「お姉さま(ひみつ・・・)」 [戻る]


薄暗い部屋の中、ボウっと光っているパソコンの画面。まるで黒い全身タイツを着ているような“人物”がニヤリ!と、ネッッットリ絡み付くつような、気味の悪い笑みを浮かべた。
〔これでいい。これが完成すれば、あの方の全てを、我が手中に納めることが出来る。ハハハハ!〕
チラッと覗きこめた画面には、ある人物のデータが違う人物のデータに書き換えられようとしていた。

カチッ。

ゲージがだんだんと100%へと近付いて行きそしてついに、〈END〉の文字が点滅した。全てが終わってしまったようだ。
あわれな被害者の名前は、折原真秀。この人物の全てが葛城美紗都とゆう人物のデータに書き換えられてしまった。


「ん~。どうしよう、収集つかなくなっちゃった」
パソコンの画面は向かってわたしは、そうつぶやいた。〆切は半年も前に終わってて、鬼のような担当者の、美咲涼(みさきりょう)さんが、わたしを見張るように、後ろに控えている。
「無駄口叩いてないで、さっさと仕上げる!」
「アァ~もう無理!ねぇ涼さん」
わたしは、哀願するような視線を涼さんに向けた。
「・・・・〆切なら伸びませんよ」
「そうじゃなくて、美紗都お姉さまに人格交替していい?」
わたしは、行き詰まりといつも、美紗都お姉さまに着替えてから仕事をするようにしている。実際、美紗都お姉さまになると驚くほど、はかどるんだもん。
「・・・・しょうがないですね。・・後、5時間で完成させてください。それがギリギリのデッドラインですから。もし、遅れたら、・・・・干すから」
額に手を当ててあきれたような口調で、そう言い残して、涼さんは部屋から出ていった。
「ハァ~イ!分かってますって、美紗都お姉さま頼みますよ」
わくわくしながらわたしは、美紗都お姉さまに着替えた。


『ったく、しょうがない娘ね。しり拭いはいっつもわたしなんだから・・・』
わたしは、マホの変わりにパソコンの前に座った。
『・・・・・・半分も出来てないじゃない』
わたしは、頭を抱えたくなってしまった。
『しかも、なにこの小説?プロットもめちゃめちゃだし、今回は本格ミステリじゃなかったの?』
マホの書きかけの小説を読み終えたら、開いた口が塞がらなかった。本格ミステリとは完全にかけはなれた、作品とも呼べないような小説もどき――ただの文字の羅列――が、並んでいた。
『人物だけはなんとか、使えそうね。これなら、acpシリーズに流用できるわ』そうつぶやいた、わたしは、頭の中を世界最速のスーパーコンピュータをもしのぐ処理能力モードへと切り替えた。そうなると、完成するまでは寝食を忘れて完全に、その世界にのめり込んでしまっちゃうんだもん――でも、わたしって着ぐるみだから関係ないんだけどね――。

わたしは、いつものように美紗都お姉さまの、お仕事ぶりを覗かせてもらうことにした。パソコンの画面を覗きこんでみたら、物凄い勢いで文章が綴られいくさまが見られた。
「・・・・わたしには、とても無理だわ。やっぱり、まかせてよかった」
そう言ったわたしを、叱るように、美紗都お姉さまからキツ~イ雷が落ちた。
『これぐらい、わたしにならなくても、出来るようになりなさい。じゃないと、出してあげないわよ!』
「いやぁん、そんなこと言わないでぇ、お姉さまァ、なんとかがんばってみますから」
『だったら、邪魔しない!』
「ハイ!ごめんなさい」
そう言ってわたしは、静かに意識を閉じた。

4時間半後。

カチャッ。カチャッ。・・・カチャッ。
『・・・・・・ハイ!完成。後は、タイトルだけよね・・・。マホ!タイトルぐらいは自分で付けなさい』わたしは、そう言って今まで酷使した頭を休めるように、意識を閉じた。

「あっ!ちょっと、お姉さま!無理ですよ、タイトルなんて。絶対に無理ですって、・・・・・でも、しょうがないか、代わりに書いてもらったから、残り30分。ない知恵しぼって考えましょう」
仕方なくわたしは、美紗都お姉さまを脱いだ。それから、わたしは、お姉さまがかんたんに書いてくれた、あらすじを読み始めた。
「・・・・・ん~ン。〈陽だまりのねがい〉かな?」なぜか、唐突にこの単語と、字面が浮かんきた。
「うん!これしかないわ」思わずガッツポーズをしてしまった。わたしは、忘れないうちにタイトルを打ち込んだ。

