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わたしが、わたしでなくなってから、早半年。
あの日からわたしの人生、人格、他人の中に存在するはずのわたし自身の記憶、役所などに存在していたはずの、公的な記録などは、全て美紗都お姉さま――つまりは、着ぐるみの設定通り――に変えられていた。
わたしがわたしでなくなる一週間前。その日、珍しく美紗都お姉さまでなくてわたし――折原真秀――が、久しぶりにネットサーフィンをしていて、数少ない記憶を頼りにしてまた、あの販売専門ページにたどり着いた。
「やっと、見つけた。今度は妹系のキャラクターがいないかな?」
そう言いながら画面をスクロールさせていると、
【ずっと着たままでいられる着ぐるみが、ついに完成!少し特殊な方法になりますが、飲食可能。今なら、先着10名様に限り御希望のキャラクターと、もう“ひとり”プレゼントさせていただきます。*なお、詳細なデータさえ頂ければオリジナルキャラでも、構いません*】
ラ、ラッキー!その広告を目にした瞬間わたしは、何かに取り付かれたかのように、狂喜乱舞した。だって信じられる?今までの着ぐるみは、一日が限界だったのに、今度はいつまでも着てられるんだよ。それに、少し特殊な方法だけど飲食可能だって、これで連休とかは、ずっと着てられる!そう思ったわたしは早速、美紗都お姉さまと、わたしのオリジナルキャラの葛城続葉(つづは)を注文することにした。
ちなみに続葉は、美紗都お姉さまとは腹違いの姉妹で、一応小説家。ジャンルは、本格ミステリらしい――なぜか書く作品はファンタジーみたいな作品が多い――。服装はいつも、黒系統の物しか身に付けない。ちなみに美紗都お姉さまでさえも、黒系統の服しか持ってない。スタイルは二人ともまったく同じ――母親が違うのになぜか?――。
顔はびっくりするぐらいの童顔でよく、中学生ぐらいに間違われる。
などのデータを注文画面に書き込んで、わたしは、送信のアイコンをクリックした。
そして運命のあの日。
美紗都お姉さまが初めてわたしの家に来たときと同じように、わたしは、まずは続葉の中にわたし自身を封印した。もう、美紗都お姉さまで慣れてるためか、わたしは、さほど手間取ることもなく全てを身に付けた。
『なんか、違和感があるのよね?・・・・やっぱり美紗都お姉さまじゃないと、落ち着かないのかな・・・。ん!やっぱり美紗都お姉さまになろう』
美紗都お姉さまより、かなり甲高い声でそう言うが早いかわたしは、続葉から脱出した。
新しく来た、美紗都お姉さまにわたしを封印する段階になった時にいつも美紗都お姉さまをしまってあるクローゼットから、ガタッ!とゆう物音がした。
「!なっ、何かいる・・・わけないか、あそこにいるのは美紗都お姉さまだけだもんね」
ちょっと、びっくりしたけどさほど、気にとめることもなく、わたしは、新しい美紗都お姉さまにわたし自身を封印していった――これがわたしが自分の容姿をみた最後になった――。
次の日の夜。
わたしは、美紗都お姉さまから脱出をしようとしたが、どうしたことかあるはずの出入口を見付けられなかっかた。それどころか、口の中に手を入れてみたら、唾液が着ぐるみに包まれたわたしの指に付着してきた。
『・・・・・、なんで?なんで、唾液が・・・。そ、それに出られないなんて・・・』
あまりのことに、それだけ言うのがやっとだった。
真っ青になったわたしは、なんとかしなくちゃ、って思って、読む気がせずに放り出しておいた説明書を隅々まで読み始めた。そして、驚愕の事実が記されてした。
《今回の着ぐるみでは、決して、プレゼントさせていただいた着ぐるみからは、着用しないでください。特殊な薬品を仕様しておりますため、一度着用された後、今回御注文分の着ぐるみを着用されますと出入口が癒着し、出ることが出来なくなるばかりか、口やその他の開口部が開いてきます。最終的には、完全に皮膚に同化してしまいます。》
たった数行の文字のつらなりが、わたしの中に存在していた“希望”の二文字が瓦解していく音が、頭の中で大きく響きわたった。
『・・・・・』
言葉もなく立ち尽くすわたしにさらなる追い討ちをかけるように、“誰か”の声が頭の中に響いた。
〔頂いたわよ、あなたの全てを。死ぬまでその姿でいなさい〕
〔だから、忠告したじゃない〕
〔いや、これは本人の意思だから、仕方のない事だ〕〔なんとか・・・・・・〕『・・・・・・いやぁ~~!』
誰もいない部屋の中にわたしの虚しく、悲しいけど悲痛な悲鳴ともおえつともつかない声が響いた。
いつまでも・・・。
