。

一瞬、この銀色マネキンの正体がボクであることを二人に告げようかと思いましたが・・・やはり今はやめておくことにしました。
急いで作業してる二人の邪魔をしちゃ悪いのも勿論ですが、ボク自身だととっさに伝える方法が浮かばなかったのが一番の原因です。
それに規則では知り合いであろうと必要なければむやみやたらに"お人形"の正体を教えてはいけないことになってますので。

ケースから取り出されたのは予想通りシルキーのスーツ一式でした。

企画資料やアニメのサンプル映像でデザインこそは知っていましたが、こうやって実物を見るのは初めてのことです。
絹のような長い髪と下半身の鱗は部屋のライトの明かりを七色に反射してとても綺麗。
目はその殆どがマリンブルーの大きな瞳で占められており、深く複雑な輝きを放ってます。
ただし人間と違って耳はエルフのように長く尖っており、まさに白魚のような手の指と指の間にもよく見ると水かきのような薄く透明な膜がついてます。
下半身はまさに魚そのもの、それにかなりスレンダーで今のこの状態でも地上での自力歩行が確実に不可能な事が見て取れます。
まだ衣装はつけてませんがこの状態でも非常にかわいらしく、今からこの中に自分自身が閉じ込められるのかと思うとつい下半身に熱がこもっていきます。

「ではお姫様はこちらへ」
想像だけで少し気持ちよくなってきていたところで七瀬さんに呼ばれました。
ちょうど部屋の中央あたり、仲良し二人が手にチューブ容器を持って待ち構えています。
まさかさっきの妄想が見透かされてる事は無いでしょうけど、つい顔が真っ赤になってるのが自分で分かります。
アンダースーツのおかげで表情が見られなくて助かりました。
「ではお二人とも、打ち合わせどおりにお願いします」

そそくさと間に立つと、二人はチューブに入ったゲル状の液体をボクの頭の上から絞りだしました。
ゲルが全身にかかってもスーツのおかげで冷たい訳ではないんですが、条件反射的に背筋がぞくっとします。
今度はそれぞれの手にゲルを出し、そのトロトロとした液にまみれた手でボクの腕を腰を足を尻を胸を首筋を指の間を股の間を、その全身を余すところ無く撫でるように揉み解しだしました。

この液体は今回のスーツに特別必要なもので、これを全身に塗ってからスーツに入らないと大変危険な為にこうやって念入りに全身に塗りたくられているのです。
しかし資料で装着の流れを把握してるだけのボクはこの液と行為による快感までは想像していませんでした。
くちゅくちゅとした液体を塗りたくられ、全身を撫で回される想像以上の快感。
二人の手からもボクの体に直接的に伝わり、更に信号となってデリケートな部分にも伝わる刺激の波は一瞬でボクの思考を停止させました。
足腰は突然訪れた快楽にどんどん耐えられなくなっていき、ついにはがっくりと膝をついてしまいます。

「あの、大丈夫ですか?」
膝をついたボクに仲良しの一人が心配そうに声をかけてくれました。
普段とは違うよそよそしい口調から察するに、やはりこのゴム人形の正体がボクだとは気付いていないようです。
その顔は戸惑うような悲しいような、今まで見た事のないとても複雑な表情でした。

そう、この子もまた操演者になりたくて必死に頑張ってるのです。
この子だけではありません、勿論もう一人も一緒に練習を受けてきた他の子も。
みんなが今こうやってゲルを塗りたくられ快楽に溺れている銀色のマネキン人形の正体がボクだと知ったらどう思うのでしょう?
いえ、二人にしてみれば入ってるのがボクだと気付かなくても今この人形の中で二人により快感を与えられている誰かの存在は確実に認識しているのです。
みんな練習会などで人形の中の快感は知っている筈ですし、その上でこんな明らかに気持ちのいい行為を見せ付けられながらも手を貸さざるを得ないのはきっと悔しいことでしょう。
ボクはそう感じると申し訳なく思い、せめて虚勢を張らねばと立ち上がろうとしますが・・・ゲルの滑りけと未だ消えない快感の波に阻まれてどうやってもうまく立ち上がる事ができません。

「七瀬さん、この方さっきから凄く体が冷たいですよ。大丈夫でしょうか?」

続けて発せられた一言にボクは耳を疑います。
なんせ先程からボクの体はかなりの高温と湿気に包まれているのです。
てっきりこの熱さが二人にも伝わってるものだと思っていただけに今の一言は予想外でした。

