彼女がカノジョに着替えたら [戻る]


「うーん…」
オレは段ボール箱を前に一人悩んでいいた。
話はさかのぼる事、半年前。
念願のというか、うっかりというか、とある工房に着ぐるみを注文し、今自分の目の前にある段ボール箱なのだ。
と。横にあった携帯が鳴った。
「ん?あ。メールか」
ミナからのメールだった。

ねぇ。今度の日曜ヒマ?っていうかどうせヒマでしょ。
買い物行きたいから付いて来てよ。

「またか…」
と、思いつつも「これは」と思いOKの返事を出した。
すぐに返事は返って来た。

じゃ。いつもの所で10時ね。
おやすみー。

土曜日深夜。妙な緊張感から眠れずにいた。v 頭の中でぐるぐると妄想が膨らんで行く…。
「あー… 落ち着け…」
自分に言い聞かせた。
そんな事を考えているうちにいつの間にか寝てしまい、起きたのはギリギリの時間だった。
オレは慌てて身支度を済ませ、着ぐるみを入れたバッグを持って待ち合わせ場所へ向かった。


待ち合わせ場所に着いたのは10時ギリギリだったが、ミナはまだ居なかった。
「良かった…」
と。思っていたら、後からミナがやって来た。
「遅い」
「あ。ゴメン」
「って。ワタシも今来た所。さ。行こ」
歩いているとミナがオレのバッグに気付いた。
「ねぇ。なんで今日そんな大きいバッグ持ってるの?」
「えっ。あ。いや。別に…」
「ま。いいけど」
あっさりと返され、少し拍子抜けした。
退屈な買い物も済み、二人はコーヒーショップに入った。
「ねぇ。これからどうする?」
「んー…。まだ早いしなぁ…」
「何が?」
「いや…」
「何?」
「別に…」
「何?今日。何か変。具合でも悪いの?」
「いや…。何か昨日あんまり寝れなくて…」
「そうなんだ。あ。そう。でさ…」
と。ミナがいつもの様にしゃべっていたがよく聞こえなかった。
「ねぇ。聞いてるの?」
「ん?あ。あぁ…」
「あ。そうそう。ピオーネってホテル知ってる?」
「ん?ピオーネ?あ。えーっと、どこだっけ?最近出来た所だよね。それがどうかした?」
「あのね。この間友達が、そこにカレシと行ったんだって。それで凄く良かったって」
「へー」
「ねぇ。今度行こうよ」
「あ。いいけど。って言うか、今から行く?どうせヒマだし」
「え?まぁ、まぁ… いいけど…」


