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引越しのとき、いろんな小物をダンボールに詰め込んだ記憶がある。
例えるなら、満員電車の人混みに放り込まれた僕という人間は、あのときダンボール箱に無造作に詰められた小物のひとつにすぎないのだろう。
そんなことがふと頭をよぎってしまったのがふとしたきっかけで、僕は帰宅を放棄して電車を降りた。
線路沿いに一時間も歩けば、自分のアパートにつく。明日は日曜日なので、ゆっくり帰ってぐっすり寝よう。気ままな思考が、僕の世界を覆そうとしていることなど知る由もなく、無表情で改札を抜けた。
THE DOLLING DAYS
僕の名は長谷川千里(ハセガワ・チサト)。まだ母親のお腹にいたころ、老医師が性別を間違えて両親に伝えてしまったために、こんなにも女々しい名前がついたのが、僕だ。
名前を理由に友達に馬鹿にされ、屋外で走り回るなどという遊びをほとんどしなかったのが原因だろう。僕の体は本当の女性のように小柄で、肉付きなどないに等しい。むしろ女性よりもひ弱で脆弱な僕は、時代が望むままに勉強し、高校、大学へと進み、現在に至る。何の変哲もない、ただの貧弱な男だ。
そんな僕の唯一の趣味は、少し特殊だ。
いや、特殊と言ってしまうと、同じ趣味を持つひとたちに悪いので訂正しておこう。
僕の趣味は、〝着ぐるみ〟だ。
残念ながら内蔵のほうではないが、同じ趣味を持つ人たちの間では人気のある〝写真家〟のほうである。
そう、昔の僕の趣味は写真撮影だった。
それがインターネット上で知り合ったドーラー(着ぐるみをするひとを、僕はこう呼んでいる)の人の写真撮影を頼まれたのがきっかけで、僕は着ぐるみに興味を持った。
撮影しているのが直前まで男性だったとわかっているのに、カメラのレンズ越しに見る彼──いや、彼女はあまりに美しくて、僕はその魅力に惹かれてしまったのだ。
今ではインターネット上のあらゆるドーラーに、休みが合えば写真を撮ってほしいとメールが絶えない。プロ顔負けの機材を取り揃えていて、技術もそこそこに腕が立つという写真者が、彼らの身近にはあまりいないのかもしれない。
もちろん、僕も中に入ってみたいという願望はある。
しかし今は、しがない貧乏学生。お面や衣装を揃えるお金などあるはずもなく、自作するほど器用なわけもない。誰かの着ぐるみを貸してもらう、というのも考えたが、他人のキャラクターは他人が演技して個性が出る。僕がその個性を潰してしまうわけにはいかないと思って、結局は誰にも頼まずに終わった。
写真を撮ってほしいと頼まれるたびに出張(優しいひとはギャラとして交通費を多めに払ってくれたりもした)し、目の前の着ぐるみに嫉妬する。一週間に一度はそんな調子で、最近はちょっとナーバス気味かもしれない。
でも。
そんな矢先のことだったから、高架下に構えた小さな店が目に飛び込んできたときは、思わず脚を止めて目を見張った。
──〈THE DOLLING DAYS〉……。
普通のひとならば、西洋人形や日本人形などを思い浮かべるだろうが、僕は違った。
言うまでもなく脳裏を掠めたのは、着ぐるみ……。
どうせゆっくり帰るつもりだった。たまには少しくらいの寄り道も悪くない。
僕はゆっくりと、店の扉を押し開いた。
「……いらっしゃいませ」
入った途端、静かな声が響いてきた。静かでおとなしい声色だが、脳の霞みを一息に吹き飛ばすが如く透き通った女性。
西洋風の室内には、入ってすぐに本棚があった。ぎっしりと詰め込まれた本は全て英字でタイトルが振られ、一瞥しただけでは内容はわからなかった。紅い絨毯が部屋の奥の通路へと続いていて、声を追って向けられた視線の先に、小柄な女性を見つける。
しかしそれが本当に女性なのかどうかは、確信しがたい。
きめ細かで美しい、白磁の肌。丈の長いスカートからは綺麗な脚が覗き、徐々に視線を上げていくと股間のあたりで両手が組まれていた。細腕を辿って女性の顔を見上げると、そこには大きな眼を眠そうに垂れた、綺麗というより可愛らしい女性の顔があった。
「着、ぐるみ……!?」
思わずあげてしまった声に、女性がわずかに首を傾げる。
「綺麗な声ですね。まるで女の人みたい」
不変の表情を疑問の仕種に受け取ってしまった僕だったが、どうやらそれは微笑みの仕種だったらしい。
いつもなら不快にしか思えない自分のソプラノの声を褒められて、顔が熱くなる。目の前の女性は、今まで見たどんな着ぐるみの女性よりも素晴らしい出来で、可愛かった。
ましてやほとんどのドーラーには、着ぐるみは喋らない、という暗黙の掟のようなものがあるため、いかなる状況でも無言を貫く。そんなことが常識として僕のなかでも固まりつつあったために、目の前の着ぐるみの女性が綺麗な声で会話したことは、驚嘆に値した。
それに違和感──首の付け根に、お面の境目が存在しない……?