「ご心配なく、このスーツは断熱性能が凄いので中の熱が外に伝わらないだけなんです。
フフ・・きっと今頃中はムレムレグチュグチュのすごく気持ちのいいことになってますよ♪」

ぴくっ。
七瀬さんの説明に二人の体がこわばるのが触れたその手から伝わってきました。
二人は今度はゆっくりとこちらに向き直り、こわばった表情でたずねてきます。
「本当・・・ですか?」

底知れない感情を秘めたような質問に今度はボクの体がこわばります。
返答には迷いましたが・・・暑くて蒸れてるのは本当ですし流石に肯定せざるをえません。
少し悩んだ挙句小さくこくりと頷きました。

瞬間、二人の目の奥に怪しい光が灯ったのを感じました。
「時間もないですし横になったまま続けてもらって良いですよ♪」
「はい」
「はーい」
七瀬さん言葉に二人は先程と同じ返答を返します。
しかしその表情は今までボクに見せた事のない張り付いたような笑顔に変わってました。

そこから先は容赦ありませんでした。
どれだけボクが身を捩じらせて逃げようとゲルで滑った手は閉じた脇に股に容赦なく滑り込んできます。
「口の中も忘れないでください」
「はーい」
言葉とともに口にチューブを突っ込まれ液を注入されると、今度は指を二本ぐいっと突っ込まれてクチュクチュとかき回されます。
この時初めて分かったんですが、口の中の刺激は特に性感帯にダイレクトに伝わるようになっているようです。
しかしその時のボクにはその刺激から逃れる術など存在していませんでした。

「はい、この作業はもう良いでしょう」
七瀬さんからストップの合図が出たのはどれ位時間の経った後だったでしょう?
3分も経っていないような気もすれば3時間は弄ばれていたような気さえします。

次はスーツに入る番。
液でまみれたここから少し離れた場所に仰向けにスーツが寝かされました。
ボクは残された力を振り絞ってスーツの元まで這って行きます。

先程スーツを見た時には気づかなかったのですが、仲良しの一人がスーツの人間で言う股間の前に当たる部分に手を突っ込み横に広げると、くぱっと大きな穴が現れました。
一見、人が一人入るには小さすぎる穴に見えますが、ここがこのスーツの外と中を繋ぐ唯一の部分になります。
「準備OKでーす、どうぞー」
その子が声を掛けてくれたのでボクはひれの部分の上にまたがってしゃがむと、背泳ぎを始めるような姿勢で中に入っていきます。

ゲルのおかげですんなり入れるかと思いましたが、胸より上がスーツの中まで入ったあたりで大分つっかえてきました。
なんせ他のホビー21のお人形に比べてあまりスーツが伸びないんです。
しかも足で踏ん張ろうにもゲルのせいで滑ってしまい上手くいきません。
手は既にスーツに突っ込んでしまったので動かそうにも自力ではほとんど動かせなくなってしまいました。
おまけにボクの顔がシルキーの胸の辺りに収まってしまった為に視界も真っ暗でどうすることもできません。
一人でもがいてると七瀬さんもそれに気づいたようです。

「仕方ありませんねぇ、手伝ってさしあげてください」
「はい」

声と同時に股間をがしと掴まれました。
いきなりそこっ!?と反応する間もなく、その手によってぐいぐいと中に押し込まれていきます。
ゲルのおかげでゆっくりゆっくりと中に滑り込んでいき、ボクの視界にはようやくシルキーの目の部分から外の光が入ってきました。

シルキーの目を通して見える世界は青一色でした。
マリンブルーの瞳を通して覗いているせいでしょう。
今シルキーの中にいるボクだけが体験できる世界、他の誰にも味わえない世界。
そう考えるとこの蒸し暑い閉ざされた環境も非常に愛おしく思えてきます。

手も指先までたどり着き、ようやく上半身を動かせるようになりました。
今のうちに口に外から手を突っ込み、アンダースーツのそれとぴったり位置を合わせておきます。
デリケートな部分なのでなるべく自分自身の手でやり過ごしておきたかったのです。

次は足を通す番。
今は入り口の穴が手の届く範囲に来てるので上半身を軽く起こして自分で穴の両ふちを掴むと一気に穴を押し広げます。
そして足を折りたたんでつま先を穴の中に入れたら、今度はゆっくり足を伸ばしていきます。
上半身がスーツ内に固定されているせいか今度はずりゅっという音を立てて簡単に両足がひれの中に吸い込まれていきました。