ほんの少しだけ、お姉さまが書いてくれた、〈陽だまりのねがい〉って小説のあらすじをここで紹介しちゃいます。

〈陽だまりのねがい〉
人形作家の川奈辺みずえ。この人物が作り出した“人形”の中でたった一体だけ、所在不明の“人形”がある。しかし、永らく所在不明だったその“人形”が、ついにある人物の手により発見された。
だが、その人物は、この“人形”を「もう二度と誰の目にも触れさせない」と、宣言し、K県の上A市の沖合約3キロの地点に浮かぶ、周囲2キロほどの〈宮の島〉に屋敷まで建てて、移り住んでしまった。
それから25年後。その“人形”をめぐって血で血を洗う忌まわしい惨劇が繰り広げられた。
語り手の一人称で進む物語。第一の殺人。島にいるメンバー全員にはアリバイなし。そして、起こる第二、第三の殺人。意外な犯人。意外な動機。最後に犯人の言った言葉に・・・。

ガチャッ。
なんのまえぶれもなくわたしの部屋のドアが開いた。「美紗都さん小説できました?」
そう言いながら入って来たのは、担当者の美咲涼さんだった。
「涼さん、もう、マホですよ」
「チェッ!たまには、美紗都さんに逢わせなさいよ」涼さんは、心底くやしそうな表情を見せた。
「ハイハイ今度、聞いておきますよ。それより、はい。完成しましたよ小説。〈陽だまりのねがい〉ってタイトルですから」
そう言いながらわたしは、一枚のMOを手渡した。
「確かに。でも、ホントは、あなた自身が仕上げなくちゃいけないのに・・・・」
ぶつぶつと文句を言いながらも涼さんは、さっさとMOをバッグの中へしまった。「じゃぁ、見本本が出来たら持ってきますから。それに、今度こそ美紗都さんに逢わせて下さいよ」
そう言いながら涼さんは、部屋を出ていった。
「ハーイ、分かってますって」

バタン。

ドアの向こうから涼さんの気配が完全に消えてしまうのを確認したわたしは、「ふ~、疲れた。さすがに、このキャラを着てると疲れるわ、特にこのマホは』と、素の自分に戻ってそうつぶやいた。
そして、おもむろに被っていたウイッグを取り去り、頭のうしろにあるマイクロジッパーを引き下げた。
『あぁ~、肩凝ったぁ。目ぇ疲れたぁ』
ぐったり。心底疲れ果てたわたしは、そのまま、意識が遠のいてしまった。

「・・・・・・この隙に、に、逃げなきゃ」
部屋の片隅にうずくまるようにして、震えていたわたしは、最後の勇気を振り絞って立ち上がった。
そう、わたしは、今まで突然、わたしの家におしかけて来た、ファンを名乗る人物に監禁されていたのだ。玄関先で対応していたら、いきなり、麻酔剤のようなものをかがされ、気が付いたら、着ぐるみ――もちろんDoll Club 製で、半月ぐらい前にわたしが買いかえて処分したはずの着ぐるみに(ただし喋れないタイプの)――を着せられ、両手両足の自由を完全に奪われていた。
しかも、わたしは、ちょっと前に書いた小説の資料として、SMグッズを集めていて、監禁されるさいには、それが活躍してしまった。一番長かったのは、麻のロープを使った緊縛で、完全に身動き出来ないように縛られたまま、丸二日放置されたり、あげくのはてには、涼さんが来たときに「ちょっと、新しい趣味に目覚めたみたいだから練習してる」などと言いながら、わたしを縛り上げていったりもした。時たま、着ぐるみから出されるんだけど、ぐったりしているわたしの首に素早く首輪を付けられてしまうために、どうしても逃げ出すチャンスがなかった。
でも、今日は、たまたま着ぐるみから出されていた時に、涼さんが訪ねて来たために、ただ、縛られ、猿轡をはめただけで、クローゼットに入れられただけだった。だから、このチャンスを逃すと、一生このままだと思えたから、勇気を振り絞って脱出をした。

はたして、脱出は成功・・・・・・しなかった。なぜなら、部屋から出るとそこには涼さんが待ち受けていた。
「あまいよ。そう簡単には、逃がさないから」
その一言で、わたしは、悟った。全ての黒幕は美咲涼さんだったと・・・。


いまだにわたしは、着ぐるみに閉じ込められ、涼さん専属のメイド着ぐるみとして生活している。
しかも、涼さんがどこかへ出かけるときには、完全緊縛されて、バイブやローターを入れられたまま放置される。ひどいときには、帰って来てからも、そのまま放置されたりする。だから、わたしは、わたしは・・・・・・

『なっ、なにを書いてるんだか』
意識を取り戻したわたしは、あきれて言葉もなく画面を見つめ続けた・・・。

どこか場所は不明だけど、モニターがたくさん並んでる部屋。

にやり!

と、音の出るようななんとも形容しがたい笑みを浮かべた、黒い全身タイツを着込んだ人物は静かに、モニターの前を離れた。

モニターの中には、Doll Club製の着ぐるみを着た人たちの私生活の全てが写しだされていた。つまり、一度でもDoll Clubに入ると、私生活の全てを作り出した人物の監理下に置かれてしまうのだ・・・。
(などと、ゆうことはないはずですよたぶん・・・)



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