「シャワー先いい?」
そう言ってミナはバスルームへ入って行った。
「さて…」
オレはソファーに座り近くにあったパンフレットを手に取った。
メニュー、ルームガイド、リモコンの使い方、アダルトグッズ、コスプレのレンタル…。
「ん?あ。そういえば、衣装が無かったんだ…」
コスプレレンタルのパンフレットを片手に受話器を取りフロントに電話を掛けた。
「あ。305号室ですが。えー。コスプレのレンタルをお願いしたいんですが。え?あ。はい。えー。7番です。あ。はい。ナースです。はい。あ。あと。アイスコーヒーを2つ」
電話を切るとバスローブ姿のミナが後ろに居た。
「電話?」
「うん。あの。ドリンクサービスがあるみたいだから、それをね…。アイスコーヒで良かった?」
「いいけど。それはそうと、シャワー浴びたら」
「え?うん。あ。でも、ドリンク頼んだし、すぐ来るかもしれないし…」
「その時はワタシが出るからいいよ。シャワー浴びて」
オレがシャワーを浴びていると、部屋のチャイムが鳴ったような気がした…。
シャワーを浴び、服を着てバスルームから出るとミナがナース服をまじまじと見ていた。
「ねぇ。これ何?まさか、ワタシに着れって言うの?」
「う。うん…。まぁ、たまにはこういうのもどうかなって思って…」
「えー。やーだー」
「まぁ、そんな事言わないでさ…。あ。そうだ…」
オレは早速アレをバッグから取り出した。
「ねぇ…。ついでと言っちゃなんだけど、お願いがあるんだけど…」
「え?何?」
「これを…」
と。オレはマスクをミナの前に出した。
「え?何これ?これをワタシがかぶれって言うの?」
「う。うん…」
「えー。やだ。こんなの絶対イヤ」
「いや…そこを…」
「いやだ。ワタシよりこのアニメみたいなのがいいって言うの?」
「いや…。そうじゃなくて…」
「じゃあ何?」
「いや。その。何て言うか、オレはそういうのを着てもらいたんだよ」
「え?どういう事?意味わかんない」
「いや…。だから…」
どう答えればミナが納得するかよくわらないでいたが、ミナが折れたようだ。
「まぁ。いいよ。で。これってそのままかぶればいいの?」
「あ。あと、悪いんだけど、ついでにこれも…」
と。今度は肌タイツを出した。
「え?何これ。これも着るの?」
「うん」
「わかった。じゃあ…」
ミナは着ていたバスローブを脱ぎ下着姿になった。
「で。下着は脱ぐの?」
「いや…。そのままでいい」
ミナは肌に足を通していた。
「あれ?」
「ん?あ。それ逆。ファスナーがある方が後」
肌タイツを一度脱ぎ、再度右足を通し始め、そのまま着ていった。
「ねぇ。ちょっとファスナー閉めてよ」
「あ。その前に、頭」
肌タイツの頭をかぶせファスナーをゆっくり閉めた。
「ねぇ。これ結構キツいし苦しいんだけど…」
「そ。そう…」
「ねぇ。これじゃ何か裸みたい」
そう言いながら、ミナは肌タイツだけの姿で鏡を見ながらたるみを直していた。
「これでそのマスクをかぶるの?」
「いや。その前にこれを…」
とナース服を渡した。
「あ。そうね」
ミナはナース服を着始めた。
「今度こそ、これ?」
「そう」
オレはミナにマスクをかぶせた。
「どう?」
「うーん…。前がよく見えない。あと、結構苦しい」
と。マスク越しに少しこもったミナの声が聞こえた。
「さ。どんな感じか見てみて」
と。オレはミナを鏡の前に立たせた。ミナは鏡の前で色々とポーズをとってみたりしていた。
「どう?」
「うーん…。何か変な感じ。それで、これからどうするの?」
「え?」
「だから、これからどうするの?まさかこのままエッチしようって訳じゃ無いよね?」
「え?あ。いや…。あ。そうだ。写真撮ろ。ね。」
オレはバッグの中からデジカメを取り出し、撮り始めた。
「もう。これ苦しい」
すぐにミナがマスクを外した。
「も。もちょっとガマンして」
ミナにもう一度マスクをかぶらせ写真を撮り続けた。
ミナも時々苦しいと言ってはマスクを外していたが、ノッて来たのか段々と大胆になって行った。
「ねぇ。このままエッチしよ…」
ミナがオレに抱きつき小さく言った。
「え?このままでいいの?」
「うん…」
そのままゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
「ん… あ…」
小さく囁くミナの声がマスク越しに漏れた。
「ねぇ… はやく…」
ポケットからハサミを取り出そうとした時ふと我に返った。
「何?どうしたの?」
「あ。いや…」
そう言ってミナのマスクを取った。
「どうしたの?」
「ん?いや。別に…。続きは脱いでからにしようよ」
「え?うん。いいよ…」
オレはミナの肌タイツを脱がせ、汗で少し湿った身体を抱きしめた…。
すべてが終わりミナがオレに聞いた。
「ねぇ。何であの時、途中でやめたの?」
「え?あ。いや…。やっぱりそのままがいいなって…」
正直な所オレも何でかわからないが、そう言ってみた。
「そうなんだ…」
「え?何?あのままが良かったの?」
「そうじゃないけど、ならいいや」
ミナがクスッと笑った。
「え?何?」
「ん?なんでもない」
そう言って横を向いた。
…。
帰り道オレはミナに今日の事を聞いてみた。
「ああいうのってどうなの?」
「まぁ。ちょっと苦しかったけど、嫌じゃないよ」
「良かった」
「でも、そういう趣味があるっていうのはちょっと引くけど…」
「え?ま。まぁ、そうかも…。じゃあ、またやってって言ったら?」
「うーん。嫌じゃないけど、たまにならいいよ。たまにならね」
「そうなんだ…」
これで良かったんだよな…。オレはこれがしたかったんだよな…。
達成感のようなものと、罪悪感のようなものが入り交じったもやもやした感じを残したままミナと別れ家路に着いた。

おわり。


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