広げる力を失った穴は見る見る小さく閉じていきます。
その穴の中にアンダースーツとは別の光るパーツが見えました。
これが仕様書に書いてあったアンダースーツの呼吸口とスーツとの接続部で、確か次はこの部分を接続しなければならない筈です。

穴が閉じてしまうとまた開けるのが大変そうなので閉じ行く穴に急いで手を突っ込み、アンダースーツの股間の下から僅かに飛び出た突起を接続部に挿入します。
するとパシュッという切れのいい音が聞こえ、そして・・・
????
空気の流れが止まりました。
さっきまで確かにチューブを通してボクの鼻から吸い込めた空気が、今やストローが詰まったときのように吸っても吐いてもまったく通らなくなってしまったのです。

思いっきり吸っても吐いてもやはりびくともしません・・・
そうこうしてるうちに息苦しさは高まり、冷たい恐怖心が心の底からじわじわと沸きあがってきました。
接続した部分を取り外そうとするも、下半身に目をやると先程の穴はもう綺麗に閉じられてしまってます。
焦って穴のあった部分をまさぐりますが、鱗の影に隠れてしまったスリットは真っ青に染まるシルキーの視界では全然見つける事が出来ませんでした。

パニック状態になったボクは両手をばたつかせます。
しかし両足はヒレの中にしっかりと固定されてしまっているのでいくら力をこめてもくねらす程度にしか動きません。
暴れる事でさらに空気の消費が激しくなるのですが、この時ばかりはそんな冷静な判断も不可能でした。
どうやら先ほどから耳元で誰かが何かを叫んでいるようですが、何を言ってるのかすらもうボクの耳には届きません。

と、不意に両手を取り押さえられました、凄い力で全くあがなえません。
今度は両足にも同じような力が加わり、そして股間に何かが押し込まれるような感覚があった後、今度は体全体に何かがのしかかってきました。
今度は首に両側から太い何か巻きつき、首から上もまったく動かせなくなりました。
そして耳元に硬いものが押し当てられます。
それは繰り返し何かを呟いてます、それをようやく言葉として私が認識できたのは何度もその言葉が繰り返された後でした。

「落ち着いて、深呼吸なさい」

それは七瀬さんの声でした。
ようやく意味を認識したボクは言われた通りに深呼吸を試みます。
・・・いつの間にか呼吸は通るようになってました。
決して楽な呼吸とは言えませんが、それでも何とか平静さを取り戻したボクはようやく周りの状況を把握します。
ボクの体の上には七瀬さんの長身がのしかかり、首は両側から回された腕に抱えられる形になっています。
そして耳元に顔をつけた七瀬さんがそこからさっきの言葉を繰り返していたのですが、ボクの落ち着きが戻ったのを感じ取ると優しくボクの頭を床に寝かせてすっと立ち上がり体の上から退きました。
両腕は仲良しの二人がそれぞれお尻の下に押さえ込まれてました。
こちらも七瀬さんが立ち上がるのを見てそれに習います。

ようやく思い出しました、確か呼吸用のコネクタは先に超小型の酸素ボンベをスーツに接続した後でないと繋いではならなかったのです。
資料にも確かに書かれていた筈なのにボクが先走ってしまった為に酸素の供給が止まってしまったのでした。
それでパニックを起こしたボクを七瀬さんや仲良し二人は助けてくれたのだとここに来てようやく認識できました。

その瞬間一体ボクはどんな表情をしてたのでしょう?自分自身でもよく分かりません。
ただ、自分の失敗でここにいる全員に迷惑を掛けたのだと申し訳なさでオロオロしていたのだと思います。

その場の沈黙を破ったのは七瀬でした。
「パーティーの席ではじゃじゃ馬もお控えくださいね。家臣の身が持ちません故」
そう言うと王家の執事のごとく胸に手を当ててすっと会釈します。
その堂に入った態度に仲良し二人もプッと吹きだしました。
平静さを取り戻したボクはようやく頭を下げて全員にお詫びします。

「まったく・・ジャケットが台無しですよ」
七瀬さんの言葉に目をやると確かにジャケットにゲルが付着してしまっています。
恐らく先程から直接手を出さなかったのは衣装を汚さないためでもあったのでしょう。
「替えを用意してきますので着替えを進めておいてください」
やれやれといった表情でそう言い残すと彼は部屋から出て行きました。