首の肌から顔の表情まで、全て一体となった着ぐるみなど、僕は知らない。
中にはどんな人が入っているのだろう……考えるだけで、興奮を抑えられない。
紅潮して黙ってしまった僕を見た女性が、再びその綺麗な声色を発する。
「私はリオ。リオ・メランツァ。この館の接客チーフを勤めさせていただいております」
どこかのお嬢様がお姫様のように上品な歩き方で、一歩、また一歩と僕に近づいてくる女性──リオ。繊細な銀の長髪が僕の腕を掠めて通り過ぎ、開け放しだった扉を静かに閉める。
「何も知らずにいらっしゃってしまったようですね。どうぞ、こちらへ。お茶をお持ちしますので、お掛けになっておくつろぎください」
腕をそっと抱かれるように、リオが僕を正面の椅子へと誘う。並んだときに僕と同じくらいの身長だったので、155センチくらいだろうか。
腰の埋まる接客椅子に深々と腰掛け、奥の部屋へ消えるリオの背中を呆然と眺める。くつろげと言われても無理な話だった。
全身を緊張させたまま、あたりをキョロキョロと見回す僕。かなりの不審者ぶりを発揮しつつ、とにかく落ち着くことだけを考え、思考を別のものに以降を目指す。
そういえば腕が触れたとき、まるでタイツの肌触りとは思えなかった。試しに自分の右手でリオの触れた左の二の腕を触ってみて気付く。あれはまさしく、人間の肌の感触だった。
どういうことだ? 目立たない店に、中には見たことのない着ぐるみの女性。ここは、何の店なんだ?
「お待たせしました」
両手でお盆を持ったリオが、再び現れる。眠たそうな目を伏せて俯き、静かに俺の前へと紅茶を差し出してくれる仕種は、この上なく上品で美しい。
礼を言うことも忘れて紅茶に砂糖を放り込み、スプーンで雑にかき回す。くるくると回る紅い液体から立ち昇る湯気に霞んで、リオは対面の椅子に音もなく腰掛けた。
「貴方のお名前を、お聞かせいただけますか?」
「あ、はい。長谷川千里といいます」
「長谷川千里様……素敵なお名前ですね」
「褒められたのは初めてですけどね……」
「素敵ですよ、とっても」
「…………」
本当の表情を窺い知ることができないので本音なのかどうかはわからないが、何度も自分の名前を褒められて、またも僕は紅潮していた。
火照る顔を隠すように紅茶を口に含み、芳醇な香りで気を落ち着かせる。目の前の女性がどんなに綺麗でも、露骨に自分の趣味をさらけ出すことなど笑止千万だ。
「それでは長谷川様。順を追って、わたくしたちの〈THE DOLLING DAYS〉についてご説明させていただいてもよろしいでしょうか?」
さっきも言ったが、時間は惜しくなかった。
「はい、お願いします」
僕の心に芽生えた疑問と探究心は、ほとんど間もなくして返答していた。
「〈THE DOLLING DAYS〉は、お客様のどんな要望でも、わたくしたち〈DOLL〉がお答えいたしますお店となっております。〈DOLL〉とは、すなわち人形。命令のございますままに動く人形という意を込めて、わたくしたち従業員はみな、そう呼ばれております」
「人形、ですか……」
「はい。ここへくるお客様のほとんどは、性的欲求を満たすために来店されております」
「せ、性……それって……」
「わたくしたちは、長谷川様のような普通の人間ではございませんゆえ、子孫を残すことが目的となる普通の性行為はできません。しかし、お客様の性的欲求を満たすことは可能です」
それはつまり……どうゆうことなんだろう。本番なしの風俗店のようなものなのだろうか?
