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わたしが、あの人と、一緒に暮らし始めてからずいぶんたったように思う。本当に、あの人に出会ったのは、偶然なんかじゃなく必然だったんだと今では思ってる。当時のわたしは、自分の居場所を探して、暇さえあればネットサーフィンばかりしていて、友人と呼べる人なんて誰もいなかった。無論職場では、いつも失敗ばかりして上司から叱られない日を探す方が難しいぐらいだった。あの人に出会った日、わたしは、取り返しのつかないような大失敗をやらかしてしまった。詳しくは言えないけど、いつクビになってもおかしくはなかった。マンションに戻ったわたしは、いつもより、落ち込んだ状態で、いつものようにパソコンを立ち上げた。
「やっぱり、辞表出すしかないのかなぁ」
いつものように、2時間ぐらいしてから、現実を見る余裕が出てきたのかわたしはつぶやいた。
「・・・・な、なにこれ」
そう言ったわたしの目の前の画面には、いつの間にか着ぐるみサイトが開いていた。それも美少女着ぐるみ専門のサイトだけが10数個も開いていた。中にはどこをどう巡ったのか、販売専門サイトが開いていて、わたしがいつの間にか注文をしたのか、注文確認のメールが届いていた。内容は着ぐるみ一式とサイズに合わせた衣裳一式の合計金額が、書かれていた。その金額がなんと、衣裳一式10万、着ぐるみ一式――予備も含め――30万、その他メンテナンス用品2万の合計で、42万の税別、送料無料となっていた。思わず頭を抱えてしまいそうになったけど・・・。
「まっ、買っちゃったものは仕方ないわよね?」
わたしは、誰に問うことなくつぶやいた。でも、何故だかワクワクしているわたしがいた。そうして、わたしの中に隠されたこんな趣味が眠っていたことに気付いた。
それから、一週間後。
わたしは、会社でどれだけ怒鳴られようが平気な顔をして笑っていたらしい。早々と仕事を切り上げたわたしは、急いでマンションに帰った。なんといっても今日は、あの人がわたしの家にやって来る日なんだから・・・。
ピンポーン
「ハーイ」
わたしは、急いで玄関へと出てあの人を向かえ入れた。
「・・・・・・いらっ、じゃない。おかえりなさいませ美紗都お姉さま」
なぜかわたしは、届いた荷物に対して、正座をして、そう言ってた。わたしが注文したのは、Inside Dollって、サイトに掲載されてるDoll Clubと、言う小説に出てくる着ぐるみと殆んどおんなじ性能を持つ着ぐるみらしい。説明書によれば、例え快感がえられなくても、丸一日は着ていられるような仕掛けがされてるみたいだ。でも、わたしだって実際に着てみたわけじゃないから、どんな感じになるのかなんてわかるわけがない。
「・・・・・消しましょうか。わたしを・・・・・」そうつぶやいて、早速わたしは全裸になって、美紗都お姉さまへと変身した。
[すごい。これがわたし?]格闘のすえくたくたになった体に鞭打って衣裳まで着たわたしは、鏡の前に来てみてびっくりした。身長は、わたしと変わらないんだけどスタイル抜群の、美紗都お姉さまが立っていたからだ。でも、わたしの意識はそこで途切れた・・・。
次の日が日曜日で本当に助かったわ。わたしは、いつものように、慌てて飛び起きて、急いで身支度をするべく鏡の前に立ったら、鏡の中から美紗都お姉さまがこっちを見つめていた。
[ん?あっそうか、わたしは昨夜美紗都お姉さまになったんだったわ。ってことは今日は、日曜日なのね。だったら今日は、このまま過ごすのもいいかもね。]ふと、そんな考えがわたしの頭に芽生えた。だったら、お姉さまの洋服一式買いに行かなくちゃね。だって、美紗都お姉さまは、わたしよりスタイルが凄く抜群で、わたしが持ってる下着とか服のサイズがあわないんだもん。そう思い立ったわたしは、早速外出の準備に取り掛かった。
[とりあえず、どこに行こうかな?・・・・そうだ、ホビー21に行こうっと。あそこなら美紗都お姉さまにピッタリの服が見付かるかも。]
そう思い立ったわたしは、ちょうどやって来たタクシーに乗り込んだ。ホビー21にて着いてからわたしは、各フロアーを大体一時間ぐらいかけてゆっくりと回っていった。