言われたとおり残った三人(二人と一体?)で着替えを進める事にします。
「じゃあジェルを馴染ませる為に揉みほぐしますねー」
そう言うと二人は再び私の・・・いや今やほぼ完全にシルキーのボディとなってしまったそれをすみからすみまで撫で回し始めました。
これは外のスーツとアンダースーツの間に先ほど全身に塗ったゲルを行き渡らせて馴染ませる為です。
当然またボクの体にはあちらこちらから快感の波が押し寄せてきます。
いや、今回はスーツの表面がジェルで濡れてない為にスススという小さな摩擦が緩急になり、それと内部のジェルのクチュクチュとした感覚が重なってより複雑な刺激となってます。
それにこのスーツは素材が他のものに比べて伸びにくい為に締め付け感が凄くきついのです。
他のキャラのスーツがラバースーツだとすると、これは厚みだけがラバーのウェットスーツといった感じでしょうか。
特に下半身の締め付けはホントがっちりとして、まるで脱ぐときに無事に脱げるか不安になるくらいです。
そのきつい締め付けの上からだと細かい刺激もより鮮明に伝わってきますが、先程にんなに迷惑をかけたからにはこれ以上無駄に時間を取らせるわけにもいかず、グッと全身に力をこめて快感に耐えます。

ですがボクを撫でる手がボクの指にまで到達した瞬間、予想外の刺激が襲ってきました。
覚悟してなかった刺激にボクはついまた身をよじってしまいます。
「だ、大丈夫ですか?」
急な事に流石に心配したのでしょう、仲良しの子が声をかけてきます。
手を振って平気な事をアピールしつつ、その手に目線をやると先程の刺激の正体が分かりました。
指の間の薄い水かき、恐らくこれが先程の刺激の正体と思われます。
口の中と同じく、ここもボクのデリケートな場所に直結していたようです。
こんな所に性感帯があるとすれば泳ぐときには常に水の刺激を敏感な部位で受け続けなければならない事になります。
これはなんと非道い設計なのでしょうか。

そんなこんなを繰り返すうちにゲルも体中に無事行き渡ったようです。
最後に股間部分のスリットにゲルのチューブを差し込まれ、中からあふれ出てくるまでしっかりと充填されました。
「ではゲルを固めます」
そう言って一人が金色のブローチのようなものに付けられたボタンを操作しだしました。
これは劇中でシルキーが持つマジックアイテムの一つなのですが、ホビー21のお人形にとっては体内に隠された様々な仕掛けを操るリモコンの役割も果たしているのです。
今回はスーツの内部に特殊なパルスをあてることによって、先程まで念入りに体内に刷り込んだゲルを硬化させる為の信号が送られてきます。
こうする事によって水中でもスーツ内に水が浸入してくることを防ぎ、またアンダースーツと外のスーツを癒着させる接着剤のような働きも果たします。
また、スーツを脱ぐ際は違うパルスで再びゲル上にも戻せるそうです。

しかしこの機能初体験のボクにとっては、まるで今自分が実験動物にされてるような複雑な気持ちにもなります。
何かあった場合に助けてくれる筈の七瀬さんも今はいません。
もし今の段階で何かしらトラブルが起きたらボクはどうなってしまうのでしょう?

ボクの密かな心配を他所に硬化はあっさりと完了しました。
先程よりよりキュッとスーツが体に密着したような、そんな印象を受けます。
念の為、最初に自分が入った穴を下半身をまさぐる快楽と戦いながらも探し出ます。
確かにそれらしい切れ目は見つかりましたが、今度は指を突っ込もうとしても開く気配がありません。
これは脱ぐのは再びパルスを当てた後でないと絶対に無理そうです。