一度も風俗店になど入ったことのない僕には、その想像もできなかったが。
「基本料金は一時間で二万円。以後、三〇分の延長ごとに三〇〇〇円が加算されていく方式になっておりますが、初めてのお客様に限りまして、三十分限定で無料とさせていただいております」
「それってつまり、〝お試し〟みたいなものですか?」
「そういうことになります」
リオが小さく頷く。思わず釣られて頷いてしまった僕に小さく首を傾げ(どうやらこれがリオの微笑む仕種らしい)、言葉を続けた。
「もちろん、只今わたくしとお話している時間は計算いたしません。個室の扉を開いた瞬間から計測を開始させていただきます。当店には六つの部屋がございまして、そのうち四つの部屋に〈DOLL〉が控えております。以後、長谷川様が当店へいらっしゃいました際は、そこのカウンターで私にご希望の部屋をお伝えいただいた後、それぞれの部屋までお連れいたします」
部屋ごとに、四人の着ぐるみの女性がそれぞれ控えている、ということだろうか。
「先ほども述べました通り、わたくしたちはお客様の人形。代金をお支払いいただける限りは、何をされても値段は変わりません。家具を壊してしまった、などという場合は弁償していただきますけど」
冗談めかした微笑が、またも僕の心を鷲掴みにする。
ダメだ、いくらなんでも初対面の人に露骨に興奮をあらわにするなんて、あまりに失礼すぎる。
「我慢なさらなくてもよろしいのですよ、長谷川様?」
口に手をあて、クスリと笑みを零すリオ。お見通し、か……。
「え、えっと……それじゃぁ、三〇分のお試しコースを、お願いできますか?」
恥ずかしい気持ちもあった。だが、それ以上に興味のほうが勝っていた。
僕はしどろもどろになりながら必死で言葉を吐き出し、再び紅茶を飲む。
「かしこまりました」
にっこりと笑うリオ。お面である表情は当然のごとく不変なのだが、声色だけが巧みに表情を持たせていた。
声を発しないドーラーには真似できない芸当だと感心しながら、立ち上がったリオがカタログのようなものを持ってくるのを待つ。一見すると喫茶店のメニューのようなものを開いて手渡され、僕は思わず息を呑んだ。
そこにはバストアップの〈DOLL〉たちの写真が四つ載せられ、それぞれの隣には丁寧にプロフィールが乗せられていた。その写真というのが、またリオに負けず劣らずの綺麗な顔つきの着ぐるみたちで、僕は一瞬、とんでもない店を見つけてしまったものだと思う。
これほどの店を、僕はインターネットの着ぐるみサイトを見回っても、今まで一度も見たことがない。秘密主義なのか、それとも開店して間もないのか……考えることより先に、目の前の光景が僕の思考を侵食してくる。
ミア・エピーニャ。金髪碧眼、身長152センチメートル、性格は明るく活発。
オリアル・スォンテ。黒髪金眼、身長160センチメートル、お茶目で天然。
ティナピア・クァン。赤髪茶眼、身長155センチメートル、クールだけど優しいお姉さん。
イーオ・エンス。茶髪銀眼、身長158センチメートル、おっとりしてるけどしっかり者。
本当は、もっと事細かにプロフィールが載せられていたのだが……どうしても落ち着けなくて、それ以上は頭に入らなかった。
「只今、長谷川様以外のお客様はおりませんゆえ、どの娘でもすぐにお相手できますよ」
「えっと、それじゃぁ……リオさんは、選べないんですか……?」
「え……っ?」
思わぬ指名に驚いたのか、リオが小さな悲鳴にも思える声を上げた。抱えたお盆で口元を隠し、どうしようか決めかねている、といった仕種に思える。
メニューには載っていない娘の指名だったので、ダメで元々だった。断られたら、初めてでも気楽に接することができそうなイーオ・エンスを選ぶつもりで。
しかし、帰ってきた言葉は意外で、しかし嬉しいものだった。
「……はい、こんなわたくしでよろしければ。どうぞ、奥の部屋へご案内いたします」
席を立ったリオが僕の隣に歩み寄ってきて、手を取って立ち上がらせる。先ほど入り口から接客椅子へ誘ったように腕をとり、紅絨毯の感触が心地よい通路をふたり並んで進んでいった。
途中、リオがひとつの扉の前で立ち止まる。この部屋に入るのかと思ったら、扉にはイー・エンスの名前が書かれたプレートがぶら下がっていた。そのわずか下を、コンコンと軽くノックする。
「どーぞ。鍵は開いてるですよー」