[つ、疲れた。やっぱり無謀だったかな。]
帰って来たわたしは、両手いっぱいの荷物を床に置くなり、グッタリとして、膝をついてしまった。よく考えたら、昨夜から水分をまったく取っていないうえに、この着ぐるみの中は完全にサウナ状態。よくぞ店の中や路上で、倒れなかったなって、感心するぐらいわたしは、完全に美紗都お姉さまになりきっていた。
[さすがに、もう美紗都お姉さまからは出ないと、完全にダウンしちゃうわね]
そう思ってわたしは、美紗都お姉さまからの脱出を始めた。
「・・・・・ハァ、ハァさすが・・・・、Doll Clubと同じ性能の着ぐるみね・・・。いや、それ以上かしら、完璧に着ぐるみだとは分からなかったみたい。」
わたしが買った美紗都お姉さまは、よく観察しないと着ぐるみだとばれないような、肌の質感だし、瞬きはもちろん、普通に会話さえも出来てしまう――もちろん、声はアニメ風だけどね――ような仕掛けが組み込まれていた。ただし、さすがに飲食まだ可能じゃないけど・・・。でも、もしも、飲食まで可能になったら多分わたしは、美紗都お姉さまからは出ないと感じさせるような、素晴らしいできばえの着ぐるみなのだった。それからのわたしは、ネットサーフィンは、美紗都お姉さまになってからしかやらないようになった。それも、ほんのちょっとした調べものぐらいでしか利用しなくなってしまった。そして最近は、よく美紗都お姉さまのままでのオフ会やイベントに参加する機会が多くなって、着ぐるみ仲間の人達との距離が縮まってきている気がする。
やっとわたしは、自分の居場所を見つけられたみたいだ。
本作品の主役
葛城美紗都(着ぐるみ)
X(内臓)
略歴
何処かの会社に勤める会社員で20代中盤ぐらいの年齢居場所を探すうちに着ぐるみの魅力に取り付かれる。
作者注
この小説は、わたしがこの人物から聞いた話しを元に創作したものである。が、Doll Clubは実際に存在している。なぜなら、わたしが実際にDoll Clubで働いているからだ。――最近は男性女性関係なく着ぐるみの内臓として働く人が増えてきた。
バシッ!
「イッタァイ!何するんですか!」
わたし、葛城美紗都は叩かれた頭を抱えながらそう抗議した。
「まったく、何を熱心に書いてるのかと思えば、またくだらない小説?少しは仕事をしなさいよ、仕事を」そう言ってわたしを凄い表情――もしも、ちゃんとセンパイの顔がそこにあればだけど――で睨んでいたのは、同じ職場のセンパイの望月加奈さんだった。
「いいじゃないですか、今はオフ会の最中なんですよ。それにセンパイは今、センパイじゃなくて着ぐるみの内臓なんですから、下手に喋らずにキャラを演じて下さい」
わたしは、普段センパイに言われている小言を本の少しだけ混ぜてそう言い返した。
「・・・・・そうだったわ」そう、今わたしたち二人はDoll Clubと同じ性能の着ぐるみの中に入ってる。センパイはカードキャプターさくらの木之本桜で、わたしは、エウ゛ァの葛城ミサト――同姓同名だからって本名とは限らないけどね――の内臓をやっている。――でもこれって著作権とか大丈夫かな?――{神の独り言}
今までいろんなオフ会に普通の着ぐるみで出席したことはあるけど、今回の着ぐるみは会場の注目を一身に集めていた。なんてったって完全にアニメの世界から抜け出て来たかのような錯覚を与えていたからね。
わたしたちは、完璧にそれぞれのキャラを演じていたからかもしれない。――意外とそれが快感に繋がってたりするんだけど・・・。
ホントさっきから何回イッタか分からないぐらいイッてしまっている。(笑)多分センパイの方も同じだと思うけど・・・。でも、この快感もあと、少しで終わってしまう。だって、もうすぐこのオフ会が終了してしまうから・・・。まだまだ続いて欲しいと願う一方、そろそろ体力的に限界が近付いてきていた。
まだまだ書きたいんだけど、ちょっと、ネタ切れ気味と収集がつかなくなりそうなので終了します。ちなみに、これを書いてるのは着ぐるみを着ているわたし――折原真秀(マホ)、ちなみに本名ですよ――が書きました。(笑)
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