最後に表面に付着したゲルを洗浄液でぬぐってもらう事により、裸ではあるものの完璧な人魚の人形が一体完成しました。

次は衣装を身に着ける番、パーツはワンピース型の衣装、あとはネックレスやブレスレット、胸に装着する先ほどのブローチ型アイテム等の小物類で構成されてます。

まずはワンピース型の衣装、これはデザイン上では前開きになっていますが実際はここは開かず着る際は足先から通していかなければなりません。
つまり着るためにはまずボク自身が一旦立ち上がらねばならないのですが、ぴったり両足を拘束されたこの状態では一人で立ち上がるのは非常に困難です。
なので二人に手伝ってもらう事になりました。
それぞれわきの下に頭を通した上で、一気に持ち上げてもらいます。
二人の髪が胸の横や脇の下をくすぐりますがここはじっと我慢です。
やはり立てても安定が悪いので一人に支えてもらいました。
もう一人が脇ファスナーを下げた衣装を目の前の床にすとんと地面に置きます。
また二人に手伝ってもらい衣装の上に着地すると、今度は下からワンピースをゆっくり持ち上げていきます。
この時同時にスカート部分に仕込まれたパニエが魚のヒレとなった下半身をゆっくりと撫で上げてきました。
元々体にフィットする細身の衣装だけにこの時の刺激からは逃れることはできません、そうして迫りくる切ない刺激についつい腰が引けてしまいました。
恐らく二人もそれに気づいた筈ですが、衣装を上げる手は止まりはしません。
七瀬さんの言いつけ通りに作業を進めてるという事かもしれませんが、やはりもしかすると中の状況を知った上で容赦をしてくれる気はさらさら無いだけなのかもしれません。
半透明なパスリーフ状の肩パーツに腕を通すと今度は脇ファスナーを上げます。
脇ファスナーはその構造上必然的にただでさえ体の中でも割と感じやすい部位の上を通ります。
その上腰部分はレオタード状に布が密着するデザインなので、それを閉めるときには体の横を指がなぞっていくような快感が伝わってきました。
更に背中側はリボンで編み上げるような構造になっている為、今度はそれを編み上げてもらいます。
今度はリボンがしゅるしゅると音を立てて肌の上を滑る度にその刺激は切ない信号となって中にも伝わってきました。
更に編み上げによって細いウェストがより強調された素敵なボディラインが完成します。
パツパツに拘束されるウェストからアンダーバストまでと違いバストの部分は割とゆったりしています。
但しこれも曲者で、ふわっとした衣装の感じを出す為にこの中には細かくパニエが仕込まれているのです。
このパニエが中でバストをさわさわと刺激し続けるために、こちらからもまた非常に悩ましい刺激が常に中に伝わり続けます。
更に大きく開いた胸元に輝くネックレスやブレスレットには指の水かきと同じような透明な薄い膜がフリルのように仕込まれており、これらもまたパニエ同様に柔らかい刺激を生み続けるのです。
ですがその事を二人に悟られてこれ以上いじめられては流石に身が持ちません。
何とかばれない様必死に振舞います。
最後にマジックアイテムである先ほどのブローチを胸に、同じくマジックアイテムのタクトを腰に装着してようやく着替えも完了しました。

鏡を見ます。
マリンブルーの視界のせいで色こそ鮮明ではありませんが、そこには資料で見たとおり、いやそれ以上に可愛らしいお人形がたたずんでました。
可愛らしさの中にも上品さを感じさせる微笑み。
この中に暑さと湿気と汗の臭いと快楽でぐちょぐちょになってる人間が閉じ込められてるとは誰が信じられるでしょう?

その姿に見とれそうになっていると再びドアをノックする音、今度は仲良しの一人が声で応じます。
「丁度いいタイミングだった様ですね」
新しいタキシードに着替え終えた七瀬さんが入ってきました。

「では時間もありませんので早速パーティー会場に向かうとしましょう。
エスコートは私めにお任せを、お姫様」
そう言って右手を差し出します。
またも様になるそのポーズに一瞬見とれてしまいますが、ボクも今は人魚姫らしく応じねばとその手のひらに柔らかく手を重ねます。
その瞬間、手をつかまれたかと思うと今度は不意に引き寄せられました。
気づいた次の瞬間には既にお姫様抱っこの形でボクの身体は七瀬さんの両腕に抱えられていました。
長身の七瀬さんと同じ高さにまで顔が来たので、その高さに驚いたボクは反射的に七瀬さんの首に両手を回します。
「では後の準備もありますのでこの部屋の片付けは任せましたよ」
「はい」
「はーい」
二人に告げると七瀬さんはパーティー会場へと足を進めます。

会場もまた個人宅とは思えない広い部屋でした。
いくつもの丸テーブルが並べられ、奥にはマイクスタンドや巨大なテレビモニター。
そしてその奥の高い位置に丁度人が横向きに収まるくらいの水槽が設置されています。
ここが今日のボクの第一のステージとなる場所です。

水槽の前に設置された台に上り二人(一人と一体?)で中を覗き込みます。
底の方だけ軽く水が張られ、カラフルな海草や珊瑚が敷かれています。
上面には蓋がついており、その両脇には南京錠も取り付けられています。
なんとなく脱出イリュージョンなどで使われそうな水槽だなと思いました。
もちろん今日は脱出マジックは行いません、脱出せずに居られること自体がマッジクのようなものですから・・・