間延びした女性を聞いて、リオがドアノブに手をかけて扉を押す。扉の向こうに広がっていたのは質素な一室で、正直、あまり女性的とは思えなかった。
白い壁紙に、大きな化粧鏡がひとつと、衣装棚があるだけ。窓はなく、天井の蛍光灯だけが部屋をより白く照らし出していた。
その部屋の奥、水玉模様の毛布が乗ったベッドの上で、メニューの写真でも見たイーオ・エンスが女性雑誌を見ながらくつろいでいた。毛布と同じ水玉模様のワンピース姿で、髪はメニューの写真とは異なり、左右で結っていた。それがこちらを向いたと同時にふわりと揺れて、おとなしい印象に大人の雰囲気を加えていた。
「わたくしの代わりに、カウンターをお願いできますか?」
「あ、なーんだ。お客様じゃないんですかー……でも、リオさんのお願いなら断れないですねー」
イーオはがっかりしたような声で喋りながら体を前後に揺らしていたが、すぐに雑誌を手にしたまま立ち上がって扉に向かってくる。
「お願いしますね」
「はーい」
扉を閉めて鍵をかけ、ネームプレートをくるりと返すと、裏から「外出中♪」の文字が現れた。本当に、それぞれの個室がプライベートルームみたいになっているみたいだ。
イーオの背中を見送った後は、ようやくリオの部屋に到着する。「仕事中」のプレートがかかった部屋の鍵を開けて先に中へ入り、振り返って僕を誘った。
おそるおそる部屋に入り、後ろでて扉をしめると、先ほど見たイーオの部屋とは一味も二味も違う独特な女性の世界が広がっていた。白い壁紙とベッド、衣装棚の位置は同じだったが、細かい内装で個性が現れていた。
三面鏡の前には、着ぐるみをしている以上は使わないだろう口紅や化粧品が並び、隣の本棚には様々な種類の本が見てとれた。小説、雑誌、哲学書……世界辞典なんて、何に使うんだろう。
「これがリオさんの部屋……って、うわっ!?」
部屋一面を見渡して見惚れていると、股間に触れるものがあった。
驚いて視線を落とすと、そこに屈んだリオがいて二重で驚く。抵抗する暇もなく、慣れた手つきでズボンのファスナーを下ろすと、同時に僕の荷物を左手に受け取って、そっと衣装棚の隣に置いた。
「な、何を……!?」
「我慢なさらなくても結構といいましたよね? 大丈夫ですよ、わかってます」
なすがままにズボンを下ろされ、そり立つ一物が下着の薄い生地を押し上げている光景が目に入る。いくら自分のものとはいえ、他人にズボンを脱がされて現れようとしている光景は情けない。
「ただ、わたくしも久しぶりなので……至らぬ点がございましたら、なんなりとご命令ください」
「え、えと、あ、その……」
顔が燃えるように熱かった。それでも抵抗できずに下着をおろされると、威勢よく青い息子が飛び出してくる。その瞬間も恥ずかしくて死にそうだったが、もう半ばは自棄だ。
人間のそれとまったく変わらない触感の掌で、優しく一物を撫で回すリオ。直前までの清楚なイメージはどこへやら、今目の前では淫乱なお嬢様になっていた。
それにしてもこれは、本当に着ぐるみなのか?
タイツではない白い綺麗な肌に継ぎ目はなく、顔にも呼吸口らしきものは見つからない。まるで目の前に、生身の人間がいるような、不思議な不思議な感覚。
「う、あっ……!」
リオの両手が大切な骨董品を扱うかのような手つきで僕の一物を撫で、刺激する。男性のツボを知り尽くしたかのような手つきは、いくら優しくても、童貞の僕には刺激が強すぎる。
「も、もうダメ……っ!」
「あっ……」
白濁した性欲が心臓の高鳴りのような鼓動で吐き出され、リオの両手を汚す。顔や服に飛び散ってしまうのを防いだようにも思えたが、その手には大量の精液が付着していた。どろりとした液体が腕を伝って肘まで達し、ぽたりぽたりとフローリングの床へ落ちる。
「凄い……」
眠そうな目が、わずかに見開いたような気がした。もちろん、気のせいなのだが。
近くにあったティッシュを取って、手早く白液を拭き取るリオ。両手を綺麗に拭いた後は、僕の息子を優しく掃除し、床に垂れたものもあっという間に拭き終わる。あとはティッシュを丸めてゴミ箱に放り込み、ものの十秒程度で後始末は終了した。
「長谷川様……その、わたくしにも、おねがいします……」
恥ずかしげに顔を伏せつつ、リオが僕の手を取ってベッドまで誘う。そのまま背中からゆっくりとベッドに倒れこみ、魅惑的な格好で僕を誘惑してきた。