それから、いくらわたしが、「わたしは葛城美紗都じゃない。わたしは、折原真秀なんだ」って、声高く叫んでも、誰一人笑って、「何言ってるの?あなたは産まれてから今日まで、葛城美紗都じゃない変なこと言わないでよ」「そうだ、だったら自分の持ってる運転免許とか、保険証やいろんな公的な書類を調べてみるんだな」等と言われて誰も取り合ってくれなかった。つまりわたしは、着ぐるみの中に閉じ込められてしまったのだ。あの、Doll Club制の着ぐるみの中に・・・。もう二度と、本当のわたしには戻れないのかもしれない。
でも、この生活にも、いい加減になれてきたんだけど、まだ会社で「美紗都さん」と、呼ばれる事だけにはどうしてもなれることが出来ない。だって、もしもわたしが、「葛城美紗都」と、呼ばれる事に疑問を感じなくなってしまうと、わたしの本来の姿、つまり、「折原真秀」に戻ることが出来なくなってしまうんじゃないか、とゆう恐怖がわたしの心の中で渦巻いている。そんな時に街の人混みの喧騒の中から時々聞こえてくる「マホ」って言葉にハッ!となってしまう。
たとえ誰かと話ながら歩いていても、立ち止まってついつい辺りを見回してしまう。わたしを、この美紗都お姉さまに閉じ込めた“誰か”?を探し出すかのように・・・。
あれから7年の歳月が経った。わたしは、今だに美紗都お姉さまを演じている。いや、もう演じてるなんてレベルじゃない。もうすでに、わたしは、折原真秀と、ゆう人格の事を忘れはじめている。
美紗都お姉さまに閉じ込められてから2年経った時にわたしは、会社を辞めた。着ぐるみに閉じ込められたわたしなんかが、いつまでも当たり前の様な顔?をして、社会の中で普通の仕事や普通の生活をしていて、いいのだろうか?等とゆう疑問が渦巻いて、うつ病にかかってしまったからだけど・・・。
よく2年間もの間、我慢して社会に通う事が出来たなって、今更ながら思う。
最初の半年間はなんとか美紗都お姉さまから脱出をしようと、悪戦苦闘――酷い時なんかは、自殺をしようと、手首にナイフを当ててみたり、首を吊ろうとしたりしたけど、この着ぐるみに閉じ込められている限り、自殺さえ出来ない事が確認されただけだった。――していたけど、いい加減に諦めムードが、わたしの心の中に巣食い始めたから・・・。
その後わたしは、身辺整理を済ませると、誰もわたし自身の事を知ってる人がいない場所へと引っ越した。
新しい場所では、必要最低限の人達との接触しか、しないように心掛けてはいるんだけど、どうしても、わたしが着ぐるみに閉じ込められている事に気付く人達がいる。
まるで“誰か”が、そっと耳打ちしているかのように・・・。そのたびにわたしは、好奇の目にさらされて、引っ越しを余儀なくされる。そのため、この5年間の間に引っ越した回数は数しれず。わたしが元々生活していた近辺では、引っ越ししなかった地域や、県がないぐらいに引っ越しに次ぐ引っ越しだった記憶しかない。
でも、そんな中わたしは、やっと安住の地を見付ける事が出来た。そこは、{人形館}と呼ばれる小さな――部屋数なんて5部屋しかなく、定員12名ほどの――ペンションだった。
そこのオーナーは、わたしの事など何も聞かずに、ただ静かに、わたしを雇ってくれた。
それから1年。
その変化は、じょじょに来ていたかもしれない。いつものように、目覚めてから習慣化していた鏡を覗くとゆう行動が、その変化を気付かせた。
『・・・・・やっぱり、かわ、ら?」
この8年間もの間、聞きなれていた、美紗都お姉さまの声からわたし、本来の声に戻ったから、わたしは、二の句が継げなかった。
「・・・・・今なら、出れるかもしれない」
そう思ったわたしは、急いで着ていた服を全て脱ぎ捨てて、かつて出入口があった辺りを探った。
しかし、やっぱりとゆうべきか、そこにはつなぎめの様な手応えは無かった。
「フッ、やっぱり無理か・・・・。でも、オーナーに、なんて言おう」
明らかに今までと違う声になってるわけなんだから、オーナーだって戸惑うだろうし、何よりわたし自身が、まさか声だけは、元に戻るなんて、想像していなかったから・・・。
でも、もしかしたら、もとのわたしに、戻れる日が来るのかもしれないって、希望が芽生えてきた。
三ヶ月後。
[ニースをお伝えします。昨日未明、道路を横断中の歩行者を〇〇方面から走行してきた車に撥ねられ、搬送先の病院で死亡が確認されました。なお、被害者を撥ねた車は現場から逃走しています。被害者は特殊な着ぐるみを着用しており、いまだ身元不明とのことです。]
事故から一週間後後。
[ニースをお伝えします。警察は、一週間前のひき逃げ死亡事故の容疑者として、役場職員の阿部ミシマ容疑者25歳を逮捕しました。阿部容疑者は、被害者を撥ねた時、泥酔状態だったと推測され、危険運転致死傷罪の適応を求める声が高まっております。]
[被害者の身元が判明しました。葛城美紗都。25歳。本籍・・・・・・]
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