「・・・怖いですか?」
七瀬さんが耳元でつぶやいた言葉に一瞬心を見透かされたような気がしました。
ですがもうここまで来たら後戻りはできません、それにここで怖気づいてはキャラに入るために競い合ってる他の候補生のみんなにも失礼です。
勇気を振り絞って首を横に振ります。
七瀬さんはその様子を満足そうな表情で見つめると優しく水槽の中に人魚姫を寝かせました。

「では、始めますね」
心臓はバクバク音を立ててますが、もう一度勇気を振り絞りうんと頷きます。
きしんだ音を立てて水槽の蓋が閉まりました。
更に2回ガチャンという音、南京錠も閉じられたようです。
念の為に今出来たばかりの天井を手で押し上げてみますがびくとも動く気配はありません。
覚悟はしていましたが自力での脱出はやはり不可能そうです。

今度はドドドドという音とともに水槽内に水が流れ込んできました。
足元側の蓋に空いた小窓から今まさに注水されてるのです。
狭い水槽はものの数十秒で水で埋まってしまいました。
反射的に息を止めますがやはり持つわけがありません。
耐えられずに息を吐き出すと、不思議なことに先程までより呼吸が楽なことに気がつきました。
このスーツの特性により皮膚が水中から酸素を取り込んで呼吸を助けてくれてるのです。

周りが水で埋められたことにより、青一色だった視界は更に不透明度を増します。
水槽の外は辛うじて見えますが、そこはゆらゆらと揺らいでまるで遠い別の世界のように見えました。
不意に目の前を赤いものが横切ります、クマノミです。
先程の小窓から熱帯の魚達も放流されて来たようです。
いつもは外から眺めてるはずのこの世界に今はボク自身がいる、それが魚たちの存在によってよりリアルに実感できました。
音はゴボゴボといった水の音が聞こえるだけで外の音はほとんど聞き取れません。

しかし突然耳元にクリアな声が響きます。
「聞こえますか?スーツの機能は問題ありませんか?」
七瀬さんでした、水槽の前からスーツに内蔵されたインカムを通してこちらに語りかけているようです。
ボクは指でマルを作ってそれに答えます。
「資料でお伝えした通りスーツの内臓電源は生命維持機能での消費を最優先させる為、インカムはこちらから最低限しか使いません。もしそちらでトラブルが生じたらブローチの機能を使って知らせること。使い方は分かってますね?」
もう一度マルで答えます。
「宜しい。ではお姫様、狭いお部屋ではございますがパーティーの時間まで御緩りとおくつろぎくださいませ」
その言葉とともに真っ黒な遮光布が視界全体を覆いました。

七瀬さんはどうやら何処かに行ってしまったようです。
今のボクの周囲は真っ暗で何も見ることができません。
耳元ではコポコポと音が鳴っています。
きっと水槽に酸素を供給するエアレーターによるものでしょう。
そんな小さな装置に今生かされてるのだなと思うと、暗闇から来る不安と相まってなんだか惨めにもなってきました。

ふと、先ほどより少しずつ大きくなってくる何かの刺激に気づきました。
それは体中をさわさわと優しく撫でる様な嫌らしくも切ない刺激です。
一箇所ではありません。
腕から脇から首筋から下半身まで体中のデリケートな部分から絶え間なく伝わってきます。
これは何なのでしょう?海草の刺激でしょうか?
やがて耐えられなくなり狭い水槽の中で少しずつ身を捩じらせますが、どれだけ動こうと刺激は確実に核心を捉えて離してはくれません。
ボクはどうすることもできずひたすらその切ない刺激に耐え続けました。

そうしてひたすら孤独と切ない快楽の刺激に耐えるだけのただただ長い時間か始まったのです・・・

そしてどれだけ時間が経過したでしょう?
真っ暗なので全く時間の概念が無くなってしまいました。
未だに全身の切ない刺激は消えることがありません。
体の内側は荒くなった呼吸のおかげで更にいっそう蒸れが強りました。
ただし変化も感じられます、ゴボゴボという水の音の向こうから聞こえる外の声がかなり賑やかなものになってます。
その中で一際大きく響く声には聞き覚えがあります。
これはそう、七瀬さんのものでした。
途端、耳元に鮮明な一言が飛び込んできます。
「行きますよ」

少し間を置いた後、不意に視界が明るくなりました。
目から飛び込んでくる青い光が先ほどより強く感じるのはボクの目が暗闇に慣れただけのせいじゃありません。
この水槽自体がライトアップされてるのです。

先ほどまで誰もいなかった会場は人で溢れていました。
テーブルの上には所狭しと料理が並べられてますが、誰も進んで口に運んでる様子はありません。
むしろその興味は皆この一点、狭い水槽に閉じ込められた人魚姫の人形に注がれているのです。