もう、迷いや恥ずかしさは、気付いたときからどこかへ放り出していた。リオの胸元、白いブラウスのボタンを震える手でひとつひとつ外し、薄桃色のブラジャーのフロントホックを抓んで外す。隠すこともせずにさらけだされた双丘の上では、小さな桜色の乳首が可愛らしく乗っかっていた。
それは紛れもなく、女性の身体。着ぐるみだが、着ぐるみではない。とんでもない精巧な完成度を誇る、前代未聞の着ぐるみ……。
生唾を飲み込んで、今度はベルトを解いてスカートを下ろしていく。わずかに腰を浮かせてくれたおかげでスムーズに脱がせてあげることに成功したら、ブラジャーとお揃いのショーツをゆっくりと降ろす。そこで僕は、ようやくこの身体が本当に着ぐるみなのだと思い知らされた。
恥毛もなければ、女性器も存在しない滑らかな股間。肛門にあたる部分に、それと似たものがあっただけで、あとは完全に何も存在しなかった。男性器を隠したような膨らみもなく、改めて全身を見ると、体格は完全に女性のそれだった。中の人は、やはり女性なのだろうか。
何よりも気になるのは、この女性はどこで呼吸し、喋っているのだろうか、ということ。思えば声は篭ってしまっているわけでもないので、やはりお面のどこか、口の辺りに呼吸口があるのだろうか。
もしかしたら、チューブか何かで目立たない股間まで呼吸口が伸びているのかとも考えたが、どうやら違うらしい。深まる疑問が俺に思考を請求してくるが、欲求を満たす願望は止められなかった。
「あぅっ……!」
胸を撫でる手が桜色の先端に触れた瞬間、リオの声が跳ねた。
これは演技ではない……間違いなく、リオは感じている……!?
本物を触ったことはないが、リオの胸はとても柔らかく、本物のようだった。先端のしこりも違和感なく、触れるたびにリオの息遣いが荒くなっていくのが手に取るように判る。
やがてお腹を伝って、指先が股間へと触れた、次の瞬間。
「あ、くぅっ……!」
今までシーツを掴んで堪えていたリオが、大きく身を捩って喘ぐ。
それほど刺激したわけではないと思うのだが、彼女にとっては苦しいほどに気持ちいいらしい。
「は、あ……長谷川さ、ま……あうっ!」
両手を俺の首に回して、リオはよりいっそうによがった。
胸を股間を愛撫するたびに、何度も身体をうねらせ、痙攣させるように跳ねて感じるリオ。その姿と声に、先ほどイったばかりといえども、興奮は鎮まったままのわけがない。
熱くなった息子を、リオの右手が掴む。それだけでイきそうになるのを堪えつつも、リオを愛撫することは怠らない。
もはや愛撫合戦のごとくに激しい絡み合い。とんでもない快感が思考を貫いて、性欲に溺れた僕の両手がリオを撫で回す。
「もう、だ、ダメっ……あぅ、イ、く……っ!」
涙声で喘ぐリオ。その身体が、何度も跳ねるように痙攣する。だが快楽に果てた身体は、それでも僕の息子の愛撫をやめていない。
対抗するかのように、僕もリオへの愛撫をやめなかった。胸を強く揉んだり、股間を優しく触れるだけのように撫でたり。思いつく限りの全てを試した。
「イく、また、またイっちゃ……あ、うぅっ!!」
僕の首に巻きつけたままだった左手に力がこもり、何度も何度も痙攣するリオ。女性は男性と違い、果てるたびに快感が増すらしいが、リオの身体はまさにそれを全身で表しているかのようだった。
しかし、やはり僕の息子を触れる手は止まらない。
「僕も、またイく……っ!」
込み上げてくる衝動が、股間の息子を通じては白濁した愛を放射……することは、叶わなかった。
果てる寸前。リオの手が止まり、快楽の瞬間を奪ったのだ。
唖然とする僕の目の前で、肩で大きく息をするリオが、辛い運命を告げる。
「残念ですが長谷川様。これで、三〇分でございます」
「え、じ、時間切れってこと……?」
「申し訳ありませんが、初めての場合、延長は用意してございません」
するりと僕の下から這い出て、リオは何事もなかったかのように服を纏い、床に脱ぎ捨てられていた僕のズボンを拾い上げて僕に差し出す。
「次回以降は、ゆっくりとお楽しみください。と、申したいところなのですが……」
息子を必死になだめながらズボンを履いたところで、リオの気になる言い回しに引っかかる。
その疑問は、問うよりも早くリオの口から告げられた。
「長谷川様も、当店の〈DOLL〉として、わたくしたちと働きになりませんか?」
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