「姫様、皆にご挨拶を」
またも鮮明に届いた七瀬さんの支持に従い、狭い水槽に苦労しながらもなるべく可愛く手を振ってアピールします。
その手にふと目が行ったとき、あることに気がつきました。
ブレスレットについた透明フリルが水流と関係なくフワフワと動いているのです。
よく見ると体中のフリルやスカートが同じように自動的に動いてるようでした。
どうやらこれこそが先ほどまでの切ない刺激の正体だったようです。
道理で逃げられないわけです、衣装の一部なので逃げようがないのですから。

明るさに目が慣れてくるに伴い、周りの状況もより判ってきました。
七瀬さんの声が響いていたのはマイクで司会を担当してるからのようです。
目の前のモニターの向こうから明るい光が漏れているのはアニメのプロモーション映像を流しているのでしょう。
こちらからだと観ることができないのが残念です。

パーティー会場の給仕役はよく見ると皆ボクと同じくお人形でした。
しかもホビー21で見たことのあるお人形もいますが、大半は初めて見るお顔ばかりです。
衣装も本格的なメイド衣装からアニメチックなメイド服、男装の執事服と実に様々。
中にはバニースーツやラバーキャットスーツの娘までいます。
そう言えば「ID社グループは実は裏ではお人形メイド派遣業もやっている」とか「どこぞのお金持ちの家にお人形のメイドが働いてる」とかいう噂も耳にしたことがありましたが何か関係があるのでしょうか?
しかし水槽の中からではそれ以上を知る術はありません。

一人の老紳士が近づいて来られました。
目の前でにこやかに会釈されたので、こちらも両腕を前に寄せて水槽の中で動ける範囲で前かがみにお辞儀します。
その瞬間でした。
締め付けの弱くなった胸の谷間に何かが飛び込んできました。
クマノミです。
行き場を失ったクマノミはバストと布の間を逃げ場を求めて泳ぎまわり始めました。
予想外の事態です。
割とカップのあるバストをクマノミが舐める刺激は耐え難いほどの波となって中に伝わりますが、水槽に腕の動きを制限された状態ではそれを自ら逃がすことも出来ません。
そして何より人前で姫がバストに手を突っ込むようなはしたない真似もする訳にはいきません。
どんな状況であろうと人前では平静を装わなくてはならないのです。
何とか中の葛藤を悟られないように老紳士の目の前の人魚姫は必死さを隠しつつ上品に振舞います。
クマノミとの格闘は一分間にも満たないものだったかもしれませんが、ボクにとってそれは永遠にも近い時間にすら思えました。
ようやくクマノミは衣装の袖のあたりから外に逃げ出します。
その一部始終をにこやかに見届けた老紳士は実に満足そうに笑いながら水槽の前を後にしていきました。

パーティーが始まってようやく一時間ほど経ったかと思う頃、水槽に二つの異様な影が近付いて来るのがマリンブルーの視界に映りました。
女性型で衣装をまとわず、恐らく銀色に輝いているであろうそれは一見お人形のアンダースーツかと思われましたが・・・そうではありません。
水槽に近づくにつれて姿がはっきりと見えたそれは「金属のような光沢のラバー」ではなく「金属そのもの」に全身を包まれているのが分かります。
間接部分に切れ目が入ってる以外は殆ど継ぎ目なく金属に覆われており、その動き方はややぎこちなく見えます。
というより動きづらいのでしょう、それらはぴっちりとした金属の装甲に覆われた2体の女性型ロボットそのものでした。
それが2体、ゆっくりこちらに近づき、水槽の両脇に立ちます。 ボクの頭側に来た方の女性型ロボットと目が合いました。 顔はやはり女性らしい美しいラインが彫刻され、目は淡い光を放ちながら水中のボクを覗き込んでいます。 その無機質な表情は生命らしさを感じさせませんが、きっとこの中にもボクと同じように人形に閉じ込められた誰かが居るのでしょう。
「では本日のお姫様にはメインディッシュの準備の為にここで一旦ご退席頂きます」
水音の向こうからかすかに七瀬さんの言葉が聞こえたその途端、水の入ったままの水槽は軽々と2体のロボットにより持ち上げられました。
そして先ほどのぎこちない動きとは裏腹に綺麗な平行運動でボクはパーティー会場から運び出されます。

水槽が運び込まれ、蓋が開かれたその部屋は厨房のようでした。
異様な姿のボク達を気にすることなく料理人さん達が慌しく動いてます。
先ほどの女性型ロボットの力で人魚姫は軽々と水揚げされました。

後で聞いた話ですが、このロボット・・・もちろんこれも人が入ってるスーツなのですがID社がお人形の技術を応用して開発している介護用のパワードスーツなのだそうです。

気づいたら先程まで絶え間なく人魚姫に苦痛と快楽を与え続けたフリルの運動は停止していました。
恐らく水中でのみ作用する仕掛けになっていたのだと思います。
水を吸った衣装はぴったりと体に吸い付き、またさっきとは違った感触を中に伝えてくれます。

ですがその感覚に浸ってる暇はありません。
次の出番の為にはこの衣装を脱ぎ捨てねばならないからです。

ここでもロボット達が手伝ってくれました。
その見た目からは想像できない繊細な手先の動きでスルスルと衣装を脱がせてくれます。

この次は殺菌です。
不意に一体のロボットに後ろから両手首をつかまれ十字架のような形に固定されてしまいました。
掴まれてる部分は決して痛くはないのですが、水ごと水槽を持ち上げるロボットの力です。
うんともすんとも身動きを取ることができません。

もう一体のロボットが消毒液をしみ込ませた綿で全身を撫で始めます。
やはり見た目とは裏腹な非常に繊細で悩ましい手つきで、ボクは一瞬で翻弄されだしました。
本日何度目の責め苦か分かりませんが、何度目であろうとそうそう慣れるものではありません。
背後のロボットの力によって逃れられないまま全身の消毒を終えた頃、既にボクはぐったりと力尽きてました。

ぐったりとした人魚姫の体は再びロボット達に抱えられ、木で出来たハンモックのようなものに寝かされます。
その正体は巨大な刺身の船盛り用の船でした。

もうお分かりでしょうか?この後ボクは文字通り「メインディッシュ」の役割を務めなければならないのです。
これから人魚姫は生きた大皿となり、その身に盛ったお刺身で本日のご来賓の方々の舌を楽しませるという本日最大のお役目が待っているのです。
こんなことしたら普通は刺身がすぐに痛んでしまうのかもしれませんが、今回のスーツは熱が外に逃げずに皮膚の外は常に温度が一定以下な為にその心配もないのです。
だからこそこのスーツにはうってつけとも言えますが、そのおかげで外に逃げない熱はスーツの内側を今も攻め続けています。
先ほどの全身消毒も刺身を盛る為の準備でした。

もちろん全身を箸でつつかれることにより、地獄のような快楽に襲われることは今からでも想像に難くないです。
ですが今度はその身体に盛られた刺身を崩してしまわないように、決して身を捩じらせることなくただただ耐え続けなければなりません。
物理的に身体を拘束されてない代わりに、今度は自らの意思で動いてしまわないように努めないとならないのです。
恐らくこれが本日最大の試練となるでしょう。

待ち構えていた板前さん達の手によって人魚姫の体の上には刺身のツマが、大葉が、山葵が、そして色とりどりの刺身が次々と盛り付けられていきます。

ツマのくすぐるような刺激と刺身の肌に吸い付く感触が早速襲ってきます。
その刺激は先ほどまでに襲ってきたどれよりも更に嫌らしく、もうすでに身を捩じらせるのをこらえるのが精一杯です。
これで本当に最後まで耐えられるのでしょうか?

「おお、新しいドレスもお似合いですよお姫様」
なんとか綺麗に盛り付けがすんだ頃、七瀬さんも厨房にやってきました。
「さて最後の仕上げです、口をあ~んした上で両手の平を天井に向けてくださいますか?」
その頃のボクは絶え間なく襲ってくる快楽にすっかり負けて冷静な思考が出来なくなってしまっていたんだと思います。
言われるままにあっさりと差し出したその手に素早く二つの小皿が置かれました。

いきなりのことで戸惑う人魚姫に七瀬さんは語りかけます。
「刺身醤油が入ってますのでお気をつけて。重くはないでしょうが本日のご来賓の方々のスーツは皆高級品なので汚すと大変なことになりますよ♪それと・・・」

更に呆気にとられた隙を突かれ、今度は醤油さしから刺身醤油が開いたままの姫の口に注がれました。
「醤油皿が足りてないのでこちらもお借りしますね♪
満杯近く入れてしまいましたが、姫様とあろうお方が人前で真っ黒な涎を垂らすような事はないようにご注意を。」
朗らかな笑顔でそう告げられました。



おしまい。


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